6 / 304
第十章
429:不協和音
しおりを挟む
ルート変更をロビーが決断してから一時間ほどで、隊は彼らが拠点として定めたテントにたどり着いた。
ここで彼らは次に試すルートを検討しながら、軽く休憩を取ることにした。
この探索は彼らの住む「サブマリン島」と呼ばれる島の東側に、人が居住可能な土地があるかどうかを調査するためのものである。
サブマリン島はその名が示すとおり、巨大な潜水艦のような形をしている。
上空から見れば、西に向かって進む潜水艦のシルエットが浮かび上がるのだが、残念ながらこの島の島民の中で、その姿を見た者は多くない。
サブマリン島は資源に恵まれず、その影響で交通機関が未発達である。
航空機はおろか自動車もなく、わずかに島の西部に路線長百キロに満たない鉄道が走っているだけなのだ。
島の中央部を南北に貫く山脈と巨大な湖により島は東西に分断されており、その西半分に人々が居住している。そして、未だ島の東部を訪れた者はない。
「東部探索隊」が島の東部にたどり着けば、この未踏の地を最初に訪れた者となるはずであった。
「ホンゴウさん、北側でよかったな? 俺はこのくらいのルートをとろうと思うが、どうだろうか?」
ロビーがほとんど真っ白な地図を開き、ホンゴウに向かって指で想定するルートをなぞる。
「確実なことは言えませんが、今回は隊長の示したルートを試しましょう。問題があれば、再びここに戻るのがベストだと……」
ホンゴウの答えの最中に一人の女性が割って入った。
「ちょっとね! そんな悠長なこと言っていられるの? これで、何本目のルートだと思っているのよ?! 時間が無いって言っているのは、ホンゴウさん、アンタでしょ?!」
「申し訳ありません。何分未踏の地なので、セオリーに従って地道に道を探すしか……」
「で、また同じ失敗を繰り返すわけ? アンタ、この道のプロじゃなかったの?! プロってのは成功してナンボじゃないの?! カネサキも何か言ってよ!」
その訴えにカネサキが反応する。
「オオイダ、落ち着きなさい! アンタがギャーギャー騒いでいたらこっちが迷惑だわ!」
「何よお!」
「止めろ! 二人とも!」
カネサキとオオイダの間に険悪な空気が流れかけたのを察知して、ロビーが割って入った。
「文句があったら俺に言ってくれ! 遅々としてルートを見つけられないのは隊長の俺の責任だ! そのことについては謝る!」
ロビーも隊が一向に先に進まないことに焦れているのだが、彼にしては驚異的な忍耐力で耐えている。
ここで隊の結束にひびが入れば、探索そのものが失敗に終わる可能性が高いことを重々承知しているからだ。
新しいルートを試しては上手くいかずに拠点に戻ることを繰り返しているためか、隊のメンバーにも徐々に苛立ちが目立つようになってきている。
引き返すこと自体は探索の失敗ではないとロビーは信じているが、他のメンバーがそう割り切れるかは微妙なところだ。
人が通ってはならない危険な場所を特定するのも隊の重要な役割であるとロビーは考えている。
だが、それは探索を事業として行っているECN社にとってプラスの利益を生み出すものではないし、セスやウォーリー、オイゲンの思いを実現するものでもない。その点が問題である。
成果の認識がメンバーによって異なるとなると、今後の探索に影響が出るかもしれないとロビーは懸念している。
何度も拠点に引き返していることについて、ロビーにホンゴウを責める気はない。
ロビーの場合、感情が先走る傾向があるので、ホンゴウが示したルートに問題が見つかれば咄嗟に彼を怒鳴ることもある。
しかし、ロビーは本気で彼を責めているわけではない。
今まで誰もが通ったことのない道である。
ホンゴウとて手探りで道を探し求めるしかなく、試行錯誤を繰り返すのはある意味仕方の無いことなのだ。
それにホンゴウも未踏の地の探索の経験はない。
ロビーもそのことを承知していたから、ホンゴウを怒鳴った後は、必ずフォローを入れていたのである。
「休んで体力は回復したか?
