偽りの聖女に断罪された本物の聖女、神と騎士に愛される

林 真帆

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第1章 聖女を巡る策謀

第4話 王都の影

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 馬車の車輪が石畳を転がる音が、静かな辺境の道に響く。
 
 セシリアは窓の外に広がる景色を見つめ、深呼吸をひとつした。


(……こんなにも早くここに帰って来ることになるなんて……どんな困難が待っていようとも、神がきっと守って下さる……)

 
 いつものように胸の前で組んだ手にも自然と力がこもる。隣で馬を操るレオンハルトも、緊張を隠しつつ、任務と想いの間で揺れる表情を見せていた。


「……準備はよろしいですか、セシリア様」
 
 
 レオンハルトの低い声に、セシリアは静かに頷く。

 
 馬車は国境を抜け、街道を進む。道中、村々では二人の存在に気づく者もあり、噂の光はゆっくりと王都へと近づいていた。

 
 王都の城門が見えたとき、セシリアは胸の奥に冷たい緊張を覚えた。
 
 ついこの間まで過ごしていた街並みは変わらず賑わいを見せているのに、その明るさはどこか遠い世界のもののように思えた。


「……本当に戻ってきてしまったのね」
 
 思わず零れた呟きに、隣のレオンハルトが短く答える。


「セシリア様、セシリア様のことは命に代えても……!」


「レオンハルト……どうもありがとう。あなたがいてくれて本当に良かった」

 
 馬車は王宮へと進み、やがて豪奢な大理石の広間に二人を迎え入れた。
 
 
 久しぶりに踏みしめるその床は、セシリアにとって甘美な記憶と同時に苦い過去をも呼び起こす。

 
 広間にはすでに廷臣たちが並び、セシリアを値踏みするような視線を向けていた。
 
 
 その中央に立つのは――従姉妹であり、今は聖女の座にあるリディアだった。


「まあ……セシリア様。お元気そうでなりより」
 
 
 リディアの声音は柔らかいが、その瞳の奥ではセシリアを見下している。

 
 セシリアは静かに一礼し、冷静さを保った。


「ええ。皇太子殿下のお呼びであれば、伺わないわけにはいきません。それに、民のために祈りを捧げるのはどこでもできますから」

 その瞬間、廷臣たちの間にざわめきが走った。
 セシリアがただの「追放された元聖女」ではなく、再び民の心を掴み得る存在だと証明する言葉だったからだ。

 
 ルシアが口元を押さえ、艶やかな声で呟く。

「これは面白いことになりそうね。二人の聖女が同じ場に立つなんて――」

 
 セシリアの胸は恐怖で締め付けられながらも、同時に不思議な熱が湧き上がっていた。
 
 辺境で力を増した祈りの力が、今こそ試されると感じたからだ。

 
 ――王都の影は、彼女を再び舞台の中央へと押し上げる。
 
 そしてその影の奥には、まだ姿を見せぬ試練が待ち構えていた。
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