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第十章
428:不安定で異質な存在
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アイネスがロビーを見守る一方で、列の後ろから二番目を歩いている小柄な女性は度々後ろを振り返った。
その口は微かに動いているのだが、そこからどのような言葉が発せられているかを聞き取ることはできない。
自らの意思でこの探索行に加わりながら、彼女は隊の仲間と口をきくことはなかった。
コナカの質問にうなずくか首を振って意思を伝えるのが、彼女の唯一といってよいコミュニケーションの手段だった。
彼女の言葉は、常にこの場に居ない一人の青年に向けて発せられていた。
(社長……どちらにいらっしゃいますか?
わたしをどこへ……導いてくださるのですか?
わたしは、どうすればいいのですか……?
社長……)
彼女もまた、オイゲンの思いを受け継いだ一人であった。
ただし、それは彼女が必ずしも望んだことではなかった。
彼女の存在をこの世で唯一認められている場所、その地を失ったがゆえのやむをえない行動である。決して自ら望んで、能動的に起こした行動ではない。
彼女にオイゲンの思いを受け継いだ他の者と違う点があるとするならば、この点であるに違いなかった。
だが、それは彼女が受け継いだ思いの量や重さが少ないことを意味しない。
むしろ、彼女自身はロビーと同じかそれ以上にオイゲンの思いを重大なものととらえている。
彼女━━ECN社もと社長秘書メイ・カワナ━━の存在は「東部探索隊」の中でも異質であった。
他の六名がロビーの指揮のもと、思いを一つにしてこの困難に立ち向かう中、メイだけが常に輪の外にいた。
唯一、コナカがメイを輪の中に引き入れようと試みているのだが、メイは頑なにそれを拒み続けた。
カネサキやオオイダなどはメイのこの態度に怒りを隠せず、何度もロビーにメイを隊から外すように詰め寄ったのだが、ロビーは頑としてそれを受け入れなかった。
カネサキに至っては、メイに直接詰め寄って、怒りもあらわにこう告げたこともあった。
「隊のみんなと協力し合えないのなら、同じ行動が取れないのなら、今すぐ一人で帰りなさい!
あんたがいるから、他のみんなが危険に晒されるのよ! こういう場では、みんながまとまって同じ行動を取らなければいけないの!
いい?! あんたが悪いってわかっている?!」
メイはうつむいてカネサキの言葉を聞いていたが、突然その場から飛び出したかと思うと、そのまま先へと走り去ろうとした。
彼女が先に進んだのは、彼女にとってオイゲンの意志がこの世での唯一のよりどころであったからだ。
オイゲンの意志が東にある以上、彼女にとって戻るという選択肢はなかったのである。
このときは、慌てたロビーとアイネスが彼女を追い、抵抗する彼女を捕まえて事なきを得た。
ロビーはカネサキに対して、「安全な場所に出るまで、彼女の追放は認めない」と宣言したため、カネサキはしぶしぶそれに従った。
その代わり、カネサキはメイを「彼女が更生するまで、私は彼女がいないものと考える」と言って、メイを気に掛けることをしなかった。
その一方でコナカは密かにメイを気遣い、隊から離れないよう、アイネスやホンゴウに彼女の監視を依頼したのであった。
表立ってメイに手を貸すのはカネサキの目もあり、憚られたからである。
メイの存在は「東部探索隊」にとって、不協和音を持ち込む原因となりかねなかったが、今のところ辛うじて隊の結束は保たれていた。
隊の結束が弱まることの危機は重々承知していたから、ロビーも隊の結束については心を砕いている。
隊のリーダーは自分自身や仲の良い友人だけではなく、自らが率いる全員のことを考えなければならない。
ロビーは、こうしたリーダーの責任を確実に果たしている。
自身より年上で、かつ経験も豊かなメンバーがほとんどの隊の中で、重圧を自らの力に変えてきたのだ。
ロビーはこの「東部探索隊」の七人の中の最年少で、つい数日前に二四回目の誕生日を迎えた。
隊にはもう一人二四歳のメンバーがいる。
こちらは、隊のメンバーから半ば厄介者扱いされ、辛うじて隊員としての地位を許されているメイである。
メイの方が半年ほど年長ではあるのだが、メイの外見と突飛な行動が彼女を幼く見せているため、ロビーの方が遥かに大人びて見える。
年少ながらもロビーの実力は隊の中で認められていたので、隊でロビーを軽く扱う者はなかった。
メイが隊員としての地位を追われなかったのも、ロビーが彼女を隊から追放することに賛成しなかったという点が大きい。
ロビーの言葉は隊の中でもそれだけ重く扱われていたのである。
その口は微かに動いているのだが、そこからどのような言葉が発せられているかを聞き取ることはできない。
自らの意思でこの探索行に加わりながら、彼女は隊の仲間と口をきくことはなかった。
コナカの質問にうなずくか首を振って意思を伝えるのが、彼女の唯一といってよいコミュニケーションの手段だった。
彼女の言葉は、常にこの場に居ない一人の青年に向けて発せられていた。
(社長……どちらにいらっしゃいますか?
わたしをどこへ……導いてくださるのですか?
わたしは、どうすればいいのですか……?
社長……)
彼女もまた、オイゲンの思いを受け継いだ一人であった。
ただし、それは彼女が必ずしも望んだことではなかった。
彼女の存在をこの世で唯一認められている場所、その地を失ったがゆえのやむをえない行動である。決して自ら望んで、能動的に起こした行動ではない。
彼女にオイゲンの思いを受け継いだ他の者と違う点があるとするならば、この点であるに違いなかった。
だが、それは彼女が受け継いだ思いの量や重さが少ないことを意味しない。
むしろ、彼女自身はロビーと同じかそれ以上にオイゲンの思いを重大なものととらえている。
彼女━━ECN社もと社長秘書メイ・カワナ━━の存在は「東部探索隊」の中でも異質であった。
他の六名がロビーの指揮のもと、思いを一つにしてこの困難に立ち向かう中、メイだけが常に輪の外にいた。
唯一、コナカがメイを輪の中に引き入れようと試みているのだが、メイは頑なにそれを拒み続けた。
カネサキやオオイダなどはメイのこの態度に怒りを隠せず、何度もロビーにメイを隊から外すように詰め寄ったのだが、ロビーは頑としてそれを受け入れなかった。
カネサキに至っては、メイに直接詰め寄って、怒りもあらわにこう告げたこともあった。
「隊のみんなと協力し合えないのなら、同じ行動が取れないのなら、今すぐ一人で帰りなさい!
あんたがいるから、他のみんなが危険に晒されるのよ! こういう場では、みんながまとまって同じ行動を取らなければいけないの!
いい?! あんたが悪いってわかっている?!」
メイはうつむいてカネサキの言葉を聞いていたが、突然その場から飛び出したかと思うと、そのまま先へと走り去ろうとした。
彼女が先に進んだのは、彼女にとってオイゲンの意志がこの世での唯一のよりどころであったからだ。
オイゲンの意志が東にある以上、彼女にとって戻るという選択肢はなかったのである。
このときは、慌てたロビーとアイネスが彼女を追い、抵抗する彼女を捕まえて事なきを得た。
ロビーはカネサキに対して、「安全な場所に出るまで、彼女の追放は認めない」と宣言したため、カネサキはしぶしぶそれに従った。
その代わり、カネサキはメイを「彼女が更生するまで、私は彼女がいないものと考える」と言って、メイを気に掛けることをしなかった。
その一方でコナカは密かにメイを気遣い、隊から離れないよう、アイネスやホンゴウに彼女の監視を依頼したのであった。
表立ってメイに手を貸すのはカネサキの目もあり、憚られたからである。
メイの存在は「東部探索隊」にとって、不協和音を持ち込む原因となりかねなかったが、今のところ辛うじて隊の結束は保たれていた。
隊の結束が弱まることの危機は重々承知していたから、ロビーも隊の結束については心を砕いている。
隊のリーダーは自分自身や仲の良い友人だけではなく、自らが率いる全員のことを考えなければならない。
ロビーは、こうしたリーダーの責任を確実に果たしている。
自身より年上で、かつ経験も豊かなメンバーがほとんどの隊の中で、重圧を自らの力に変えてきたのだ。
ロビーはこの「東部探索隊」の七人の中の最年少で、つい数日前に二四回目の誕生日を迎えた。
隊にはもう一人二四歳のメンバーがいる。
こちらは、隊のメンバーから半ば厄介者扱いされ、辛うじて隊員としての地位を許されているメイである。
メイの方が半年ほど年長ではあるのだが、メイの外見と突飛な行動が彼女を幼く見せているため、ロビーの方が遥かに大人びて見える。
年少ながらもロビーの実力は隊の中で認められていたので、隊でロビーを軽く扱う者はなかった。
メイが隊員としての地位を追われなかったのも、ロビーが彼女を隊から追放することに賛成しなかったという点が大きい。
ロビーの言葉は隊の中でもそれだけ重く扱われていたのである。
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