22 / 68
昨晩のあとしまつ
しおりを挟む
リックヨルンド帝国。先代の皇帝時代に侵略戦争で大陸の三分の二の領土を得た大国だ。先代の崩御により当時20歳だった現皇帝になったことにより、侵略戦争は終わりを告げた。リックヨルンドは魔術により他の国を圧倒していた。その魔術技術は現在も健在だ。戦争当時、帝国には一つの噂があった。小国の領地を焼き尽くすほどの魔具があると。しかし、それは噂の域を脱することはなく、そんな魔具は一切使われずに終戦になった。
そんな魔具に怯え、降伏した小国の一つにルルドネア王国がある。チル・ルルドネアの故郷である。チルの祖父はルルドネア王国の王様だった。時代が違えばチル・ルルドネアは小国の姫ということになる。現在では帝都から南側にあるルルドネア領の領主の子爵家になっている。
終戦から25年。世の中は平和になってはいるが、帝都から離れた領になると、未だに皇帝への反発が強い地域も多い。現皇帝は平和主義者のようで、この地をまた戦禍に陥ることを嫌い、自治領にも支援を惜しまないようだ。
―――
ハレアが目を覚ますと、外が騒がしかった。窓を開け、バルコニーに出ると昨夜よりは引いたものの庭はまだくるぶしほどの水が溜まっていた。
「あっ!お嬢!もしかしてこれー!お嬢がやったのー?」
ハレアに気付き、ルードがバルコニーに向かって叫ぶ。長靴姿のルードとヨーレンが湖のような庭を歩いていた。
「すっ!すいません!昨日の夜、旦那様が来ててー!」
ハレアは寝起きの精一杯の大声で答える。
「え?キルシュ来てたの?いやいや、それでなんでこうなったんだよ。早速夫婦喧嘩かー?」
ルードは笑いながら歩きずらそうに進みながら屋敷の玄関に向かっている。
「今日は天気がいいのですぐ捌けますよ!」
ヨーレンさんは相変わらずの笑顔でハレアをフォローしてくれる。
「奥様!お着替えはお手伝いしましょうか?」
振り返るとモーネが部屋の扉の前に立っていた。
「いえ、今日もスカートとブラウスにする予定だから大丈夫よ。ありがとう、モーネ」
「朝食の準備はできているので、いつでもどうぞ!それでは、また!」
モーネは毎朝、ハレアを笑顔で起こしに来てくれる。男兄弟の真ん中のハレアにとってモーネは妹のように可愛い存在だ。侍女ではあるが、年も近く、明るい性格もあって、知らないインハート家に嫁いできても寂しさを感じないのは、モーネのおかげが大きい。
「あっ!奥様!お勉強ですか?」
部屋を出て行こうとしたモーネが机の上に置いてある三冊の本に目線をやった。
「えっ?」
そこには『詠唱大辞典』『かんたん!初心者の詠唱』『魔術の基本これ一本!』という本が重なって置いてあった。
「多分旦那様かな?」
ハレアは昨夜、キルシュに怒られたことを思い出した。
「なーんだ!めちゃくちゃ愛されてるじゃないですか~!」
モーネはニヤニヤとしながら部屋を出て行った。
(これは読めってことだよね……)
テンションの高いモーネとは裏腹にハレアは憂鬱になった。
そんな魔具に怯え、降伏した小国の一つにルルドネア王国がある。チル・ルルドネアの故郷である。チルの祖父はルルドネア王国の王様だった。時代が違えばチル・ルルドネアは小国の姫ということになる。現在では帝都から南側にあるルルドネア領の領主の子爵家になっている。
終戦から25年。世の中は平和になってはいるが、帝都から離れた領になると、未だに皇帝への反発が強い地域も多い。現皇帝は平和主義者のようで、この地をまた戦禍に陥ることを嫌い、自治領にも支援を惜しまないようだ。
―――
ハレアが目を覚ますと、外が騒がしかった。窓を開け、バルコニーに出ると昨夜よりは引いたものの庭はまだくるぶしほどの水が溜まっていた。
「あっ!お嬢!もしかしてこれー!お嬢がやったのー?」
ハレアに気付き、ルードがバルコニーに向かって叫ぶ。長靴姿のルードとヨーレンが湖のような庭を歩いていた。
「すっ!すいません!昨日の夜、旦那様が来ててー!」
ハレアは寝起きの精一杯の大声で答える。
「え?キルシュ来てたの?いやいや、それでなんでこうなったんだよ。早速夫婦喧嘩かー?」
ルードは笑いながら歩きずらそうに進みながら屋敷の玄関に向かっている。
「今日は天気がいいのですぐ捌けますよ!」
ヨーレンさんは相変わらずの笑顔でハレアをフォローしてくれる。
「奥様!お着替えはお手伝いしましょうか?」
振り返るとモーネが部屋の扉の前に立っていた。
「いえ、今日もスカートとブラウスにする予定だから大丈夫よ。ありがとう、モーネ」
「朝食の準備はできているので、いつでもどうぞ!それでは、また!」
モーネは毎朝、ハレアを笑顔で起こしに来てくれる。男兄弟の真ん中のハレアにとってモーネは妹のように可愛い存在だ。侍女ではあるが、年も近く、明るい性格もあって、知らないインハート家に嫁いできても寂しさを感じないのは、モーネのおかげが大きい。
「あっ!奥様!お勉強ですか?」
部屋を出て行こうとしたモーネが机の上に置いてある三冊の本に目線をやった。
「えっ?」
そこには『詠唱大辞典』『かんたん!初心者の詠唱』『魔術の基本これ一本!』という本が重なって置いてあった。
「多分旦那様かな?」
ハレアは昨夜、キルシュに怒られたことを思い出した。
「なーんだ!めちゃくちゃ愛されてるじゃないですか~!」
モーネはニヤニヤとしながら部屋を出て行った。
(これは読めってことだよね……)
テンションの高いモーネとは裏腹にハレアは憂鬱になった。
0
あなたにおすすめの小説
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる