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第十一章
518:三人目の「判定者」の存在
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「正直なところ、私たちがこれから作ろうとしているものの参考になりそうなものは少ないけどね。恣意的に運用された例なんかは見ていて興味深いわ。むしろ、恣意的ではない運用をしているところの方が珍しいかもしれないけどね」
サファイアは皮肉のこもった声でまくし立てながら意地の悪い笑みを浮かべた。彼女の言う通り、サブマリン島で適用されているルールの類は、恣意的な運用をされているものが大半だ。
「あまり横道にそれるとダイヤに怒られないだろうか?」
「それはないと思うわ。恣意的に運用された、という事実をつかんだのだから。現に判定対象者もこうした運用のおかげで命を永らえているわけじゃない」
「それは確かにね」
サファイアもゴールドもあまり表情を変えない。
声のトーンは多少変化するものの、あまりその幅は大きくない方である。
そのせいか話している内容は少なくともサファイア個人には密接に関わっているようだが、どこか他人事のように聞こえる。
そして不意に二人の視線が入口の方に向いた。
二人の耳を見ると、二人とも片側に小型の補聴器のようなものを着けていることがわかる。
これは小型の受信機で、これから出る音声に対して反応したらしい。
「どうぞ」
「入ってください」
すると、入口の扉が開き、第三の人物が入ってきた。
サファイアとほぼ同年代で、ショートヘアで細く引き締まったシルエットの女性だった。
「ゴールドとサファイアね。ダイヤから伝言よ」
声の調子は鋭く、凛とした雰囲気を醸し出している。
「アレク、何でしょうか?」
サファイアの声は、ゴールドを相手にするときよりもややトーンが下がり気味だ。
「三人目の『判定者』のことよ」
「なるほど」
「そうですか」
サファイアとゴールドの反応は冷静だった。
「ポータル・シティに残っていれば捜索は簡単だったのだけど、彼女はポータル・シティを出てしまったの。それで捜索に時間がかかってしまったわ」
「年齢を考えれば、ポータル・シティの外に出てもおかしくはないですね」
ゴールドがうんうんとうなずいた。
「ところで、彼女はどこにいるのですか?」
「住所上はハモネスになるわね。聞いたことのない場所だけど」
「アレクが聞いたことがないという場所は興味がありますね」
「そう言われてもハモネスだって広いのだから、私にだってよく知らない場所はあるわ。サファイアだってインデストの地名であまりよく知らない場所くらいあるのじゃなくて?」
アレクはそう言って、壁面の画面を切り替える。
そして、画面を手でなぞって画面に文字を浮かび上がらせる。
知っている者が見れば、ハモネスにある地名であることがわかるだろう。
これが三人目の「判定者」の居場所らしい。
アレクが言うとおり、ECN社が本拠を構えるハモネスはサブマリン島の都市の中でも比較的広い。
ポータル・シティ、インデスト、ハモネスが島の三大都市であるが、それぞれの都市圏の面積はほぼ同じである。
この三都市で、サブマシン島における人類居住地の三分の二以上の面積を占めている。
「恐らく、飛び地のどこかだと思うけどね」
アレクがそう付け加えた。
ハモネスの地名とその位置関係をつかむのが難しい理由のもう一つが、数多く存在する飛び地である。
ハモネスの中心部から「はじまりの丘」に抜ける街道付近にある小規模な集落には、ハモネスに属しているものが存在するのだ。
こうした集落がいくつもあるのだが、この手の集落は一般的な人々に知られていないものが多い。
これらの存在がハモネスの中の地名と位置関係をわかりにくくしている要因ともなっている。
「あまり遠いところにまで来てもらうのは難しいのでは?」
サファイアが表情ひとつ変えずに疑問を投げかけた。
「必ずしもここにきてもらう必要はないわ。離れていても通信はできるのだから、いくらでも手はあるわ」
そう答えてから、アレクは第三の「判定者」との今後の交渉予定についてサファイア、ゴールドの二人に伝えた。
「ダイヤは『三人目の彼女はあの出来事のことをよく知っている』と言っていたわ。私も長いことあの出来事のことを調べているけど、サファイア、あなたを含めてあの出来事のことを知る人は少ないわ」
「そう、ですか……」
アレクの声が徐々に熱を帯びてくるのに対して、サファイアの声はあくまでも平坦であった。
「あの出来事のことはもっと多くの人が知るべきだし、ダイヤやあなた、そしてもう一人の『判定者』は、この罪を裁くべき、いいえ、裁かなければならない、のよ」
「ええ」
「三人目の彼女とはダイヤが話をする、と言っていたけど、いざという時はサファイア、あなたも出てちょうだい、とダイヤが言っていたわ」
「……わかりました」
「ゴールドもいい? ダイヤやサファイアに協力して、必ずこの判定をやり遂げるのよ」
「了解です、アレク」
ゴールドの返事を確かめると、アレクはゴールドの背中をポンと叩いた。
更にゴールドに何か話しかけているが、サファイアの耳にその声は入っていなかった。
その代わりに、誰にも聞き取れないほどの小さな声でこうつぶやいていた。
