偽りの聖女に断罪された本物の聖女、神と騎士に愛される

林 真帆

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プロローグ

第13話 追放の果てに

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 馬車に揺られること幾日。
 セシリアは王都を離れ、辺境の小さな修道院へと辿り着いた。
 

 石造りの質素な建物。
 王宮の大理石の回廊とは比べものにならない粗末さだったが、そこには静けさと安らぎがあった。


「こちらでお世話になります、セシリアと申します」

 
 深々と頭を下げたセシリアに、院長の老修道女は穏やかに頷いた。


「神は見捨てません。ここで祈りと奉仕を続けるなら、それで十分です」

 
 その言葉に、セシリアの胸はじんと熱くなる。

 
 ここでセシリアは、ごく普通の修道女として過ごすことになった。全く知らない土地で、身元を偽り一生を祈りに捧げて生きていくのだ。
 
 
 王都で奪われた役目も名も、この場所ならば必要とされるかもしれない。


(お父様、お母様。どうかご無事で……)

 
 ――それからの日々。
 
 セシリアは修道女たちと共に畑を耕し、病を抱える村人の手を取り、祈りを捧げ続けた。
 
 粗末な寝床も、硬いパンも、不思議と心を蝕むことはなかった。

 
 けれど、胸の奥には常に影が残っていた。
 
 王宮で過ごした日々、アルベルトの蒼い瞳、そして……リディアとルシアの冷ややかな笑み。


(あのまま沈んでいくわけにはいかない。私には……まだ役目があるはず)

 
 そう思っていた矢先のことだった。

 ある夜、修道院の扉が激しく叩かれた。
 飛び込んできたのは、血に染まった衣をまとった村人と、その腕に抱かれた幼い子どもだった。


「助けてくれ! 崖から落ちて……このままじゃ……!」

 
 修道女たちは慌てふためき、傷口を押さえようとしたが、血は止まらず、子どもの顔色はみるみる蒼白になっていく。


「だめだ……手の施しようが……」

 誰かがそう呟いたとき、セシリアは子どもの傍らに膝をついた。

 
 両手を胸に当て、目を閉じる。
 
 
 追放される前のセシリアの力であれば、少し痛みを取り除ける程度だ――だが今は、恐れも迷いもなかった。


「神よ……どうか、この命を守り給え」

 
 その瞬間、セシリアの掌から淡い銀光が零れ落ちた。
 
 光はやさしく子どもの身体を包み込み、血は止まり、呼吸が穏やかに戻っていく。


「……嘘だろう」

「奇跡だ……!」

 修道女も村人も、言葉を失いただ息を呑む。


(今のは一体……)
 
 一番驚いたのはセシリア自身であった。動揺で激しい手の震え止まらない。今までと比べ物にならないくらい力が強くなっていた。


(……見捨てられてはいなかった。神は、まだ私を導いてくださっている)

 
 その夜から、辺境に「奇跡を起こす修道女がいる」という噂が広がり始めた。
 
 それはまだ小さな囁きにすぎなかったが、やがて王都へ届く――誰も知らぬ未来の前触れであった。
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