希少気質の守護者(ガーディアン)

空乃参三

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三月一八日(火)

店探しの手伝い

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 自分が担当している保有者は、穏円やすま いずくさんという三四歳の男の人だ。
 姓の通り穏やかな人で、二年ほど前、希少気質保護の制度ができたときに保有者と認められた。
 保護対象になるためには希少気質保護プログラムに応募する必要があるのだけど、穏円さんは自分で応募してきたそうだ。
 背は自分より高いが、成人男性の標準くらいだと思う。
 ふっくらした顔つきだが、体型はやや細め。外見的特徴はあまりないかもしれない。

 穏円さんはもともとは床井さんが担当していて、自分が気質保護員の資格を取ったときに自分の担当に変更になった。
 床井さんによれば、
 「表に出て見える気質は違うかもしれないけど、根っこは有触さんと似たタイプだと思うから」
 という理由らしい。
 ちょうど床井さんが希少気質保護課のマネージャーに昇進した時期と重なったので、その影響もあると思う。

 今日は穏円さんと会って、いくつか確認しなければならないことがある。
 チャットやオンライン会議でも良いのだが、穏円さんが外で会って話をしたいということだったのでそれに乗った。
 自分も家の中に籠ってばかりだとキツイ。
 家で仕事をすると用事がない限り外に出ないので、運動不足になる。
 たまには外に出ないと気分が滅入るので、実のところ穏円さんの要望はありがたい。
 保護される側なのに穏円さんはこちらに気を遣っているようにも思うのだが、遠慮なく甘えることにする。

 「あ、すみません! お待たせしました!」
 待ち合わせ場所となったカフェで穏円さんの姿を見つけた。
 約束の時間の五分ほど前なのだが、穏円さんが先に着いていて待っていたのだ。

 「いやいや、まだ時間前だし。こっちが少し早く着いちゃったんだ」
 穏円さんが笑って手を振った。
 年齢は穏円さんの方が五つ上なのだが、あまりそういうことを意識させない人だと思う。
 こちらも遠慮なく飲み物を買いに行ってから、穏円さんの向かいの席に座った。
 この店はラテよりコーヒーの方が旨いと思うので、ブレンドを選択した。

 「最初に必要な手続きがあるならそれからやってもらえるかな?」
 「了解です。健康診断と医師との面談の日程を決めてしまいましょう」
 気質保護者にとって、担当する保有者の健康管理は重要な業務のひとつだ。
 といっても、こちらは医療の専門家ではないので、定期的に健康診断やカウンセリングを受けてもらうよう手配するだけだ。

 「できれば水曜か木曜がよいのだけど、できそうかな?」
 穏円さんはこの手の予定を水曜や木曜に入れたがる傾向がある。
 彼は多少お酒を飲むが、原則として金土日と決めているそうだ。
 何度も彼の酒には付き合っているので、彼が節度ある飲み方をしているのはよく知っている。
 それでも飲んだ直後に医者に行くのは気になるそうで、できるだけ飲んだ日から日を空けてということだそうだ。
 自分も医者に行くのはあまり好きでないので、何となくだが気持ちはわかる気がする。

 健康診断と医師との面談の予約を無事済ませた後は、穏円さんの用事に付き合うことになっている。
 これも仕事のひとつだ。
 担当する保有者と良好な関係を保つために必要なことだと自分は思っている。

 保有者との距離の取り方は気質保護員の個性が出やすい。
 自分は穏円さんに対しては友人であり仕事の仲間というスタンスで接しているつもりだ。
 穏円さんがどう思っているのかはわからないけど。
 業務外でも付き合いがあるので、この形がいいと勝手に考えてのことだ。
 公私混同と言われても仕方ないところだが、希少気質保有者保護の精神には反していないと……思う。

 もちろん自分と異なるスタンスで保有者に接する人もいる。
 ある先輩はコミュニケーションを最小限にして、できるだけ保有者が一人でいる時間を作ることができるようにしている。
 別の先輩はまるで従者のように接して保有者の頼みを聞いている。自分にはとても真似できそうにもないけど。

 変わったところでは、三人の気質保護員でローテーションを組んでいるというグループもある。
 保有者から見れば、
 ・Aさんに相談しにくいことでもBさんなら相談できる
 ・その一方で、Bさんに頼みにくい依頼事項があるが、Aさんになら頼みやすい
 ・AさんやBさんが苦手としていることでも、Cさんならやってくれる
 といったようなこともあるらしく、このやり方でうまくいっているようだ。

 自分も穏円さんの担当じゃなかったら別のスタンスをとっていたかもしれない。

 保有者が担当の交代を望めば、気質保護員はこれを拒むことはできない。
 今のところ穏円さんの担当を外されていないのは、穏円さんが変更を要求していないからだ。
 確信はないけど、穏円さんに対しては現在のスタンスで良いのではないかと思う。

 担当の変更と言えば、穏円さんに関しては床井さんから自分に担当が変更になっている。
 これは社の都合であって、穏円さんが担当変更を望んだわけではないそうだ。穏円さん本人もそう言っている。

 「準備が出来たら出発しようか」
 こちらの様子を見ながら穏円さんが声をかけてきた。
 「そうですね、遅くなると混みそうですからね」
 危ない危ない、仕事を忘れるところだった。
 担当交代を要求されないよう、穏円さんの用事に集中しよう。
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