Bグループの少年

櫻井春輝

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6巻

6-2

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「いや、そうは言っても……知らんぞ?」
「ああ、もう……」

 頭痛をこらえるように梓はひたいに手を当てる。

「最近、君の教室に来て、そして君と話して、危うく喧嘩になりそうだった人よ」
「ええ!?」

 その話を知らなかった恵梨花が驚きの声を上げる横で、亮はかすかに記憶の引っかかりを感じ、奇跡的に思い出す。

「ああ、あの空手からて野郎か」
「空手野郎……? 彼が空手をやっていたことを知ってたの?」

 梓の疑問に、亮は首を振って否定する。

「いや、知らねえ。見た時にそう思っただけだ」
「はあ……そういえば、君は人の名前を覚えない代わりにそんな特技とくぎがあったわね」
「え、何があったの!?」
「いや、大したことはねえよ。そいつが教室に来た時にちょっと話しただけだ」

 ある意味、亮の言葉に間違いはない。

「ほ、本当に……?」

 だからと言って恵梨花は納得できず、詳細を求めるように梓へ目を向ける。

「そうね、確かに大した問題にはならなかったみたいね」
「そ、そう……」

 同意するように頷いた梓に、恵梨花は安堵あんどの息を吐く。

「それで、その……八木? がなんだって?」
「あ、それがね――」

 恵梨花が話し、時折梓が補足しながら、亮はあらましを聞いた。

「なるほどな……」
「うん。だから、亮くんが一緒に行ってくれるなら、連れてって欲しいんだけど……」

 チケットを両手に持ち、期待と不安のこもった上目遣いで頼んでくる恵梨花の姿は完全に反則だった。
 他に大事な用事があっても、イエスと言ってしまいそうな亮だったが、幸いにも問題なかった。
 なにしろ二つの用事が同じ内容なのだから。それにゴールドクラッシャー本人に会えるなら、瞬に借りを作るようなことをせずに済む。

「ああ、いいぞ」

 ドギマギしながら亮が了承すると、恵梨花はハッと顔を上げ、マジマジと亮を見た後に、花が開いたような笑顔となった。

「本当!?」
「あ、ああ」
「やった! ありがとう、亮くん!!」

 どれだけうれしかったのか亮にはわからなかったが、恵梨花は自身の喜びを表すように、感謝の言葉と共に抱きついてきた。

「お、お、お、おう……」

 まったく予期していなかったことで、亮は動揺を隠せない。
 恵梨花に触れられている個所すべてが幸せな柔らかさに包まれる。特に胸部が、率直に言えばヤバかった。
 ガリガリと削れていく亮の理性を救ったのは梓だった。

「おっほん!」

 途端、ハッとして亮から離れる恵梨花。

「え、えへへ……」

 赤くした顔に誤魔化ごまかし笑いを浮かべて、そろっと梓へ振り返る恵梨花。
 すかさず梓は構えていた携帯のカメラのシャッターを切る。これまで隣で静かにしていたさきも同様だ。
 一瞬ビクッと怯んだ恵梨花に構わず、梓は携帯をポケットにしまいながら淡々たんたんと言った。

「話はまとまったみたいね?」
「あんたな……ああ」

 文句を言おうとした亮だが、今更かと思い直し呑み込んだ。
 恵梨花も同様なのか、ため息を吐いただけだった。

「それで、ちょっと聞きたかったんだけど、君、このイベント知ってるの?」

 何事もなかったように聞いてくる梓に、亮は蒸し返すことはせず答える。

「ストプラのことか? ああ、知ってるぜ。前にもあったしな」
「やっぱり知ってたのね……内容はやっぱり恵梨花が聞いた通りなの? 喧嘩の大会だって?」
「そうだな、それだけだな」

 あの街のガキ共にとっては、それは最高の娯楽ごらくと言える。やるほうでも、観るほうでもだ。

「へえ……噂で軽く聞いてたけど、本当なのね」
「ああ」

 梓なら聞きつけていてもおかしくないだろうなと、亮は頷いた。

「……君が参加したとか、ないわよね?」

 探るような目を向ける梓に、亮はヒラヒラと手を振る。

「ねえよ。面倒くせえ」
「まあ、そうよね」
「うん、亮くん、そんな感じだよね」

 梓と恵梨花の納得具合は、どこか方向性が違っていた。
 恵梨花は亮の言葉通りに受け取っていたようだが、梓は「勝負にならないんじゃない?」と言いたげだった。
 二人の納得した内容は、確かに亮が参加しなかった理由のひとつではあるが、実は瞬に止められてもいた。

