73 / 304
第十一章
495:混乱
しおりを挟む
インデストの電力供給が停止、付近の生産活動が停止状態に━━
LH五二年一月二五日の午後、サブマリン島のマスコミ各社はこのニュースをトップニュースとして報じた。
電力供給停止の報は瞬く間に島内を駆け巡り、ポータル・シティなどでは、暖を取るための木炭や毛布などが飛ぶように売れ、これらの商品が店頭から姿を消した地域もあった。
サブマリン島最大のエネルギー供給者、OP社が二五日の一三時に緊急記者会見を開き、社長のノブヤ・ヤマガタがインデストの状況を説明すると共に、ポータル・シティをはじめとした主要都市の電力供給には当面問題がないことを説明した。
ヤマガタの説明の通り、電力供給が停止したのはインデスト周辺の地域だけであり、三〇〇キロ離れたポータル・シティ及びその周辺部へは、これまで通り電力供給が続けられている。
インデストの生産活動が停止していることから、将来的にインデストに生産を依存している鉄をはじめとした金属材料の調達に支障がでるだろうが、サブマリン島特有の物流事情の悪さから、影響が出るまでには早くて三ヶ月はかかると思われる。
このように少なくとも、ポータル・シティやその周辺で暖を取るための代替手段が早急に必要という状況ではないのであるが、市民の恐怖はヤマガタをはじめとするOP社の幹部の想像をはるかに超えたものであった。
これにはいくつか要因があるが、その大きなもののひとつに、現経営陣への信頼のなさが挙げられる。
現社長のヤマガタは決して無能ではないが、ハドリの持つような何が何でも相手を従わせようとする威圧感や、傍若無人なまでの行動力という面には欠けていた。
ハドリであれば、その豪腕でこうした不安の声を撥ね退けたかもしれないが、ヤマガタにそれはできなかった。
これは、ヤマガタの能力が不足しているというよりも、持って生まれた資質の種類の違いというものであった。
むしろ、ハドリという巨大な司令塔を予期せぬ出来事で欠いたOP社が今まで持ちこたえてきたのはヤマガタの功績でもある。
しかし、それも限界に近づきつつあった。
彼の能力によらない様々な要素の大部分が、事態をより悪いほうへと導いていた。
ヤマガタがOP社のトップに立って以来の朗報といえば、ECN社よりの技術者の派遣が実現したことくらいである。
これはこれでOP社の助けとはなったが、ECN社も発電関連の技術者を多くは抱えていなかったので、苦境を脱出するための起爆剤とはなり得なかった。
「ヤマガタ社長、痩せられましたね……」
長身の若い女性がヤマガタの記者会見を報じるニュースを目にしてつぶやいた。
「確かにそんな感じに見えますね。我々も他人事ではないのですが」
女性に答えたのは、これも若い男性であった。
彼らがいる部屋には他に、やや年長の男性が二人いる。
一人は数字の並んだ画面を前に身動きひとつせず、もう一人は椅子のリクライニングを目一杯後ろに倒し、その上でけだるそうにひっくり返っている。
彼らがここサブマリン島を代表する企業のトップツーだといって、一体幾人がそれを信用するだろうか?
しかし、幸か不幸かこれはまぎれもない事実であった。
ちなみにリクライニングの椅子でひっくり返っているのが社長代行のノリオ・ミヤハラ、画面を前に身動きひとつしないのが副社長のアツシ・サクライである。
ニュースを報じる画面を前にしている男女もECN社の幹部である。
最初に声を発した若い女性は、広報企画室長のレイカ・メルツであった。
昨年にECN社に転じてからというもの、面倒くさがりなトップツーに代わり、彼女が名実共にECN社の顔となっている。
レイカの言葉に答えたのは上級チームマネージャーの職にあり、社に一八あるタスクユニットのひとつを率いるエリック・モトムラである。現在は「東部探索隊」プロジェクトの責任者も兼務している。
「アカシとは連絡取っているのか? エリック」
サクライが自席から首だけ回して問うた。身体をエリックの方に向けないのは単に面倒だからであろう。
「取ってはいますが……あまり状況はよくないようですね……」
予想された答ではあった。
アカシが率いるIMPUは設立当初から数多くの問題を抱えていた。
IMPU自体、旧OP社の鉄鋼部門とその関連会社、そして取引先からなる寄り合い所帯であり、それほど結束が強い団体ではない。
また、IMPUのあるインデストにおける鉄鋼事業者の中心であったOP社が鉄鋼事業から事実上撤退したことが、事態をより複雑にしている。
アカシは烏合の衆とも言われかねないこの組織をよく纏め上げていたが、それでも彼に抵抗する勢力が存在することは否めない。
アカシにとって不運だったのは今回の電力供給停止という事態が与える影響が著しく大きいにも関わらず、これに対して彼らが取り得る対抗手段が非常に少ないことであった。
アカシが率いているIMPUは鉄鋼事業を営む企業群であり、これを構成する企業が電力抜きで事業を継続するのは困難である。
しかし、電力を供給しているOP社に対して、IMPUができることは少ない。
OP社の電力供給に支障をきたしている最大の理由は、発電に関する技術者の不足であるが、IMPUはこうした技術者を保有していないし、また確保するためのルートも持っていない。
それでもアカシは、地熱発電所に人員を派遣するなど電力供給の回復に尽力していたが、肝心の地熱発電所は火事からの復旧途上であるし、他の方策も事態を打開するための決定打とはなっていない。
IMPU内部もまとまりを欠いている。
昨年末の地熱発電所の火災以来、ヒロスミ・オオバを中心とした主に鉄鉱石採掘場の労働者からなるグループが、アカシの活動に異議を唱えており、アカシと彼らの間で未だ交渉が続けられている。
彼らはアカシを昨年末の地熱発電所の火災発生に何らかの関与があると疑っており、その疑いがアカシに対する反感を強めている。
実際のところ、アカシはこの火災にはまったく関与しておらず、彼らの疑いは事実無根であった。
そのため彼らの訴えを突っぱねてもよかったのだが、彼らも貴重なIMPUの戦力であると考えたアカシは粘り強く交渉を続けていた。
IMPUには代表のアカシをはじめとして五人の理事がいるが、他の理事は必ずしもアカシに協力的ではなかった。
LH五二年一月二五日の午後、サブマリン島のマスコミ各社はこのニュースをトップニュースとして報じた。
電力供給停止の報は瞬く間に島内を駆け巡り、ポータル・シティなどでは、暖を取るための木炭や毛布などが飛ぶように売れ、これらの商品が店頭から姿を消した地域もあった。
サブマリン島最大のエネルギー供給者、OP社が二五日の一三時に緊急記者会見を開き、社長のノブヤ・ヤマガタがインデストの状況を説明すると共に、ポータル・シティをはじめとした主要都市の電力供給には当面問題がないことを説明した。
ヤマガタの説明の通り、電力供給が停止したのはインデスト周辺の地域だけであり、三〇〇キロ離れたポータル・シティ及びその周辺部へは、これまで通り電力供給が続けられている。
インデストの生産活動が停止していることから、将来的にインデストに生産を依存している鉄をはじめとした金属材料の調達に支障がでるだろうが、サブマリン島特有の物流事情の悪さから、影響が出るまでには早くて三ヶ月はかかると思われる。
このように少なくとも、ポータル・シティやその周辺で暖を取るための代替手段が早急に必要という状況ではないのであるが、市民の恐怖はヤマガタをはじめとするOP社の幹部の想像をはるかに超えたものであった。
これにはいくつか要因があるが、その大きなもののひとつに、現経営陣への信頼のなさが挙げられる。
現社長のヤマガタは決して無能ではないが、ハドリの持つような何が何でも相手を従わせようとする威圧感や、傍若無人なまでの行動力という面には欠けていた。
ハドリであれば、その豪腕でこうした不安の声を撥ね退けたかもしれないが、ヤマガタにそれはできなかった。
これは、ヤマガタの能力が不足しているというよりも、持って生まれた資質の種類の違いというものであった。
むしろ、ハドリという巨大な司令塔を予期せぬ出来事で欠いたOP社が今まで持ちこたえてきたのはヤマガタの功績でもある。
しかし、それも限界に近づきつつあった。
彼の能力によらない様々な要素の大部分が、事態をより悪いほうへと導いていた。
ヤマガタがOP社のトップに立って以来の朗報といえば、ECN社よりの技術者の派遣が実現したことくらいである。
これはこれでOP社の助けとはなったが、ECN社も発電関連の技術者を多くは抱えていなかったので、苦境を脱出するための起爆剤とはなり得なかった。
「ヤマガタ社長、痩せられましたね……」
長身の若い女性がヤマガタの記者会見を報じるニュースを目にしてつぶやいた。
「確かにそんな感じに見えますね。我々も他人事ではないのですが」
女性に答えたのは、これも若い男性であった。
彼らがいる部屋には他に、やや年長の男性が二人いる。
一人は数字の並んだ画面を前に身動きひとつせず、もう一人は椅子のリクライニングを目一杯後ろに倒し、その上でけだるそうにひっくり返っている。
彼らがここサブマリン島を代表する企業のトップツーだといって、一体幾人がそれを信用するだろうか?
しかし、幸か不幸かこれはまぎれもない事実であった。
ちなみにリクライニングの椅子でひっくり返っているのが社長代行のノリオ・ミヤハラ、画面を前に身動きひとつしないのが副社長のアツシ・サクライである。
ニュースを報じる画面を前にしている男女もECN社の幹部である。
最初に声を発した若い女性は、広報企画室長のレイカ・メルツであった。
昨年にECN社に転じてからというもの、面倒くさがりなトップツーに代わり、彼女が名実共にECN社の顔となっている。
レイカの言葉に答えたのは上級チームマネージャーの職にあり、社に一八あるタスクユニットのひとつを率いるエリック・モトムラである。現在は「東部探索隊」プロジェクトの責任者も兼務している。
「アカシとは連絡取っているのか? エリック」
サクライが自席から首だけ回して問うた。身体をエリックの方に向けないのは単に面倒だからであろう。
「取ってはいますが……あまり状況はよくないようですね……」
予想された答ではあった。
アカシが率いるIMPUは設立当初から数多くの問題を抱えていた。
IMPU自体、旧OP社の鉄鋼部門とその関連会社、そして取引先からなる寄り合い所帯であり、それほど結束が強い団体ではない。
また、IMPUのあるインデストにおける鉄鋼事業者の中心であったOP社が鉄鋼事業から事実上撤退したことが、事態をより複雑にしている。
アカシは烏合の衆とも言われかねないこの組織をよく纏め上げていたが、それでも彼に抵抗する勢力が存在することは否めない。
アカシにとって不運だったのは今回の電力供給停止という事態が与える影響が著しく大きいにも関わらず、これに対して彼らが取り得る対抗手段が非常に少ないことであった。
アカシが率いているIMPUは鉄鋼事業を営む企業群であり、これを構成する企業が電力抜きで事業を継続するのは困難である。
しかし、電力を供給しているOP社に対して、IMPUができることは少ない。
OP社の電力供給に支障をきたしている最大の理由は、発電に関する技術者の不足であるが、IMPUはこうした技術者を保有していないし、また確保するためのルートも持っていない。
それでもアカシは、地熱発電所に人員を派遣するなど電力供給の回復に尽力していたが、肝心の地熱発電所は火事からの復旧途上であるし、他の方策も事態を打開するための決定打とはなっていない。
IMPU内部もまとまりを欠いている。
昨年末の地熱発電所の火災以来、ヒロスミ・オオバを中心とした主に鉄鉱石採掘場の労働者からなるグループが、アカシの活動に異議を唱えており、アカシと彼らの間で未だ交渉が続けられている。
彼らはアカシを昨年末の地熱発電所の火災発生に何らかの関与があると疑っており、その疑いがアカシに対する反感を強めている。
実際のところ、アカシはこの火災にはまったく関与しておらず、彼らの疑いは事実無根であった。
そのため彼らの訴えを突っぱねてもよかったのだが、彼らも貴重なIMPUの戦力であると考えたアカシは粘り強く交渉を続けていた。
IMPUには代表のアカシをはじめとして五人の理事がいるが、他の理事は必ずしもアカシに協力的ではなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる