どんぐりの木

雨田ゴム長

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大村と若松は、釧路市阿寒町の、どんぐりの木がある山へ調査に向かう為に、阿寒湖温泉方向へと車を走らせていた。
市内を抜けて、牛乳工場がある交差点を過ぎると、原野と牧草地が広がる、典型的な道東の景色が見えてくる。
「主任、自分は今まで、あまり気にしていなかったのですが、かなりの野生動物が轢かれているものですね」
「うん、俺も普段何気なく運転しているが、こうして良く見ると、道路というのは、動物にとっては、かなり厳しい環境のようだな」
よく注意深く路上を見ると、キツネ、タヌキ、リス、ミンク、鳥類、様々な生き物達が犠牲になっていた。
「未だ今日は、鹿は見ていないですね
まあ、鹿の場合は、大き過ぎて、交通の障害になりますから、撤去も迅速ですからね」
「まあ、鹿の場合は、冬のまだ暗い内の方が危険だよ、それに、車も下手すりゃ運転手さえも、衝突したらただじゃすまない、冬だと急ブレーキは命取りだしな」
「鹿は増えましたよね、街中にも出没したりして」
鹿は、保護政策によって、急激に増えて、林業、農業被害が莫大なものとなり、またかえって、保護したことにより、生態系に多大な影響を及ぼしている。

須田の家の駐車場で、捜査車両を止め、2人は入山準備をした、あの山に登るためには、須田の家に車を止め、作業小屋付近から、入山するのが一番近く、便利でもあったのだ。
「山の稜線を挟んで、こうも状況が変わるものですかね
須田側の斜面の方は、こんなに大きな木は無かったですよ」
「これはあくまで推測だけど、向こう側は、須田達が盗掘や盗伐で主だったものは、大方取り尽くしたんだろう
そして、その後に大麻を栽培して儲けようとした」
「あー、成る程彼等なりに、土地の有効活用を考えたと
そこまで考えつくついでに、真っ当な仕事をすりゃいいのに」
「世の中、上手くいかんな
おお、確かに君が言うように、ここの木と言うか森は素晴らしいな
それと、、、」
「ですよね、私達が見た夢の中の景色と全く同じです、主任
デジャヴってこの事ですよね」
2人は夢で見覚えのある、どんぐりの群落に辿り着いた
森は、最初侵入者2人に対して、鳥の警戒音しか聴こえなかったが、今はあちこちから鳴き声や物音がしている。
「主任もしかして、夢のとおりなら、アイツ(羆)も、その辺に、あの時みたく、いきなり襲って来ないでしょうね」
「何とも言えないけど、少なくとも、あの時の強烈な臭いは、今のところ無いな
それよりも、あの大きな白い枯れ木に見覚えがないか」
「ええ、あの上の穴の中に、でかいフクロウがいるんですよね
何故か、目をつぶっても解ります」
2人は、夢の中の景色を確かめながら、山のなかを歩き回っていた。
そして、見つけた、その木は秋の枯れた色よりも、一段と色褪せていた。
周りのどんぐりの木よりも、一回り大きくはあるが、既に実も葉も無くし、近くの蔓や枝に支えられ、ただ風に揺れていた。
「主任これですね、ああ、幹にキノコの痕跡はないですね」
「若松、木の根元を見てみよう
恐らく俺たちの見た夢のとおりなら、何か有るだろうな」
2人は、藪をかき分けながら、太い幹の根元を検分した。
そこには、鹿の脚、黒いカバーの携帯、ミイラ化した鳥の死骸、同じくミイラ化した、黒い仔犬の様なキツネの仔、そして、夢では見なかったものがあった。
子狐を抱くように、多分母ギツネであろう、茶色いキツネの死骸が横たわっていた。
2人は、どちらともなく、枯れたどんぐりの、木の根元にしゃがみ込み、手を合わせた。
「でももし、本当にこの山の意思が働いたとしたら、その目標は既に達成されたと思う、現に俺達がここに来て、いや、来るように仕向けられたというのが正解かもしれないが、だが、この先どう進める、どう報告すればいいのか
俺達には信じることは出来るが、果たして、みんな納得するかな」
「そうですね、この山に来て今回の件について、そもそもの発端が動植物を、ないがしろにした自然界からの、仕返しでしたって報告を上げるのは簡単ですね
それにしても、このどんぐりの木は、自身の全生命をかけて、人間に挑んだというのが、私には何とも、言葉が見つかりません」
その時、森に秋の風が吹き抜けた、どんぐりの枝が揺れて雨のように、その実が降り注ぐ、それを追うかのように木の葉がサワサワと降り注ぐ
大村は、どんぐりの木の根元から携帯だけ拾って行こうと屈んだその時
「若松、見てみろよ、根元から新しい芽が出てきてるよ
やっぱり自然て凄いよな」
「はー、これから何百年も生きて大きく成長するのですね
人間なんて、かなわないですね」
周辺を画像に納め、携帯を拾って山を降り始めた、笹藪は胸の高さ位まであった、2人はそんな道もない山を、ガサガサとかき分けながら、歩いて行く、2人は、自分達とは違う音が近づいている事に全く気がつかなかった、風の向きも災いしたのだろう、それは突然2人の目の前に現れた

