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捨て猫
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車の中は、程よくエアコンが効いていた、愛実は、流れ行く、窓の景色をぼんやりと眺めながら、男が運転する車から、早く降りたかった
タバコと、芳香剤の匂いが入り交じった、不愉快な臭いから、早く解放されたくてしょうがない。
運転する男は、いつになく愛実に優しかった、それが証拠に、まだ今日は、叩かれてはいなかった、愛実が、小学5年生になり始めの時に、本当の父親が出て行った、ある朝、顔を合わせ学校に行ったのだが、それきり会わなかった、1ヶ月もすると、母が知らない若い男と帰ってきた
愛実は、突然の事に戸惑った、母は、昼間何処かの会社で働いていた、男は昼間いつも家にいた、帰ってくると、常にタバコの匂いが充満していた、いつも誰かと携帯で話をしていた、愛実は学校から帰ると、直ぐに部屋に閉じ籠り、鍵をかけて母の帰りを待った。
男は、そんな愛実が、気に食わなかった、嫌いな者同士が、一つ屋根の下で暮らしても、上手く行く訳が無かった。
ましてや、お互いに家族とも思ってはいなかった。そして、毎晩のように、深夜や明け方になると、声が聞こえて来る、もう何が行われているか位は、わかる年頃である、愛実は、実の母親に対しても嫌悪感を抱く様になった。
いつもの様に愛実は、学校から帰ってくると、玄関の前に、男が立っていた、顔が赤かった、酔っ払っているようだった。
愛実は、黙って男の横をすり抜けようとした。
「おい、ただいま位は、言えんだろ、このクソガキ、生意気な目しやがって」
愛実が男の言葉を無視して、部屋に向かおうとしたら、いきなり、後ろから蹴りが飛んで来た、愛実が倒れると、ランドセルのうえから踏みつけて、怒鳴り付けた。
「ただいまだろうが、こら、ぶっころすぞ、ガキ」
「た、だ、い、ま」
男が足の力を抜いた隙に、自分の部屋へと逃げ込んだ
悔しかった、何故こんな目に、会わなけならないのか、授業では何も教わらない、自分は何故こんなとこに住んで居るのだろう、何もかもが嫌になった。
段々と口数も少なくなり、学校でも、誰とも話さなくなっていった。
男の暴力は、日を追う毎にエスカレートしていった、何か気に食わない事があると、直ぐにぶたれた、水道のビニールホースで、背中や、腹を叩くのだ、決して顔や手足は狙わない、傷跡が残るからだと、笑いながら、言っていた。
笑いながら叩かれた、泣かない愛実に腹を立て益々叩かれた。
既に、母親とも完全に会話をしてはいなかった、深夜に2人が、やって、いる間に自分で食事を作り食べていた、夏休みまで我慢して、この家を出て行く決心をした。
友達なら少しはいる、部屋のパソコンでSNSで繋がっていた。
愛実が、この様な状況を知らせると、友達がもっと増えた、同じくらいの状況は結構有るものなのだと、自分は、まだそれ程酷い状況でも無いことを知り、驚きもした。
夏休みが近付いて、愛実は、リュックの中に、荷物を詰め、家出の準備を進めていたのだが、肝心の行くところが無かった。
本当ならば、出ていった父や、じいちゃん、ばあちゃんの所が、考えられるのだが、もう何の連絡も取ってはいなかった。
第一そんなところでは、万一連れ戻されかねない。
パソコンの中の友人達は、皆知恵を貸してくれた、家の引き出しの中に眠っている、カードの類を集めることや、薬も用意する事、大人が使う、制限の無い携帯があれば便利だとか、皆情報を出してくれた。
何より、近くに来て困ったら連絡を寄越せと皆が居所を教えてくれた。
「携帯かあ~、ふーん、、、スマホね、、、」
愛実は、後5日で夏休みとなったところで、学校へは行かなくなった、その代わり、朝から電車に乗って都心へ向かう。
「寺越さん、娘さんが面会に来てますよ、応接スペースに座ってます」
寺越と呼ばれた男は、愛実の父親であった、家族と離れた後も、同じ会社に勤めていた。
「愛実どうした急に、もう、パパなんかに会ってくれないと思っていたよ」
「パパ、いいのそんなこと、それよりお願いがあるの、聞いて、そうしたら、もうパパの会社には来ないから」
寺越は、愛実を捨てて、いなくなった事に、後ろめたさを感じていた
「なんだい、パパに出来る事かい」
「うん、愛実にスマホを使わせて欲しいの、愛実専用のやつ、キッズ制限の無いやつで」
「そうか、わかった、後3日したら、このビルの下で10時に、待っていてくれないか」
「本当、有り難う、パパ、じゃあ、3日後に10時ね、お仕事頑張ってね、バイバイ」
寺越にしてみれば、少しでも、罪滅ぼしのつもりであった
愛実は、かろうじて涙をこらえて歩いていた、久しぶりに会った父親が、戸惑った顔をしていた、会社に来られて、迷惑だったのだろうか、愛実を心配する言葉が、一言も無かったのだ。
『いいもんね~、もうすぐ、スマホが手に入りますー、あはははは』
愛実は、男に見付からぬように、家に帰り自分の部屋に戻って、枕を抱いて、ベッドに仰向けになった、泣けて来た、誰にも愛されていなかった、この世に、愛実を愛してくれる人なんて誰もいなかった。
泣き止んで、パソコンに向かいSNSを始める
※エミュ、スマホゲットだよ、後3日したら、皆といつでもつながるからね、バイバイ
愛実は、父からスマホの一式が入った、紙袋を渡され、受け取った
「ね、パパもう、パパの会社には来ないから安心して、でも、滅多に会えないから、何処かの喫茶店で、チョコパフェ食べさせて、そしたら、愛実帰るから、、、」
2人は喫茶店へ入り、寺越は、愛実の言う通りにしてあげた
「ね、パパのケータイ見せて、どんなの、えー、貸して貸して」
寺越は、しぶしぶといった感じで、愛実に自分のケータイを渡した、愛実が少しの間いじくり、返してきた
「パパ、お仕事中でしょう、ご免なさい、もう、大丈夫、あたし帰るから、有り難う」
「おい、愛実、、、」
愛実は、振り返らずに、喫茶店を出て行った、チョコパフェは、残ったままであった、でも、目的は遂げた、父親のケータイから、自分のケータイの情報を、全部消したのだ。
愛実は、改めて、まだ会ってもいない、友達に感謝していた。
これで自由になれる、やっとあの腐った家から出て行ける。
その前に未だ、やるべき事が未だ幾つかあった。
家の玄関に入ると、知らない女物の、靴があった、自分の家なのに、いつの間にか、こっそりと入るようになっていた、物音と声が聞こえる、母ではなかった、しかし、聞き覚えのあるその声は、、、
『クズって言葉が似合う人を初めて見たよ、お前だよクズ』
愛実は慎重に、自分の部屋へ戻り、SNSで仲間に聞いた
※ゴメン、急ぎ、スマホのシャッター音て消せるかな
たちどころに、返事が帰ってきた
※アリガト、後でね
慎重に歩き、やって、る2人の部屋に近付く、ドアが開けっ放しであった
「ああー、亮介、亮介、あーあ、あ、あ、あ」
裸の男女が抱き合って、激しく動いていた、男は息を荒らげながら、腰を動かしていた
『あ、そうか、このクズ、あたしが未だ学校だと思ってんだ、て、ことは、しょっちゅう、呼んで、やって、たね』
愛実は、裸の男女を先ず動画で撮影し、写真も何枚か写すと、また、自分の部屋へと戻った。
そして、友達に今の画像を拡散してみた。
※どう、拡散てこうするのかな
※そうだけど、試しの画像がHィし、どうしたの
※まあ、いろいろと、、、これも、武器になるかなと、、、
※そう、いよいよだね、新しい住み家が早く決まります様に、無理すんな
皆が付いている事を忘れないで
※ダメ、泣いちゃうから、またね、バイバイ
スマホの取説はやはり、小学生の知識では、少し難しかった、それでも、皆に教わりながら、柔らかな子供の頭に直ぐに入って行った。
愛実は、夢中でスマホの操作を、練習していたため、トイレへ行くため、注意するのを忘れ、何気に階段を降りてしまった。
降りる途中に、玄関で抱き合って、キスをしている男女がいた。
愛実は、思わず石になった、男女もはっと気が付いて、離れたのだが、どちらも遅かった。
愛実はそれでも、逃げる様にして、トイレへ駆け込んだ。
実際にトイレを使いたかったのだ、玄関で慌ただしい物音がしていた。
トイレから出て見ると誰も居なかった、家に人の気配が無かった、どうやら2人で外へ出かけたようだ。
ただでは済まない、愛実には、それだけは、はっきりとわかっていた。
荷造りを急いだ、もう、そんなに残ってもいないのだが、愛実の部屋の荷物は、既に殆ど無かった
仲間達が、それぞれ引き取って、様々な方法で金に変えてくれたのだ。
それは、この世には、愛実の想像を、遥かに越えた世界が有ることを、初めて知る事にもなった。
※エミュ、いらないもん、ぜーんぶ送りな、売れたら、口座に振り込むから
※え、あんなもん売れるの、マジですか、、、
※あんたは、知らなくても、いいんだよ、ほらさっさと動きな
※あーちゃん、それなら、あたしも送れば、エミュの助けになるかな?
※あ、そうか、皆送って来なよ、男子もさ
※へ、いいの、汚れたパンツでも、、、
※そ、そ、そ、それ、いろんな人がいるの、ダイジョブ、まかせなさい
2日後、愛実の口座に、本人にとっては、途轍もない金額が、振り込まれていた。
※えー、口座がすごいことに、、、
※いいかい、前に言ったとおり、たまっている、お金を、ふりわけるんだよ、あ、そうか、きがつかなかったよ、夏休みじゃん、だれか、エミュと会えないの?
現金も必要だし
※エミュ今どこ?
※東久留米、西武の
※皆、新宿西口に集合だよ、来れない子は、ちがう役目があるからね、エミュに気が付いても、顔を覚えたら解散だよ
愛実は、西武新宿の駅にあるベンチに座っていた
座っているだけで、廻りを見回しても、誰が友達か、いつもの話し相手なのか、さっぱり謎であった。
チャットの会話は、愛実を無視して進んで行く、マジカワユイとか、そんな言葉を使う、年代に見当がつかなかった。
※エミュは、今あんたの友達が皆んな、自分と同い年か、学年が近いと
思ってるよね、違うよ、もっと広いのさ、でも、皆んな、あんたが好きだよ、皆んなあんたを好きだし、味方だよ、応援してる、でも、深く傷跡がある子は、それでも又、裏切られると思っているの、人を信じて最後に惨めな思いが待っていると思うと、、、だから皆に声をかけたの、あーでも、エミュならまあいっかって、思ってもらおうと考えたんだ。
※みんなありがとう、もしかして、あたし、ゲームの中かな?皆あたしに、アイテムを渡してる感じ?
※そう、気が付いても、遅いし、でも、ゲームみたいに、リプレイきかないから、それでも、応援するぞ、最後まで
※思っていたとおりの、いい子だな、皆仲間だ何時でも、連絡しな
※みんな、又、エミュに惚れたね、さあエミュ、お金をふりわけるんだよ、あたしの指示に従って、皆は、あたしが間違いや、もっと良い方法があったら知らせて、頼んだよ。
愛実は、あっと言うまに、15万の金が貯まった、それを、適当な口座に振り込んで分散した。
チャットで誰かが言った
※ん、もしかして、カードの名義が違がくても、エミュの名前じゃなくても、なんなら、俺のでも良くなくね?
※あ、そうか、お主なかなかやりおる
※そうだね、それいいかも、エミュ待ってて、あ、でも、子供が、現金の機械のとこにいたら、怪しまれんじゃね
※コンビニカードならあるよ、使ってないの、持って行くよ、一枚か二枚あるよ、他にも誰かあるかな。
※オッケー、有るし、今駅にいる、誰に渡すのかな。
※あー、でも、一番のネックは、金を持ってるのが、ばれたら大変だな、少額のプリペイドカードにすればどうなの
※エー、Suicaとか、コンビニカードにするの
※それなら、小学生が持っていても、可怪しくないよね、奪いとられても、被害も少ないし
※いいかも、それ
※誰かエミュの口座から振り込んで貰って、カードに変えてあげればどうなの
※ついでに、いらないやつを、持ち寄れば良くね
※ルミが駅に居るし、直ぐ解るよ、てか、今一番解りやすいかな、近寄り難いけどね
※エミュちゃんへ、三年生です、わたしのおこづかい、さんぜんえんあります、カードはよくわかりません、つかってください
愛実は、この子に感謝した、勿論、貰うつもりは無いし、会うつもりもなかった、思わず涙目になった、何か知らないが、悔しいのだ、自分より年下の子が、今どんな目に会っているのだろう、考えたくもなかった。
愛実は、リュックを背負って、駅構内を歩いていた
※エミュみっけ、カワユス、バイバイ
※ああ、声かけたいけど、ダメ、ダメ、ガンバレや
※カワヨ、変態に捕まる前に早よ逃げなはれ
※ヤッホー、ルミだよ、ホームの反対側のベンチで、カワユイ、エミュに背中を向けてまーす、こっち来る?
