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第十一章
517:「判定者」たり得る者
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「ウサミメタルの社長については、私はこの標語の通りになったと思っている。だから、今の状態で十分」
サファイアが表情を変えることなくそう言い放った。
「なるほど、ダイヤが活動を始めたのもこの標語の通りに動く世の中を目指してだから、サファイアの考えは間違っていないと思う」
ゴールドの返答も落ち着いたものであった。
「ゴールド、あなたはどう考えているかわからないけど、少なくとも私はこう考えているの。私はあなたと違ってずっとインデストを出たことがない。だから、インデストの外のことは何も知らない。インデストの内のことなら私の方が詳しいと思うけど、それ以外のことはそうでないと思う。もし、気になることがあれば年長者として遠慮なく指摘して欲しい」
そう前置きしてからサファイアが自らの考えを述べはじめた。
少なくともゴールドを年長者として扱ってはいるらしい。
ただ、年長者であるゴールドに対していささか礼を失した言い草ではある。
年長者の余裕か、ゴールドが気分を害した様子はないのだが。
サファイアの考えは次のようなものであった。
この地、サブマリン島にはポイント通貨以外に島全体に通用するルールがない。
また、住民によって委託された治安維持のための機関もなく、企業や地域の有力者たちが勝手にルールを作り、人々を管理してきた。
そのため、ルールの運用は極めて恣意的であり、かつルールの通用するエリアを出てしまえば、罪を追及される可能性が激減する。
だから、島全体に通用するルールを作成し、ルールを犯した者には相応の処罰を与えなければならない。
「奪いし者には相応の報いを」という標語はルールとしてこれ以上ないものであり、この標語に従い「判定対象」を処罰すべきだ。
「判定対象」とは罪を犯して処罰されるべき者のことである。敢えて「犯罪者」という言葉を用いないのは、当時の「犯罪者」という言葉の意味が、標語を考えた者のそれとは異なっていたためである。
当時、エクザロームでは「犯罪者」という言葉はOP社が治安改革活動を実施するのに際して用いられていた。すなわち「OP社が罪と認めた行為を犯した者」を意味していたのだ。
一方「判定者」とは、「判定対象」を裁く者を意味している。
判定者は奪われた者が妥当だが、判定側が判定対象から一方的に奪わないためにも奪われた者以外の者に判定内容を確認してもらうのが望ましい。
「私の保護者から聞いた話だけど、私の祖父母が暮らしていた星にはルールが異なる地域同士で罪を犯した者を引き渡すルールがあったそうよ」
サファイアはそう言って、ゴールドの方を見やった。
「……少なくともダイヤの定めた標語は間違っていない、と思うよ。だから自分はダイヤに与してここにいる。ハドリ社長が健在だったら、全島統一のルールができたかもしれないが、それは叶わなかったようだからね」
「あれは単なる独裁者よ! 奪われた側の人間ではないし、人々に選ばれたわけでもない」
珍しくサファイアが怒気を含んだ声で答えた。
彼女はOP社やハドリに対してよい感情を持っていない。
自身や仲間がOP社やハドリと同一視されるのはどうやっても許容できるものではなかった。
「……すまない。確かにハドリ社長ならすべて自分が判定者となってしまうね」
サファイアの反応を見て、ゴールドは素直に自らの過ちを認めて頭を下げた。
「その通りよ! 根本が完全に違うわ」
あくまでも「判定者」たり得るのは奪われた者でしかない、と言いたげなサファイアの声であった。
「ゴールド、そういえば三人目の『判定者』の捜索がどうなっているか聞いている?」
サファイアはそう尋ねたが、ゴールドは首を横に振った。
「三人目が誰だかもわからない。君の方がよく知っていると思うのだけど」
「いいえ。私はダイヤとも、その三人目とも少し家が離れていたし、当時は面識がなかったの。ダイヤに声をかけられるまでは、判定者の権利を持つ人が私以外にいることすら知らなかったわ」
「そうか……
ただ、判定者の権利を持つ人が他にいるなら、声をかけないのはフェアだとは言えないのではないかな」
「その通りね。ダイヤかアレクが声をかけるでしょうから、その結果を待てばよいと思うわ。私には判定のための準備と情報収集という任務があるしね。これもやってみると面白いわ。特に各企業や地域の定めたルールの情報を集めるのはね」
サファイアの任務の一つは企業や各地の有力者が作ったルールの情報を集め、分析することであった。
こうしたルールの類は必ずしも情報が外部に公開されているとは限らないが、公開されていない情報でも入手は比較的容易だ。
少なくともルールが適用される場においては、それを順守させるために適用する相手に開示されているのが一般的だからだ。
現在、サファイアのもとには、この島で適用されているルールのうち、一万人以上に適用されるものについては、ほぼすべての情報があるといってよい。