「ウッ、若松止まれ、そのまま動くな、じっとしているんだ」
僅か5メートル位先の藪から突然羆が現れた、顔だけでもかなりの大きさと、迫力がある、確証は無いが、あの時の羆とおもわれた。
風向きが災いしたのか、今回、大村は、臭いで感じ取ることができなかった。
ところが、羆は緊張を高める2人には、まるで関心が無さそうだった。
羆は、地面に落ちているどんぐりを、一心不乱に貪り食べていた。
「主任、コイツは、自分達には、まるっきり関心が無さそうですよ、自分達が、美味くない事に気付いたんすかね
ほら、目が合っても唸りもしないですよ」
「兎に角今のうちに、山を降りよう、話はコイツから、離れた後に出来るだろ」
「了解です、行きましょう」
山を降りて、帰りの車中で2人は困惑していた。
「どうしたもんですかね、私達の調査結果を、課長や係長は受け入れてくれますかね」
「難しいな、ただ、署へ帰ってから、まずは、口頭で報告して、その後正式な書類での報告をするが、ただこの件の処理を、事故で扱う可能性が高いとおもう」
「はあ、そうですね、人間以外の者が、明確な意思を持って行動したなんて誰も信じませんよね」
「そのとおりだ、十中八九この件は、事故扱いになるだろう
そして、須田他二名の死は、あくまでも調査の延長で、たまたま発見された稀有な事例として、処理されるはずだ」
「正直それで良いです、報告しても、かなり長く、詳細な説明が必要です、自分には上手く説明する自信なんてありませんから」
署に戻った2人は課長、係長との会議をして、一連の調査を終了し、報告書類の作成を持って、本件の最終結果とする事を確認した。
デスクに戻った大村に、若松が話かけて来た。
「主任、警視庁に調査報告をする際に、これも参考までに付け加えても、構わないですかね」
「お、ふーん、成る程ね、案外こっちの調査の方が、向こうは喜ぶかもな
良いよ、付け加えようじゃないか、文章的にはそんなに、長いもんでもないし
それにしても、何か因縁めいた物を感じるな」

警視庁の調査担当者は、釧路西警察署からの、最終報告を確認し、今回の件は事件として扱わない方向で終了した。
係官は、釧路西警察署の大村主任へ直接電話をかけ礼を述べた。
「大村主任、今回はご苦労をお掛けしました
大変重要な内容でした、今後も何かとお願いすると思いますが、宜しくお願いします」
そう言って、本件は、とりあえず終了し、別の事件を捜査する事を告げて来た。
もう既に、秋もかなり深まり、初霜の気配もされる寒い季節だった。

東京でも、秋が感じられるようになった
そんな、ある日、警視庁の捜査員が児島邸を訪ねて来た。
「何かね、未だ北海道の事を調べてるのか
わしや家内に聞いても、もう何も思い出せんよ
いい加減にしてくれないか」
「はい、確かに北海道の事を聞きますが、それは、最近の事ではなく、今から6年前の事になります、宜しいでしょうか
勿論、拒否できます、その際こちらも、正式な令状を用意して参ります
そうなりますと、マスコミも恐らくは、、、」
「バカな、5~6年前なんて直ぐに思い出せん、第一何の調査だね」
「先ず、今日伺ったのは、調査ではなく、捜査の為です
そして、お聞きしたいのは、貴方が宮島さんと、北海道釧路市阿寒湖温泉に、貴方の娘婿である村重さんの運転で行った時の事を」
「解った、但し弁護士の立ち会いを求める、それまでは、何も話さんぞ」
「宜しいでしょう、お待ちします」
捜査員は、確信していた、参考人程度で、即弁護士を求めるとは、かなり危ない案件だと認識があるのだ。
勿論、宮島と児島の娘婿の村重のところにも、同時に捜査員が向かっていた。
この一月後、北海道釧路の、阿寒湖温泉カジノリゾート誘致について、政財界の汚職疑惑が、広く知れ渡る事になった。
事件が、明るみになるのと時を同じくして、釧路西警察署生活安全課の課長以下、四名は、道内それぞれの部署へと転勤していった。
一つの部署が、全員入れ替えになるのは、不祥事以外は考えられない事だ、しかも、四人共栄転だった。
異例中の異例である、何かの力が働いたのだろうか。

山は冬の気配が迫っていた、それでも、生き物達は毎日を生きていた。
枯れてしまった、どんぐりの木も、何かが穴を空けて住んでいた。
もう誰も、山を荒らす者はない、文字通り、自然のままに生き物達は暮らして行けるのだ。
刈られてしまった反対側の斜面も、カケスやリス等ここに暮らす生き物達に、色々な実や種を運ばれて、やがて元に戻る事だろう。
又、楽園がやって来るに違いない。
自然は知っていた、人間は結構、愚かで弱い事を。
あの、どんぐりの群落が風に枝を揺らせていた。


















    
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