信兄(ノブにい)

雨田ゴム長

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岐阜城別れの兆し

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1567年(永禄10年)
    信長は、足掛け約10年懸けて美濃を攻略し稲葉山城を手に入れた、そして地名を岐阜、城の名前を岐阜城に改めた。
    ここから、天下を納めるという信長の強い思い入れがあった。
    
    岐阜城大広間に、織田家の重臣達が正装して客の到着を待っていた。
    この度、北近江一帯をおさめる浅井家との同盟が成立し、双方の顔合わせをするため、信長と帰蝶も一緒に、浅井家の若き当主、浅井長政の一行を待っていた。
    そして、もう一人重要人物の到着を気を揉みながら待っていた。

信長の小姓、森蘭丸が来客を広間に告げる
「お市の方様御到着にございます」

蘭丸の声と同時に市が広間に現れた

「ちーす、みんな元気にしてたかなー、のぶにぃ、お姉ちゃんやっほー、誰今の可愛い子清州にいなくね」

「はァ、何だお前の格好は、その丈の短い着物、足が見えておるでわないか、手足の爪はどうしたのだ真っ赤ではないか」

「何だよ、のぶにぃ、お久なのにガミガミと、此の爪は赤漆塗ってんの、実の妹の足なんか見て変なのってか完全に変態じゃね、京の都の変態公家と変わんねーじゃん
    大体さあー、のぶにぃだって若かりし頃は、こんな格好してたじゃん、トッシー(前田利家)以上の家臣ならみ~んな知ってんし
    あーしのほうが綺麗な分だけ、まだましってもんじゃん」

「おーおー、そうかそうか、いや、懐かしいの、で、その話は一体誰から聞いたのだ、ん~」

重臣一堂に緊張が走る、心当たりが全員にあった。

「あーら、帰蝶ねーちゃんだってご存知でございます、吉法師様(信長の幼名)」

帰蝶は思わず、扇子を広げ目から下を隠した、完全に目が笑っていた。

「どーでもいいけど、この城、何でこんな高い山の中にあんの、意味わかんない、のぶにぃ、かぶと虫でも採りに来たの」

堪え切れなくなった帰蝶が声を出して笑っていた。
他の家臣達も平伏しながら、肩を震わせている。

    この信長に対し無礼の数々、どうしてくれよう、が、そこは、ぐっと堪えて、市に話しかけた。

「もう良い、時間がないわ、今日お前を呼びよせたのは、婚儀の話よ、此度、北近江の浅井長政殿に嫁いではくれぬか」

「へっ、北近江って琵琶湖のほとりの、あーし河童じゃねーし
     そりゃ、この御時世だから行けって言われりゃ行くけどさ
     でも、のぶにぃ、あーしにも、相手に対する条件ってか希望があんだよね
     聞いてくんない」

「なんじゃ、申してみよ」

    やはり、市ほどになると、相当厳しい条件を求めて来るに違いないと信長をはじめ、皆が固唾を飲んで市の言葉をまった。

「やっぱ、ちび、でぶ、はげはやだよ、あーし、ぜってー無理だかんね
     甲斐の武田や三河の徳川に行かされたらソッコーばっくれちまおって思ってたんだから
     まっ、あそこは先に決まってよかったよ、超幸福
    何にしてもさ、さっきの蘭ちゃん(森蘭丸)程じゃなくても、観てくれも重視してる訳よ
    ほんで、その人は結局どうなの」

   「恐れながら、光秀が申し上げます、かねてより信長様の命により、浅井長政殿との交渉を引き受けました
     お市様の目に叶う人物とおもわれまする」

    信長の顔に、よくぞ申した光秀と書いてあった。ところが、、

「あ~ダメダメ、みっちー(明智光秀)優しいから、権ちゃん(権六)は、熊と比べたら毛深くないとか、木下藤吉郎はどちらかと言うと馬に似てるって言いそうじゃん
    そこが、みっちーのいいとこなんだけどさ」

    信長が言う前に、珍しく帰蝶が皆の前で話し出した

「お市殿それでは、こうしてはいかがか
     長政殿はもうじきに此の城に参ります、そなたは何処か陰に隠れ
その姿を見定め
   その後信長様に答えを申し上げる事にしては
     殿いかがでございましょう」

「わしも賛成よ、どうだお市」

「わっかり~、じゃ、あ~しどっかに消えまーす」

    どちらかと言うと、この格好のお市にいられても、婚儀どころか同盟関係すら危うくなりかねない。

「浅井長政様の御到着にございます」
   
    正装姿で現れたのは、この場にいる、誰もが認める素晴らしい若武者であった。

    双方の顔合わせも終わり、場も華やいで来たその時、広間に森蘭丸の声が響いた
「お市の方様お見えにございます」

ひぇっ
むしろ織田方家臣一同に緊張が走る
頭を下げたまま上げたくない

    その時、浅井方から「ほぉ~」感嘆ともため息とも言えない音が聞こえた
    権六をはじめ織田方全員怖いもの見たさに恐る恐る顔を上げた。

   「織田信長が妹、お市にございます、お見知りおきのほどを」

    「浅井長政にござる」

  先ほどの格好とは見違えるほどの姫御前だった。
  お市は、物陰から浅井長政を見た途端
「やべっ、ソッコー着替えなきゃ、おかる(市の付け人、くノ一)帰蝶ねえのとこからあーしの着れそうなきものをギッてきて
     今から、織田お市本気態勢に入りまーす」
   勝機は絶対に逃さない織田家の血、恐るべし

信長は帰蝶に耳打ちした
「おなごとは恐ろしいものよ」

「おやまあ、もう何十年も前に、この城でわたくしの父、斎藤道三相手に同じ事を仕出かした殿方がいたそうな
    聞いた話ではありますが、血は争えぬものでございまするなホホホ」

「うぉっほん、これ市、この信長、
浅井殿と話しがあるゆえそれにて」

   「はい、兄上様」お市の返事を聞いた織田方の家臣達は、「おお~」全員初めてその言葉を耳にしたのだ。

今度は織田方がどよめいた。
   
お市は去り際、浅井方に見えない角度で、何人かの脇腹に蹴りを入れて去っていった。

  この日より、織田と浅井の同盟が正式に成立し、同盟をより強固な物とするため、織田家姫お市と浅井家当主浅井長政の婚儀も決定した。

   お市の婚儀の報は、織田領内を瞬く間に駆け巡り、清州の城も華やいだ雰囲気が溢れた。
   早々に、嫁入りの日取りも決まったその時、皆あることに気付き出した。
    それを考えると、高揚気分が、がた落ちだった。





   
    











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