どんぐりの木

雨田ゴム長

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秋に見る夢

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居酒屋を出た大村と若松の2人は、それぞれ帰宅した。
結婚している大村は、来月出産する、妻に迎えられ、風呂に入り終わると、早々に床に着いた。

暗い夜の森の中だった、大きなフクロウが一羽、高い枯れ木の穴の中にいた、すると、もう一羽が飛んできて、巣穴を覗いた、中の一羽が立ち上がり、もう一羽と交代するかの様に、外へと立ち上がる、その足元には三個の卵が見えた、交代で卵を抱いていたのだ、夜の闇の中、巣の中にいた一羽が、どこかへ飛び立った。
目の前をいきなり何かが横切った、大きなフクロウだった、その瞬間ボンと言う音と共に、大きくはね飛ばされて道路脇の側溝へ落下していった。

暗い夜道に、何か小さな黒い塊が動いている、そこへ突然明るい光が現れた、車のライトの様だ、両者が交差した途端、黒い塊は動かなくなった、何かが鳴き声をあげている、キツネだ、地面に鼻を着けながら、時折顔を上げて鳴いている、必死になって何かを探している。
どうやら見つけた様だ、もう動かなくなったあの黒い塊だ、それは、コギツネだった、母ギツネが、居なくなった我が子を探していたのだ、もうピクリともしない、我が子の臭いを暫く嗅いだあと、母ギツネは、コギツネを咥えて何処かへ消えてしまった。

若い鹿が一頭、道路を渡ろうと、センターラインまで差し掛かっていた、その時ものすごいスピードで、黒塗りのベンツが向かって来た、野生の鹿は高速で近づく物に対して、一瞬立ち竦む癖がある。
ベンツの方も、鹿に気付いてハンドルを切ったが、コツンと軽い衝撃があった。
車はそのまま走り去って行った、中には、運転手の他に、2人の男が後部座席に乗っていた。
一方、生身の鹿はそうはいかなかった、片方の後ろ足を引きずっていた、普通なら野犬等に襲われる危険があったが、後ろ足は直らぬままに、何とか生きて来た、やがて、立派な姿の雄鹿となり、頭には見事な角が生えていた。
この冬も何とか越えそうなある日、川の近くを歩いていると、『ダーン』、足を傷めながら懸命に生きて来た、雄鹿が最後に聴いた音は、自身の生を絶ちきる銃声だった。
周りの雪が赤く染まって行く、そこへ2人の男が近づいて来た、記念撮影をした後、雄鹿の角を切り始めた、彼等は、切り落とした角だけを持って引き揚げてゆく、男のひとりが、ポケットから携帯電話を落とした様だが気付かずに去って行った。

男が三人、ノロノロと動いている、見覚えのある建物の中だった。
薄暗くはあったが、真夜中の様だ、緑色の植物を手にして床に拡げている、工事用のミキサーに乾燥させた植物を放り込んでいる、コーヒーミキサーに、乾燥させたキノコを放り込んで粉末にしている、三者三様に動いているのだが、会話がなく、緩慢な動きは今にも止まりそうだが、作業は続いた、まるで操り人形の様だ。
窓の外から、目が見えた、どこか見覚えのある目、そう、あの山の、フクロウの目が三人を観察していた。
男のひとりが、段ボール箱に何やら詰め込みだした。
作業も大詰めを迎えた様子だ、夜が明けようとしているフクロウはもう姿を消していた、一番年上そうな男が、ガムテープで封をした段ボールを、何処かの家の玄関に無造作に置いて出てきた。
年上の男が戻り、作業場に三人揃ったところで、全員一気に倒れこんだ、本当に操り人形の糸が切れたみたく、魂が抜け落ちた、そして忽ちの内に身体がしぼんでしまった。
一瞬でミイラが三体、出来あがってしまった。

「、、、、た、あなた、大丈夫なの、ねえ」
「う、う、う、ぉ、おお、あれっ、夢を見てたのか」
「ずいぶんひどく、うなされてたけど、凄い汗、ほら、風邪引くから着替えて」
「アア、わかった、そうする」
少し飲みすぎたか、いや、いつもより少ないほうだ、第一頭がスッキリしている
とりあえず着替えてからもう一度、床に着いた。