ならば出発しよう。少しでも早く向こう側に到達したいのは俺も同じだ。頑張ろう」
ロビーが勢いよく立ち上がった。
ホンゴウ、アイネスがそれに続く。
すぐに七人が一列となって、ロビーを先頭に歩き始めた。
今回でこの拠点からの出発は五度目となる。
五本目のルートに成功を託しながら、彼らはゆっくりと歩みを進めていく。
(セス、すまない。もう少し待っていてくれ……)
ロビーは天に向かってそう願った。
しかし、その声は届けるべき相手に届くことはない。
たとえ、どれだけ大きい声であったとしても。
その相手は既にこの世のものではなかったのだから……
だが、ロビーがそれに気づくことはない。いや、敢えてその可能性を無視していた。
声は必ず届く。そして、自らの口で探索の結果を伝えることができるとロビーは信じている。
ここで彼らは次に試すルートを検討しながら、軽く休憩を取ることにした。
この探索は彼らの住む「サブマリン島」と呼ばれる島の東側に、人が居住可能な土地があるかどうかを調査するためのものである。
サブマリン島はその名が示すとおり、巨大な潜水艦のような形をしている。
上空から見れば、西に向かって進む潜水艦のシルエットが浮かび上がるのだが、残念ながらこの島の島民の中で、その姿を見た者は多くない。
サブマリン島は資源に恵まれず、その影響で交通機関が未発達である。
航空機はおろか自動車もなく、わずかに島の西部に路線長百キロに満たない鉄道が走っているだけなのだ。
島の中央部を南北に貫く山脈と巨大な湖により島は東西に分断されており、その西半分に人々が居住している。そして、未だ島の東部を訪れた者はない。
「東部探索隊」が島の東部にたどり着けば、この未踏の地を最初に訪れた者となるはずであった。
「ホンゴウさん、北側でよかったな? 俺はこのくらいのルートをとろうと思うが、どうだろうか?」
ロビーがほとんど真っ白な地図を開き、ホンゴウに向かって指で想定するルートをなぞる。
「確実なことは言えませんが、今回は隊長の示したルートを試しましょう。問題があれば、再びここに戻るのがベストだと……」
ホンゴウの答えの最中に一人の女性が割って入った。
「ちょっとね! そんな悠長なこと言っていられるの? これで、何本目のルートだと思っているのよ?! 時間が無いって言っているのは、ホンゴウさん、アンタでしょ?!」
「申し訳ありません。何分未踏の地なので、セオリーに従って地道に道を探すしか……」
「で、また同じ失敗を繰り返すわけ? アンタ、この道のプロじゃなかったの?! プロってのは成功してナンボじゃないの?! カネサキも何か言ってよ!」
その訴えにカネサキが反応する。
「オオイダ、落ち着きなさい! アンタがギャーギャー騒いでいたらこっちが迷惑だわ!」
「何よお!」
「止めろ! 二人とも!」
カネサキとオオイダの間に険悪な空気が流れかけたのを察知して、ロビーが割って入った。
「文句があったら俺に言ってくれ! 遅々としてルートを見つけられないのは隊長の俺の責任だ! そのことについては謝る!」
ロビーも隊が一向に先に進まないことに焦れているのだが、彼にしては驚異的な忍耐力で耐えている。
ここで隊の結束にひびが入れば、探索そのものが失敗に終わる可能性が高いことを重々承知しているからだ。
新しいルートを試しては上手くいかずに拠点に戻ることを繰り返しているためか、隊のメンバーにも徐々に苛立ちが目立つようになってきている。
引き返すこと自体は探索の失敗ではないとロビーは信じているが、他のメンバーがそう割り切れるかは微妙なところだ。
人が通ってはならない危険な場所を特定するのも隊の重要な役割であるとロビーは考えている。
だが、それは探索を事業として行っているECN社にとってプラスの利益を生み出すものではないし、セスやウォーリー、オイゲンの思いを実現するものでもない。その点が問題である。
成果の認識がメンバーによって異なるとなると、今後の探索に影響が出るかもしれないとロビーは懸念している。
何度も拠点に引き返していることについて、ロビーにホンゴウを責める気はない。
ロビーの場合、感情が先走る傾向があるので、ホンゴウが示したルートに問題が見つかれば咄嗟に彼を怒鳴ることもある。
しかし、ロビーは本気で彼を責めているわけではない。
今まで誰もが通ったことのない道である。
ホンゴウとて手探りで道を探し求めるしかなく、試行錯誤を繰り返すのはある意味仕方の無いことなのだ。
それにホンゴウも未踏の地の探索の経験はない。
ロビーもそのことを承知していたから、ホンゴウを怒鳴った後は、必ずフォローを入れていたのである。
「休んで体力は回復したか?
ならば出発しよう。少しでも早く向こう側に到達したいのは俺も同じだ。頑張ろう」
ロビーが勢いよく立ち上がった。
ホンゴウ、アイネスがそれに続く。
すぐに七人が一列となって、ロビーを先頭に歩き始めた。
今回でこの拠点からの出発は五度目となる。
五本目のルートに成功を託しながら、彼らはゆっくりと歩みを進めていく。
(セス、すまない。もう少し待っていてくれ……)
ロビーは天に向かってそう願った。
しかし、その声は届けるべき相手に届くことはない。
たとえ、どれだけ大きい声であったとしても。
その相手は既にこの世のものではなかったのだから……
だが、ロビーがそれに気づくことはない。いや、敢えてその可能性を無視していた。
声は必ず届く。そして、自らの口で探索の結果を伝えることができるとロビーは信じている。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる