59 / 304
第十一章
481:手持ち無沙汰な二人
しおりを挟む
「コナカさん、どう思う? そろそろ開けた場所が見えてもよいと思わない?」
雪に覆われた斜面に腰かけたカネサキが画面の一点を指差した。
普段はくだけた口調で話しかける彼女であるが、仕事中は異なる。
「普段は仲良く、仕事は厳しく」が彼女のモットーで、仕事中は特に仲間に対しても厳しい。
カネサキの指の先には隊の現在地を示すマーカーが表示されている。
既にマーカーの位置は山の頂上と思われる地点の東側にある。背景に表示されている上空からの写真では、マーカーのすぐ東側が平地のように見える。
「そう……ですね」
コナカはカネサキの見解に同意したものの、実際のところ彼女にはそれが正しいのかはよくわからない。
ただ、カネサキがそのように主張するのでそう思えるような気がする、という程度のことであった。
画面に表示されている上空からの写真は解像度が低く、正直なところコナカの目にはどこからが平地なのかがよくわからない。
これはコナカの視力の問題ではなく、カネサキの言葉に願望の成分が含まれているのが原因だったが、カネサキにその自覚はない。コナカにとっては迷惑な話である。
「何か気になるところとかある?」
カネサキがぐいとコナカの方に身を乗り出してきた。
「……もう少し進んでみれば何かわかると思いますけど」
「コナカさん、そう思う理由を説明して」
「ええと……」
カネサキの追及に、しどろもどろになりながらも何とか答えようとするコナカであったが、なかなかカネサキの納得は得られない。
(こういうことなら、秘書さんなりオオイダさんの方が向いていると思うんだけどな)
コナカはそう思うのだが、それを口に出すことはできなかった。
反応が早いオオイダなら自分のように口ごもることもないだろうし、秘書さんことメイは情報分析の専門家だと聞いている。
どちらにせよ自分よりもはるかにカネサキが質問する先として適切だな、とコナカは思う。
コナカ自身は身体を使う仕事をすることになるだろうな、と思ってこの「東部探索隊」に参加している。
少なくとも力仕事なら、並みの男性と同等以上にできると彼女自身考えている。
ただ、「東部探索隊」の他のメンバー━━特に男性陣━━が悪かった。
大柄で腕っ節の強いロビー
元外科医で体力もあり、ロビー同様に大柄なアイネス
OP社時代に治安改革部隊を率いており、実戦経験豊富なホンゴウ
彼らと比較すれば、さすがにコナカでも見劣りしてしまう。
また、他の三人と比較して彼女には決定的に不足している要素があった。
他の三人と比較して、コナカに決定的に不足している要素、それは身長であった。
背の高さ、それは隊の先頭を歩くときは風除けとなり、吹き溜まりに落ちたときは、そこから這い上がるための助けになるし、逆に手を伸ばして落ちた仲間を助けることもできる。
この身長が彼女には決定的に欠けていた。
ロビーは常に隊の先頭を歩き、後ろを歩く皆の風除けとなっていた。
彼は隊の中で最も背が高く、一九〇センチを超える彼の長身は風除けとしても最適であった。
アイネスやホンゴウはロビーほどの長身ではないが、ここサブマリン島の成人男子平均よりは背が高い。
その一方でコナカの身長は一六〇センチにすぎない。
これは、ここサブマリン島の成人女性では「普通」ないしは「やや小さめ」の部類に入る。
「とぉえんてぃ? ず」の中では彼女が一番小柄で、隊の中でもメイに次いで背が低い。
もっとも背の高いロビーなどとは三〇センチ以上の身長差があり、身体の大きさがものをいう役割は彼女に不向きともいえた。
その分身は軽いが、それが生きる場面が徹底的に少ないのは彼女にとって不運であった。
一方で、彼女はメイほどではないにしろ口数は多くないし、話の受け答えが上手なわけでもない。
ECN社本社との通信が増えてきた最近では、本社への状況報告役も重要な業務である。
こちらは当初隊長のロビーが担当していたが、ロビーの仕事が多いため、最近ではホンゴウやオオイダに振られることが多い。
アイネスには計測器の管理という業務があるし、カネサキは地図の作成役だ。
つまり、隊の中で特定の担当業務を持たないのがコナカとメイの二人、ということになる。
それが気になるのがカネサキで、存在を無視しているメイはともかく、自分と長いこと業務を共にしてきたコナカが手持ち無沙汰になってしまっているように感じている。
このままではコナカが隊に参加している意義がないと考え、カネサキは自分の業務である地図の作成をコナカにも手伝わせようとしているのだ。
このことはコナカ自身、カネサキの口からも直接聞いており、その意図も理解しているつもりだ。
皆が自らの業務を持っている中、自分が手持ち無沙汰という状況は彼女にとっても気分がよいものではない。
業務そのものが好きなわけでないのだが、皆が何かしているところで自分が暇を持て余しているという状況は彼女にとって非常に気まずいものだからだ。
