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第十一章
493:離脱者
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コナカとメイはテントのすぐ近くにいた。
数本の木の陰になっている場所にしゃがみこんで震えているメイと、少し離れた場所に立ち尽くしているコナカの姿があった。
「どうした?」
ロビーがメイに気付かれないよう小声でコナカに話しかけた。
コナカは無言で首を横に振った。
更にロビーが状況を問うと、メイが怖がってしまい、コナカですら近づけないとのことであった。
ロビーが耳を澄ますと、微かにメイの嗚咽の声が漏れている。
(あちゃぁ、やりすぎたかな……
本人が大事にしているものを有無を言わさず取り上げたからなぁ……)
ロビーは多少後悔したものの、今となっては手遅れである。
ただ、このままメイを放置してコナカを連れ戻すのも後味が悪い。
幸いにして、カネサキのいる場所からでも、向きに注意すればメイの姿を視界に入れることは可能なようだ。
そこでロビーはコナカにカネサキが呼んでいることを告げ、飲みながら時々メイの様子に注意するように依頼した。
それにしてもここまで絶望的な様子を見せるとは、とロビーは思った。
大切にしているものとはいえ、腕時計を取り上げたくらいでこのような反応を見せるとはロビーの想像を超えていた。
実際のところメイは彼女の母親が自ら命を絶ち、その後住処を追われたときと似たような心理状態にあったのである。
これにロビーが気付かなかったからといって、彼は責められるべき立場にはならないだろう。
なぜなら、ロビーはメイの過去を知らなかったのだから。
オイゲンに手渡された腕時計はメイにとってオイゲンの「東へ……」の意志そのものであった。
そして、オイゲンの意志はメイにとって、自分の存在を認める唯一の拠りどころである。
カネサキにその意識はなかったとはいえ、メイにとって腕時計を取り上げられたのは、この世界における彼女の存在が否定されたのと同義である。
オイゲンによる承認がなければ、彼女の存在は何者からも否定され、彼女を取り囲むすべてが彼女の存在をかき消そうと蠢いているように彼女には感じられる。
だからこそ彼女は、存在を消されやしないかと怯えていたのである。
ロビーはコナカを連れ戻した後、オオイダを含めた「とぉえんてぃ? ず」の三人とテントの外で酒を酌み交わしている。
少し離れた場所にホンゴウとアイネスの姿もある。
アイネスが話し声に気付き、彼らを咎めにきたのだが、ロビーが二言三言答えると「今日のところは黙認しますが」と引き下がった。アイネスは規律と規則の人であるが、それがすべてではないようであった。
その証拠にアイネスはロビーから酒の入ったコップを受け取った。そのため先ほどのアイネスの注意もあまり説得力を持たなかった。
今日は「東部探索隊」にとって記念すべき日なのは確かである。
とにかくサブマリン島東部で、はじめて人が居住可能だとされる地が見つかったのである。少なくとも「東部探索隊」の最大の目的が達成されたのは確かである。
アイネスの追及が甘かったのも、そのあたりに原因があるのかもしれない。
カネサキが豪快にコップの中の酒を飲み干しながら、オオイダやロビーに「私が怖いですって? どこを見ればそうなるのよ!」などと絡んでいる。
彼女の場合は口は悪いが、陽性で最低限以上の節度は保っており、比較的性質のよい酒だといえる。オオイダやロビーに絡んでいるのも半分以上演技であったし、傍から見てもそれは容易に理解できた。
オオイダはコナカが出す料理を並べる前からつまんではカネサキにたしなめられている。食いしん坊の面目躍如であろう。
一人忙しく動き回っているのはコナカだ。
オオイダが料理の皿を、カネサキが酒のコップをすぐ空にしてしまうので、その補充に追われているのである。
それでも隙を見つけて、蒸留酒を甘めのジュースで割ったものをメイのところへ持っていってやった。
ECN社でアルバイトをしていた際に、メイについてオイゲンから甘いものは割と好きなようだったと聞いていたからだ。
「どうだ? 秘書さんは」
戻ってきたコナカにロビーが声をかけた。
「さっきとあまり変わっていないみたい……
持っていった飲み物に手をつけてはくれたから、大丈夫だとは思うけど……」
「……そうか。ところで、この隊が本社に戻った後、コナカさんは何をするのか決めているのか?」
「それは……」
コナカは、この「東部探索隊」事業が終わったあとのことなど少しも考えたことがなかった。
それどころか「東部探索隊」への参加自体がカネサキやオオイダに引っ張られてのものであり、彼女自身が能動的に動いた結果ではなかった。
今後のことについても、社かカネサキあたりから何らかの指示があるだろうと考えていたくらいだ。
「第二次探索隊を派遣されるだろうから、準備を頼む。それと秘書さんは、今回で隊から外れてもらおう。一応、秘書さんの意志を確認しておいて」
「えっ!?」
ロビーの言葉にコナカは唖然とした。
そして、思わず開いた口を慌てて手で塞いだ。
数本の木の陰になっている場所にしゃがみこんで震えているメイと、少し離れた場所に立ち尽くしているコナカの姿があった。
「どうした?」
ロビーがメイに気付かれないよう小声でコナカに話しかけた。
コナカは無言で首を横に振った。
更にロビーが状況を問うと、メイが怖がってしまい、コナカですら近づけないとのことであった。
ロビーが耳を澄ますと、微かにメイの嗚咽の声が漏れている。
(あちゃぁ、やりすぎたかな……
本人が大事にしているものを有無を言わさず取り上げたからなぁ……)
ロビーは多少後悔したものの、今となっては手遅れである。
ただ、このままメイを放置してコナカを連れ戻すのも後味が悪い。
幸いにして、カネサキのいる場所からでも、向きに注意すればメイの姿を視界に入れることは可能なようだ。
そこでロビーはコナカにカネサキが呼んでいることを告げ、飲みながら時々メイの様子に注意するように依頼した。
それにしてもここまで絶望的な様子を見せるとは、とロビーは思った。
大切にしているものとはいえ、腕時計を取り上げたくらいでこのような反応を見せるとはロビーの想像を超えていた。
実際のところメイは彼女の母親が自ら命を絶ち、その後住処を追われたときと似たような心理状態にあったのである。
これにロビーが気付かなかったからといって、彼は責められるべき立場にはならないだろう。
なぜなら、ロビーはメイの過去を知らなかったのだから。
オイゲンに手渡された腕時計はメイにとってオイゲンの「東へ……」の意志そのものであった。
そして、オイゲンの意志はメイにとって、自分の存在を認める唯一の拠りどころである。
カネサキにその意識はなかったとはいえ、メイにとって腕時計を取り上げられたのは、この世界における彼女の存在が否定されたのと同義である。
オイゲンによる承認がなければ、彼女の存在は何者からも否定され、彼女を取り囲むすべてが彼女の存在をかき消そうと蠢いているように彼女には感じられる。
だからこそ彼女は、存在を消されやしないかと怯えていたのである。
ロビーはコナカを連れ戻した後、オオイダを含めた「とぉえんてぃ? ず」の三人とテントの外で酒を酌み交わしている。
少し離れた場所にホンゴウとアイネスの姿もある。
アイネスが話し声に気付き、彼らを咎めにきたのだが、ロビーが二言三言答えると「今日のところは黙認しますが」と引き下がった。アイネスは規律と規則の人であるが、それがすべてではないようであった。
その証拠にアイネスはロビーから酒の入ったコップを受け取った。そのため先ほどのアイネスの注意もあまり説得力を持たなかった。
今日は「東部探索隊」にとって記念すべき日なのは確かである。
とにかくサブマリン島東部で、はじめて人が居住可能だとされる地が見つかったのである。少なくとも「東部探索隊」の最大の目的が達成されたのは確かである。
アイネスの追及が甘かったのも、そのあたりに原因があるのかもしれない。
カネサキが豪快にコップの中の酒を飲み干しながら、オオイダやロビーに「私が怖いですって? どこを見ればそうなるのよ!」などと絡んでいる。
彼女の場合は口は悪いが、陽性で最低限以上の節度は保っており、比較的性質のよい酒だといえる。オオイダやロビーに絡んでいるのも半分以上演技であったし、傍から見てもそれは容易に理解できた。
オオイダはコナカが出す料理を並べる前からつまんではカネサキにたしなめられている。食いしん坊の面目躍如であろう。
一人忙しく動き回っているのはコナカだ。
オオイダが料理の皿を、カネサキが酒のコップをすぐ空にしてしまうので、その補充に追われているのである。
それでも隙を見つけて、蒸留酒を甘めのジュースで割ったものをメイのところへ持っていってやった。
ECN社でアルバイトをしていた際に、メイについてオイゲンから甘いものは割と好きなようだったと聞いていたからだ。
「どうだ? 秘書さんは」
戻ってきたコナカにロビーが声をかけた。
「さっきとあまり変わっていないみたい……
持っていった飲み物に手をつけてはくれたから、大丈夫だとは思うけど……」
「……そうか。ところで、この隊が本社に戻った後、コナカさんは何をするのか決めているのか?」
「それは……」
コナカは、この「東部探索隊」事業が終わったあとのことなど少しも考えたことがなかった。
それどころか「東部探索隊」への参加自体がカネサキやオオイダに引っ張られてのものであり、彼女自身が能動的に動いた結果ではなかった。
今後のことについても、社かカネサキあたりから何らかの指示があるだろうと考えていたくらいだ。
「第二次探索隊を派遣されるだろうから、準備を頼む。それと秘書さんは、今回で隊から外れてもらおう。一応、秘書さんの意志を確認しておいて」
「えっ!?」
ロビーの言葉にコナカは唖然とした。
そして、思わず開いた口を慌てて手で塞いだ。
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