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10年前の出来事
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10年前――
「ママ……赤ちゃん生まれた?」
夜中にお気に入りの女の子のお人形を持ったハレアが、少し騒がしい廊下へと出てきた。声が聞こえる部屋のドアが少し開いていて、中から光が漏れ出ている。
「奥様!」
「心拍が低下しています!」
「ここではダメです!病院に移動させましょう!」
「でも、今馬車に乗せて揺られるのは危険です!」
「ここでは死んでしまうぞ!馬車の準備を!」
「旦那様も付き添いをお願いします!」
「ママ……死んじゃうの……?」
母親が分娩していた部屋から漏れ聞こえたそれらの声を聞き、人形を落とした。そして、そのまま兄のソレートの部屋へと走って向かった。
「お兄ちゃん!起きて!ママが!ママが!!」
ハレアは寝ているソレートをゆすって起こそうとした。
「ん?なんだ、ハレアかよ。俺、今疲れてんだよ。魔術学校の試験前だぞ。寝かせろよ」
「ママが……、死んじゃう……」
「チッ……はぁぁぁああああ」
ソレートは面倒くさそうに起き上がり、ベッドの外で自分にしがみつくハレアの腕を引き剝がした。
「あのなぁ、出産ってのはすっげー痛いの!でも、別に死んだりしねーよ!俺の時だってハレアの時だって死んでねーだろ!」
「でも……さっきお医者さんが……」
「もういいだろ!試験明後日なんだぞ!今日だってどんだけ魔力使ったと思ってんだよ!寝かせろよ!」
ソレートはそう言い放って布団を被った。
ハレアは何も言わずに部屋を出た。先ほどまでの騒がしさが一変、奇妙なほどに静かな廊下だった。
―――
慌ただしく部屋から運ばれるルミアをランベルは唖然としてただ見ている。
「旦那様!しっかりしなさい!」
そう言って背中を叩いたのは、ハレアとソレートの乳母でもあったガーリアだった。
ランベルはハッとして部屋から飛び出した。その時、足に何か引っかかったが、気にも留めずに走り続けた。
―――
翌朝、起きるといつもと変わらずハレアの隣にはお気に入りの人形が寝ていた。
廊下もいつもと何も変わらない。ただいつもより静かに感じる。それもそうだ。両親は病院、兄は早朝から魔術学校の受験のための塾に行っているからだ。
ハレアは着替えて、食堂へと向かった。その途中でガーリアに会った。
「ハレア!今からちょっとお届け物で病院行くからちょっとだけ出かけてくるからいい子でね」
「ガーリアさん!マっ……、ううん、なんでもない!いってらっしゃい!」
ガーリアは大荷物で玄関から出て行った。
食堂にはもうすでにハレアの朝食が用意されていた。誰もいない食堂はいつもより少し大きく感じた。冷めたスープを一口飲んだ瞬間、涙が溢れてきた。
ロンダム家の敷地が広い。帝都のはずれではあり、幼いハレアはどこまでが自分の家の敷地なのかよく分かっていなかった。
その日は敷地外にある鮮やかな緑の葉っぱが広大に広がっている原っぱを見つけた。近くの東屋のベンチに座り、お気に入りの人形も自分の隣に丁寧に座らせた。
さらさらと優しく流れる風とは対照的に、ハレアの心の中はざわざわとしている。
誰にも頼れなかった。誰にも心配させたくなかった。なぜなら、みんなの方が絶対に自分よりも大変だから。母親は出産、父親とガーリアはそれをサポートする役目がある。兄は明日に迫った魔術学校の試験へのプレッシャーがある。自分だけがこんな気持ちなわけじゃない。それは知っていたが、幼いハレアには折り合いがつくものではなかった。
ふと視界の端に映る、東屋の壁の下の隙間から小さな足が見えていた。
「誰かいるの?」
ハレアは誰かがいる方向に向かって声をかけた。
