偽りの聖女に断罪された本物の聖女、神と騎士に愛される

林 真帆

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第1章 聖女を巡る策謀

第2話 王都の動き

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 翌朝、王都は重苦しい朝靄に包まれていた。
 
 宮廷の回廊では、廷臣たちがひそひそ声を交わし、噂の波紋が宮廷の奥深くまで届いていることを確かめるように歩いていた。


「辺境の修道院で、奇跡を起こす修道女がいる――セシリア、という名だそうだ」


「ふむ……もしセシリア様であれば、我らの立場も揺らぐな」

 
 保守派の貴族たちの顔は険しい。リディアを後ろ盾にする派閥は勢いを増す一方、王国の聖女の正統性を守ろうとする者たちは焦燥を隠せなかった。

 
 皇太子アルベルトは、玉座の間の書類の山を前に、眉を寄せていた。
 
 民の噂は時として政治の流れを変える。それがたとえ遠い辺境の話であっても、王都にとって無視できるものではない。


「――やはり、あの噂は本物かもしれないな」
 
 側近が差し出した書簡を、アルベルトは静かに開く。
 
 中には、辺境の修道院に滞在する人物が、かつて王都で聖女と呼ばれた女性に酷似しているという報告が記されていた。


「ならば、調査が必要だ。情報を確かめるまで、民に動揺を与えてはならぬ」
 
 
 アルベルトの声は低く、しかし命令は厳格だった。忠臣たちは即座に動き、宮廷内の密偵や遠方の使者を動員し始める。

 
 そのころ、リディアとルシアも朝の庭園で顔を合わせていた。
 
 ルシアは穏やかな笑みを浮かべながらも、その目は計算に満ちている。


「お母様……もし噂が本当なら、私はどうすれば?」
 
 
 リディアの声には不安が混ざっていた。

 
 ルシアは柔らかく微笑むが、声には冷たい芯があった。

「脅威は、利用するものよ。リディア、あなたは光で人々を惹きつける。それを阻む者には、必要に応じて手を打てばよいのです」

 母の言葉に、リディアは小さく頷く。
 
 
 リディアが聖女として、そして皇太子の婚約者として、より強く輝くための戦略が、すでにルシアの心に芽生えていた。

 一方、宮廷の奥では、密偵たちが辺境の修道院へ向かう準備を整えていた。
 
 レオンハルトもまた、かつての誓いに苦しみながら、アルベルトの命に従い、調査の先陣を切ることになった。
 
 彼の瞳には迷いが宿っていた。セシリアを守りたい気持ちと、皇太子の命を遂行せねばならない立場との間で、心は揺れ動く。


「……本当にあのセシリア様なのか……もしそうであれば、この国は、セシリア様はどうなってしまうのか……」
 
 レオンハルトのつぶやきは、宮廷の回廊に消えた。

 
 辺境では、セシリアは普段通り祈り、傷の手当をし、畑を耕していた。
 
 だが修道院の門の外では、使者が馬を走らせ、王都からの正式な報告が届こうとしていた。
 
 小さな村の修道院で始まった、ささやかな光――その噂は、今や政治の大きな渦の一部となりつつあった。

 セシリアは窓の外に広がる青空を見上げ、心の奥でひそかに決意を固める。

(民のために、私は……やるべきことをやるだけ――)

 その決意が、やがて王都の陰謀を巻き込む、さらなる波紋の始まりだった。
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