初めてSNS上の友達の一人に会えるのだ、愛実は、急いで駅の階段を駆け上がって、反対ホームのベンチに辿り着いた。
そこには、優しい眼をした男の娘が座っていた。
「エミュちゃん?ゴメンなさいね、嫌だったら、このまま帰ってね、こんな奴でホントにゴメン、一目貴方に会いたくて、、、」
ずっと、そう、ずっとこの人は、私の心の支えの一人だった、思わず抱き付いた、柔らかい、温かい、そして会えて嬉しい
「ダメよ、嬉しいけど、人前で、でもね、良く聞いて、駅とか、コンビニ、大きな通りは、監視カメラがあるからね、別に悪い事している訳じゃないけど、いつも、それを意識してね、ここに、あたしの住所と、合鍵を持って来たから何時でも使いなさい、困ったら、あたしに何時でも、連絡しなさい、仲間からの命令だからね、言うこと聞きな、はい、カード、3万以上有るよ」
最後はわざと、男言葉を使って、愛実に協力する事を伝えた
愛実は、自分が、想像していた友達と違う姿に、戸惑いを覚えたが、涙目になって頷いた。
そう、味方は愛実と同じ、社会の少数派なのだった。
※ヤッホー、今、エミュにハグされたよ、羨ましいだろ、男子~
※女子だけど羨ましいです、ダメですか?
※あ、ゴメン、反省します
※みんな、アリガトね、エミュがんばるし
※エミュ、コードレスイヤフォンとか、新宿に来たんだから、必要なもん、手に入れな、ルミといる間に携帯の操作を教えて貰いなよ、周辺機器は100均で揃えな
ルミは、あれこれと、愛実の携帯を使って操作を教えてくれた
「エミュ、家を出たら、自由になるけど、その分自分でやらなきゃなんないことが、いっぱい有るよ、まあ、それも経験だけどね、何時でも仲間がいるからね、必ず頼りなさい、一人にならないで、必ず助けてくれるから」
「うん、ルミさんありがとう、必ず皆と連絡取るから」
新宿での収穫は、かなりなものがあった、何しろ、家に帰ると、様々な、プリペイドカードが、リュックの中に入っていた、いつの間にか、トランプ位にたまっていた。
※カードくれた人アリガトね、感謝ですー、でも、いつどうやって?
※エミュが、好きな時に使えばいいだけ、カードは怪しいもんじゃなく、フツーに使えるし
※でも、子供がカード持ってるとヤバくね、誰かに見られると、ぜってー狙われんじゃね、携帯使ったら、それごと盗まれそうだし
※そうだよ、エミュ、時間とか場所を選びなよ、中・高生とかにもね、気をつけて、皆が味方じゃないから
※もう、荷造りは終わったのかな
※うん、何時でも出て行けるよ、最初から、そんなに荷物は無いし
その時珍しく、部屋のドアがノックされた、開けてみると、亮介が立っていた
「なあ、ドライブに行かないか、連れてってやるよ、たまには、何処か連れて行けって、お前のママにも言われてるし」
何か企みが、有るのはわかっていた、この男が、若い女を家に呼び込んで以来、ずっとおとなしくしていたのは、愛実をどうやって、家から追い出すか、考えていたのだろう、愛実は決めた
「うん、準備するから、少しまって」
たいした支度などは無かった、ただ、仲間達にこれから、多分、何処かに連れて行かれて、捨てられると送信した
※携帯の電源を切って隠しな、持ってる事をばれるなよ、電池の節約にもなるし
そうして、車に乗り込んだ
亮介は愛実が、結構本格的なリュックを、背負って来たので驚いた、なんだかんだ言っても、所詮小学生の知恵など、こんなものだよな、日帰りドライブなのに、これじゃキャンプじゃんか、、、
亮介の運転で、東北自動車道を走っているのは、わかっていた、だが場所まではわからない、別にいいのだ、どうせ何処かで捨てられて、それからケータイを出せば直ぐにわかる。
殺されない限り、、、その心配をする必要が、有るだろうか、愛実は少し緊張してきた。
サービスエリアで休憩し、愛実は、今、栃木県に居ることを知った。
サンドイッチと茶を、買い与えられたが、とても食べる気にはならなかった、外は暑いし、車内はタバコと芳香剤の臭いが酷かった、車はやっと、インターを降りた、どんどん山の中へと入って行く、愛実はもう、どこでも良いから、下ろしてほしかった、そんな愛実の気持ちを、察したかの様に、車が止まった。
「愛実、なんか俺、喉渇いたから、あそこの自販機でコーラ頼むわ、愛実もこれで何か買いな」
亮介が愛実に、500円を渡して寄越した、それを愛実が受け取り、リュックも引き寄せ車を降りた、自販機に500円を入れると、同時に、白いクラウンが、愛実を残して発進して行った。
それは、予想していた事なので、愛実は振り向きもせずに、携帯を取り出した、クズ男の亮介が運転する車は、とうに姿を消していた。
※エミュでーす、遂に一人になりました、山の中に捨てられました、あたしは捨てられた猫です、どこに行こうかな。
※エミュ、そこから歩いても、町にでるには、暗くなるよ、もう少し奥の方に何か、建て物が有るな、多分キャンプ場かと、、、
※うん、そこは栃木県の山間地域だね、夏だからそのまま寝ても、風邪引かないけど、さあ、皆んな知恵出しな
※今夜は取り敢えず、キャンプ場に潜り込むしかなくね、もうすぐ、暗くなるし
愛実は、キャンプ場を目指して、今よりも山の方へと歩き出した。
すっかり日が落ちてしまっていた。
それでも愛実は、車内の、不快な空気から解放され、亮介からも解放され、気分は上がっていた。
すれ違う車も、人も無かった。
愛実は、都会と山の中の違いを、身をもって体験していた、一番わかりやすいのは、暗くなると本当に暗いのだ、そりゃそうだ、家がないから、誰も電気などつけないし、人が居ないから街灯も無かった、節電の為ケータイは使わない、ひたすら、キャンプ場を目指して歩き続けた、何をしても楽しい、今現在、歩いているのは、全て自分の意思なのだ。
愛実は、仲間の言い付け通り、無駄話は、電力の無駄になるから止めにした。
でも、こんな時こそ皆と、話しながら、歩きたかったのに、、、やっぱスマホって、都会向きかも、愛実は、なんやらかんやら、考えながら、ひたすら歩いていた。
と、いきなり、話し声が近づいてきた、若い女の声だ、陽気に笑いながら、振り返ると、小さな光が揺れながら、段々と明るくなって、愛実の方に向かって来る。
どうやら2人の様だ、実に楽しげに、会話していたのだが、、、
小さなライトが、前を歩いていた、愛実の後ろ姿を照らし出した。
「おう、おうわ%$#!&~%$\」
「#%&*+i+oxelgu/」
道理で、声が聞こえるのに、理解が出来なかったわけだ、外国の人だった。
愛実の横に、自転車が止まった、愛実も立ち止まり、暗い中で、お互い見つめあった、つもりでいる。
「あなた、ここ、何してるですか、どこに行くですか、もう暗いね、危ないよ」
愛実は、結構上手な日本語に驚いた、そして、外国人に、職務質問を受ける自分は、、、
「こんにちは、あ、今晩は、キャンプ場に行こうと思って、歩いています」
「キャンプ場はやって無いよ、あなた、キャンプ道具無いね、どうしますか」
「行くところが無いし、今日は、そこに行って寝ます」
「タム、&*/#iohs+*&」
「Di+&%xo!」
時々、スーパーで聞く事がある言葉で会話していた。
「あなた、荷台に早く乗る、今夜は、私達と寝る
安心ね、日本の男と違って、助平はしないよ」
色んな目に、会っているのだろうことが、小学生の愛実にもわかる。
愛実は、荷台に横に座った、チャリに2ケツなんて、したことがなかったのだ。
運転者のお姉さん?の細い腰に手を回し、2ケツが少し楽しみでもあった。
「あなた、しっかりつかまるよ、ダイジョブか」
「はい、えーと、私、愛実、エミです」
「タムね、あの子の名前は長いから、フォンでいいよ」
走り出した自転車は、尻の痛さよりも、爽快感の方が勝っていた、酷かった自動車の臭いもなく、風をきって走り行く。
5分位すると、自転車は止まった、そこは、どうやらキャンプ場の、跡のようであった。
「エミ、着いたよ、降りるね」
「はい、ありがとうございました、タムさん」
「エミ、カムオンて言うね、カムオン」
「え、カムオン、カムオンでいいの」
「そう、カムオン、感謝言う意味、家に入るよ」
「フォンさんカムオン」
「虫がつくね、早く入るよ、エミ」
家と言うより、小屋であった、それでも愛実は、家の中で、寝ることが出来る事に感謝した。
LEDの青白い小さなライトが灯った、小さな流しがあった。
タムとフォンは、部屋に入るといきなり、着ている服を脱ぎ出した、愛実は、呆気に取られながら、見ていると、タムが言う
「エミ、シャワーにするよ、服を脱ぐね、タオルあるか」
「うん」
フォンが蛇口にホースを付け、素っ裸の3人は、外に出て、入り口とは反対側に行った。
裏には沢があった、早い話しが、洗車用ホースで身体を洗うのだ、タムとフォンは、手慣れた感じで素早く全身を洗い終わり、愛実にホースの水をかけろと言う、夏とはいえ、ただの冷水なのだ、2人は、キヤーキヤー言いながら全身の石鹸を洗い流した。
「愛実、エミの番ね、早く、早く」
愛実は、覚悟を決めて身体を洗い出した、フォンが洗うのを手伝ってくれた、髪の毛も洗ってくれた。愛実は全身泡だらけになっていた、フォンがタムになにか言うと、いきなり冷水シャワーが襲ってきた。
「キャー、ひゃっこい~、ひー、ヤダヤダヤダ」
楽しいのだが、冷たい、声が出る、それを見る、タムもフォンも、大笑いしている、2人との距離が、一気に近くなった事を、感じた瞬間でもあった。
タムが身体も髪も、拭いてくれた、部屋に戻ると、着替えも貸してくれた、フォンが、ドライヤーとブラシを当ててくれる、タムが頭にタオルを巻きながら、食事を作っている。
「愛実は、兄弟いるか、何人」
「私一人だよ、それでも、邪魔だから、捨てられたの」
「そうか、私は8人、タムは6人よ、2人とも一番上のお姉さんよ、こうして愛実の髪をいじると、妹たちを思い出すね」
「ヘエー、皆、姉さんの言うこと聞くの」
「当たり前よ、姉さんは、お母さんの代わり、言うこと聞かないと、ご飯無いね、あっははは」
愛実は、髪を扱って貰うのが嬉しかった、定期的に行く、美容院のスタッフとは違う、何か言葉に表せない、安らぎがあった、そして心地良い、フォンが鼻歌交じりで、手慣れた感じで、愛実の髪に触れている、それは、突然だった、愛実の髪を扱いながら、フォンの嗚咽が聞こえた、愛実は理解ができた、フォンは、遠く離れた妹と、愛実を重ね合わせたのだ、愛実にとっては嬉しいのだが、、、
「%#@/x+@」
「@&\]:*#&」
わからないけど、きっと、愛実が困っているから、泣くなと言っている、はず?
愛実は、フォンに抱き付いた
「嬉しいのは、私、泣かないでお願い、フォン姉さん、お願い、、、」
フォンは、愛実の頭を優しく撫でた、そして、愛実を抱き締めた、涙は止まらない。
「家族大事、わたしは、わかる、愛実わかるか、わたしは、家族皆好き、会いたい、私は、みんなと会いたいですね」
愛実とは、真逆な感情表現ではあった、が、気持ちは同じ、心が寂しいのだ、でも
「フォン姉さん、、、結構毛深いよね、モテないかも、、、」
フォンは、意外な返しに戸惑ったが
「愛実、年下なのに偉そうね、ご飯抜き、、水を飲んで寝る」
「え~、姉さんのくせに、優しくないんだ~、ヤダな~」
ほんの少しの間に、お互いの馴れ合いと、親しみが生まれていた
「愛実、ご飯食べて、寝るよ、私達明日も、仕事ありますね」
「はーい」
良くわからない、異国の料理は、味も良く分からなかったのだが、愛実の腹と心は、十分に満たされた。
「愛実、食器を洗う、わたしは、布団ね」
「はーい」
布団と言っても、封筒型の寝袋を四角に開いて、タオルをかけただけであったのだが、3人は、愛実を挟んで、川の字になって寝た、愛実は寝付けなかった、色々有りすぎた、身内である筈の親よりも、全くの他人、しかも、会ったばかりの外国人のほうが遥かに、愛を感じる、泣けてきた、悲しいのか、嬉しいのかわからない、涙が溢れる、手が伸びて来て、引き寄せられた、タムが抱いてくれた、その胸の中で声を殺して泣いた、嬉しかった、甘える事が出来る、抱き寄せてくれる人がいる、そうしている内に、愛実は、深い眠りに落ちた。
夜中に一度も起きずに目が醒めた、トイレは、外の沢だ、野外での排泄も初めてだった、昨日からやる事なす事、初めてのことばかりで、愛実は戸惑いと感動を交互に体験していた。
タムとフォンは、仕事に出かける準備をしていた、昨日の残りでお粥を作り、3人で食べながら、愛実が2人に問いかけた
「愛実は、未だここに居ても良いの、邪魔にならないなら、行き先が決まるまで、ここに居てもいいかな、洗濯も掃除もするから」
「勿論ね、でも、長くは、ダメね、それは、、、今度話すよ、洗濯助かるよ、愛実」
「うん、行ってらっしゃい」
小さな洗濯機があった、愛実は、どうせすることもないので、のんびりと洗濯を始め、ついでに掃除もしだした。
窓を全開にして扇風機もつけたのだが、堪らなく暑い、寝袋を洗濯が終わるまで干してみる、部屋の中は、そんなに綺麗ではなかった、愛実は掃除も洗濯も終え、仲間達に連絡を取った。
※て訳で、タムさんとフォンさんが助けてくれたの、カムオン
※やっぱ、エミュは持ってる子だ、兎に角無事で何よりだね、ベトナムねーさんにカムオンだな
※ずっとそこにいるの?
※ううん、恩返しの手伝いが終わったら何処かに行こうと思うの、それに、ここへは、長く居るなって、何か事情が有るみたい
※そう、多分不法就労かもね
※何それ、もっと分かりやすくしてくんない、夏休み子供相談室にでれないよ
※外国人が無免許で働いている事だよ
※えー、それって、結構不味い事なの、捕まっちゃうとか
※うん、悪質ならね、強制送還とか、色んな事になるよ、稼いだ金は没収とかね
※そうなんだ、せっかく働いても、そんな目に会うんだ
※あ、でも、その二人がそうとは、限らないよ、ただエミュが、巻き込まれたら、やっぱ、親とかに連絡されて、面倒な事になるかも
※でも、泥棒とかしてないよ
※違うんだ、この場合の悪質は、何回もやっているとか、届け出た仕事じゃない事を、やっているとかそう言う事だよ
※ふーん、そっか、好い人達なのにな
もし二人が不法就労なら、愛実は何か、二人の役に、立ちたかったが、どうすれば良いのか分からなかった。
暗くなってから、二人が帰って来た、3人のシャワータイムは、愛実が慣れたので、二人に遠慮なく水をかけ、愛実も返り討ちにあって、叫び続けた。
今日は、タムが愛実の髪を乾かしてくれる、愛実は、何故か気持ちが落ち着き、1日の終わりを感じていた。
夕食もすませ、フォンはスマホを弄っていた、タムは、愛実と話をしだした。
「愛実、私達は、働く日にちがもう無いよ、だから、秘密に働くね、もし見付かると、ベトナムに返されるね、働いた金も無いよ、でも、働くよ、家族の為よ」
「うん、不法就労とかになるんでしょ、友達に聞いたよ」
「さすが愛実ね、そうだよ、だから、こんな山の奥に暮らすね」
「でも、せっかく働いても、お金をとられるんでしょ」
「そうね、でも、もう殆ど送ったよ、私とフォンは、覚悟を決めたよ」
「えー、捕まるの怖く無いの」
「大丈夫、日本の役所優しいね、ミニスカート履くと、サービス満点ね」
「そうなんだ、勉強になるなー、ミニスカートね」
「愛実はダメ、勉強して、大学行く頑張るね、約束よ」
愛実は、立ち上がり、タムの後ろから抱き付いた。
「お前は、私の妹チュイと同じ、この甘え女め」
身体を反転させて、タムは愛実を抱え、愛実の尻を叩きだした。
「痛い、痛いってば、ねーさん止めて」
楽しそうなので、フォンが携帯の操作を止めて参加してきた、勿論タムの味方だった。
「イタタた、ずるいよ、止めてよ、はなせ~」
楽しかった、こんな経験したことが無かった、3人で汗を、かき、かき、笑い合う、じゃれ合う、愛実のTシャツがめくれ、そのうち、背中と腹がむきだしになった、途端に、タムもフォンも、手が止まった。
愛実の背中も腹も鞭で叩かれたような痣が有ったのだ。
フォンは、手で口を押さえたまま、言葉がでなかった。
「ほっ」
涙目になって居る、タムは、目に怒りがこもっていた。
「誰が愛実に、、、こんなことをした、なんと言う事を、、、許さない、私も、フォンも絶対に許さない、おおお、愛実が何をしたのか、こんないい子が何をした、、、許さない、絶対に許さない」
フォンが泣いていた、愛実を優しく抱いて、髪を撫で、愛実が何故家を出たのか、愛実の身体が答えていた。
「えー、気にしてないよ、さっきみたいのが良かったのに、それに、もう痛くないし」
でも、嬉しかった、二人共に、怒っていた、愛実に傷を追わせた者に、怒ってくれた、それだけで十分だった。
暫くして、落ち着いたタムが、口を開いた。
「愛実、私達明日は、買い物して帰るね、明後日は休みよ、欲しい物とか、食べたい物ないか」
「うーん、二人共、何か食べたい日本の物は無いの、愛実がつくってあげるよ」
「カレーウドンが良いね、カレーライスも好きけど、カレーウドン美味しそうね、でも、愛実、本当に作れるか、怪しいね」
「ねーさん達、まかせなさい、でも、辛口それとも甘口?」
「二人共辛いは大丈夫、愛実は、未だ子供だから甘いやつね」
フォンが、からかいぎみに、愛実に言う。
「ふん、毛深いだけの癖に、偉そうだ」
「愛実、今お前、何か言ったか、やっぱり、生意気ね、タム、コイツ、叩くね」
またもや、二人が愛実の尻を叩き出した、嬉しい、楽しい。
「ギャー、止めて、あはははは、止めてってばー」
一週間が過ぎた、ここの生活にもすっかり慣れて来た。
結局愛実の、カレーウドンは、評判は良かったのだが、年下の生意気な、妹が作った料理は、認められなかった。
いつも通りに、二人が帰って来た、元気がなかった、大抵、愛実の顔を見たら、日本語でやり取りするのに、ずっと母国語で話していた。
珍しく二人とも、服も脱がずに、立ち止まって話をしていた。
愛実は気がついた、別れが近いのだ。
水シャワーにも、いつもの乗りが無かった、でも、タムは、愛実の髪を乾かしてくれる、夕飯は豪華なものであった。
食べきれぬ位に有った、食材を使いきりたかったのだ、3人は、大人しく食べ出した、タムが重い口を開いた。
「愛実、明日、私達自転車一台ね、愛実はもう一台で、ここを出るね
明日は、お別れね、今日、違う会社の仲間が、連れて行かれたよ、私達ももうすぐ、多分明日ね」
子供ながらに、覚悟はしていた、ため息をついてから、愛実は、二人に話しかけた。
「うん、わかった、ねーさん達の言う通りにするね、明日は普通通りに出るの、そう、そうなんだ」
夕飯も終わり、3人は、簡単な荷造りをし始めた
タムが愛実に言う
「愛実、フォンと私お願いありますね」
「なに、私に出来る事」
「わからない、でも、駄目でも、フォンと私怒ったりしないよ」
「いいよ、何でも言って」
「フォンと私のお金、30万円有るよ、此をベトナムの口座に入れて欲しいね、でも出来なくても、良いよ、愛実だから預けるね」
「大丈夫だよ、何とかするから、任せて」
「私達が持ってるは、どうせ没収ね、それなら、愛実に渡す、愛実別に送らなくてもいいよ、金無いなら、使っていいよ」
「何言ってるの、お金を稼ぐために、家族のために、こんな遠くに来て、頑張ったのに、絶対に送るから」
「愛実も姉妹よ、気にしないね」
「少し生意気な妹ね」
フォンが横から口を出した、愛実は丸めたタオルをフォンの背中にぶつけた。
仕返ししてやろうと、振り向いたフォンに愛実が抱き付いた、Tシャツがじんわり濡れて来た、フォンは、愛実の頭を撫でていた。
直ぐに朝がやって来た、タムとフォンは、バッグを持って自転車に2ケツで跨がった。
「愛実、元気にするね、また、カレーウドン作るよ、美味しかったよ」
「私も愛実のカレーウドン好きよ、また、食べたいね」
「私はね、私は、二人の姉さんが好きだよ、楽しかった、ありがとう、元気でね」
愛実は、二人に抱き付いて、別れを告げた。
自転車が出て行った、愛実は、見えなくなるまで、立っていた。
小屋に戻り、仲間に連絡を取る。
※さて、何処に行きますか、アルバイトしたいな
※ずっとチャリで移動するの?
※わかりませーん、何も決めてマセーン、あ、誰か教えて、ベトナムに送金て、ムズいかな?30万円
※そうでもないけど、小学生が、口座に30振り込みじゃ、警察か、親に通報パターンじゃなくね?
もちろんで、銀行窓口なんか、完全にアウトだね、誰かエミュに近いとこに居ないのかな?
※エミュ金持ちすぎだわ、不味いよ、地味にSOSだよ
※軽トラで、今向かってるよ、自転車積めるし、振り込み出来る人、栃木か埼玉に居るかな、群馬でも良いよ
※前橋で良いかな、1日中いるし
※オッケー、決まり、エミュそのままチャリで移動してて良いよ、水持ってね、みんな、エミュの、今夜のねぐら探してよ
※てか、どっか定住先は無いかな、お客さんいい子が居ますよ
※未だ夏休みだから、楽しめば良くね、なんかあれば、皆んな直ぐに集まれるし
道路の標識に、日光と書いてあった、愛実は、地名以上の事は知らない癖に、聞いたことが有る地名を見て、気分が上がっていた。
行き先等決めても居ないので、愛実は、のんびりと、ペダルを踏んでいた。
目の前に、小さなトラックが止まり、若い女の人が降りてきた、脚を引きずっている。
「こんちはー、エミュ、はじめまして、ミーです、よろしくね、暑いのに頑張るね、さあ、自転車積もうよ」
「エミュですけど愛実です、よろしくお願いします、足大丈夫ですか」
「ああ、これ、生まれつきだから気にしないで、もう、不便も感じないし、だって一生こうだもの、そんな顔しないで、これじゃ、ベトナムねーさんも、ほっとけないよね、可愛いし、優しいし」
ミーは片腕を、愛実の肩に回し、ポンポンと叩いた。
「ね、愛実、この線にケータイ繋ぎなよ、充電は大事だよ、でも、今日は何処に泊まるの、あたしのとこ来る」
「うーん、何も決めてないし、私、自分がどうしたいのか、本当にわからないの、ミーさん、私どうすれば、、、」
そう、小学5年で自分は、何をしていたか、何を考えていたか、とても、今の愛実ほどには、大人ではなかった。
虐めや陰口はあったが、親の愛があった、嫌な事が有っても、家に帰ればそこには、出迎えてくれる人が居た。
愛実は、家に帰った途端に、敵が居るのだ、一番ほっとする場所に、、、想像がつかない
ミーは、小学五年生を「」こんな目に遭わせた、人間を心の底から軽蔑した。
ミーの母は、ミーが中学生になった時に、泣きながら言った、ちゃんと産むことが出来なくてご免なさい、、、ショックだった。
私は、ちゃんとしてないのだ、じゃあ私は、、、
母は、いつも近くに居てくれた、バスケットの時も、みんなと同じと思っていた、強いチームと当たっても、ミーを使ってくれた、そして負ける、皆が気がついた、コーチは、ミーを特別枠でつかっていただけ、そして、スポーツの世界も、パラリンピックが有るのだから、そっちに行けば良いのだ、そっちの世界じゃあんたは、優れ者、でも、こっちじゃ、、、
それでも、両親は愛してくれた、何かをする度に心配してくれた。
今の愛実には、それがないのだ。
「ミーさん仕事は何なの」
愛実は、若い女が、軽トラに乗っている事に、興味が湧いた。
「農家だよ、野菜を積み込んで、市場に持ってったりね、朝早いけど、私は好きだよ、自分が作ったものが、売れんのが楽しいし、嬉しいよ」
車内は、狭かったが、あの、煙草と芳香剤の臭いが無いので、快適だった。
「ミーさんは、何処で暮らしているの」
「埼玉の熊谷ってとこだよ、知ってる?ものすごい暑いとこ」
「何か、夏になれば、良く聞く名前、野菜は大丈夫なの」
「うん、やっぱ、暑さに強いのを育てるんだよ、水やりも大事だけどね」
「へえ~、見てみたい、私にも手伝えるかな」
「うん、農家はね、てか、農業はね、誰にでも出来るよ、でもね、続かないの、好きじゃないと出来ないの、結構楽しいんだけどね」
ミーは、好奇心の塊が隣に居て、質問攻めに会う、その子は目がキラキラと輝いて、何でも吸収する、スポンジの様だ。
「アッ、ミーさん、何処かに停めて下さい、チョイ、ムズい連絡、、、」
※勘違いしてたよ、わざわざ、こっち来なくていいわ、取り敢えず、送り先を書いた紙を、スクショで送ってよ、30立て替えて送金しとくよ、そしたら、今度は、相手銀行の振り込み通知を、俺が皆が確認出来る様に転送するから、それから、エミュは、俺の口座に振り込んで、どう、これで?