山の中だった、大きな木が何本も生えている、雪がある、冬なのか、なにもなさそうだが、良く見るとリスが走り回っている、鳥達が樹間を飛び回っている、キツネやタヌキ、野ウサギも冬を過ごしていた。
木々は、春の為に、ほんの小さな芽を膨らませ、それをあてにする鳥や他の動物を引き寄せていた。
銃声が聞こえた、山の下、川の向こうで、鹿が倒れている、人間達が近づいて何かをしていた。
人間達が去ると、この山から一羽のオジロワシが飛び立った、何か黒い塊を掴んで、戻ると、大きな木がある根元へ落とした、人間が使う携帯電話だった、食べられないと知り落としたのだろうか、鷲はそのまま飛んで行ってしまった。
春がやって来た、山の全てが喜んでいた、どんどん緑が増えて来る、日射しも明るく、暖かさが目に見える、大きな羆が、ふきのとうを一心不乱に貪っている、鳥達は餌やペアを探してかしましい、コブシや山桜も咲いている。
大きなどんぐりの木も、枝を広げ春の日射しを浴びていた。
いつの間にか、山が夏に変わる、緑は色濃く、その葉は威勢を増し、山全体が深緑になっていた。
その中で、どんぐりの木が一本元気を無くしていた、周りが濃い緑に染まる中、既に一本だけ、葉も枝も幹までもが、茶色に変化して、枝は、自身の重さに耐えかねるかの様に、萎れていた。
枝や幹が茶色いのは、キノコが全体を覆っていたからだ。
突然若い男が1人現れ、そのキノコを取り始めた、動作は緩慢で顔には、生気がなかった、男が持参した、特大のリュックサックを満杯にすると、それを担いで何処かへ消えていった。
その木の根元に、黒い塊が二つあった、一つは携帯電話、もう一つは、動物の死骸の様だ、未だあった、大きな鳥、蹄の付いた動物の脚の骨。
何者かが、ここへ運びこんだかの様だ、並べられていた。

錦秋がやって来た、山の全てが、喜びに溢れて、生きとし行ける物全てが、大急ぎで来るべき冬に備えている。
どんぐりの木の群落も、その実をおびただしく、落下させ山に集う生き物達に、分け隔てなく与えていた。
その中で、夏枯れしている様な、あの、どんぐりの木は、最早一枚の葉も残さず、本当に立ち枯れてしまっていた。
周りの秋の喜びもしらず、だだ、白ずんだ木肌をさらし、風に揺れていた。
今にも倒れてしまいそうな、その巨木を、周囲の枝や、山葡萄の蔓で、労るかの様に支えている。
いつの間にか、羆が現れた、枯れたどんぐりの木に、立ち上がり、自身の背中を擦り付けた、最後に前足の鋭い爪で木の幹に、縄張りの印を付けて、そこら辺に落ちている、どんぐりの実を貪り始めた。

大村は、目が覚めた、今まで生きて来た中で、これ程までに、ハッキリと、全ての情景を思い出せる夢など、見たことがなかった。
深夜というよりも、早朝と言える時刻だった、彼は、夢の内容を詳細にメモを取り始めた。
言うなれば、自分自身に対して調書を取り始めたのだ。
これが、もし現実だったならば、埋まらない部分が、解明されない箇所が、全て埋る事になるのだが。
どう考えても、人間以外の者が、その意思を持って、何らかの行動を起こす事など考えられない。
仮に、この内容を上司、或いは、会議において報告したとして、誰が支持してくれるだろうか。
大村は、駄目もとで、取り敢えず、若松にはこの事を報せる事にした。

「エー、主任も見たんですね、あれ、自分も大まかにメモって来たんです、えーっと、まずは、」
「若松、待てよ、会議室に行こうや」
二人は、会議室でじっくりと話し合った、結果その内容がほとんどと言って良い位に一致している。
「主任、こんな事ってあり得ないでしょう、2人共催眠術にでもかけられましたかね、イヤ考えられないな
だって、色までが一致する夢なんてあり得ないですよ」
「解ってるって、だから、混乱しても良いように、会議室での話し合いに変えたんだ
どう思う、現場に出向いて検証してみるしかないだろう」
「ええ、でも今回の場合、間違っていた方が簡単に終われますけど、合致した場合どうするんですか、上に対する報告が、かなり大変じゃないですか
私達の報告で、納得してもらえますかね」
「兎に角、動いてみて報告を上げる、シンプルに行こうや」

大村と若松の2人は、須田達の関係していた山には、足を運んではいたが、反対側には行ってはいない、と、言うよりも、関心を持たなかった。
事故ならば解るが、犯罪、或いは事件に、その主たる原因に、自然が関わるなど、あり得ないではないか。
そして若松の言うとおり、2人の出した推論に誰か賛同、或いは決済の印を押してくれるのだろうか。



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