ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

文字の大きさ
74 / 304
第十一章

496:広報企画室長、提案する

しおりを挟む
 IMPUを取り巻く状況は決して良くない。
 また、トップのアカシも全面的に支持されているわけではない。
 エリックはこうした現実を突きつけてみせたのだった。

「IMPUに社から応援を送ってみた方がよいかもしれませんが、どうしましょうか?」
 レイカがミヤハラとサクライに向けて提案した。
 とりあえず探りを入れてみた、というべきかもしれない。
「……サクライ、お前に判断は任せる」
 ミヤハラが重い口を開いた。
「何ですかそれ?! 社長が決めなくてどうするんですか?」
「……だからお前に任せる、って決めたじゃないか」
「……」
 サクライの声はやや怒りを含んでいたが、その調子は必ずしも強くない。
 このようなやり取りに慣れてしまったのかも知れない。
 サクライは相手をエリックに切り替えて、「お前に任せる」とした。
 こうしたあたり、ミヤハラとサクライは精神的に非常に近いグループにあるともいえる。
 エリックはミヤハラとサクライを放ったままレイカと相談を始めた。
 相談によって判明したことだが、レイカが気に掛けていたのは、「アカシがIMPUを纏めきれるかどうか」「IMPUが分裂、またはアカシが力を失った場合、インデスト全体がECN社に敵対しないか」という点であった。
 現在、ECN社はIMPUから金属材料を直接購入しており、以前より低いコストで安定的に材料が調達できている。
 ECN社は他に金属材料を調達できるつてを持っていないわけではないが、コストと供給の安定性の観点ではIMPUが圧倒的に優位である。
 これもミヤハラやサクライなどがアカシと共に戦った仲だからであり、特にエリックとアカシは面識があるので話もスムーズに進んでいる。また、OP社を介さないということも影響している。
 これが他の者との交渉となった場合、ECN社の材料調達に支障が出る可能性があるし、インデストが混乱状態に陥れば、更に重大な事態になるであろう。
 レイカはそれを気にして、先手を打とうと主張している。
 また、レイカは口には出さなかったが、IMPUとの材料購入交渉の中で、サカデという女性理事が時々口出ししてくるのを危険視している。
 本来権限もないのに価格や条件にうるさいサカデの存在は、今後ECN社にとっての脅威となり得るとレイカは考えている。
 レイカがIMPUに応援を送り込むというのは、サカデの執拗な介入に対抗するために、楔を打ち込んでおく目的もあった。

「インデストで不足しているのも発電技術者ですよね? それほど余裕はありませんが、直接こちらからインデストに発電技術者を派遣しますか?」
 エリックの質問に対し、レイカはそれは止めた方がよい、と言う。
 理由を問うと、レイカは次のように答えた。
 OP社はインデストでも発電事業を行っており、必要があればOP社自らがインデストに技術者を派遣するだろう。
 インデストの電力供給不足は明らかであるが、それにも関わらずOP社がインデストの技術者を増員しないのは、本社の技術者も不足しているからである。
 一方、ECN社はOP社本社に技術者を派遣しており、この状況でインデストに技術者を派遣するとなると、OP社から人気取りだと疑いの目をかけられかねない。だから、もし技術者を派遣するのならばOP社本社に派遣している人数を増員すべきだ、と。
 実のところ、OP社では昨年末に本社からインデストに一部の発電技術者を戻しており、彼らは一月中旬にはインデストに到着していた。
 しかし、本社での過酷な業務やインデストの状況を嫌った者達が大量離脱したため、実際にインデストで発電事業に復帰したのは当初予定の二割に満たない数であった。

「それはよいとして……それでインデストの技術者が増員されるでしょうか?」
 エリックの疑問ももっともである。
 そしてレイカも、「恐らくインデストへの増員はないでしょう」と切り捨てた。
「じゃあ、どうすると言うのだ?」
 背中を向けながらも話を聞いていたサクライが、しびれを切らして質問を投げかけた。
「IMPUとその抵抗勢力、インデストで生活している市民、そして発電事業者、すなわちOP社のインデスト支店との間で電力供給と鉱工業製品の生産について協議する場を設けて、最適な電力供給の方法を決めてきます。交渉の仲介役としてECN社が入ればよいでしょう」
「仲介役は誰がやるんだ?」
「立場的には副社長あたりが適切だとは思いますが……」
「俺か? ちょっと待ってくれ」
 サクライが大して慌てた様子も見せずにレイカにストップをかけた。
「ですが……インデストの現状を知るためにも現地に誰かが赴く必要があるでしょう。社のトップが本社を長く空けるのは問題があると思いますので、インデストには私が向かいましょう」
 レイカの申し出に、今まで興味がなさそうに椅子にひっくり返っていたミヤハラがのっそりと身体を起こした。
「そうか……だったらメルツ室長、インデストに向かってくれないか」
 ミヤハラの口調はのんびりとしたもので、自分の子供に近くへの使いを頼むかのようであった。
 レイカがちらりとサクライの方に視線を向けた。
 副社長はどうお考えですか、と問いかけているようであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...