「三人目の『判定者』が来て、あの出来事が明らかになった時、一体何が起こるのかしら? そして、『判定』が行われた後、皆はどうするのかしら? それを見届けるのも悪くないかも……」
サファイアは皮肉のこもった声でまくし立てながら意地の悪い笑みを浮かべた。彼女の言う通り、サブマリン島で適用されているルールの類は、恣意的な運用をされているものが大半だ。
「あまり横道にそれるとダイヤに怒られないだろうか?」
「それはないと思うわ。恣意的に運用された、という事実をつかんだのだから。現に判定対象者もこうした運用のおかげで命を永らえているわけじゃない」
「それは確かにね」
サファイアもゴールドもあまり表情を変えない。
声のトーンは多少変化するものの、あまりその幅は大きくない方である。
そのせいか話している内容は少なくともサファイア個人には密接に関わっているようだが、どこか他人事のように聞こえる。
そして不意に二人の視線が入口の方に向いた。
二人の耳を見ると、二人とも片側に小型の補聴器のようなものを着けていることがわかる。
これは小型の受信機で、これから出る音声に対して反応したらしい。
「どうぞ」
「入ってください」
すると、入口の扉が開き、第三の人物が入ってきた。
サファイアとほぼ同年代で、ショートヘアで細く引き締まったシルエットの女性だった。
「ゴールドとサファイアね。ダイヤから伝言よ」
声の調子は鋭く、凛とした雰囲気を醸し出している。
「アレク、何でしょうか?」
サファイアの声は、ゴールドを相手にするときよりもややトーンが下がり気味だ。
「三人目の『判定者』のことよ」
「なるほど」
「そうですか」
サファイアとゴールドの反応は冷静だった。
「ポータル・シティに残っていれば捜索は簡単だったのだけど、彼女はポータル・シティを出てしまったの。それで捜索に時間がかかってしまったわ」
「年齢を考えれば、ポータル・シティの外に出てもおかしくはないですね」
ゴールドがうんうんとうなずいた。
「ところで、彼女はどこにいるのですか?」
「住所上はハモネスになるわね。聞いたことのない場所だけど」
「アレクが聞いたことがないという場所は興味がありますね」
「そう言われてもハモネスだって広いのだから、私にだってよく知らない場所はあるわ。サファイアだってインデストの地名であまりよく知らない場所くらいあるのじゃなくて?」
アレクはそう言って、壁面の画面を切り替える。
そして、画面を手でなぞって画面に文字を浮かび上がらせる。
知っている者が見れば、ハモネスにある地名であることがわかるだろう。
これが三人目の「判定者」の居場所らしい。
アレクが言うとおり、ECN社が本拠を構えるハモネスはサブマリン島の都市の中でも比較的広い。
ポータル・シティ、インデスト、ハモネスが島の三大都市であるが、それぞれの都市圏の面積はほぼ同じである。
この三都市で、サブマシン島における人類居住地の三分の二以上の面積を占めている。
「恐らく、飛び地のどこかだと思うけどね」
アレクがそう付け加えた。
ハモネスの地名とその位置関係をつかむのが難しい理由のもう一つが、数多く存在する飛び地である。
ハモネスの中心部から「はじまりの丘」に抜ける街道付近にある小規模な集落には、ハモネスに属しているものが存在するのだ。
こうした集落がいくつもあるのだが、この手の集落は一般的な人々に知られていないものが多い。
これらの存在がハモネスの中の地名と位置関係をわかりにくくしている要因ともなっている。
「あまり遠いところにまで来てもらうのは難しいのでは?」
サファイアが表情ひとつ変えずに疑問を投げかけた。
「必ずしもここにきてもらう必要はないわ。離れていても通信はできるのだから、いくらでも手はあるわ」
そう答えてから、アレクは第三の「判定者」との今後の交渉予定についてサファイア、ゴールドの二人に伝えた。
「ダイヤは『三人目の彼女はあの出来事のことをよく知っている』と言っていたわ。私も長いことあの出来事のことを調べているけど、サファイア、あなたを含めてあの出来事のことを知る人は少ないわ」
「そう、ですか……」
アレクの声が徐々に熱を帯びてくるのに対して、サファイアの声はあくまでも平坦であった。
「あの出来事のことはもっと多くの人が知るべきだし、ダイヤやあなた、そしてもう一人の『判定者』は、この罪を裁くべき、いいえ、裁かなければならない、のよ」
「ええ」
「三人目の彼女とはダイヤが話をする、と言っていたけど、いざという時はサファイア、あなたも出てちょうだい、とダイヤが言っていたわ」
「……わかりました」
「ゴールドもいい? ダイヤやサファイアに協力して、必ずこの判定をやり遂げるのよ」
「了解です、アレク」
ゴールドの返事を確かめると、アレクはゴールドの背中をポンと叩いた。
更にゴールドに何か話しかけているが、サファイアの耳にその声は入っていなかった。
その代わりに、誰にも聞き取れないほどの小さな声でこうつぶやいていた。
「三人目の『判定者』が来て、あの出来事が明らかになった時、一体何が起こるのかしら? そして、『判定』が行われた後、皆はどうするのかしら? それを見届けるのも悪くないかも……」
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