雪に覆われた斜面に腰かけたカネサキが画面の一点を指差した。
普段はくだけた口調で話しかける彼女であるが、仕事中は異なる。
「普段は仲良く、仕事は厳しく」が彼女のモットーで、仕事中は特に仲間に対しても厳しい。
カネサキの指の先には隊の現在地を示すマーカーが表示されている。
既にマーカーの位置は山の頂上と思われる地点の東側にある。背景に表示されている上空からの写真では、マーカーのすぐ東側が平地のように見える。
「そう……ですね」
コナカはカネサキの見解に同意したものの、実際のところ彼女にはそれが正しいのかはよくわからない。
ただ、カネサキがそのように主張するのでそう思えるような気がする、という程度のことであった。
画面に表示されている上空からの写真は解像度が低く、正直なところコナカの目にはどこからが平地なのかがよくわからない。
これはコナカの視力の問題ではなく、カネサキの言葉に願望の成分が含まれているのが原因だったが、カネサキにその自覚はない。コナカにとっては迷惑な話である。
「何か気になるところとかある?」
カネサキがぐいとコナカの方に身を乗り出してきた。
「……もう少し進んでみれば何かわかると思いますけど」
「コナカさん、そう思う理由を説明して」
「ええと……」
カネサキの追及に、しどろもどろになりながらも何とか答えようとするコナカであったが、なかなかカネサキの納得は得られない。
(こういうことなら、秘書さんなりオオイダさんの方が向いていると思うんだけどな)
コナカはそう思うのだが、それを口に出すことはできなかった。
反応が早いオオイダなら自分のように口ごもることもないだろうし、秘書さんことメイは情報分析の専門家だと聞いている。
どちらにせよ自分よりもはるかにカネサキが質問する先として適切だな、とコナカは思う。
コナカ自身は身体を使う仕事をすることになるだろうな、と思ってこの「東部探索隊」に参加している。
少なくとも力仕事なら、並みの男性と同等以上にできると彼女自身考えている。
ただ、「東部探索隊」の他のメンバー━━特に男性陣━━が悪かった。
大柄で腕っ節の強いロビー
元外科医で体力もあり、ロビー同様に大柄なアイネス
OP社時代に治安改革部隊を率いており、実戦経験豊富なホンゴウ
彼らと比較すれば、さすがにコナカでも見劣りしてしまう。
また、他の三人と比較して彼女には決定的に不足している要素があった。
他の三人と比較して、コナカに決定的に不足している要素、それは身長であった。
背の高さ、それは隊の先頭を歩くときは風除けとなり、吹き溜まりに落ちたときは、そこから這い上がるための助けになるし、逆に手を伸ばして落ちた仲間を助けることもできる。
この身長が彼女には決定的に欠けていた。
ロビーは常に隊の先頭を歩き、後ろを歩く皆の風除けとなっていた。
彼は隊の中で最も背が高く、一九〇センチを超える彼の長身は風除けとしても最適であった。
アイネスやホンゴウはロビーほどの長身ではないが、ここサブマリン島の成人男子平均よりは背が高い。
その一方でコナカの身長は一六〇センチにすぎない。
これは、ここサブマリン島の成人女性では「普通」ないしは「やや小さめ」の部類に入る。
「とぉえんてぃ? ず」の中では彼女が一番小柄で、隊の中でもメイに次いで背が低い。
もっとも背の高いロビーなどとは三〇センチ以上の身長差があり、身体の大きさがものをいう役割は彼女に不向きともいえた。
その分身は軽いが、それが生きる場面が徹底的に少ないのは彼女にとって不運であった。
一方で、彼女はメイほどではないにしろ口数は多くないし、話の受け答えが上手なわけでもない。
ECN社本社との通信が増えてきた最近では、本社への状況報告役も重要な業務である。
こちらは当初隊長のロビーが担当していたが、ロビーの仕事が多いため、最近ではホンゴウやオオイダに振られることが多い。
アイネスには計測器の管理という業務があるし、カネサキは地図の作成役だ。
つまり、隊の中で特定の担当業務を持たないのがコナカとメイの二人、ということになる。
それが気になるのがカネサキで、存在を無視しているメイはともかく、自分と長いこと業務を共にしてきたコナカが手持ち無沙汰になってしまっているように感じている。
このままではコナカが隊に参加している意義がないと考え、カネサキは自分の業務である地図の作成をコナカにも手伝わせようとしているのだ。
このことはコナカ自身、カネサキの口からも直接聞いており、その意図も理解しているつもりだ。
皆が自らの業務を持っている中、自分が手持ち無沙汰という状況は彼女にとっても気分がよいものではない。
業務そのものが好きなわけでないのだが、皆が何かしているところで自分が暇を持て余しているという状況は彼女にとって非常に気まずいものだからだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる