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6巻
6-1
しおりを挟む第一章 覚悟を固めて
「ようやっと新情報を拾えたんだけど……確実性に乏しいのよね」
かつて凶悪なギャングチームを壊滅させたと言われる、ゴールドクラッシャーの正体を探っていた梓が、ようやく新情報を恵梨花にもたらしたのは、木曜の朝のことだった。
「何かわかったの!?」
恵梨花が大きく反応したのには訳がある。
梓に情報収集を頼んだとはいえ、今日まで恵梨花が何もしていなかった訳ではない。
昼休みを除いた休み時間は、断腸の思いで亮のクラスへは行かず、他の教室に行っては友人の輪に入った。
そこでそれとなくテレビでのゴールドクラッシャー特集の話題を口にして、番組以外の情報を知っているか、注意深く耳を傾けたりしていたのだ。
テレビでの放送以来ずっと学校中で噂されているため、他にも話しているグループはいる。なので、目の前の友人から話を聞きつつ、周囲へも耳を澄ませていたが、恵梨花が知っていることしか耳に入らない日々が続いていた。
梓も大した発見はなかったようで、これまであまり話題に出すことはなかったが、今日になっていきなり新情報を持ってきたので、恵梨花は驚き食いついたのである。
「ええ、でも確かかわからないのよ」
梓が自信なさげに言う。不確かなことしか言えないのが気に食わないのか、少しイラついたように眉を寄せている。
「それでもいいよ! 何がわかったの!?」
恵梨花が勢い込んで尋ねると、梓は若干渋りながら答えた。
「あるチームのヘッド――つまりトップがゴールドクラッシャーだと噂されてるらしいのよ」
恵梨花は一瞬ポカンとした。それが本当なら朗報もいいところだ。
「本当!?」
身を乗り出して顔を輝かせる恵梨花に、梓は不機嫌な表情で頷いた。
「なんていうチーム!?」
「レッドナイフってとこ。今年に入ってから結成された……割と最近のチームね」
「すごい! 梓!」
本当に手がかりを、それもこんな短期間に掴むなんて信じられない。
梓に頼んで良かったと心から思えたのだが――。
「どうしたの、梓?」
朗報をもたらしてくれた親友の表情は、依然として晴れない。
「言おうかどうか迷ってたのよね、この情報は」
「え、どうして?」
「この噂自体は今週入った頃には掴んでいたのよ」
「そうなの?」
なら数日前には知っていたことになる。そんな素振りを見せず、何故黙っていたのか。
恵梨花の考えを表情から読み取った梓は、頷いて説明し始めた。
「今まで黙っていたのは、その噂が本当かどうか確かめていたからよ」
「そっか」
「ええ。噂のソースはどこからか、いつから広まったのか、それを追うのに時間がかかっていたのよ」
「へえー」
恵梨花は感嘆した声を出す。いつもながら、どのように情報を集めているのか不思議で仕方がない。
梓がため息と共に口を開く。
「結果なんだけど、さっきも言ったけど、確実性に乏しいのよ」
「……本当かどうか疑わしいってこと?」
「そう」
「どうして?」
「追ってみたら噂の根本は全部、そのチームのメンバー……いえ、幹部からなのよね」
本当にどうやって情報を集めているのか不思議なことこの上ない。
「そうなんだ……」
「本当かどうかわからないからね、そういうのあまり口にしたくなかったのよ」
「そっか……?」
ならどうして、急に言う気になったのだろうか。
その恵梨花の考えも先読みしたようで、梓が頷いて続ける。
「どうにもね、手がかりがそれしか無さそうなのよ」
現状ではこれが限界だったかららしい。
もっと時間をかけたら何かわかるかもしれないが、恐らく確実性は低そう。
梓は情報を探った際の手応えと自身の推測を交えてそう述べた。
「そうなんだ……」
梓でも泉座の街の情報を集めるのはやはり難しかったらしい。
それでもこうやって手がかりを掴んでくれたことには感謝しなければならない。
「ありがとう、梓」
「いいのよ、それにこの情報はまだ終わりではないわ」
「まだ何かあるの?」
「ええ。そのレッドナイフのメンバー……この学校にいるのよ。それもあたし達と同学年」
「ええ!? 誰!?」
恵梨花の身近なところで、亮を除けば夜の泉座に通う者はいない。
学校でもそういった話はあまり聞かないため、チームに所属している生徒が同級生の中にいるなんて考えたことも無かった。
顔いっぱいで驚きを表す恵梨花に梓は答えた。
「六組の八木君、とその友人二人ね」
「八木君……」
呟きながら恵梨花は記憶を掘り返す。するとすぐに思い出せた。
いつも友人達とギャハハと笑い合っている、この学校では割と派手な男子生徒達。
話したことはあまりなかったが、すぐに思い出せたのは存在感があったからだ。
ハッキリ言って恵梨花の苦手なタイプである。と言っても、直接何かされたことは無い。
「学校では一応、おとなしくしてるつもりのようね……自己主張は激しいけど」
恵梨花は同意して頷いた。
八木達は学校では特別目立って悪いことはしていない。少なくとも積極的に喧嘩を売って回るなんて話は聞いたことはない。が、自分達ははみ出し者だと、または特別なんだという主張を普段の態度で示している。
しかし、夜の泉座に通っていることを、それもチームに所属していることまで知ると、彼らが学校では無難に過ごそうとしているのだとわかる。
梓の言葉はそのことを簡潔に示していた。
「それでどうするの? ……話を聞きに行くの?」
「うん……折角、梓が掴んでくれた手がかりなんだし」
聞きに行く相手が相手なので、恵梨花の返事は歯切れが悪かった。
ろくに話したことがない上に、評判の悪い生徒だ。気楽には行けない。
しかし現状、打つ手がもうこれしか無かった。
恵梨花に同調するように、梓は悩ましげに眉を寄せる。
「やっぱり、そうなるわよね……あたしもついていこうか?」
「ううん。話を聞きたいのは私だし、私だけのほうがいいと思う……ありがとう」
恵梨花が断ると、梓はやっぱり、と言いたげにため息を吐き、少し黙考してから口を開いた。
「いい、恵梨花? 八木くんは聞かれたら恐らく、自分のチームのヘッドがゴールドクラッシャーだと言うでしょうけど、彼が真実を知らないだけで、この噂はレッドナイフの人達が売名行為で流した嘘って可能性もあるからね、過度な期待をして聞きに行っては駄目よ?」
「あ、そっか……そうだね、うん」
「あと、もし誰からその話を聞いたとか問われたら遠慮なく、あたしの名前出していいからね」
「ああ……いいの?」
「いいわよ……答えなくてもどうせ気づかれるでしょう」
それもそうかと恵梨花は苦笑する。
「あと恵梨花、あたしは恵梨花が何の――いえ、誰のためにゴールドクラッシャーを追ってるのか、どれぐらいの気持ちで動いているのかわからない。情報を集めたからと言って、教えろなんて言うつもりもないわ――けど、これだけは約束して。八木くんに話を聞きに行った時、八木くんが何か変な交換条件を突きつけてきたら、それは絶対に受けないで」
真剣に自分を案じていることがわかる梓の声に、恵梨花は表情を引き締める。
「――お願い、約束して」
「……うん、わかった」
絶対にその約束を守る、という意思を込めて、恵梨花はできる限り真剣な顔をして頷いたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
(まさか本当に姐さんが言った通りになるなんてな……)
八木は目の前にいる恵梨花を見下ろしながら、内心で呟いた。
顔には出していないが、いや、顔に出さないのが精一杯なほど驚いている。
『いい? 恐らく近い内に藤本恵梨花があなたの元へやって来るわ』
脳裏に姐さん――岩崎乃恵美から告げられた言葉が浮かび上がった。
その時は理由を聞いても薄く笑って答えてもらえず、八木は半信半疑でじっと待っていたのである。
すると今日の休み時間、教室で友人達と駄弁っていたところ、クラスメイトから呼ばれた。
廊下に出てみると、なんと学校一の有名人が自分を待ち受けていたのだ。
周囲から、どこか困惑したような視線を感じる。
この組み合わせが珍しいからだろう。
普段から割と注目されていると自覚している八木だが、目の前の美少女と一緒にいると、その度合いが桁違いに増しているのがわかる。
注目されるのはそれほど嫌いではない。それどころか、今は優越感じみたものを覚えてしまう。
(……しかし、この女に馬鹿になるやつが増えるのも確かにわかるな……)
見上げてくる恵梨花の頭から足まで、それとなく目を走らせる。
顔もスタイルも非の打ち所がなく、女性らしい曲線がハッキリとわかる。
率直に言えば、非常に男好きのする体で、八木は知らず知らずの内にゴクリと喉を鳴らした。
ここまで近くで目にするのは初めてだが、やはり遠目で見るのとはまるで違い、男としての情欲をこれでもかと掻き立てられた。
それどころか意識していないと、目が胸や脚に釘付けになり、更にはその豊満な体に手が伸びてしまいそうになる。
(こんなのが同じ教室にいたら、そりゃ思わず告る馬鹿も増えるよな……)
内心で呟くと同時、ふと八木はゲームによくある魅了の魔法が頭に浮かんだ。
それが常時発動しているのでは、と真面目に疑いそうになる。
そんな考えをおくびにも出さず、八木は恵梨花と軽く挨拶を交わすと、恵梨花が若干の緊張を帯びた顔となって聞いてきた。
「あの、八木くんって泉座で、レッドナイフってチームに入っているって聞いたけど本当?」
内容が内容なだけに、気を使ってか声はひそめられていた。
先ほどとまではいかないにしても、再び八木は驚いた。乃恵美から、それを聞かれるだろうと言われていたからだ。
「そうだけど……誰に聞いた?」
別段隠すつもりのないことなので肯定し、ついと湧き出た疑問を口にしたが、言ったと同時にピンと来た。
「――いや、鈴木梓か」
「う、うん……」
控えめに頷く恵梨花に、八木はクッと笑う。
「へえ……噂通り――いや、噂以上の情報通みたいだな」
すると恵梨花も、どこか困った愛想笑いを浮かべる。
そして、意を決したように口を開く。
「それで、そのレッドナイフのトップの人が、ゴールドクラッシャーだって聞いたんだけど……本当なのかな?」
これもまた乃恵美の言った通りだ。
自分達の恩人である先輩は、目の前の美少女のいったい何を知っているのだろうか。
ともあれ、八木はどこか自慢げな気持ちで頷いた。
「ああ、そうだ、うちのヘッドが最近噂のゴールドクラッシャーだな」
答えると恵梨花は息を呑んで目を瞠った。
「ほ、本当!?」
恵梨花は続いて窺うように尋ねてきた。
「それで……その、ゴールドクラッシャーさんについて、ちょっと聞いてもいい?」
段々、これは乃恵美が仕組んで恵梨花を動かしているのでは、と八木には思えてきた。
「くくっ、ゴールドクラッシャーさんね……。いいぜ、答えられることなら」
八木が笑いながら頷くと、恵梨花は目を輝かせた。
「えっと、じゃあ……どんな人かな!?」
その少し必死な様子に、もしかしてファンなのかと八木は思った。
「どんな人って聞かれてもな……どういう意味で?」
「あっ、そうだよね。ええと……見かけとかは?」
「見かけ……か。身長は百八十を超えるぐらいで、顔は……言えば、いかつい系か。短めの茶髪で体格は厚めだな」
簡単に述べていくと、恵梨花はどこか困惑したような顔となったが、ハッとなって呟いた。
「そっか……二年近く経ってるし……」
「あ? なんて?」
「ううん、なんでもない! ……えっと、雰囲気とかは?」
「雰囲気か……ちょっと近寄りがたい、かな。少なくとも気安い感じじゃねえな」
「そっか……ええと、あと、スーツとかたまに着てたりする……かな?」
「スーツ? いや、見たことねえよ……てか、あの街で夜スーツを着てくるやつなんて、リーマンくらいじゃね?」
「そ、そうだよね……」
姿を想像しているのだろうか、恵梨花が手を口に当て悩ましげな顔をしている。
「――ねえ、ここに行ったら会える、とか教えてもらえたりする……かな?」
遠慮がちに聞いてくる恵梨花に、八木は思わず笑いそうになった。
(こうまで姐さんの言う通りになるとはな……)
八木はこらえて首を横に振る。
「いいや、流石にそいつは教えられねえな。うちのヘッドは敵も多いし、俺が何か言ったせいで誰かに待ち伏せされたりしたら、たまんねえしよ。チームの集まりとかもあるけど、それに部外者は連れてけねえしな」
「そ、そっか……」
あからさまに落ち込んだ様子の恵梨花。
「そうなんだ……」
次に何を聞こうか悩んでいる様子の恵梨花に、八木は自然な流れで尋ねた。
「なんで、うちのヘッドに――ゴールドクラッシャーについて知りてえんだ?」
「え? えっと……知り合いで、会って話したいって人がいて……」
「ふうん……じゃあ、場所を教えたら、その人が来てた訳?」
「うーん……その前に私が話してみたいんだけど……」
「へえ……? つまり、一度、藤本さんがうちのヘッドに会ってみたいってこと?」
「うん……そう、だけど……」
歯切れが悪くなるのも無理はない。
会ったことも無いチームのヘッドを一目見ようとしたら、自然と時間は夜、場所は泉座となる。こちらから呼び出す訳にもいかないのだから。
「まあ、女子一人だと危ねえよな……会ってみたいんだったら俺が案内して仲介してやろうか?」
「え!? ううん、そんな悪いよ……」
慌てて手を振る恵梨花に、八木はおどけたように笑う。
「まあ、チーム入って間もねえし、それほどヘッドと仲良くなってもない俺にそんな真似はできねえんだけどな」
「え? そ、そっか……」
恵梨花の声は安心したようにも、残念がっているようにも聞こえる。
「ははっ、悪いな」
「ううん、色々教えてくれてありがとう」
「ああ――あ、そうだ」
八木は今思いついたような体を装って、踵を返そうとした恵梨花に呼びかけた。これも全て、乃恵美の言っていた通りだ。
「なに?」
「さっきも言ったけど、チームの集まりに来られたら困るけど、この日だけは問題無い日ってのがあったわ」
「え? 本当!?」
再び顔を輝かせる恵梨花に、八木は危うく引き込まれそうになった。
「あ、ああ。チームとか関係なしに人が集まるイベントがあってな、うちのヘッドがそこに出るから、関係ないやつがいても問題ねえんだよ」
「そうなんだ! ……どんなイベント?」
小首を傾げる恵梨花に、八木は肩を竦めた。
「『ストリートプライド』って言って……簡単に説明すると、泉座で一番喧嘩を強いやつを決めるって大会だな」
「け、喧嘩で一番……?」
「ああ、素手のタイマンでな……観客もいっぱい集まるから、そこに藤本さんが来たら、少なくとも遠目でうちのヘッドを見られる」
「!」
「ちょっとしたお祭りみたいな雰囲気もあるから、そこでならイベントの前後に、俺の友達だって軽く紹介もできるかもしれない。来るならその会場に入るためのチケットをあげるけど……どうする?」
「え? ……えっと……」
行ってみたいけど……という恵梨花の葛藤が、八木には手に取るようにわかった。
八木はポケットから財布を取り出し、中から一人用のチケットを抜き出した。
「チケットは基本、男には売って、女の子には無料で配れって言われてんだよ。ほら、これ一枚で一人入れる。ワンドリンク付きな」
そう言って、八木がチケットを差し出すと、恵梨花は受け取ろうか迷う素振りを見せた。
「あ、ありがとう、でもやっぱり私は――」
「なんなら噂の彼氏と一緒に来ればいいんじゃね? それなら藤本さんも安心できるだろ?」
「!」
恵梨花がハッと顔を上げる。
八木はもう一枚、チケットを財布から抜き出し、先ほどのと合わせて二枚を差し出した。
「本当なら彼氏から金とるとこだけど……二千円。一枚だけだしサービスでやるよ」
乃恵美の言った「最後のひと押し」の効果は抜群だった。
チケットをヒラヒラさせて「どうする?」と態度で示すと、果たして恵梨花は今日一番の笑顔を見せたのである。
「いいの!?」
「あ、ああ……」
色んな意味で気圧された八木は、上半身がのけぞってしまった。
「本当に!? ありがとう! 亮くんに相談してみるね! ……チケットも本当にもらっていいの?」
「あ、ああ」
八木が改めてチケットを差し出すと、恵梨花は今度はしっかりと受け取った。
「八木くん、本当にありがとう! ……あ、でも、もし相談して行かないことになったら、ちゃんとチケット返すからね」
