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第十章
430:テロリストのなりそこない、新たな任務を得る
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「東部探索隊」がドガン山脈越えのルートを探るため試行錯誤を繰り返している頃、フジミ・タウンの某企業では一人の青年が上司から仕事の指示を受けていた。
「それじゃカワエ君、今日からは一人でお願いします。君の受け持ちの分はこのボックスの中だから」
「了解しました」
カワエと呼ばれた青年の返事を聞いたところで、その上司と思われる女性が部屋を後にした。
部屋には青年が一人取り残された。
青年が巨大な箱の蓋を開ける。
箱は人が一人入れる位の大きさであり、その気になれば青年が横たわるのにちょうどよい大きさであった。
しかし、箱の中にはこまごまとした荷物がところ狭しと詰め込まれており、実際に箱の中に身体を横たえるわけにはいかない。
(やれやれ。まあ、こんなものだな。運んでやるとしますか)
青年は箱の中から荷物を取り出し、背中のリュックへと放り込んだ。
それとほぼ同時に部屋に向かって足音が近づいてきたが、青年が気にする様子はない。
部屋に飛び込んできたのは、先ほど彼に指示を与えた女性であった。
「それから、カワエ君!」
名前を呼ばれても、青年は意に介さず荷物の詰め込みを続けている。
「カワエ君! 呼んでいるのがわからないの!」
女性の声が怒気を含んだものに変わる。
すると青年は一瞬「何を言っているのだ?」という表情を見せた後、何かに気付いたようにうなずいた。
「すんません、今日行く道順を考えていたもので」
言葉では謝っているものの、大して申し訳なさそうな様子も見せず青年が答えた。
「人の話をちゃんと聞きなさい! 大事な指示なのだから!
いい? 新市街にはOP社をクビになった連中が大勢たむろしているから気をつけなさい。リュックの封を確実にして鍵をかけておくこと!」
「わっかりました。気をつけて行きますわ」
「あなた、本当にわかっているの?!」
「はいはい、気をつけますって」
青年の返事は、あくまでやる気や真剣さを感じさせないものであった。
その態度に指示を出す女性も苛立ちを隠せなくなっていく。
「お客様から預かった荷物だからね、何かあったら責任を取ってもらうわよ!」
「取れる範囲で、ってことなら了解です」
「人が足りない時期じゃなければ、アンタみたいな使えない奴を雇ったりはしないわよ!」
そう言い残して女性は苦虫を噛み潰したような表情でその場を立ち去った。
一方で青年は苦笑いしている。
青年は自身が偽名を使って今の職場に入り込んだことを失念していたのだ。
ススム・カワエ━━
これが彼が用いた偽名である。
(危ねえ。俺としたことが……OP社の息がかかりまくりの場所で、正直に本名を名乗る馬鹿がいるか?)
青年が名を隠すのには理由があった。
彼はかつてOP社の社員だったことがある。
そして、その後OP社と敵対する集団に属していた。
彼━━本名ジン・ヌマタは名を隠してフジミ・タウンの新市街に潜んでいた。
何の目的があってこの地に潜んでいるか……それはヌマタ本人にも理解できていない。というより、本人も大した理由や目的など持ち合わせていないといったところだろう。
(失敗したテロリスト、いや、テロリストのなりそこないか……
まあ、どこまで堕ちるか、それを楽しむのも一興だな)
とは言うものの、仕事に就いているあたりは「堕ちきって」いないことの証左であるという指摘を受けるかもしれない。
彼がここフジミ・タウンにたどり着いて最初にしたことが、仕事を探すことであった。
話し相手がいれば彼も「働きもせずに食えると思うほど、俺は能天気じゃない」と言ったのであろうが、身を隠さなければならない立場としてはそうもいかなかった。
現在の職場は幸いなことにろくに彼の身元を調べることもなく、その場で採用を決めた。
これは、フジミ・タウンがエイチ・ハドリ率いるOP社治安改革部隊の手によって解放されて間もないことが大きく影響していた。
十数年前の「フジミの大虐殺」と呼ばれる事件で、フジミ・タウンがキョウジ・トイ率いる賊の集団の手に渡った。
しかし、肝心のトイが「フジミの大虐殺」から程なくして病に倒れ、この世を去った。
トイのリーダーシップを失った集団は、コントロールを失って迷走を続けることとなった。
OP社治安改革部隊がフジミ・タウンに足を踏み入れたとき、まず目についたのが街の荒れようであった。
ハドリがすぐに街の復興を指示し、その結果、大勢の労働者がフジミ・タウンに流入することとなった。
ハドリが健在だった間は流入する労働者の身元確認が厳しく行われていたが、彼亡き後はそれも形骸化していった。
ヌマタが仕事を得たのは、こうした時期だった。