「まあ、でも、物騒ぶっそうな大会なんでしょうけど……面白そうよね」

 梓の興味深そうな声に、恵梨花が眉をひそめる。

「え、そう……? 怖くない?」
「そうね……でも、興味が勝るわ」
「うーん、梓らしいか」

 苦笑する恵梨花に梓はニコッと微笑むと、恵梨花の持つチケットを見て惜しそうに「チケットが二枚しか無いのは残念ね」と首を振る。
 また随分ずいぶんと物好きなことを言うもんだなと聞いていた亮は、ふと鞄の中にあるチケットのことを思い出した。
 ――連れが何人いても入れるタイプのやつだからな。
 瞬はそう言っていた。

「……」
「来てみたいなら、あんたも来るか?」

 亮の声に梓は振り返って目をしばたたかせた。

「来るか? って言っても、チケットは二枚しかないでしょ?」
「いや、俺も持ってる」

 言いながら亮が鞄からチケットを取り出して見せると、梓は目を丸くした。

「まあ……」
「え、亮くんも持ってたの?」

 梓と同じく驚いた顔をする恵梨花。

「ああ」

 むしろ恵梨花が持っているほうが似合わないだろう。

「あれ? でも、私のとちょっと違うね?」

 亮のチケットと自分のとを見比べた恵梨花は小首を傾げた。パッと見、亮のものはどこか豪華ごうかさがある。

「そうね、ちょっと見せてくれない?」

 亮が手渡すと、梓は恵梨花のも受け取って検分する。

「なにこれ……プラチナチケットって書いてあるし、連れが何人でもOKの、ワンドリンク付き……?」
「へ?」

 恵梨花がポカンと亮のチケットを眺める。
 それも無理はなく、無制限に友人を連れて来てもいいのなら、他のチケットの価値が下がってしまう。簡単には手に入らないはずだ。

「どうしたの、これ……?」

 梓の問いに、亮は軽く肩を竦めた。

「瞬からな」
「瞬……って、藤真くんだっけ?」
「ああ」

 恵梨花に答えると、梓が怪訝な目を向ける。

「君のその友人って、あの街では、どんな存在なのよ?」
「さあ……なにかチームを引っ張ってるらしいが、詳しくは知らん」
「チームを引っ張ってって……待ちなさいよ、同い年よね? その藤真くんは」
「ああ」

 梓の言わんとすることを理解して、亮は苦笑する。
 瞬が引っ張っているそのチームのメンバーは、ほぼ全員がヘッドである瞬より年上だった。
 と言うより、泉座で活動している者達は大体が十八を超えている。
 その中で十六、七歳の高校二年生がチームを引っ張っているなど、ハッキリ言って異常過ぎる。

「呆れた……でも、そうね、類は友を呼ぶとも言うしね」
「どういう意味だよ」
「さあ? でも、これがあるなら確かにあたしも行けるわね……連れて行ってくれるの?」

 一転して期待と、本当に大丈夫なのかという疑問の目を向けて来る。
 亮は不敵に笑って頷く。

「ああ、いいぜ。咲はどうする? 来るか?」

 水を向けられた咲は驚いたようにパチパチと目を瞬かせると、しばし黙考して口を開いた。

「……邪魔にならない?」

 ジッと見つめてくる咲からは、梓と同様の、いやそれ以上のためらいを感じた。
 しかし亮は安心させるように、ふっと笑って答える。

「ああ、だ」

 亮の自信がこもった返答は伝わったようで、咲は小さく頷いた。

「……じゃあ、行く」
「おう」

 思わず苦笑した亮に、恵梨花が心配そうな声で尋ねる。

「えっと……咲も一緒なのは嬉しいけど、大丈夫なの?」

 同じような疑問を恵梨花も抱いたらしい。

「ああ、問題ねえ。心配するな」
(一応プロだしな……仕事に比べたらヌルい)

 襲われたとしてもチンピラだ。ハッキリ言って、亮の敵り得ない。

「ん……わかった」

 亮の経験に裏づけられた自信が伝わったのか、本当に大丈夫なようだと安堵の息を吐く恵梨花。

「でも、そうさな、三人とも街にいる間、俺の言うことは絶対に聞けよ」

 三人共、迂闊うかつな行動をとるとは思えないが、案内する場所が場所だ。
 いざという時でも、そうでない時でも、言うことを聞いてもらうのは必須マストだ。

「え? ああ、そうだよね。うん、わかった」

 亮の考えていることがわかったようで、恵梨花と咲は素直に了承したが、梓は悪戯いたずらっぽく笑む。

「あの街だしね、君の言うことはもちろん聞くけど……やらしい命令は恵梨花だけにしてよね?」
「す、する訳ねえだろ!」
「もう、梓! 亮くんがそんなことする訳ないじゃない!」

 顔を真っ赤にして否定する二人に、梓が高らかに笑い声を上げる。

「ったく……言っても、『走れ』『止まれ』『しゃがめ』程度だっての」
「ふふっ、ええ、わかってるわ。もちろん、君に従いますとも」

 茶目っ気たっぷりな声に、亮はため息を吐いた。

「まあ、でも、差し当たって言っておくが――」

 亮が鋭く見据みすえると、途端、三人は真剣な表情を浮かべて耳を傾けた。

「――あの街にいる時は、絶対に俺から離れるなよ?」


 ◇◆◇◆◇◆◇


「ホームで待て、って言ってたわよね?」

 梓が恵梨花に確認する。
 ストプラ当日のこの日、三人娘は同じ電車に乗って泉座までやって来た。

「うん……私、この駅で降りたの初めてだよ」
「ああ、あたしもそうかも。泉座からは少し離れた駅だし、この辺って特に何もないしね」
「うん。でも、亮くんはここから行くのが慣れてるんだって」

 恵梨花が言うと、梓が納得したように頷く。

「ああ……彼の家の最寄もより駅なら、ここまで一本だしね」
「……乗り換えるの面倒くさがってるからこの駅なんだと思う」

 咲のこの一言に、三人娘は顔を見合わせて噴き出した。

「亮くんは来てるはずだよね――あ、いた!」

 恵梨花がいち早く見つけて、同じホームであるが三人とは反対の端からこちらへ向かってくる亮に大きく手を振っている。
 近づくにつれ、亮の目が恵梨花にくぎ付けになっていくのがわかった。
 今日の恵梨花の服装は、清潔感せいけつかんのある白いノースリーブのフリルブラウスに、カーキ色のガウチョパンツ。そしてキャメルのハット。
 全体的に柔らかな雰囲気があり、非常に似合っていて非の打ちどころがなく可愛らしい。スタイルの良さも際立っている。
 ただ、このままではナンパ男がホイホイ寄ってくるのが明白。
 この街では特に警戒する必要があるため、ホームを出た辺りで大きめのサングラスをかける予定である。
 ならば何故、電車から降りる前にかけなかったかというと、サングラス抜きの姿を亮に一度見てもらいたいという乙女心ゆえだ。
 ちなみにサングラスは梓からの借り物である。

(完全に見とれてるわね……)

 こういった時だけ隙だらけに感じる亮に、梓は内心で苦笑する。
 同時に少しの不満を覚えてしまう。

(この男ぐらいよね、あたしを恵梨花のおまけのように見るのって……)

 ぞんざいに扱われている訳ではないが、梓にとって、こうまで近くにいてろくに興味を持たれないのは滅多にない体験なのだ。
 単に文字通り、恵梨花しか目に入っていないだけなのだろう。
 梓の服装は黒のジャケットに、白黒ボーダーのワンピース。シンプル故に梓のスレンダーなラインが強調され、着こなしから格好良さと可愛さが見事に同居している。
 ちなみに梓もサングラスを着用予定だ。なので、今日はコンタクトである。
 咲はベージュのショートパンツに、紺のシャツに薄生地のロングカーディガン。そして珍しく髪をアップにしていて、服装と相まって独特の魅力とほのかな色香を発している。
 恵梨花、梓と同じくサングラスをつけようとした咲だが、二人から猛反対を受けて無しとなった。
 三人共、夏だからというのもあるが、動きやすい服を選んでいる。

