偽りの聖女に断罪された本物の聖女、神と騎士に愛される

林 真帆

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第1章 聖女を巡る策謀

第3話 静かなる渦

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 数日後、辺境の修道院には、見慣れない騎士の姿が近づいていた。

 馬車ではなく、ひとりの精悍な青年――かつて王都でセシリアを守ると誓ったレオンハルトが、静かに修道院の門をくぐる。
 その瞳は、任務の重さと、胸に秘めた想いの双方で揺れていた。


「……ここに奇跡を起こす聖女がいると聞いたが……?」

 
 皇太子アルベルトの印が捺された書状を受け取ると、老修道女は軽く頷き、修道院の中へと案内した。

 
 一方、セシリアは普段通り、祈りと手当を終え、庭先の花に水をやっていた。
 
 
 ふと門の方から聞こえる馬の蹄音に気づき、振り向く。

 
 目の前には、見覚えのある銀鎧の青年――レオンハルト。
 
 驚きが胸を過る。


「レオンハルト……?」

 
 レオンハルトは、セシリアの姿を確認すると、微かに安堵したような笑みを浮かべたが、すぐにいつもの表情になり、任務の報告を告げるように口を開いた。


「……セシリア様、アルベルト殿下の命で参りました。例の噂の真偽を確かめるためです」

 
 言葉の裏に潜む厳しさに、セシリアは一瞬、胸が締めつけられる。
 
 あの王都の夜――追放された日が、頭をよぎった。


(……こんなに早く来るなんて……)


 セシリアは、今のこの素朴で平穏な暮らしが気に入っており、このままこの地で生涯を終えるのも悪くないと考えていた。しかし、このままレオンハルトを追い返したら、彼はどうなるのか?

 
 だが迷いは長く続かない。
 
 あの夜、失ったものの重さを知っている。
 
 民のために祈る力がある限り、逃げる理由はない。


「……わかりました。行きます」

 
 セシリアは静かに決意を告げ、レオンハルトの目をしっかりと見据えた。
 
 その視線に、レオンハルトは、セシリアの身に降りかかる火の粉を、セシリアのに届く前に全て薙ぎ払おうと再度意志を固めた。

 
 修道院の門を後にした二人の影は、辺境の穏やかな大地を抜け、王都への道を進む。
 
 その背後で、老修道女は祈る。


「どうか、神よ……二人の力と心を守り給え」

 
 遠くの山並みに朝日が差し込むころ、王都ではすでに噂が宮廷の空気を染め始めていた。
 
 アルベルトの耳にも、正式な報告が届こうとしている。
 
 リディアとルシアは、事態を好機として操ろうと、すでに策略の糸を紡ぎ始めていた。

 小さな村の修道院で生まれた光――その波紋は、今、王都という大海に落ちた石のように、大きな渦を巻き始めていた。
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