「ミーさん、どうこれで、誰も損しないのかな」
「愛実、スマホ貸して」
※ねえ、エミュと一緒にいるミーだけど、私にも海外送金出来るかな
※大丈夫だよ、教えるし、そんなに難しく無いよ、30なら振り込み手数料も、500円位だし
※そっか、じゃ、やってみるよ、教えてみて、丁度コンビニの駐車場だし
意外にも、送金はスムーズに出来て、二人は、前橋のカッツに礼をして、コンビニを後にした。
「ねえ、愛実これからどうする、何処にでも連れてくよ」
「ミーさんのとこに行ってもいいですか、農家を見てみたいし、やってみたいの」
「あは、いいよ、てか、大歓迎だよ、でもねその格好じゃ駄目だね、ホームセンターに寄って、色々揃えなきゃね」
「わあー、何か楽しくなって来た、知らない事するの大好き」
「ねえ、愛実、そんなに凄い事する訳じゃないから、目を輝やかせて、私を見ないで、がっかりしたらどうするの」
「でもねミーさん、私未だ、働く事がどういう事か、解ってないし、てか、働いたこと無いの」
ミーは、深いため息をついた、そして、愛実の親を呪った。
小学五年生に、働く事を本気で考えさせる、愛実の親を許す事など絶対にできない。
愛実と同年代の子は、今頃、何をしているのだろう、おそらく労働を本気で考えては居ないだろう、愛実のすごさは、素直に自分が生きる為に、働こうとしていることであった。
ミーは、情けなくなって、愛実の肩を抱き寄せて、静かに言った。
「ねえ、愛実、そんなに、真剣に考え無いの、大丈夫だよ、皆んなついてるから、ほっとかないよ、頼むから少し皆に甘えなよ、疲れちゃうよ、本当の家族じゃないけどさ、遊ぶ事も考えないと、愛実は、少し遊びなさい、のんびりするの、解ったかな、かわいこちゃん」
愛実は、車内の冷房と、自覚の無い疲労で、ミーの話を半分くらい聞いた辺りで、寝てしまった。
ミーは、愛実の寝顔を見て、涙が溢れて来た、何という事をさせて居るのか、この子が、どんな罪を犯したのか、あまりにも情けなく、悲しかった、この怒りや悲しみを、ぶつけるものが何もなかった。
目指すホームセンターの駐車場に着いたのだが、愛実は、寝たままであった、起こすのも可哀想だ、暫く、誰かを相手にメールを始め出して、時間を潰した。
※画像見た、可愛いでしょ、私の小さい頃にそっくし、かも、、、
※ああ、そっくし、かは解らんけど、可愛いな
※でもね、農業やってみたいんだって、どう思う、一応、ホームセンターに来たけど
※うん、無人販売所は、どうよ、補給と店番で
※あ、良いかも、その線で、何か揃えようかな、今日は、一日こんな感じで潰れます
※良いよ、作業もそんなに無いし、付き合ってあげなよ
※サンキューです、じゃね
※ほい!
愛実は、夢も見ずに寝ていたが、うっすらとボヤけた意識が戻ってきた、隣に居てスマホを弄っている女の人がいた、とても綺麗な横顔だった、あっ、ミーさんだ、でも、愛実と話をしている時とは違って、、、
そう、微笑んでいる、画面を見ながら、とても嬉しそうだ、きっと、、、
「あら、愛実、目が覚めたの、買い物しよう」
「はーい」
やはり、さっきのあの顔ではなかった、そうだよね、この人なら、彼氏居そうだもん、てか、モテそう。
「えー、畑耕すとかじゃなくて、野菜売るの、何か想像してたのより、ちがくね、てか、八百屋さんだし」
「あはは、今時人力で畑は耕さないの、全部機械がやるの、江戸時代じゃないし」
「えー、頭にタオル巻いて、日が暮れるまで働くんじゃないの」
「あははははは、久々に楽しい人に会ったよ、愛実、そりゃ、タオル巻いてる人もいるけど」
ミーは、愛実に帽子やら、靴やら、色々揃えてあげた、支払いは、スマホ決済を初めて使ってみた。
「ミーさん、農家ってもっと、泥だらけとか、土まみれを考えていたけど、何か車も、ミーさんもめちゃ綺麗」
「ありがとう、そっか、愛実は、東京生まれの、東京育ちだもんね、良く解んないよね」
「うーん、そう、わかんない、だって野菜がなってるとこ、見た事無いし」
「あははははは、そうかー、大丈夫だよ、飽きるほど見られるから」
走る車の周りの景色がみるみる、緑色になって来る、愛実は、その景色が珍しい、窓にピタリと張り付くその姿を見てミーは、笑いが止まらなかった。
「さあ、着いたよ、愛実、私の部屋に行こう」
畑を抜けると、大きな倉庫が見えた、その2階が、ミーの部屋であった。
「わあー広い部屋だな、ここがミーさんの家なの」
「ううん、本当の家は、両親と住んでるけど、夏は面倒だから、ずっとここにいるの、冬はここだと寒いし、そんなに忙しく無いしね、さあ、入って入って、散らかってるけど、今、エアコン着けるね」
「お邪魔しまーす」
そこは、タムとフォン、3人で過ごした時の、小屋めいた建物の、倍以上もあった。
「もう、お昼すぎたよ、愛実、何か食べようよ、素麺と冷やし中華どれが食べたい」
「愛実どっちも作れるよ、ミーさん、休んでて」
「いいから、あんたが休んでな、ほら、そこに座って、スマホでもしてなよ、じゃ、冷蔵庫のスイカとか、トマト出して先に食べてなよ」
「はーい、ウワー美味しそう、これ全部、ミーさんが育てたの」
「うん、どうしても、規格はずれや、形が崩れるのがあるからね、別に傷んでいる訳でもないけど、市場に出せないの、うちの農場じゃ、それを安く直接売ってるの、その店を愛実に手伝って貰おうと思ってるんだよ」
「へえ~、でもこのスイカ見たくサイコロに切ったりしたり、食べたら同じだと思うけど、、、」
「そうだよ、でも、愛実、スーパーに並んでいる野菜や果物で、愛実がもし買うとしたら、どれを選ぶかな」
「あ、そうか形が良くて、大きい奴、、、」
「でしょ、そう言う事になる訳、だから、選別は大事な作業のひとつなの、さあ、出来たよ、食べよう」
「もしかして、トマトも、キューリもミーさんが育てたの」
「そうだよ、野菜は殆どそう、卵は私が産んだんだよ」
「えー、卵はいらないかも、、、」
「バカッ、早く食べなよ、食べたら、その辺歩いて案内するよ、ナーンも無いけどさ、仕事を手伝う場所も、見ておかないとね」
「はーい、あ、野菜が美味しい、トマトが、あまーい、こんな美味しいトマト初めて」
「あは、愛実、自分が作った物とか、売った物が、誉められると、物凄く嬉しいんだよ、そのうち、あんたも解るよ」
ドアをノックする音がした
「美亜、お客さんも、ご到着かな」
「入って良いよ、来てるよ」
部屋の中に、真っ黒に日焼けした、若い男が入って来た、愛想よく笑いながら、二人の前に座り込んだ。
「愛実、社長の山下浩介さんだよ、皆、コーちゃんって呼んでるの、コーちゃん、愛実だよ」
「寺越愛実です、こんにちは」
「おー、ちゃんと挨拶できるし、可愛いし、こちらこそ、よろしくね」
「コーちゃんも、食べるなら作るよ」
「イヤ、食べたよ、それより、いつから出て来るのかな」
美亜は、少し考えてから
「うん、未だ決めて無いけど、、、」
「社長さん、私、明日から働きたいです、ね、良いでしょ、ミーさん」
「えー、あんた、少し休みなよ、頑張らなくて良いよ、ね、コーちゃん」
「良いよ、愛実がやりたい様にしなよ、美亜そうしてあげなよ」
考えてみれば、愛実は、自分の意思で行動出来るのだ。
「解ったよ愛実、じゃ、こうしようよ、愛実は、この部屋の、掃除、洗濯をしてから店に来るの、朝早くから、働かせないからね」
「良し、決まり、そうしよう、じゃあ、歓迎会は、どうすんの、て、言っても3人だけしか居ないけど」
「ふん、ビールが飲みたいだけのくせして、でも、愛実スポンサーが付くから、今夜は、ゴージャスになるよ、やったね」
そう言いながら、美亜が、浩介に片手を差し出した。
浩介は、札を一枚手渡した、美亜が首を振りながら、手を引っ込めない、浩介が渋々、もう一枚出したら、ニッコリ顔の美亜が、愛実に抱きついた。
「愛実、コーちゃんに、缶ビール1本買って、後は、私達の好きなもの買おうね」
「マジか、折半じゃねーの、お前、俺が貧乏なの知ってるくせに」
「えー、社長さん可哀想、お金なら私も有るよ、待ってて」
美亜も浩介も、愛実の言葉に慌ててしまうと同時に、感激もしていた。
浩介は、何か話すと泣きそうになるので、言葉を発せずにいた。
美亜が愛実を抱いて、頭を撫でながら言う
「ゴメン、愛実違うの、アタシとコーちゃんがふざけただけなの、気にしないで、ゴメンね、コーちゃん、社長さんだから、お金なら有るから、大丈夫だから、心配しないで、ねっ」
「取り敢えず、仕事に戻るよ、美亜」
もう駄目だった、浩介は、急いで部屋から出て行った。
何と言う事だろう、何故こんな、優しい心根の子供が、、、
耐えきれずに、鼻水を啜った、そして、思う、こんなことが有って良い訳が無いと。
美亜に周りを案内して貰い、最後、野菜売場に行った、そこには、一人のパートで働く女性が居た
「愛実、こちらが、明日から、お世話になる樋口さんだよ」
「初めまして、寺越愛実です、よろしくお願いします」
「愛実ちゃんね、樋口です、こちらこそよろしくね」
愛実は、怖いオバサンだったらどうしようと思っていたが、優しそうな人で安心した。
夜は、愛実、美亜、浩介の3人で細やかながら、愛実の歓迎会をした。
「美亜、早くしようよ、愛実も早く座りな、ほれほれ」
「あーうるさい、コーちゃんが主役じゃないし、さあ、出来たよ、愛実座りなよ、手伝いしなくていいから、愛実何飲むの、オレンジジュースでいい、はいコーちゃんビール、いい、カンパーイ、愛実よろしくねー」
スーパーで買って来た、出来合いの物ばかりであったが、その雰囲気が、美亜と浩介の笑顔が、愛実を楽しませていた。
「私、社長さんにビール継ぎたい、どうすれば、いいのミーさん」
「いいんだよ、愛実、癖になるから、手酌でさ、どうしてもってんなら、コーちゃんに肩組んで、片手でこうよ」
「ひでェ、男同士か、、、おお、おおお、愛実、ありがとう、嬉しいー、あはは」
どっちみち、500のロング缶だと、愛実の小さな手では、両手で持たないと、つげなかった。
「ミーさんは、ビール飲まないの」
「どうしようかなー、飲んじゃえー、あっ、ありがとう、あれ、これじゃあ、愛実の歓迎会じゃないね」
「えー愛実は、楽しいけど、大人の宴会なんて知らなかったし」
「ええーい、酔ってしまえー、ウマーィ」
結局、酔っ払い二人を、相手に、愛実はあれこれと、動き回った、それでも何か楽しい、あの家に居た時の様な、嫌な気持ちが全く無かった。
楽しい時間は、あっと言う間に過ぎてしまう、既に浩介は、寝転んでいた。
「コーちゃん、ここで寝て行くの、ねえ、コーちゃん、愛実は、歯磨きしたら寝なさいよ、後は、いいからさ、て、言っても、殆ど片してくれたね、サンキュ」
「はーい、もう寝まーす、でも、社長さんには、何もかけてやらなくても良いのかな」
「社長じゃなくて、コーちゃんで良いよ、その方がコーちゃんも喜ぶよ、アタシも、さんずけしなくていいし、あ、愛実、隣にタオルケットあるんだ、かけてあげて」
愛実にそう言うと、美亜は、携帯で何処かに電話をかけた
「あ、今夜、もう飲んで、寝てしまったので、泊まりまーす、お休みなさい」
「え、ここミーちゃんの住まいじゃないの」
「違うよ、コーちゃんの家に電話したの、畑の向こうに家が見えたでしょ、あそこがそうだよ」
「えー、二人は、結婚してたの」
「してないよ、いいからさ、もう寝な、明日、欠伸してたら、樋口さんに叱られるよ」
何か有りそうなのだが、明日は、愛実の初仕事だった。
「はーい、お休みなさい」
愛実は、床についた瞬間に、たちどころに、眠りに墜ちた。
タバコと、芳香剤の匂いが入り交じった、不愉快な臭いから、早く解放されたくてしょうがない。
運転する男は、いつになく愛実に優しかった、それが証拠に、まだ今日は、叩かれてはいなかった、愛実が、小学5年生になり始めの時に、本当の父親が出て行った、ある朝、顔を合わせ学校に行ったのだが、それきり会わなかった、1ヶ月もすると、母が知らない若い男と帰ってきた