「よ……お、時間通りだな」

 口調がどこかぎこちないのは、恵梨花に見とれて照れているからだろう。
 ついでに言うと亮の服装は茶色のパンツに青のシャツといった、まさにザ・シンプルな装いで、当たりでも外れでもない。が、梓はみょうな違和感を抱いた。
 その原因は恵梨花の言葉によって明らかとなる。

「あれ? なんで亮くん、眼鏡めがねにその髪型なの……?」
(ああ、そういうこと……)

 そう、亮はプライベートでは伊達だて眼鏡を外し、髪型も学校とは違うはずなのだ。なのに、首から上は学校の時と同じ。そして私服はプライベート用。
 言わば首から上と下で、公私こうしが分かれている。だからこその違和感なのだろう。
 実際に会って亮のプライベート姿を見たことは無い梓だが、恵梨花から嬉しそうに写メやプリクラを見せてもらっている。
 そのためか、初めて見る完全プライベート仕様の亮を無意識下で楽しみにしていたらしいと、梓は多少の落胆と共に気づいた。

「ああ、これか? ……学校のやつと会うんだろ? 途中から別れるだろうが、それまではな、ってな」
「えー、でも、休日なんだし、学校にいる訳でもないんだからいいんじゃないの?」

 亮の格好を見て不満そうな恵梨花に、亮は苦笑する。

「まあ、その連中と別れるまではな」
「はあ、亮くんが格好いいところ、学校の他の人にも見てもらえると思ったのにな」
「……言うほどでもないと思うがな」

 そう言って、ふと視線を動かした亮と梓の目が合うと、亮の目がゆっくりと見開かれる。

「眼鏡外してコンタクトにしてんのか、珍しいな」
「そう言えば、君の前で外すのは初めてかしらね」
「ああ……眼鏡外しただけで随分、雰囲気変わるもんだな」

 感心したように言う亮に梓は呆れた。

「君ほどじゃないと思うけど?」
「俺のは意図的に雰囲気や気配を変えてんだよ。あんたはそんな意識ねえだろ?」
「当たり前でしょ」

 梓が間髪かんはつを容れずに返すと、恵梨花が自慢げに胸を張って言う。

「コンタクトの梓って可愛いでしょ?」
「まあ……そうだな、普段が綺麗系なら、今は可愛い系になったって感じか?」
「亮くんもそう思う!?」

 恵梨花が大きく相槌あいづちを打つ横で、梓はかすかに苦笑していた。

(……本当、いきなりサラッとめてくるのやめてくれないかしら)

 特に亮の場合、本当にそう思っている率直さが伝わってくるから性質たちが悪い。
「綺麗」と言われるのはよくあることなのだが、恵梨花、咲以外に「可愛い」と言われることは割と少なく、男子からだとより一層である。
 梓はわずかに込み上げてきた動揺を隠すように、鞄に入れていたサングラスをかけた。

「褒めても何もでないわよ。恵梨花も、もうかけてなさい」
「あ、そっか。わかった」
「なんだってサングラス……ああ、そういうことか。咲はかけねえのか?」

 亮の疑問に咲はフルフルと首を横に振って否定する。

「……私はそれほどナンパされないし」
「へえ? ……ああ、こっちの二人にナンパが集中するからか」

 亮の言うことは確かであるが、咲が見劣みおとりしている訳では決してない。亮もそう思っているからこそ口にしたのだろう。
 そうして恵梨花がサングラスをかけると、恵梨花の小顔具合がよくわかる。
 サングラスが大きめの物というのもあるが、顔の半分が隠れているように見えるのだ。

「でけえな、おい。そのサングラス」

 思わずといったように口にした亮に、恵梨花がサングラスをクイッとやる。

「えへへ。どう、似合う?」
「んー、まあ、似合ってないこともないから似合ってる、のか?」
「えー、どっち?」
「うーむ……」

 なかなかに真剣な顔をしている亮であるが、実態はただイチャついているだけである。
 本当にこの二人は放っておくと、いつも二人だけの世界を作っていく。

「さあ、もう行きましょ。八木くんとの待ち合わせ場所へ」

 梓が水を差すと、二人がハッと振り返る。

(どれだけ互いに夢中になってるのよ……)

