ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十一章

494:「東部探索隊」のこれから

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 今の時点では、第二次隊の派遣が決まっているどころか、第一次隊が帰路にすらついていない。それなのにロビーはもう第二次隊の派遣のことを考えている。コナカにはそれが突拍子もないことのように思われた。
 明日以降、ロビーやコナカなどの第一次隊がやらなければならないことは山のようにある。
 明日からの調査、ドガン山脈を越えて「はじまりの丘」までの移動、「はじまりの丘」でのセスの状況確認、ECN社本社への移動、本社にて「東部探索隊」の調査結果報告……
 数え上げただけで、コナカにとっては頭が痛くなりそうなくらいだ。
 しかし、ロビーはそれらを通り越して次の探索へ向けての話をしているのである。
 勝手に先のことを決められても困るのだが、コナカにも断るだけの理由がない。
「詳しい話は戻ってからになるから、よろしく頼みますよ」
 ロビーは、先ほどよりはややくだけた調子でそう言うと、手にしたコップに酒を注ぎ足した。
「え~と、その……」
「行きます。私とオオイダも当然参加ね」
 コナカが逡巡していると、後ろからカネサキが割って入った。
 そしてロビーに酒の瓶を渡すように目配せしたので、ロビーがさっと駆け寄ってカネサキのコップに酒を注ぐ。
「オオイダ先輩はともかく……カネサキ先輩、怪我は大丈夫なんですか?」
「そんなものどうにだってなるわよ。そうだ、コナカさん。ちょっと秘書さんの様子見てきて。私も言い過ぎたから変に落ち込まれても困るしねぇ」
「は、はいっ!」
 コナカが慌ててメイのほうへと走っていった。

 コナカが去ったのを確認したカネサキが、声のトーンを落としてロビーに話しかけた。
 業務を離れればカネサキの口調は、非常にくだけたものとなっている。
 これは、仕事とそれ以外を明確に区別する彼女の性質からきているものだろう。
「ところで、タカミ君」
「何でしょうか?」
「あなたの事は気に入っているし、別にあなたのすることに文句を言うつもりはないけど……」
「?」
「コナカさんは私の妹みたいなものだからね。何かあったら私に報告しなさいよ」
 カネサキの言葉にロビーは笑い声をたてて答える。
「わははは、そんなことですか! 当然させてもらいますよ。それから第二次隊のことについては戻ってから別に話させてください」
 ロビーの答えに対して、カネサキは当然よと答えてその場を離れた。

 カネサキが離れたのを確認してロビーは、ホンゴウとアイネスの方へと向かった。
 第二次隊にアイネスの参加を要請するか、ロビーは決断できずにいた。
 ホンゴウについては、「東部探索隊」のためにECN社に来てもらったようなものである。第二次隊に参加させない理由がなかった。
 一方でアイネスの場合は事情が異なる。
 本人が志願してきたとはいえ、彼はECN社に所属していない。
 本来の職場であるメディットを退職してきているため、戻ったところで帰る場所がないはずである。
 とはいえ、第二次隊への参加を希望しているかどうかも不明である。
 ならばアイネス本人の意志を確認する必要がある、とロビーは考えた。
 ホンゴウとアイネスは向きあってコップを傾けているが、会話はほとんどないようだ。

「失礼しまっす」
 ロビーが割って入ると、ホンゴウが動いてロビーの座る場所を確保してくれた。
「うるさくしてしまってすみません。とりあえず、どうぞ」
 そう言ってロビーは二人のコップに少しずつ酒を注いだ。
 そして、単刀直入にアイネスに聞いた。
「アイネスさんは、探索隊が本社に戻ってから何をされるのですか?」
 ホンゴウがわずかに顔をしかめたが、アイネスが気にした様子はない。
 意外にもアイネスは次の業務の依頼を受けているという。
 アイネスによれば、「東部探索隊」の探索途中で発見した平地━━現在はモトイという名の都市として開発が進められようとしている━━に開発事業の責任者の補佐役として赴くことが決まっているとのことであった。

「広報企画室長さん直々の要請があって、これを受けることにしていましたが、聞いていませんでしたか?」
 ロビーやホンゴウにもこの話は初耳であるが、とにかくアイネスが路頭に迷うことはなさそうである。
 もっとも、医師として働く気があればどこでも彼が職に困ることはなかったであろうが。
 ホンゴウは、引き続きロビーの補佐役に回るはずである。
「まだ、探索が残っていますからね。引き続きよろしくお願いします」
 ロビーがホンゴウに第二次隊を編成し、再び探索を行う予定だと告げると、ホンゴウは第二次隊への参加を約束した。
 更にロビーはホンゴウへメンバーの拡充を依頼すると、ホンゴウは旧OP社パトロールチームのメンバーに当たってみる、と回答した。
 ECN社内からの人員確保は困難が予想されるので、かつての部下を候補に考えてみる、ということだ。
 社内から反対の声はあがるかもしれないが、とにかく人員が必要なのは確かだ。
 第二次隊の目的は第一次隊が実施できなかったサブマリン島東部の広範囲にわたる探索が主なものとなるであろう。
 範囲探索であれば、人数をかければかけるだけ効果が上がると考えられる。
 既に島東部に出るためのルートは確保された。大人数を島東部に送り込むための準備はできているといってよい。
 そのため、身軽さが重視される第一次隊とは性格の異なる部隊が編成されるに違いなかった。

「『はじまりの丘』に戻るのが二月二〇日くらいになるでしょうか? 五月の頭には第二次隊として本社を出発するくらいになるでしょうか?」
 ホンゴウがロビーに問うた。ロビーはできればもう少し早く、と言ったのだがホンゴウが本社との交渉が大変ですね、と笑った。
 とにもかくにも、セスへの報告、それがロビーにとっての最優先事項であった。
 セスの状況に関する報告が何もないが、ロビーは敢えてそれをよい方向に考えるようにしていた。
 普通に考えれば、事態が悪いと考えられるのだが、それは無視した。
 既に、ECN社本社と通信が可能な状態であるから、その気になれば「はじまりの丘」との通信もできるはずだが、その通信回線は未だ開かれたという情報がない。
 回線が開かれ、接続先に関する情報が手に入らない限り、ロビーの側から通信を開くことができないのだが、接続先を指定するための情報がないのだ。
 ロビーも敢えて接続先情報を聞こうとはしない。
 結果はどうであれ、自ら現地に赴いてセスの生存を確認し、探索結果を伝えなければならない。
(あと……一ヶ月、一ヶ月だけ待っていろよ、セス)
 ロビーはそうつぶやいてコップの中の酒を一気に空けたのだった。
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