愛実は、突然の事に戸惑った、母は、昼間何処かの会社で働いていた、男は昼間いつも家にいた、帰ってくると、常にタバコの匂いが充満していた、いつも誰かと携帯で話をしていた、愛実は学校から帰ると、直ぐに部屋に閉じ籠り、鍵をかけて母の帰りを待った。
男は、そんな愛実が、気に食わなかった、嫌いな者同士が、一つ屋根の下で暮らしても、上手く行く訳が無かった。
ましてや、お互いに家族とも思ってはいなかった。そして、毎晩のように、深夜や明け方になると、声が聞こえて来る、もう何が行われているか位は、わかる年頃である、愛実は、実の母親に対しても嫌悪感を抱く様になった。
いつもの様に愛実は、学校から帰ってくると、玄関の前に、男が立っていた、顔が赤かった、酔っ払っているようだった。
愛実は、黙って男の横をすり抜けようとした。
「おい、ただいま位は、言えんだろ、このクソガキ、生意気な目しやがって」
愛実が男の言葉を無視して、部屋に向かおうとしたら、いきなり、後ろから蹴りが飛んで来た、愛実が倒れると、ランドセルのうえから踏みつけて、怒鳴り付けた。
「ただいまだろうが、こら、ぶっころすぞ、ガキ」
「た、だ、い、ま」
男が足の力を抜いた隙に、自分の部屋へと逃げ込んだ
悔しかった、何故こんな目に、会わなけならないのか、授業では何も教わらない、自分は何故こんなとこに住んで居るのだろう、何もかもが嫌になった。
段々と口数も少なくなり、学校でも、誰とも話さなくなっていった。
男の暴力は、日を追う毎にエスカレートしていった、何か気に食わない事があると、直ぐにぶたれた、水道のビニールホースで、背中や、腹を叩くのだ、決して顔や手足は狙わない、傷跡が残るからだと、笑いながら、言っていた。
笑いながら叩かれた、泣かない愛実に腹を立て益々叩かれた。
既に、母親とも完全に会話をしてはいなかった、深夜に2人が、やって、いる間に自分で食事を作り食べていた、夏休みまで我慢して、この家を出て行く決心をした。
友達なら少しはいる、部屋のパソコンでSNSで繋がっていた。
愛実が、この様な状況を知らせると、友達がもっと増えた、同じくらいの状況は結構有るものなのだと、自分は、まだそれ程酷い状況でも無いことを知り、驚きもした。
夏休みが近付いて、愛実は、リュックの中に、荷物を詰め、家出の準備を進めていたのだが、肝心の行くところが無かった。
本当ならば、出ていった父や、じいちゃん、ばあちゃんの所が、考えられるのだが、もう何の連絡も取ってはいなかった。
第一そんなところでは、万一連れ戻されかねない。
パソコンの中の友人達は、皆知恵を貸してくれた、家の引き出しの中に眠っている、カードの類を集めることや、薬も用意する事、大人が使う、制限の無い携帯があれば便利だとか、皆情報を出してくれた。
何より、近くに来て困ったら連絡を寄越せと皆が居所を教えてくれた。
「携帯かあ~、ふーん、、、スマホね、、、」
愛実は、後5日で夏休みとなったところで、学校へは行かなくなった、その代わり、朝から電車に乗って都心へ向かう。
「寺越さん、娘さんが面会に来てますよ、応接スペースに座ってます」
寺越と呼ばれた男は、愛実の父親であった、家族と離れた後も、同じ会社に勤めていた。
「愛実どうした急に、もう、パパなんかに会ってくれないと思っていたよ」
「パパ、いいのそんなこと、それよりお願いがあるの、聞いて、そうしたら、もうパパの会社には来ないから」
寺越は、愛実を捨てて、いなくなった事に、後ろめたさを感じていた
「なんだい、パパに出来る事かい」
「うん、愛実にスマホを使わせて欲しいの、愛実専用のやつ、キッズ制限の無いやつで」
「そうか、わかった、後3日したら、このビルの下で10時に、待っていてくれないか」
「本当、有り難う、パパ、じゃあ、3日後に10時ね、お仕事頑張ってね、バイバイ」
寺越にしてみれば、少しでも、罪滅ぼしのつもりであった
愛実は、かろうじて涙をこらえて歩いていた、久しぶりに会った父親が、戸惑った顔をしていた、会社に来られて、迷惑だったのだろうか、愛実を心配する言葉が、一言も無かったのだ。
『いいもんね~、もうすぐ、スマホが手に入りますー、あはははは』
愛実は、男に見付からぬように、家に帰り自分の部屋に戻って、枕を抱いて、ベッドに仰向けになった、泣けて来た、誰にも愛されていなかった、この世に、愛実を愛してくれる人なんて誰もいなかった。
泣き止んで、パソコンに向かいSNSを始める
※エミュ、スマホゲットだよ、後3日したら、皆といつでもつながるからね、バイバイ
愛実は、父からスマホの一式が入った、紙袋を渡され、受け取った
「ね、パパもう、パパの会社には来ないから安心して、でも、滅多に会えないから、何処かの喫茶店で、チョコパフェ食べさせて、そしたら、愛実帰るから、、、」
2人は喫茶店へ入り、寺越は、愛実の言う通りにしてあげた
「ね、パパのケータイ見せて、どんなの、えー、貸して貸して」
寺越は、しぶしぶといった感じで、愛実に自分のケータイを渡した、愛実が少しの間いじくり、返してきた
「パパ、お仕事中でしょう、ご免なさい、もう、大丈夫、あたし帰るから、有り難う」
「おい、愛実、、、」
愛実は、振り返らずに、喫茶店を出て行った、チョコパフェは、残ったままであった、でも、目的は遂げた、父親のケータイから、自分のケータイの情報を、全部消したのだ。
愛実は、改めて、まだ会ってもいない、友達に感謝していた。
これで自由になれる、やっとあの腐った家から出て行ける。
その前に未だ、やるべき事が未だ幾つかあった。
家の玄関に入ると、知らない女物の、靴があった、自分の家なのに、いつの間にか、こっそりと入るようになっていた、物音と声が聞こえる、母ではなかった、しかし、聞き覚えのあるその声は、、、
『クズって言葉が似合う人を初めて見たよ、お前だよクズ』
愛実は慎重に、自分の部屋へ戻り、SNSで仲間に聞いた
※ゴメン、急ぎ、スマホのシャッター音て消せるかな
たちどころに、返事が帰ってきた
※アリガト、後でね
慎重に歩き、やって、る2人の部屋に近付く、ドアが開けっ放しであった
「ああー、亮介、亮介、あーあ、あ、あ、あ」
裸の男女が抱き合って、激しく動いていた、男は息を荒らげながら、腰を動かしていた
『あ、そうか、このクズ、あたしが未だ学校だと思ってんだ、て、ことは、しょっちゅう、呼んで、やって、たね』
愛実は、裸の男女を先ず動画で撮影し、写真も何枚か写すと、また、自分の部屋へと戻った。
そして、友達に今の画像を拡散してみた。
※どう、拡散てこうするのかな
※そうだけど、試しの画像がHィし、どうしたの
※まあ、いろいろと、、、これも、武器になるかなと、、、
※そう、いよいよだね、新しい住み家が早く決まります様に、無理すんな
皆が付いている事を忘れないで
※ダメ、泣いちゃうから、またね、バイバイ
スマホの取説はやはり、小学生の知識では、少し難しかった、それでも、皆に教わりながら、柔らかな子供の頭に直ぐに入って行った。
愛実は、夢中でスマホの操作を、練習していたため、トイレへ行くため、注意するのを忘れ、何気に階段を降りてしまった。
降りる途中に、玄関で抱き合って、キスをしている男女がいた。
愛実は、思わず石になった、男女もはっと気が付いて、離れたのだが、どちらも遅かった。
愛実はそれでも、逃げる様にして、トイレへ駆け込んだ。
実際にトイレを使いたかったのだ、玄関で慌ただしい物音がしていた。
トイレから出て見ると誰も居なかった、家に人の気配が無かった、どうやら2人で外へ出かけたようだ。
ただでは済まない、愛実には、それだけは、はっきりとわかっていた。
荷造りを急いだ、もう、そんなに残ってもいないのだが、愛実の部屋の荷物は、既に殆ど無かった
仲間達が、それぞれ引き取って、様々な方法で金に変えてくれたのだ。
それは、この世には、愛実の想像を、遥かに越えた世界が有ることを、初めて知る事にもなった。
※エミュ、いらないもん、ぜーんぶ送りな、売れたら、口座に振り込むから
※え、あんなもん売れるの、マジですか、、、
※あんたは、知らなくても、いいんだよ、ほらさっさと動きな
※あーちゃん、それなら、あたしも送れば、エミュの助けになるかな?
※あ、そうか、皆送って来なよ、男子もさ
※へ、いいの、汚れたパンツでも、、、
※そ、そ、そ、それ、いろんな人がいるの、ダイジョブ、まかせなさい
2日後、愛実の口座に、本人にとっては、途轍もない金額が、振り込まれていた。
※えー、口座がすごいことに、、、
※いいかい、前に言ったとおり、たまっている、お金を、ふりわけるんだよ、あ、そうか、きがつかなかったよ、夏休みじゃん、だれか、エミュと会えないの?
現金も必要だし
※エミュ今どこ?
※東久留米、西武の
※皆、新宿西口に集合だよ、来れない子は、ちがう役目があるからね、エミュに気が付いても、顔を覚えたら解散だよ
愛実は、西武新宿の駅にあるベンチに座っていた
座っているだけで、廻りを見回しても、誰が友達か、いつもの話し相手なのか、さっぱり謎であった。
チャットの会話は、愛実を無視して進んで行く、マジカワユイとか、そんな言葉を使う、年代に見当がつかなかった。
※エミュは、今あんたの友達が皆んな、自分と同い年か、学年が近いと
思ってるよね、違うよ、もっと広いのさ、でも、皆んな、あんたが好きだよ、皆んなあんたを好きだし、味方だよ、応援してる、でも、深く傷跡がある子は、それでも又、裏切られると思っているの、人を信じて最後に惨めな思いが待っていると思うと、、、だから皆に声をかけたの、あーでも、エミュならまあいっかって、思ってもらおうと考えたんだ。
※みんなありがとう、もしかして、あたし、ゲームの中かな?皆あたしに、アイテムを渡してる感じ?
※そう、気が付いても、遅いし、でも、ゲームみたいに、リプレイきかないから、それでも、応援するぞ、最後まで
※思っていたとおりの、いい子だな、皆仲間だ何時でも、連絡しな
※みんな、又、エミュに惚れたね、さあエミュ、お金をふりわけるんだよ、あたしの指示に従って、皆は、あたしが間違いや、もっと良い方法があったら知らせて、頼んだよ。
愛実は、あっと言うまに、15万の金が貯まった、それを、適当な口座に振り込んで分散した。
チャットで誰かが言った
※ん、もしかして、カードの名義が違がくても、エミュの名前じゃなくても、なんなら、俺のでも良くなくね?
※あ、そうか、お主なかなかやりおる
※そうだね、それいいかも、エミュ待ってて、あ、でも、子供が、現金の機械のとこにいたら、怪しまれんじゃね
※コンビニカードならあるよ、使ってないの、持って行くよ、一枚か二枚あるよ、他にも誰かあるかな。
※オッケー、有るし、今駅にいる、誰に渡すのかな。
※あー、でも、一番のネックは、金を持ってるのが、ばれたら大変だな、少額のプリペイドカードにすればどうなの
※エー、Suicaとか、コンビニカードにするの
※それなら、小学生が持っていても、可怪しくないよね、奪いとられても、被害も少ないし
※いいかも、それ
※誰かエミュの口座から振り込んで貰って、カードに変えてあげればどうなの
※ついでに、いらないやつを、持ち寄れば良くね
※ルミが駅に居るし、直ぐ解るよ、てか、今一番解りやすいかな、近寄り難いけどね
※エミュちゃんへ、三年生です、わたしのおこづかい、さんぜんえんあります、カードはよくわかりません、つかってください
愛実は、この子に感謝した、勿論、貰うつもりは無いし、会うつもりもなかった、思わず涙目になった、何か知らないが、悔しいのだ、自分より年下の子が、今どんな目に会っているのだろう、考えたくもなかった。
愛実は、リュックを背負って、駅構内を歩いていた
※エミュみっけ、カワユス、バイバイ
※ああ、声かけたいけど、ダメ、ダメ、ガンバレや
※カワヨ、変態に捕まる前に早よ逃げなはれ
※ヤッホー、ルミだよ、ホームの反対側のベンチで、カワユイ、エミュに背中を向けてまーす、こっち来る?
初めてSNS上の友達の一人に会えるのだ、愛実は、急いで駅の階段を駆け上がって、反対ホームのベンチに辿り着いた。
そこには、優しい眼をした男の娘が座っていた。
「エミュちゃん?ゴメンなさいね、嫌だったら、このまま帰ってね、こんな奴でホントにゴメン、一目貴方に会いたくて、、、」
ずっと、そう、ずっとこの人は、私の心の支えの一人だった、思わず抱き付いた、柔らかい、温かい、そして会えて嬉しい
「ダメよ、嬉しいけど、人前で、でもね、良く聞いて、駅とか、コンビニ、大きな通りは、監視カメラがあるからね、別に悪い事している訳じゃないけど、いつも、それを意識してね、ここに、あたしの住所と、合鍵を持って来たから何時でも使いなさい、困ったら、あたしに何時でも、連絡しなさい、仲間からの命令だからね、言うこと聞きな、はい、カード、3万以上有るよ」
最後はわざと、男言葉を使って、愛実に協力する事を伝えた
愛実は、自分が、想像していた友達と違う姿に、戸惑いを覚えたが、涙目になって頷いた。
そう、味方は愛実と同じ、社会の少数派なのだった。
※ヤッホー、今、エミュにハグされたよ、羨ましいだろ、男子~
※女子だけど羨ましいです、ダメですか?
※あ、ゴメン、反省します
※みんな、アリガトね、エミュがんばるし
※エミュ、コードレスイヤフォンとか、新宿に来たんだから、必要なもん、手に入れな、ルミといる間に携帯の操作を教えて貰いなよ、周辺機器は100均で揃えな
ルミは、あれこれと、愛実の携帯を使って操作を教えてくれた
「エミュ、家を出たら、自由になるけど、その分自分でやらなきゃなんないことが、いっぱい有るよ、まあ、それも経験だけどね、何時でも仲間がいるからね、必ず頼りなさい、一人にならないで、必ず助けてくれるから」
「うん、ルミさんありがとう、必ず皆と連絡取るから」
新宿での収穫は、かなりなものがあった、何しろ、家に帰ると、様々な、プリペイドカードが、リュックの中に入っていた、いつの間にか、トランプ位にたまっていた。
※カードくれた人アリガトね、感謝ですー、でも、いつどうやって?
※エミュが、好きな時に使えばいいだけ、カードは怪しいもんじゃなく、フツーに使えるし
※でも、子供がカード持ってるとヤバくね、誰かに見られると、ぜってー狙われんじゃね、携帯使ったら、それごと盗まれそうだし
※そうだよ、エミュ、時間とか場所を選びなよ、中・高生とかにもね、気をつけて、皆が味方じゃないから
※もう、荷造りは終わったのかな
※うん、何時でも出て行けるよ、最初から、そんなに荷物は無いし
その時珍しく、部屋のドアがノックされた、開けてみると、亮介が立っていた
「なあ、ドライブに行かないか、連れてってやるよ、たまには、何処か連れて行けって、お前のママにも言われてるし」
何か企みが、有るのはわかっていた、この男が、若い女を家に呼び込んで以来、ずっとおとなしくしていたのは、愛実をどうやって、家から追い出すか、考えていたのだろう、愛実は決めた
「うん、準備するから、少しまって」
たいした支度などは無かった、ただ、仲間達にこれから、多分、何処かに連れて行かれて、捨てられると送信した
※携帯の電源を切って隠しな、持ってる事をばれるなよ、電池の節約にもなるし
そうして、車に乗り込んだ
亮介は愛実が、結構本格的なリュックを、背負って来たので驚いた、なんだかんだ言っても、所詮小学生の知恵など、こんなものだよな、日帰りドライブなのに、これじゃキャンプじゃんか、、、
亮介の運転で、東北自動車道を走っているのは、わかっていた、だが場所まではわからない、別にいいのだ、どうせ何処かで捨てられて、それからケータイを出せば直ぐにわかる。
殺されない限り、、、その心配をする必要が、有るだろうか、愛実は少し緊張してきた。
サービスエリアで休憩し、愛実は、今、栃木県に居ることを知った。
サンドイッチと茶を、買い与えられたが、とても食べる気にはならなかった、外は暑いし、車内はタバコと芳香剤の臭いが酷かった、車はやっと、インターを降りた、どんどん山の中へと入って行く、愛実はもう、どこでも良いから、下ろしてほしかった、そんな愛実の気持ちを、察したかの様に、車が止まった。
「愛実、なんか俺、喉渇いたから、あそこの自販機でコーラ頼むわ、愛実もこれで何か買いな」
亮介が愛実に、500円を渡して寄越した、それを愛実が受け取り、リュックも引き寄せ車を降りた、自販機に500円を入れると、同時に、白いクラウンが、愛実を残して発進して行った。
それは、予想していた事なので、愛実は振り向きもせずに、携帯を取り出した、クズ男の亮介が運転する車は、とうに姿を消していた。
※エミュでーす、遂に一人になりました、山の中に捨てられました、あたしは捨てられた猫です、どこに行こうかな。
※エミュ、そこから歩いても、町にでるには、暗くなるよ、もう少し奥の方に何か、建て物が有るな、多分キャンプ場かと、、、
※うん、そこは栃木県の山間地域だね、夏だからそのまま寝ても、風邪引かないけど、さあ、皆んな知恵出しな
※今夜は取り敢えず、キャンプ場に潜り込むしかなくね、もうすぐ、暗くなるし
愛実は、キャンプ場を目指して、今よりも山の方へと歩き出した。
すっかり日が落ちてしまっていた。
それでも愛実は、車内の、不快な空気から解放され、亮介からも解放され、気分は上がっていた。
すれ違う車も、人も無かった。
愛実は、都会と山の中の違いを、身をもって体験していた、一番わかりやすいのは、暗くなると本当に暗いのだ、そりゃそうだ、家がないから、誰も電気などつけないし、人が居ないから街灯も無かった、節電の為ケータイは使わない、ひたすら、キャンプ場を目指して歩き続けた、何をしても楽しい、今現在、歩いているのは、全て自分の意思なのだ。
愛実は、仲間の言い付け通り、無駄話は、電力の無駄になるから止めにした。
でも、こんな時こそ皆と、話しながら、歩きたかったのに、、、やっぱスマホって、都会向きかも、愛実は、なんやらかんやら、考えながら、ひたすら歩いていた。
と、いきなり、話し声が近づいてきた、若い女の声だ、陽気に笑いながら、振り返ると、小さな光が揺れながら、段々と明るくなって、愛実の方に向かって来る。
どうやら2人の様だ、実に楽しげに、会話していたのだが、、、
小さなライトが、前を歩いていた、愛実の後ろ姿を照らし出した。
「おう、おうわ%$#!&~%$\」
「#%&*+i+oxelgu/」
道理で、声が聞こえるのに、理解が出来なかったわけだ、外国の人だった。
愛実の横に、自転車が止まった、愛実も立ち止まり、暗い中で、お互い見つめあった、つもりでいる。
「あなた、ここ、何してるですか、どこに行くですか、もう暗いね、危ないよ」
愛実は、結構上手な日本語に驚いた、そして、外国人に、職務質問を受ける自分は、、、
「こんにちは、あ、今晩は、キャンプ場に行こうと思って、歩いています」
「キャンプ場はやって無いよ、あなた、キャンプ道具無いね、どうしますか」
「行くところが無いし、今日は、そこに行って寝ます」
「タム、&*/#iohs+*&」
「Di+&%xo!」
時々、スーパーで聞く事がある言葉で会話していた。
「あなた、荷台に早く乗る、今夜は、私達と寝る
安心ね、日本の男と違って、助平はしないよ」
色んな目に、会っているのだろうことが、小学生の愛実にもわかる。
愛実は、荷台に横に座った、チャリに2ケツなんて、したことがなかったのだ。
運転者のお姉さん?の細い腰に手を回し、2ケツが少し楽しみでもあった。
「あなた、しっかりつかまるよ、ダイジョブか」
「はい、えーと、私、愛実、エミです」
「タムね、あの子の名前は長いから、フォンでいいよ」
走り出した自転車は、尻の痛さよりも、爽快感の方が勝っていた、酷かった自動車の臭いもなく、風をきって走り行く。
5分位すると、自転車は止まった、そこは、どうやらキャンプ場の、跡のようであった。
「エミ、着いたよ、降りるね」
「はい、ありがとうございました、タムさん」
「エミ、カムオンて言うね、カムオン」
「え、カムオン、カムオンでいいの」
「そう、カムオン、感謝言う意味、家に入るよ」
「フォンさんカムオン」
「虫がつくね、早く入るよ、エミ」
家と言うより、小屋であった、それでも愛実は、家の中で、寝ることが出来る事に感謝した。
LEDの青白い小さなライトが灯った、小さな流しがあった。
タムとフォンは、部屋に入るといきなり、着ている服を脱ぎ出した、愛実は、呆気に取られながら、見ていると、タムが言う
「エミ、シャワーにするよ、服を脱ぐね、タオルあるか」
「うん」
フォンが蛇口にホースを付け、素っ裸の3人は、外に出て、入り口とは反対側に行った。
裏には沢があった、早い話しが、洗車用ホースで身体を洗うのだ、タムとフォンは、手慣れた感じで素早く全身を洗い終わり、愛実にホースの水をかけろと言う、夏とはいえ、ただの冷水なのだ、2人は、キヤーキヤー言いながら全身の石鹸を洗い流した。
「愛実、エミの番ね、早く、早く」
愛実は、覚悟を決めて身体を洗い出した、フォンが洗うのを手伝ってくれた、髪の毛も洗ってくれた。愛実は全身泡だらけになっていた、フォンがタムになにか言うと、いきなり冷水シャワーが襲ってきた。
「キャー、ひゃっこい~、ひー、ヤダヤダヤダ」
楽しいのだが、冷たい、声が出る、それを見る、タムもフォンも、大笑いしている、2人との距離が、一気に近くなった事を、感じた瞬間でもあった。
タムが身体も髪も、拭いてくれた、部屋に戻ると、着替えも貸してくれた、フォンが、ドライヤーとブラシを当ててくれる、タムが頭にタオルを巻きながら、食事を作っている。
「愛実は、兄弟いるか、何人」
「私一人だよ、それでも、邪魔だから、捨てられたの」
「そうか、私は8人、タムは6人よ、2人とも一番上のお姉さんよ、こうして愛実の髪をいじると、妹たちを思い出すね」
「ヘエー、皆、姉さんの言うこと聞くの」
「当たり前よ、姉さんは、お母さんの代わり、言うこと聞かないと、ご飯無いね、あっははは」
愛実は、髪を扱って貰うのが嬉しかった、定期的に行く、美容院のスタッフとは違う、何か言葉に表せない、安らぎがあった、そして心地良い、フォンが鼻歌交じりで、手慣れた感じで、愛実の髪に触れている、それは、突然だった、愛実の髪を扱いながら、フォンの嗚咽が聞こえた、愛実は理解ができた、フォンは、遠く離れた妹と、愛実を重ね合わせたのだ、愛実にとっては嬉しいのだが、、、
「%#@/x+@」
「@&\]:*#&」
わからないけど、きっと、愛実が困っているから、泣くなと言っている、はず?
愛実は、フォンに抱き付いた
「嬉しいのは、私、泣かないでお願い、フォン姉さん、お願い、、、」
フォンは、愛実の頭を優しく撫でた、そして、愛実を抱き締めた、涙は止まらない。
「家族大事、わたしは、わかる、愛実わかるか、わたしは、家族皆好き、会いたい、私は、みんなと会いたいですね」
愛実とは、真逆な感情表現ではあった、が、気持ちは同じ、心が寂しいのだ、でも
「フォン姉さん、、、結構毛深いよね、モテないかも、、、」
フォンは、意外な返しに戸惑ったが
「愛実、年下なのに偉そうね、ご飯抜き、、水を飲んで寝る」
「え~、姉さんのくせに、優しくないんだ~、ヤダな~」
ほんの少しの間に、お互いの馴れ合いと、親しみが生まれていた
「愛実、ご飯食べて、寝るよ、私達明日も、仕事ありますね」
「はーい」
良くわからない、異国の料理は、味も良く分からなかったのだが、愛実の腹と心は、十分に満たされた。
「愛実、食器を洗う、わたしは、布団ね」
「はーい」
布団と言っても、封筒型の寝袋を四角に開いて、タオルをかけただけであったのだが、3人は、愛実を挟んで、川の字になって寝た、愛実は寝付けなかった、色々有りすぎた、身内である筈の親よりも、全くの他人、しかも、会ったばかりの外国人のほうが遥かに、愛を感じる、泣けてきた、悲しいのか、嬉しいのかわからない、涙が溢れる、手が伸びて来て、引き寄せられた、タムが抱いてくれた、その胸の中で声を殺して泣いた、嬉しかった、甘える事が出来る、抱き寄せてくれる人がいる、そうしている内に、愛実は、深い眠りに落ちた。
夜中に一度も起きずに目が醒めた、トイレは、外の沢だ、野外での排泄も初めてだった、昨日からやる事なす事、初めてのことばかりで、愛実は戸惑いと感動を交互に体験していた。
タムとフォンは、仕事に出かける準備をしていた、昨日の残りでお粥を作り、3人で食べながら、愛実が2人に問いかけた
「愛実は、未だここに居ても良いの、邪魔にならないなら、行き先が決まるまで、ここに居てもいいかな、洗濯も掃除もするから」
「勿論ね、でも、長くは、ダメね、それは、、、今度話すよ、洗濯助かるよ、愛実」
「うん、行ってらっしゃい」
小さな洗濯機があった、愛実は、どうせすることもないので、のんびりと洗濯を始め、ついでに掃除もしだした。
窓を全開にして扇風機もつけたのだが、堪らなく暑い、寝袋を洗濯が終わるまで干してみる、部屋の中は、そんなに綺麗ではなかった、愛実は掃除も洗濯も終え、仲間達に連絡を取った。
※て訳で、タムさんとフォンさんが助けてくれたの、カムオン
※やっぱ、エミュは持ってる子だ、兎に角無事で何よりだね、ベトナムねーさんにカムオンだな
※ずっとそこにいるの?
※ううん、恩返しの手伝いが終わったら何処かに行こうと思うの、それに、ここへは、長く居るなって、何か事情が有るみたい
※そう、多分不法就労かもね
※何それ、もっと分かりやすくしてくんない、夏休み子供相談室にでれないよ
※外国人が無免許で働いている事だよ
※えー、それって、結構不味い事なの、捕まっちゃうとか
※うん、悪質ならね、強制送還とか、色んな事になるよ、稼いだ金は没収とかね
※そうなんだ、せっかく働いても、そんな目に会うんだ
※あ、でも、その二人がそうとは、限らないよ、ただエミュが、巻き込まれたら、やっぱ、親とかに連絡されて、面倒な事になるかも
※でも、泥棒とかしてないよ
※違うんだ、この場合の悪質は、何回もやっているとか、届け出た仕事じゃない事を、やっているとかそう言う事だよ
※ふーん、そっか、好い人達なのにな
もし二人が不法就労なら、愛実は何か、二人の役に、立ちたかったが、どうすれば良いのか分からなかった。
暗くなってから、二人が帰って来た、3人のシャワータイムは、愛実が慣れたので、二人に遠慮なく水をかけ、愛実も返り討ちにあって、叫び続けた。
今日は、タムが愛実の髪を乾かしてくれる、愛実は、何故か気持ちが落ち着き、1日の終わりを感じていた。
夕食もすませ、フォンはスマホを弄っていた、タムは、愛実と話をしだした。
「愛実、私達は、働く日にちがもう無いよ、だから、秘密に働くね、もし見付かると、ベトナムに返されるね、働いた金も無いよ、でも、働くよ、家族の為よ」
「うん、不法就労とかになるんでしょ、友達に聞いたよ」
「さすが愛実ね、そうだよ、だから、こんな山の奥に暮らすね」
「でも、せっかく働いても、お金をとられるんでしょ」
「そうね、でも、もう殆ど送ったよ、私とフォンは、覚悟を決めたよ」
「えー、捕まるの怖く無いの」
「大丈夫、日本の役所優しいね、ミニスカート履くと、サービス満点ね」
「そうなんだ、勉強になるなー、ミニスカートね」
「愛実はダメ、勉強して、大学行く頑張るね、約束よ」
愛実は、立ち上がり、タムの後ろから抱き付いた。
「お前は、私の妹チュイと同じ、この甘え女め」
身体を反転させて、タムは愛実を抱え、愛実の尻を叩きだした。
「痛い、痛いってば、ねーさん止めて」
楽しそうなので、フォンが携帯の操作を止めて参加してきた、勿論タムの味方だった。
「イタタた、ずるいよ、止めてよ、はなせ~」
楽しかった、こんな経験したことが無かった、3人で汗を、かき、かき、笑い合う、じゃれ合う、愛実のTシャツがめくれ、そのうち、背中と腹がむきだしになった、途端に、タムもフォンも、手が止まった。
愛実の背中も腹も鞭で叩かれたような痣が有ったのだ。
フォンは、手で口を押さえたまま、言葉がでなかった。
「ほっ」
涙目になって居る、タムは、目に怒りがこもっていた。
「誰が愛実に、、、こんなことをした、なんと言う事を、、、許さない、私も、フォンも絶対に許さない、おおお、愛実が何をしたのか、こんないい子が何をした、、、許さない、絶対に許さない」
フォンが泣いていた、愛実を優しく抱いて、髪を撫で、愛実が何故家を出たのか、愛実の身体が答えていた。
「えー、気にしてないよ、さっきみたいのが良かったのに、それに、もう痛くないし」
でも、嬉しかった、二人共に、怒っていた、愛実に傷を追わせた者に、怒ってくれた、それだけで十分だった。
暫くして、落ち着いたタムが、口を開いた。
「愛実、私達明日は、買い物して帰るね、明後日は休みよ、欲しい物とか、食べたい物ないか」
「うーん、二人共、何か食べたい日本の物は無いの、愛実がつくってあげるよ」
「カレーウドンが良いね、カレーライスも好きけど、カレーウドン美味しそうね、でも、愛実、本当に作れるか、怪しいね」
「ねーさん達、まかせなさい、でも、辛口それとも甘口?」
「二人共辛いは大丈夫、愛実は、未だ子供だから甘いやつね」
フォンが、からかいぎみに、愛実に言う。
「ふん、毛深いだけの癖に、偉そうだ」
「愛実、今お前、何か言ったか、やっぱり、生意気ね、タム、コイツ、叩くね」
またもや、二人が愛実の尻を叩き出した、嬉しい、楽しい。
「ギャー、止めて、あはははは、止めてってばー」
一週間が過ぎた、ここの生活にもすっかり慣れて来た。
結局愛実の、カレーウドンは、評判は良かったのだが、年下の生意気な、妹が作った料理は、認められなかった。
いつも通りに、二人が帰って来た、元気がなかった、大抵、愛実の顔を見たら、日本語でやり取りするのに、ずっと母国語で話していた。
珍しく二人とも、服も脱がずに、立ち止まって話をしていた。
愛実は気がついた、別れが近いのだ。
水シャワーにも、いつもの乗りが無かった、でも、タムは、愛実の髪を乾かしてくれる、夕飯は豪華なものであった。
食べきれぬ位に有った、食材を使いきりたかったのだ、3人は、大人しく食べ出した、タムが重い口を開いた。
「愛実、明日、私達自転車一台ね、愛実はもう一台で、ここを出るね
明日は、お別れね、今日、違う会社の仲間が、連れて行かれたよ、私達ももうすぐ、多分明日ね」
子供ながらに、覚悟はしていた、ため息をついてから、愛実は、二人に話しかけた。
「うん、わかった、ねーさん達の言う通りにするね、明日は普通通りに出るの、そう、そうなんだ」
夕飯も終わり、3人は、簡単な荷造りをし始めた
タムが愛実に言う
「愛実、フォンと私お願いありますね」
「なに、私に出来る事」
「わからない、でも、駄目でも、フォンと私怒ったりしないよ」
「いいよ、何でも言って」
「フォンと私のお金、30万円有るよ、此をベトナムの口座に入れて欲しいね、でも出来なくても、良いよ、愛実だから預けるね」
「大丈夫だよ、何とかするから、任せて」
「私達が持ってるは、どうせ没収ね、それなら、愛実に渡す、愛実別に送らなくてもいいよ、金無いなら、使っていいよ」
「何言ってるの、お金を稼ぐために、家族のために、こんな遠くに来て、頑張ったのに、絶対に送るから」
「愛実も姉妹よ、気にしないね」
「少し生意気な妹ね」
フォンが横から口を出した、愛実は丸めたタオルをフォンの背中にぶつけた。
仕返ししてやろうと、振り向いたフォンに愛実が抱き付いた、Tシャツがじんわり濡れて来た、フォンは、愛実の頭を撫でていた。
直ぐに朝がやって来た、タムとフォンは、バッグを持って自転車に2ケツで跨がった。
「愛実、元気にするね、また、カレーウドン作るよ、美味しかったよ」
「私も愛実のカレーウドン好きよ、また、食べたいね」
「私はね、私は、二人の姉さんが好きだよ、楽しかった、ありがとう、元気でね」
愛実は、二人に抱き付いて、別れを告げた。
自転車が出て行った、愛実は、見えなくなるまで、立っていた。
小屋に戻り、仲間に連絡を取る。
※さて、何処に行きますか、アルバイトしたいな
※ずっとチャリで移動するの?
※わかりませーん、何も決めてマセーン、あ、誰か教えて、ベトナムに送金て、ムズいかな?30万円
※そうでもないけど、小学生が、口座に30振り込みじゃ、警察か、親に通報パターンじゃなくね?
もちろんで、銀行窓口なんか、完全にアウトだね、誰かエミュに近いとこに居ないのかな?
※エミュ金持ちすぎだわ、不味いよ、地味にSOSだよ
※軽トラで、今向かってるよ、自転車積めるし、振り込み出来る人、栃木か埼玉に居るかな、群馬でも良いよ
※前橋で良いかな、1日中いるし
※オッケー、決まり、エミュそのままチャリで移動してて良いよ、水持ってね、みんな、エミュの、今夜のねぐら探してよ
※てか、どっか定住先は無いかな、お客さんいい子が居ますよ
※未だ夏休みだから、楽しめば良くね、なんかあれば、皆んな直ぐに集まれるし
道路の標識に、日光と書いてあった、愛実は、地名以上の事は知らない癖に、聞いたことが有る地名を見て、気分が上がっていた。
行き先等決めても居ないので、愛実は、のんびりと、ペダルを踏んでいた。
目の前に、小さなトラックが止まり、若い女の人が降りてきた、脚を引きずっている。
「こんちはー、エミュ、はじめまして、ミーです、よろしくね、暑いのに頑張るね、さあ、自転車積もうよ」
「エミュですけど愛実です、よろしくお願いします、足大丈夫ですか」
「ああ、これ、生まれつきだから気にしないで、もう、不便も感じないし、だって一生こうだもの、そんな顔しないで、これじゃ、ベトナムねーさんも、ほっとけないよね、可愛いし、優しいし」
ミーは片腕を、愛実の肩に回し、ポンポンと叩いた。
「ね、愛実、この線にケータイ繋ぎなよ、充電は大事だよ、でも、今日は何処に泊まるの、あたしのとこ来る」
「うーん、何も決めてないし、私、自分がどうしたいのか、本当にわからないの、ミーさん、私どうすれば、、、」
そう、小学5年で自分は、何をしていたか、何を考えていたか、とても、今の愛実ほどには、大人ではなかった。
虐めや陰口はあったが、親の愛があった、嫌な事が有っても、家に帰ればそこには、出迎えてくれる人が居た。
愛実は、家に帰った途端に、敵が居るのだ、一番ほっとする場所に、、、想像がつかない
ミーは、小学五年生を「」こんな目に遭わせた、人間を心の底から軽蔑した。
ミーの母は、ミーが中学生になった時に、泣きながら言った、ちゃんと産むことが出来なくてご免なさい、、、ショックだった。
私は、ちゃんとしてないのだ、じゃあ私は、、、
母は、いつも近くに居てくれた、バスケットの時も、みんなと同じと思っていた、強いチームと当たっても、ミーを使ってくれた、そして負ける、皆が気がついた、コーチは、ミーを特別枠でつかっていただけ、そして、スポーツの世界も、パラリンピックが有るのだから、そっちに行けば良いのだ、そっちの世界じゃあんたは、優れ者、でも、こっちじゃ、、、
それでも、両親は愛してくれた、何かをする度に心配してくれた。
今の愛実には、それがないのだ。
「ミーさん仕事は何なの」
愛実は、若い女が、軽トラに乗っている事に、興味が湧いた。
「農家だよ、野菜を積み込んで、市場に持ってったりね、朝早いけど、私は好きだよ、自分が作ったものが、売れんのが楽しいし、嬉しいよ」
車内は、狭かったが、あの、煙草と芳香剤の臭いが無いので、快適だった。
「ミーさんは、何処で暮らしているの」
「埼玉の熊谷ってとこだよ、知ってる?ものすごい暑いとこ」
「何か、夏になれば、良く聞く名前、野菜は大丈夫なの」
「うん、やっぱ、暑さに強いのを育てるんだよ、水やりも大事だけどね」
「へえ~、見てみたい、私にも手伝えるかな」
「うん、農家はね、てか、農業はね、誰にでも出来るよ、でもね、続かないの、好きじゃないと出来ないの、結構楽しいんだけどね」
ミーは、好奇心の塊が隣に居て、質問攻めに会う、その子は目がキラキラと輝いて、何でも吸収する、スポンジの様だ。
「アッ、ミーさん、何処かに停めて下さい、チョイ、ムズい連絡、、、」
※勘違いしてたよ、わざわざ、こっち来なくていいわ、取り敢えず、送り先を書いた紙を、スクショで送ってよ、30立て替えて送金しとくよ、そしたら、今度は、相手銀行の振り込み通知を、俺が皆が確認出来る様に転送するから、それから、エミュは、俺の口座に振り込んで、どう、これで?
「ミーさん、どうこれで、誰も損しないのかな」
「愛実、スマホ貸して」
※ねえ、エミュと一緒にいるミーだけど、私にも海外送金出来るかな
※大丈夫だよ、教えるし、そんなに難しく無いよ、30なら振り込み手数料も、500円位だし
※そっか、じゃ、やってみるよ、教えてみて、丁度コンビニの駐車場だし
意外にも、送金はスムーズに出来て、二人は、前橋のカッツに礼をして、コンビニを後にした。
「ねえ、愛実これからどうする、何処にでも連れてくよ」
「ミーさんのとこに行ってもいいですか、農家を見てみたいし、やってみたいの」
「あは、いいよ、てか、大歓迎だよ、でもねその格好じゃ駄目だね、ホームセンターに寄って、色々揃えなきゃね」
「わあー、何か楽しくなって来た、知らない事するの大好き」
「ねえ、愛実、そんなに凄い事する訳じゃないから、目を輝やかせて、私を見ないで、がっかりしたらどうするの」
「でもねミーさん、私未だ、働く事がどういう事か、解ってないし、てか、働いたこと無いの」
ミーは、深いため息をついた、そして、愛実の親を呪った。
小学五年生に、働く事を本気で考えさせる、愛実の親を許す事など絶対にできない。
愛実と同年代の子は、今頃、何をしているのだろう、おそらく労働を本気で考えては居ないだろう、愛実のすごさは、素直に自分が生きる為に、働こうとしていることであった。
ミーは、情けなくなって、愛実の肩を抱き寄せて、静かに言った。
「ねえ、愛実、そんなに、真剣に考え無いの、大丈夫だよ、皆んなついてるから、ほっとかないよ、頼むから少し皆に甘えなよ、疲れちゃうよ、本当の家族じゃないけどさ、遊ぶ事も考えないと、愛実は、少し遊びなさい、のんびりするの、解ったかな、かわいこちゃん」
愛実は、車内の冷房と、自覚の無い疲労で、ミーの話を半分くらい聞いた辺りで、寝てしまった。
ミーは、愛実の寝顔を見て、涙が溢れて来た、何という事をさせて居るのか、この子が、どんな罪を犯したのか、あまりにも情けなく、悲しかった、この怒りや悲しみを、ぶつけるものが何もなかった。
目指すホームセンターの駐車場に着いたのだが、愛実は、寝たままであった、起こすのも可哀想だ、暫く、誰かを相手にメールを始め出して、時間を潰した。
※画像見た、可愛いでしょ、私の小さい頃にそっくし、かも、、、
※ああ、そっくし、かは解らんけど、可愛いな
※でもね、農業やってみたいんだって、どう思う、一応、ホームセンターに来たけど
※うん、無人販売所は、どうよ、補給と店番で
※あ、良いかも、その線で、何か揃えようかな、今日は、一日こんな感じで潰れます
※良いよ、作業もそんなに無いし、付き合ってあげなよ
※サンキューです、じゃね
※ほい!
愛実は、夢も見ずに寝ていたが、うっすらとボヤけた意識が戻ってきた、隣に居てスマホを弄っている女の人がいた、とても綺麗な横顔だった、あっ、ミーさんだ、でも、愛実と話をしている時とは違って、、、
そう、微笑んでいる、画面を見ながら、とても嬉しそうだ、きっと、、、
「あら、愛実、目が覚めたの、買い物しよう」
「はーい」
やはり、さっきのあの顔ではなかった、そうだよね、この人なら、彼氏居そうだもん、てか、モテそう。
「えー、畑耕すとかじゃなくて、野菜売るの、何か想像してたのより、ちがくね、てか、八百屋さんだし」
「あはは、今時人力で畑は耕さないの、全部機械がやるの、江戸時代じゃないし」
「えー、頭にタオル巻いて、日が暮れるまで働くんじゃないの」
「あははははは、久々に楽しい人に会ったよ、愛実、そりゃ、タオル巻いてる人もいるけど」
ミーは、愛実に帽子やら、靴やら、色々揃えてあげた、支払いは、スマホ決済を初めて使ってみた。
「ミーさん、農家ってもっと、泥だらけとか、土まみれを考えていたけど、何か車も、ミーさんもめちゃ綺麗」
「ありがとう、そっか、愛実は、東京生まれの、東京育ちだもんね、良く解んないよね」
「うーん、そう、わかんない、だって野菜がなってるとこ、見た事無いし」
「あははははは、そうかー、大丈夫だよ、飽きるほど見られるから」
走る車の周りの景色がみるみる、緑色になって来る、愛実は、その景色が珍しい、窓にピタリと張り付くその姿を見てミーは、笑いが止まらなかった。
「さあ、着いたよ、愛実、私の部屋に行こう」
畑を抜けると、大きな倉庫が見えた、その2階が、ミーの部屋であった。
「わあー広い部屋だな、ここがミーさんの家なの」
「ううん、本当の家は、両親と住んでるけど、夏は面倒だから、ずっとここにいるの、冬はここだと寒いし、そんなに忙しく無いしね、さあ、入って入って、散らかってるけど、今、エアコン着けるね」
「お邪魔しまーす」
そこは、タムとフォン、3人で過ごした時の、小屋めいた建物の、倍以上もあった。
「もう、お昼すぎたよ、愛実、何か食べようよ、素麺と冷やし中華どれが食べたい」
「愛実どっちも作れるよ、ミーさん、休んでて」
「いいから、あんたが休んでな、ほら、そこに座って、スマホでもしてなよ、じゃ、冷蔵庫のスイカとか、トマト出して先に食べてなよ」
「はーい、ウワー美味しそう、これ全部、ミーさんが育てたの」
「うん、どうしても、規格はずれや、形が崩れるのがあるからね、別に傷んでいる訳でもないけど、市場に出せないの、うちの農場じゃ、それを安く直接売ってるの、その店を愛実に手伝って貰おうと思ってるんだよ」
「へえ~、でもこのスイカ見たくサイコロに切ったりしたり、食べたら同じだと思うけど、、、」
「そうだよ、でも、愛実、スーパーに並んでいる野菜や果物で、愛実がもし買うとしたら、どれを選ぶかな」
「あ、そうか形が良くて、大きい奴、、、」
「でしょ、そう言う事になる訳、だから、選別は大事な作業のひとつなの、さあ、出来たよ、食べよう」
「もしかして、トマトも、キューリもミーさんが育てたの」
「そうだよ、野菜は殆どそう、卵は私が産んだんだよ」
「えー、卵はいらないかも、、、」
「バカッ、早く食べなよ、食べたら、その辺歩いて案内するよ、ナーンも無いけどさ、仕事を手伝う場所も、見ておかないとね」
「はーい、あ、野菜が美味しい、トマトが、あまーい、こんな美味しいトマト初めて」
「あは、愛実、自分が作った物とか、売った物が、誉められると、物凄く嬉しいんだよ、そのうち、あんたも解るよ」
ドアをノックする音がした
「美亜、お客さんも、ご到着かな」
「入って良いよ、来てるよ」
部屋の中に、真っ黒に日焼けした、若い男が入って来た、愛想よく笑いながら、二人の前に座り込んだ。
「愛実、社長の山下浩介さんだよ、皆、コーちゃんって呼んでるの、コーちゃん、愛実だよ」
「寺越愛実です、こんにちは」
「おー、ちゃんと挨拶できるし、可愛いし、こちらこそ、よろしくね」
「コーちゃんも、食べるなら作るよ」
「イヤ、食べたよ、それより、いつから出て来るのかな」
美亜は、少し考えてから
「うん、未だ決めて無いけど、、、」
「社長さん、私、明日から働きたいです、ね、良いでしょ、ミーさん」
「えー、あんた、少し休みなよ、頑張らなくて良いよ、ね、コーちゃん」
「良いよ、愛実がやりたい様にしなよ、美亜そうしてあげなよ」
考えてみれば、愛実は、自分の意思で行動出来るのだ。
「解ったよ愛実、じゃ、こうしようよ、愛実は、この部屋の、掃除、洗濯をしてから店に来るの、朝早くから、働かせないからね」
「良し、決まり、そうしよう、じゃあ、歓迎会は、どうすんの、て、言っても3人だけしか居ないけど」
「ふん、ビールが飲みたいだけのくせして、でも、愛実スポンサーが付くから、今夜は、ゴージャスになるよ、やったね」
そう言いながら、美亜が、浩介に片手を差し出した。
浩介は、札を一枚手渡した、美亜が首を振りながら、手を引っ込めない、浩介が渋々、もう一枚出したら、ニッコリ顔の美亜が、愛実に抱きついた。
「愛実、コーちゃんに、缶ビール1本買って、後は、私達の好きなもの買おうね」
「マジか、折半じゃねーの、お前、俺が貧乏なの知ってるくせに」
「えー、社長さん可哀想、お金なら私も有るよ、待ってて」
美亜も浩介も、愛実の言葉に慌ててしまうと同時に、感激もしていた。
浩介は、何か話すと泣きそうになるので、言葉を発せずにいた。
美亜が愛実を抱いて、頭を撫でながら言う
「ゴメン、愛実違うの、アタシとコーちゃんがふざけただけなの、気にしないで、ゴメンね、コーちゃん、社長さんだから、お金なら有るから、大丈夫だから、心配しないで、ねっ」
「取り敢えず、仕事に戻るよ、美亜」
もう駄目だった、浩介は、急いで部屋から出て行った。
何と言う事だろう、何故こんな、優しい心根の子供が、、、
耐えきれずに、鼻水を啜った、そして、思う、こんなことが有って良い訳が無いと。
美亜に周りを案内して貰い、最後、野菜売場に行った、そこには、一人のパートで働く女性が居た
「愛実、こちらが、明日から、お世話になる樋口さんだよ」
「初めまして、寺越愛実です、よろしくお願いします」
「愛実ちゃんね、樋口です、こちらこそよろしくね」
愛実は、怖いオバサンだったらどうしようと思っていたが、優しそうな人で安心した。
夜は、愛実、美亜、浩介の3人で細やかながら、愛実の歓迎会をした。
「美亜、早くしようよ、愛実も早く座りな、ほれほれ」
「あーうるさい、コーちゃんが主役じゃないし、さあ、出来たよ、愛実座りなよ、手伝いしなくていいから、愛実何飲むの、オレンジジュースでいい、はいコーちゃんビール、いい、カンパーイ、愛実よろしくねー」
スーパーで買って来た、出来合いの物ばかりであったが、その雰囲気が、美亜と浩介の笑顔が、愛実を楽しませていた。
「私、社長さんにビール継ぎたい、どうすれば、いいのミーさん」
「いいんだよ、愛実、癖になるから、手酌でさ、どうしてもってんなら、コーちゃんに肩組んで、片手でこうよ」
「ひでェ、男同士か、、、おお、おおお、愛実、ありがとう、嬉しいー、あはは」
どっちみち、500のロング缶だと、愛実の小さな手では、両手で持たないと、つげなかった。
「ミーさんは、ビール飲まないの」
「どうしようかなー、飲んじゃえー、あっ、ありがとう、あれ、これじゃあ、愛実の歓迎会じゃないね」
「えー愛実は、楽しいけど、大人の宴会なんて知らなかったし」
「ええーい、酔ってしまえー、ウマーィ」
結局、酔っ払い二人を、相手に、愛実はあれこれと、動き回った、それでも何か楽しい、あの家に居た時の様な、嫌な気持ちが全く無かった。
楽しい時間は、あっと言う間に過ぎてしまう、既に浩介は、寝転んでいた。
「コーちゃん、ここで寝て行くの、ねえ、コーちゃん、愛実は、歯磨きしたら寝なさいよ、後は、いいからさ、て、言っても、殆ど片してくれたね、サンキュ」
「はーい、もう寝まーす、でも、社長さんには、何もかけてやらなくても良いのかな」
「社長じゃなくて、コーちゃんで良いよ、その方がコーちゃんも喜ぶよ、アタシも、さんずけしなくていいし、あ、愛実、隣にタオルケットあるんだ、かけてあげて」
愛実にそう言うと、美亜は、携帯で何処かに電話をかけた
「あ、今夜、もう飲んで、寝てしまったので、泊まりまーす、お休みなさい」
「え、ここミーちゃんの住まいじゃないの」
「違うよ、コーちゃんの家に電話したの、畑の向こうに家が見えたでしょ、あそこがそうだよ」
「えー、二人は、結婚してたの」
「してないよ、いいからさ、もう寝な、明日、欠伸してたら、樋口さんに叱られるよ」
何か有りそうなのだが、明日は、愛実の初仕事だった。
「はーい、お休みなさい」
愛実は、床についた瞬間に、たちどころに、眠りに墜ちた。
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