 亮は一人でいる時など、視線を向けただけでそれを感じ取ったように振り向いてくるくせに、恵梨花といる時は、そのセンサーが働いていないことが多い。

(……大丈夫なのかしらね? これから夜の泉座を歩くのに)

 一抹いちまつの不安を覚えずにはいられない梓であった。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 八木との待ち合わせ場所へ向かう途中、泉座の街並みを目にしていた梓はふと、ある女性のことを思い浮かべた。
 その女性とは梓達より一学年上に当たる先輩である。
 何故その先輩のことが頭に浮かんだのか。それは、彼女がこの泉座によくいるからだ。
 梓がそれを知っている理由は、相当な情報通だという以外にもうひとつ。
 去年、その先輩が恵梨花に因縁をつけてきたためだ。
 梓は事前にその事態を予測して情報を集め、それを利用して撃退しようと考えた。
 その際、梓はため息を零しながら使えない情報を精査せいさしていく内に、ひとつ引っかかるものを見つけた。
 更に情報を集めつなぎ合わせた結果、梓は「しまった」と呟くと同時に、非常に強烈な自己嫌悪を抱いた――知り過ぎてしまったことに対してだ。
 加えて、彼女が恵梨花に対して憎悪にも似た感情を抱く理由を悟った。
 流石にこの情報は使。梓は口外こうがいしないことを心に決めた。
 結果的に梓は、先輩にその情報を知っていることを匂わせ、口外しないことを条件に、互いに干渉かんしょうしないと約束したのだ。
 以来、その先輩が恵梨花達に絡んできたことはない。

(……ストプラの会場で出くわす可能性は高そうね)

 その場合、なごやかに会話をすることなどありえない。相互不干渉の約束はよほどのことが無い限り消滅はしないのだから。

「――そろそろ待ち合わせの場所へ着くよ、梓?」

 サングラスをかけた恵梨花が梓を振り返る。その隣に立つ亮は、眠そうにあくびをしていた。

「ええ、わかったわ」

 気を取り直して目を向けると、八木が二人の友人らしき男と談笑しているのが見えた。

「……空手野郎と一緒にいるのは二人か。知ってるやつか、恵梨花?」

 同じく亮も気づいたようで、二人について恵梨花に尋ねた。

「えっとね、確か……」
西田にしだ竜次りゅうじくんと、黒川健介くろかわけんすけくんね。学校でもあの三人はよく一緒にいるわ」

 恵梨花が悩ましげな顔をしているのを見て、先んじて梓が答えた。
 亮のことだから顔も名前も覚えは無いのだろう。

「そうか……やっぱり眼鏡かけてきて正解だな」

 ため息混じりの声で亮がつぶやく。
 学校の外で、学校の人間に会いたくないと思っていることが良く伝わってくる。会うにしても、できるだけ数を抑えたいということも。
 恵梨花がコッソリ振り返って苦笑すると、梓も同様の笑みを浮かべる。
 そうこうしている内に、八木達のいる場所へと着いた。

「お、来たか、藤本さん」
「うひょー、本当に来たし!」
「おわ、私服姿やべえな……」

 八木が恵梨花に気づいて声をかけると、それを皮切りに竜次と健介が色めき立った。

「えっと……こんばんは、八木くん。……今日はよろしくお願いします」

 律儀りちぎにぺこりと恵梨花が頭を下げると、八木はニヤリと笑う。

「おう、まかせとけよ」

 そう答えると八木は梓、咲へと視線を巡らせた。

「鈴木さんと山岡やまおかさんもか……チケット手に入ったんだって?」
「ええ。ちょっと伝手つてがあってね。今日はよろしくね」

 亮がチケットを元から持っていたことは話さないと、事前に打ち合わせていた。

「へえ。で、一緒にか? 物好きだねえ」

 肩を竦めた八木は、最後に亮へ目を向けた。

「そんで、この三人の付き添いがお前かよ……本当に来たんだな」
「直前になって、やっぱ行かない、とか言い出すかと思ってたんだけどなー」
「それあるわー」
「お前らもやっぱり思ってたか」
「当ったり前よ、桜木が来なければ男女三対三で丁度良いと思ってたし」
「それ本当あるわー」

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