すると、真っ黒の髪の男の子が壁の横からひょこっと顔を出した。
「ママ……赤ちゃん生まれた?」
夜中にお気に入りの女の子のお人形を持ったハレアが、少し騒がしい廊下へと出てきた。声が聞こえる部屋のドアが少し開いていて、中から光が漏れ出ている。
「奥様!」
「心拍が低下しています!」
「ここではダメです!病院に移動させましょう!」
「でも、今馬車に乗せて揺られるのは危険です!」
「ここでは死んでしまうぞ!馬車の準備を!」
「旦那様も付き添いをお願いします!」
「ママ……死んじゃうの……?」
母親が分娩していた部屋から漏れ聞こえたそれらの声を聞き、人形を落とした。そして、そのまま兄のソレートの部屋へと走って向かった。
「お兄ちゃん!起きて!ママが!ママが!!」
ハレアは寝ているソレートをゆすって起こそうとした。
「ん?なんだ、ハレアかよ。俺、今疲れてんだよ。魔術学校の試験前だぞ。寝かせろよ」
「ママが……、死んじゃう……」
「チッ……はぁぁぁああああ」
ソレートは面倒くさそうに起き上がり、ベッドの外で自分にしがみつくハレアの腕を引き剝がした。
「あのなぁ、出産ってのはすっげー痛いの!でも、別に死んだりしねーよ!俺の時だってハレアの時だって死んでねーだろ!」
「でも……さっきお医者さんが……」
「もういいだろ!試験明後日なんだぞ!今日だってどんだけ魔力使ったと思ってんだよ!寝かせろよ!」
ソレートはそう言い放って布団を被った。
ハレアは何も言わずに部屋を出た。先ほどまでの騒がしさが一変、奇妙なほどに静かな廊下だった。
―――
慌ただしく部屋から運ばれるルミアをランベルは唖然としてただ見ている。
「旦那様!しっかりしなさい!」
そう言って背中を叩いたのは、ハレアとソレートの乳母でもあったガーリアだった。
ランベルはハッとして部屋から飛び出した。その時、足に何か引っかかったが、気にも留めずに走り続けた。
―――
翌朝、起きるといつもと変わらずハレアの隣にはお気に入りの人形が寝ていた。
廊下もいつもと何も変わらない。ただいつもより静かに感じる。それもそうだ。両親は病院、兄は早朝から魔術学校の受験のための塾に行っているからだ。
ハレアは着替えて、食堂へと向かった。その途中でガーリアに会った。
「ハレア!今からちょっとお届け物で病院行くからちょっとだけ出かけてくるからいい子でね」
「ガーリアさん!マっ……、ううん、なんでもない!いってらっしゃい!」
ガーリアは大荷物で玄関から出て行った。
食堂にはもうすでにハレアの朝食が用意されていた。誰もいない食堂はいつもより少し大きく感じた。冷めたスープを一口飲んだ瞬間、涙が溢れてきた。
ロンダム家の敷地が広い。帝都のはずれではあり、幼いハレアはどこまでが自分の家の敷地なのかよく分かっていなかった。
その日は敷地外にある鮮やかな緑の葉っぱが広大に広がっている原っぱを見つけた。近くの東屋のベンチに座り、お気に入りの人形も自分の隣に丁寧に座らせた。
さらさらと優しく流れる風とは対照的に、ハレアの心の中はざわざわとしている。
誰にも頼れなかった。誰にも心配させたくなかった。なぜなら、みんなの方が絶対に自分よりも大変だから。母親は出産、父親とガーリアはそれをサポートする役目がある。兄は明日に迫った魔術学校の試験へのプレッシャーがある。自分だけがこんな気持ちなわけじゃない。それは知っていたが、幼いハレアには折り合いがつくものではなかった。
ふと視界の端に映る、東屋の壁の下の隙間から小さな足が見えていた。
「誰かいるの?」
ハレアは誰かがいる方向に向かって声をかけた。
すると、真っ黒の髪の男の子が壁の横からひょこっと顔を出した。
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