「あ、いや、別にいいけど……」
「ううん、ちゃんと返すから! 本当にありがとう!!」
「ああ……あ、ちょっと待て」
再び踵を返そうとした恵梨花を八木は呼び止めた。
「もしかしたらイベント前のほうが紹介しやすいかもしれねえから、待ち合わせしねえか? ……もちろん、彼氏もいていいぜ」
「そうなの? ……どうしたらいい?」
八木はイベント会場の近くの場所と、イベント開始より少し早い時間を伝えた。
「わかった、もし行かないことになったら明日には伝えるから……本当にありがとう、八木くん!」
惜しみない感謝の言葉を残して、恵梨花は帰っていった。
「……」
何もかも乃恵美が言った通り上手くやった、やれたはずなのに、何故か腑に落ちないものを感じる八木であった。
◇◆◇◆◇◆◇
「ねえ、亮くん、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど……」
恵梨花がおずおずとそう切り出したのは、亮と三人娘が揃った放課後の帰り道だった。
亮は手にしていたパンのかけらを口に放り込み、数回咀嚼した後に呑み下して、首を傾げた。
「どうした?」
恵梨花がお願いするのは珍しいことなのだが、つい最近もあったばかりなので余計に珍しく感じた。
「えっとね、あさっての土曜日、それも夜なんだけど空いてない?」
「あさっての土曜日、夜……?」
何かあったようなと、亮は視線を宙に彷徨わせた。
(……ああ、瞬に呼ばれてたな)
そう。
亮は数日前、中学時代の親友である藤真瞬とテレビ電話で話した際、ストリートプライドに誘われていたのだ。
普段であれば、瞬との約束より恵梨花のお願いに天秤は傾く。
しかしながら今回、瞬との約束を果たすことは、前に頼まれた恵梨花のお願いを叶えるための行動でもある。
瞬に会えば、恵梨花が気にしているゴールドクラッシャーについての情報を聞けるからだ。
ともあれ、亮は恵梨花の用事が何なのか気になった。それも夜というのはどういうことか。
「んん……先にその用事が何なのか聞いてもいいか?」
「うん、あのね、泉座の……これに連れてって欲しいの」
「泉座……?」
亮が怪訝そうに眉をひそめる前で、恵梨花が鞄から紙切れを取り出した。それを目にした亮は思わず立ち止まり、驚愕して目を見開く。
「あさっての夜に泉座で行われる、このスト……プラ? に連れてって欲しいの」
まさか恵梨花から泉座の、こんな野蛮なイベントに誘われるとは思いもよらず、一瞬呆けてしまった。
「そ、それ、どうしたんだ?」
どうにか開いた口から出たのは、心情そのままの言葉である。
「えっとね……あ、その前にごめんなさい。夜の泉座に行くなってこないだ言われたばかりなのに、夜に連れてって欲しいなんて言って」
申し訳なさそうに上目遣いで言われ、いつもなら亮の心臓が跳ねるところであったが、今日は逆に少し落ち着けた。
「いや、その話は俺抜きで行くなってことだから、別にいいんだけど……で、それ、どうしたんだ?」
「うん、えっとね、この間……その、ゴールドクラッシャーについて知りたいって言ったでしょ?」
ゴールドクラッシャーの名を口にするタイミングで、恵梨花は非常に痛ましい顔となった。
以前その話を聞いた時、一瞬、自分が切れてしまったことを亮は思い出した。
恵梨花の表情はそのせいだろうと思ったが、あえて掘り返すことはせず頷いた。
「ああ」
「梓にも色々調べてもらってたんだけどね。それでわかったことなんだけど、もしかしたら同じ学年の八木くんが、ゴールドクラッシャーの知り合いかもしれないの」
「……八木?」
「うん、あ、六組の子なんだけど、亮くん知ってる?」
「……? いや、知らん」
ちょっと考えてみたが思いつかず、亮がそう答えたところで、梓が割って入る。
「ちょっと待ちなさい」
「なんだ?」
「いえ、知らないって……あなた、知ってるはずでしょ」
梓が呆れた目を向けて来るも、亮に心当たりは無い。
応援ありがとうございます!
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