「君を愛することはない」からの溺愛展開ってデフォルト設定だと思ってたんですが違いますか?

つかさ文研

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久々の再会

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「よう!キルシュ!早いな!」
 ロンが廊下の奥で手を振っている。大柄なシルエットと通る声ですぐに彼だと気付く。
「ハレアちゃん、今日は一段と可愛いね!」
 ロンはハレアにウインクをした。その言動にキルシュだけではなくルードも無表情である。
「ありがとうございます!」
 ハレアはほわほわとした笑顔で返した。
「で?どうです?」
 キルシュはこのままだと関係のない話が続きそうだと感じ、軌道修正をするかのように口を挟んだ。
「うちは来賓と会場の警備、第二隊は皇室関係者警備になってる。思ったより大規模で会場外の城周辺警備は第一隊の警備用魔具を使って監視しているらしい」
「チェルシー殿下は?」
「チェルシー殿下は来賓側だな。まあ、第二皇子だしな」
「ありがとうございます。それでは!」
 キルシュは右手をあげてロンに礼をいい、歩き出した。
「つめて~」
 ロンは嘆きながら、自分の持ち場へと戻っていった。

 ほどなくしてパーティーは始まった。第三皇子殿下、フェイリス・ゼゼ・リックヨルンドの挨拶に始まり、ダンスやオーケストラ演奏の煌びやかなパーティーが行われている。
 ハレアはダンスに参加することもなく、魔術師団長に挨拶に来る貴族たちをキルシュの隣で笑顔でかわしている。物語に出てくる、イケメンと結婚したら湧いてくる意地悪な公爵令嬢などは一切いなく、腹の中ではどうか知らないが皆結婚を祝福してくれているようだった。そもそも魔術師団長とはいえ、一代貴族であるキルシュとの結婚は公爵家などの身分の高い貴族令嬢にとって旨みがないのだ。

「ハ~レア!」
 挨拶をひとしきり終え、キルシュと会場の端へと移動しようとしたその時だった。ハレアは後ろから抱き着かれた。その瞬間、キルシュの胸元の水色のバラの一部が一瞬赤色に染まった。
 ハレアが振り返るとそこにはチル・ルルドネアがいた。チルは魔術学校卒業後は、ルルドネア領土へと戻ったため、久しぶりの再会だ。
「チル~!」
 ハレアはそれまでの硬い笑顔とは違い、ふにゃっとした本来の笑顔になった。
「久しぶり~!」
 チルとハレアは両手を合わせ、再会を喜び合った。
「あっ、申し訳ありません!私、ハレアと同じ学校で同じクラスだった、チル・ルルドネアと申します」
 チルはキルシュに対して、ドレスのスカートをを両手で上げ挨拶をした。
「妻から聞いております。いいご学友だったようで……」
 ハレアは隣にいるキルシュを見上げ、平然とした顔で嘘をつくと思った。ハレアのその顔は鋭い目だった。
「結婚式には参加できず申し訳ありませんでした」
「いえ、急な結婚だったので……。こちらこそ気を遣わせてしまい、申し訳ありません」
 キルシュは少しだけ柔らかな外行きの表情だ。
「じゃあ、僕はもう少しだけ挨拶周りをしてくるから、君はお友達とお話をして待っていてくれ」
 キルシュはそう言って、ハレアとチルの前から去った。

「思ってたより仲いいのね!初めて見たけど、噂通りの冷徹魔術師って感じ!素敵~!」
「そ、そう?ありがとう……」
 本当のことは言えないので、とりあえずお礼をして濁した。
「それでさ、今日はお兄さんは来ていないの?」
 チルは目をキラキラとさせ、ハレアに聞いた。ハレアから少し離れたところにはルードが立っている。この会話はルードに聞こえているのだろうが、チルは恥ずかしさは特にないようだ。
「今日は来てないんじゃないかなぁ。呼ばれてたとしても両親が来ると思うからお兄ちゃんは来ないかな」
「な~んだ、残念」
「てか、お兄ちゃんはマジでやめといた方がいいよ」
「シスコンだから?」
「そう、重度のね。いまだに一方的に手紙来るし」
「返してやれよ~」
 懐かしさなどは一切なく、毎日会話をしていたかのように一瞬にしてあの頃に戻ったようだった。

「チル、そろそろ……」
 チルの後ろから腰に小さな剣の鞘のようなものを下げた褐色の男性が声をかけた。それまで彼がそこにいることにハレアは気付いていなかったため、少し驚いてしまった。
「あっ、これ私のアニキなの!普段は魔術師団第五隊。そんで今日の私のパートナー!」
「はっ、はじめまして」
 ハレアは急いで挨拶をすると、彼は小さくお辞儀をし、チルを連れてどこかへ行ってしまった。チルは子爵家令嬢であり、旧ルルドネア王国の姫に当たる人物であるため、こういった場で結婚相手を探しているのだろう。引く手あまたであろう、チルの結婚相手はまだ候補者すらいない状態のようだ。チルは本気か否かは分からないが、学生の時からハレアの兄であるソレートを慕っているようだ。しかし、実際に二人が話しているところをハレアは一度も見たことがない。チルにとって、結婚したくない、いい言い訳に兄を使っているのだろうとハレアは考えている。

「ちょっとバルコニーに出てもいいですか?」
 ハレアは振り返り、ルードに言った。
「大丈夫だよ」

「は~!気持ちい~!」
 ハレアは両手を広げ夜風を全身で感じている。
「お嬢はこういうところ苦手そうだもんね」
「苦手!ドレスが苦しくて大してお料理も食べられないし!早くルードさんのごはんが食べた~い!」
 ハレアは城の庭園に向かって叫んだ。パーティー会場からはオーケストラの音が漏れ出している。

「こんばんは!ロンダム家のお嬢さん」
 左の耳元でそう聞こえ、左耳を押さえながらハレアは急いで振り返った。
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