ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十章

429:不協和音

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 ルート変更をロビーが決断してから一時間ほどで、隊は彼らが拠点として定めたテントにたどり着いた。
 ここで彼らは次に試すルートを検討しながら、軽く休憩を取ることにした。
 この探索は彼らの住む「サブマリン島」と呼ばれる島の東側に、人が居住可能な土地があるかどうかを調査するためのものである。
 サブマリン島はその名が示すとおり、巨大な潜水艦のような形をしている。
 上空から見れば、西に向かって進む潜水艦のシルエットが浮かび上がるのだが、残念ながらこの島の島民の中で、その姿を見た者は多くない。
 サブマリン島は資源に恵まれず、その影響で交通機関が未発達である。
 航空機はおろか自動車もなく、わずかに島の西部に路線長百キロに満たない鉄道が走っているだけなのだ。
 島の中央部を南北に貫く山脈と巨大な湖により島は東西に分断されており、その西半分に人々が居住している。そして、未だ島の東部を訪れた者はない。
「東部探索隊」が島の東部にたどり着けば、この未踏の地を最初に訪れた者となるはずであった。

「ホンゴウさん、北側でよかったな? 俺はこのくらいのルートをとろうと思うが、どうだろうか?」
 ロビーがほとんど真っ白な地図を開き、ホンゴウに向かって指で想定するルートをなぞる。
「確実なことは言えませんが、今回は隊長の示したルートを試しましょう。問題があれば、再びここに戻るのがベストだと……」
 ホンゴウの答えの最中に一人の女性が割って入った。
「ちょっとね! そんな悠長なこと言っていられるの? これで、何本目のルートだと思っているのよ?! 時間が無いって言っているのは、ホンゴウさん、アンタでしょ?!」
「申し訳ありません。何分未踏の地なので、セオリーに従って地道に道を探すしか……」
「で、また同じ失敗を繰り返すわけ? アンタ、この道のプロじゃなかったの?! プロってのは成功してナンボじゃないの?! カネサキも何か言ってよ!」
 その訴えにカネサキが反応する。
「オオイダ、落ち着きなさい! アンタがギャーギャー騒いでいたらこっちが迷惑だわ!」
「何よお!」
「止めろ! 二人とも!」
 カネサキとオオイダの間に険悪な空気が流れかけたのを察知して、ロビーが割って入った。
「文句があったら俺に言ってくれ! 遅々としてルートを見つけられないのは隊長の俺の責任だ! そのことについては謝る!」
 ロビーも隊が一向に先に進まないことに焦れているのだが、彼にしては驚異的な忍耐力で耐えている。
 ここで隊の結束にひびが入れば、探索そのものが失敗に終わる可能性が高いことを重々承知しているからだ。
 新しいルートを試しては上手くいかずに拠点に戻ることを繰り返しているためか、隊のメンバーにも徐々に苛立ちが目立つようになってきている。
 引き返すこと自体は探索の失敗ではないとロビーは信じているが、他のメンバーがそう割り切れるかは微妙なところだ。
 人が通ってはならない危険な場所を特定するのも隊の重要な役割であるとロビーは考えている。
 だが、それは探索を事業として行っているECN社にとってプラスの利益を生み出すものではないし、セスやウォーリー、オイゲンの思いを実現するものでもない。その点が問題である。
 成果の認識がメンバーによって異なるとなると、今後の探索に影響が出るかもしれないとロビーは懸念している。

 何度も拠点に引き返していることについて、ロビーにホンゴウを責める気はない。
 ロビーの場合、感情が先走る傾向があるので、ホンゴウが示したルートに問題が見つかれば咄嗟に彼を怒鳴ることもある。
 しかし、ロビーは本気で彼を責めているわけではない。
 今まで誰もが通ったことのない道である。
 ホンゴウとて手探りで道を探し求めるしかなく、試行錯誤を繰り返すのはある意味仕方の無いことなのだ。
 それにホンゴウも未踏の地の探索の経験はない。
 ロビーもそのことを承知していたから、ホンゴウを怒鳴った後は、必ずフォローを入れていたのである。
「休んで体力は回復したか?
 ならば出発しよう。少しでも早く向こう側に到達したいのは俺も同じだ。頑張ろう」
 ロビーが勢いよく立ち上がった。
 ホンゴウ、アイネスがそれに続く。
 すぐに七人が一列となって、ロビーを先頭に歩き始めた。
 今回でこの拠点からの出発は五度目となる。
 五本目のルートに成功を託しながら、彼らはゆっくりと歩みを進めていく。
(セス、すまない。もう少し待っていてくれ……)
 ロビーは天に向かってそう願った。

 しかし、その声は届けるべき相手に届くことはない。
 たとえ、どれだけ大きい声であったとしても。
 その相手は既にこの世のものではなかったのだから……
 だが、ロビーがそれに気づくことはない。いや、敢えてその可能性を無視していた。
 声は必ず届く。そして、自らの口で探索の結果を伝えることができるとロビーは信じている。
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