その中には、OP社、ECN社、IMPUといった企業やその集合体の中で適用されるものも含まれている。
それらすべてがサファイアの興味の対象となっているようだ。
サファイアが表情を変えることなくそう言い放った。
「なるほど、ダイヤが活動を始めたのもこの標語の通りに動く世の中を目指してだから、サファイアの考えは間違っていないと思う」
ゴールドの返答も落ち着いたものであった。
「ゴールド、あなたはどう考えているかわからないけど、少なくとも私はこう考えているの。私はあなたと違ってずっとインデストを出たことがない。だから、インデストの外のことは何も知らない。インデストの内のことなら私の方が詳しいと思うけど、それ以外のことはそうでないと思う。もし、気になることがあれば年長者として遠慮なく指摘して欲しい」
そう前置きしてからサファイアが自らの考えを述べはじめた。
少なくともゴールドを年長者として扱ってはいるらしい。
ただ、年長者であるゴールドに対していささか礼を失した言い草ではある。
年長者の余裕か、ゴールドが気分を害した様子はないのだが。
サファイアの考えは次のようなものであった。
この地、サブマリン島にはポイント通貨以外に島全体に通用するルールがない。
また、住民によって委託された治安維持のための機関もなく、企業や地域の有力者たちが勝手にルールを作り、人々を管理してきた。
そのため、ルールの運用は極めて恣意的であり、かつルールの通用するエリアを出てしまえば、罪を追及される可能性が激減する。
だから、島全体に通用するルールを作成し、ルールを犯した者には相応の処罰を与えなければならない。
「奪いし者には相応の報いを」という標語はルールとしてこれ以上ないものであり、この標語に従い「判定対象」を処罰すべきだ。
「判定対象」とは罪を犯して処罰されるべき者のことである。敢えて「犯罪者」という言葉を用いないのは、当時の「犯罪者」という言葉の意味が、標語を考えた者のそれとは異なっていたためである。
当時、エクザロームでは「犯罪者」という言葉はOP社が治安改革活動を実施するのに際して用いられていた。すなわち「OP社が罪と認めた行為を犯した者」を意味していたのだ。
一方「判定者」とは、「判定対象」を裁く者を意味している。
判定者は奪われた者が妥当だが、判定側が判定対象から一方的に奪わないためにも奪われた者以外の者に判定内容を確認してもらうのが望ましい。
「私の保護者から聞いた話だけど、私の祖父母が暮らしていた星にはルールが異なる地域同士で罪を犯した者を引き渡すルールがあったそうよ」
サファイアはそう言って、ゴールドの方を見やった。
「……少なくともダイヤの定めた標語は間違っていない、と思うよ。だから自分はダイヤに与してここにいる。ハドリ社長が健在だったら、全島統一のルールができたかもしれないが、それは叶わなかったようだからね」
「あれは単なる独裁者よ! 奪われた側の人間ではないし、人々に選ばれたわけでもない」
珍しくサファイアが怒気を含んだ声で答えた。
彼女はOP社やハドリに対してよい感情を持っていない。
自身や仲間がOP社やハドリと同一視されるのはどうやっても許容できるものではなかった。
「……すまない。確かにハドリ社長ならすべて自分が判定者となってしまうね」
サファイアの反応を見て、ゴールドは素直に自らの過ちを認めて頭を下げた。
「その通りよ! 根本が完全に違うわ」
あくまでも「判定者」たり得るのは奪われた者でしかない、と言いたげなサファイアの声であった。
「ゴールド、そういえば三人目の『判定者』の捜索がどうなっているか聞いている?」
サファイアはそう尋ねたが、ゴールドは首を横に振った。
「三人目が誰だかもわからない。君の方がよく知っていると思うのだけど」
「いいえ。私はダイヤとも、その三人目とも少し家が離れていたし、当時は面識がなかったの。ダイヤに声をかけられるまでは、判定者の権利を持つ人が私以外にいることすら知らなかったわ」
「そうか……
ただ、判定者の権利を持つ人が他にいるなら、声をかけないのはフェアだとは言えないのではないかな」
「その通りね。ダイヤかアレクが声をかけるでしょうから、その結果を待てばよいと思うわ。私には判定のための準備と情報収集という任務があるしね。これもやってみると面白いわ。特に各企業や地域の定めたルールの情報を集めるのはね」
サファイアの任務の一つは企業や各地の有力者が作ったルールの情報を集め、分析することであった。
こうしたルールの類は必ずしも情報が外部に公開されているとは限らないが、公開されていない情報でも入手は比較的容易だ。
少なくともルールが適用される場においては、それを順守させるために適用する相手に開示されているのが一般的だからだ。
現在、サファイアのもとには、この島で適用されているルールのうち、一万人以上に適用されるものについては、ほぼすべての情報があるといってよい。
その中には、OP社、ECN社、IMPUといった企業やその集合体の中で適用されるものも含まれている。
それらすべてがサファイアの興味の対象となっているようだ。
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