彼を採用した企業は、それなりの規模持っており、OP社ともわずかであるが取引がある。
現在のような状況でなければ身分証明もできない偽名を使った流れ者が採用されることなどなかっただろう。まさに、ヌマタはタイミングよく職を得たのであった。
「それじゃカワエ君、今日からは一人でお願いします。君の受け持ちの分はこのボックスの中だから」
「了解しました」
カワエと呼ばれた青年の返事を聞いたところで、その上司と思われる女性が部屋を後にした。
部屋には青年が一人取り残された。
青年が巨大な箱の蓋を開ける。
箱は人が一人入れる位の大きさであり、その気になれば青年が横たわるのにちょうどよい大きさであった。
しかし、箱の中にはこまごまとした荷物がところ狭しと詰め込まれており、実際に箱の中に身体を横たえるわけにはいかない。
(やれやれ。まあ、こんなものだな。運んでやるとしますか)
青年は箱の中から荷物を取り出し、背中のリュックへと放り込んだ。
それとほぼ同時に部屋に向かって足音が近づいてきたが、青年が気にする様子はない。
部屋に飛び込んできたのは、先ほど彼に指示を与えた女性であった。
「それから、カワエ君!」
名前を呼ばれても、青年は意に介さず荷物の詰め込みを続けている。
「カワエ君! 呼んでいるのがわからないの!」
女性の声が怒気を含んだものに変わる。
すると青年は一瞬「何を言っているのだ?」という表情を見せた後、何かに気付いたようにうなずいた。
「すんません、今日行く道順を考えていたもので」
言葉では謝っているものの、大して申し訳なさそうな様子も見せず青年が答えた。
「人の話をちゃんと聞きなさい! 大事な指示なのだから!
いい? 新市街にはOP社をクビになった連中が大勢たむろしているから気をつけなさい。リュックの封を確実にして鍵をかけておくこと!」
「わっかりました。気をつけて行きますわ」
「あなた、本当にわかっているの?!」
「はいはい、気をつけますって」
青年の返事は、あくまでやる気や真剣さを感じさせないものであった。
その態度に指示を出す女性も苛立ちを隠せなくなっていく。
「お客様から預かった荷物だからね、何かあったら責任を取ってもらうわよ!」
「取れる範囲で、ってことなら了解です」
「人が足りない時期じゃなければ、アンタみたいな使えない奴を雇ったりはしないわよ!」
そう言い残して女性は苦虫を噛み潰したような表情でその場を立ち去った。
一方で青年は苦笑いしている。
青年は自身が偽名を使って今の職場に入り込んだことを失念していたのだ。
ススム・カワエ━━
これが彼が用いた偽名である。
(危ねえ。俺としたことが……OP社の息がかかりまくりの場所で、正直に本名を名乗る馬鹿がいるか?)
青年が名を隠すのには理由があった。
彼はかつてOP社の社員だったことがある。
そして、その後OP社と敵対する集団に属していた。
彼━━本名ジン・ヌマタは名を隠してフジミ・タウンの新市街に潜んでいた。
何の目的があってこの地に潜んでいるか……それはヌマタ本人にも理解できていない。というより、本人も大した理由や目的など持ち合わせていないといったところだろう。
(失敗したテロリスト、いや、テロリストのなりそこないか……
まあ、どこまで堕ちるか、それを楽しむのも一興だな)
とは言うものの、仕事に就いているあたりは「堕ちきって」いないことの証左であるという指摘を受けるかもしれない。
彼がここフジミ・タウンにたどり着いて最初にしたことが、仕事を探すことであった。
話し相手がいれば彼も「働きもせずに食えると思うほど、俺は能天気じゃない」と言ったのであろうが、身を隠さなければならない立場としてはそうもいかなかった。
現在の職場は幸いなことにろくに彼の身元を調べることもなく、その場で採用を決めた。
これは、フジミ・タウンがエイチ・ハドリ率いるOP社治安改革部隊の手によって解放されて間もないことが大きく影響していた。
十数年前の「フジミの大虐殺」と呼ばれる事件で、フジミ・タウンがキョウジ・トイ率いる賊の集団の手に渡った。
しかし、肝心のトイが「フジミの大虐殺」から程なくして病に倒れ、この世を去った。
トイのリーダーシップを失った集団は、コントロールを失って迷走を続けることとなった。
OP社治安改革部隊がフジミ・タウンに足を踏み入れたとき、まず目についたのが街の荒れようであった。
ハドリがすぐに街の復興を指示し、その結果、大勢の労働者がフジミ・タウンに流入することとなった。
ハドリが健在だった間は流入する労働者の身元確認が厳しく行われていたが、彼亡き後はそれも形骸化していった。
ヌマタが仕事を得たのは、こうした時期だった。
彼を採用した企業は、それなりの規模持っており、OP社ともわずかであるが取引がある。
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