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第十二章
540:潜入調査 その1
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事務所の建物から一番近いのは診療所棟なのだが、現在留守ということで先に農機具倉庫から案内してもらうことになった。当然、案内役はジンダイである。
先ほど駆け上がったときには気づかなかったが、葡萄畑の東側に細い階段があった。
ジンダイは足元に気をつけてと警告してから階段をゆっくりと登っていく。
「こんな崖のようなところに畑を作るなんて、どういう意味があるんだ?」
ヌマタは自分の疑問をストレートにぶつけてみた。
誰もが考えそうな疑問であったが、それがゆえに質問としては不自然ではない。
この程度の質問で相手が尻尾を出すとは思えなかったが、シンプルであるがゆえに回答を取り繕うのも難しいかもしれない。
「詳しくは聞いていませんが角度があった方が、日照的には良い条件のようですよ」
ジンダイが即答した。
「どういうことだ?」
「日光が地面に対して直角に当たった方が、地面が温まりますから」
ジンダイの回答を聞いて、ヌマタはかつて小学校かどこかでそのようなことを習ったことを思い出した。
(教科書的な回答だが、明らかにおかしい、ということは無いようだな。さすがに、この程度の質問では尻尾を出さないか)
ヌマタは次の質問をぶつけることにした。
「畑が石だらけ、というのはどういうことなんだ? 手入れが良くないんじゃないか?」
(さて、これにはどういう答えを用意しているんだ?)
すると、ジンダイは困ったような顔をして頭を掻いた。
「ウェルさんの方針らしいのですが、僕には正直よくわからないんですよ。この方が良いんだとか。ウェルさんに聞けば教えてくれると思います」
(素直にわからないと認めたか……
ピーターという奴が親玉なら、あらかじめ答えを用意しているかもしれないな)
ヌマタが黙っていると、ジンダイが思い出したように付け加えた。
「ただ、雨が降ったり時間が経ったりすると石が下に流れてくるので、時々手で上に運んでいるらしいですよ。僕はまだその作業をしたことはないのですけどね」
「それは面倒なことをするものだな」
(石を上に運び直す、だと?! 何か企んでいるのか?)
「そうですね、僕も何の意味があるのかはよくわからないのです」
その答えを聞いたヌマタは次のように想像した。
ジンダイという案内役は、ウェルの農場では下っ端で重要なことは何も知らないのではないか?
ただ、外部からの突っ込みにボロを出さないよう型通りの答えだけは与えられている。
しかし、この想像には難があることもヌマタは承知している。
下っ端が何故顔を隠す必要があるか?
目出し帽で顔を隠すなど目立って仕方ないし、怪しんでくれといわんばかりである。
顔を隠すには相応の理由があるはずだった。
顔の傷が本物なので、実際に治療のために目出し帽を着用している可能性は否定できないが、そうだと決まった訳ではない。
一方で、顔を見られて困るような人物が下っ端だともヌマタには考えられなかった。
(どうもよくわからないな……しばらく様子を見るか)
ジンダイはヌマタの疑いに気付いていないようで、ヌマタに足元に気をつけるようにと言いながら、先を歩いていく。
ジンダイがヌマタを最初に連れて行ったのは、サファイア・シーが見える場所で、午前中にヌマタが訪れたのとほぼ同じ地点であった。
ジンダイによれば、農場一の絶景ポイントらしい。
この場所で少し休憩した後、農器具倉庫へと案内していく。
ヌマタが怪しいと踏んでいた場所だが、ジンダイはあっさり扉を開け、自由に見てよいという。
中には所狭しと農器具が収められいたが、ひとつ気になる物が見つかった。
(何だこれは……? 椅子は人が座るためのものだろうが……)
それは、キャタピラ式の大人が二人乗れるくらいの大きさの乗り物であった。
ただし、ヌマタにはそれがどうやら人が乗る物であるらしい、ということしかわからない。
平均的なサブマリン島の島民は鉄道と自転車以外の乗り物を見たことがないためだ。
ヌマタが不思議そうにしているのに気付いたジンダイが、脇からそっと説明した。
これは農場自慢の充電式のトラクターで、繁忙期に使われるものだとのことである。
島に十数台しかない代物で、インデスト周辺にはウェル農場で一台と、市街に近い農場に一台の計二台だけあるらしい。
走行距離が短いことと、電気が高価なことから島で利用しているところは少ない。
(比較的大規模な農場とは聞いているが……こんな珍しい代物を持っているのは気になるな……)
ヌマタは珍しそうにしているふりをしてメモを取った。
「あ、よろしければ撮影しても構いませんよ」
ヌマタの様子を見て気を利かせたのだろう。
ヌマタは素直に好意に甘えることにした。もっとも、ヌマタはジンダイの言葉を必ずしも好意的にはとらえていなかったが。
本来なら、部屋の大きさや、壁や床面に怪しいところがないか詳細に調査したかったが、そのような動きを見せると怪しまれるかもしれない。
とりあえず今回はこのくらいでよしとして、引き続きジンダイの案内を受けることにした。
先ほど駆け上がったときには気づかなかったが、葡萄畑の東側に細い階段があった。
ジンダイは足元に気をつけてと警告してから階段をゆっくりと登っていく。
「こんな崖のようなところに畑を作るなんて、どういう意味があるんだ?」
ヌマタは自分の疑問をストレートにぶつけてみた。
誰もが考えそうな疑問であったが、それがゆえに質問としては不自然ではない。
この程度の質問で相手が尻尾を出すとは思えなかったが、シンプルであるがゆえに回答を取り繕うのも難しいかもしれない。
「詳しくは聞いていませんが角度があった方が、日照的には良い条件のようですよ」
ジンダイが即答した。
「どういうことだ?」
「日光が地面に対して直角に当たった方が、地面が温まりますから」
ジンダイの回答を聞いて、ヌマタはかつて小学校かどこかでそのようなことを習ったことを思い出した。
(教科書的な回答だが、明らかにおかしい、ということは無いようだな。さすがに、この程度の質問では尻尾を出さないか)
ヌマタは次の質問をぶつけることにした。
「畑が石だらけ、というのはどういうことなんだ? 手入れが良くないんじゃないか?」
(さて、これにはどういう答えを用意しているんだ?)
すると、ジンダイは困ったような顔をして頭を掻いた。
「ウェルさんの方針らしいのですが、僕には正直よくわからないんですよ。この方が良いんだとか。ウェルさんに聞けば教えてくれると思います」
(素直にわからないと認めたか……
ピーターという奴が親玉なら、あらかじめ答えを用意しているかもしれないな)
ヌマタが黙っていると、ジンダイが思い出したように付け加えた。
「ただ、雨が降ったり時間が経ったりすると石が下に流れてくるので、時々手で上に運んでいるらしいですよ。僕はまだその作業をしたことはないのですけどね」
「それは面倒なことをするものだな」
(石を上に運び直す、だと?! 何か企んでいるのか?)
「そうですね、僕も何の意味があるのかはよくわからないのです」
その答えを聞いたヌマタは次のように想像した。
ジンダイという案内役は、ウェルの農場では下っ端で重要なことは何も知らないのではないか?
ただ、外部からの突っ込みにボロを出さないよう型通りの答えだけは与えられている。
しかし、この想像には難があることもヌマタは承知している。
下っ端が何故顔を隠す必要があるか?
目出し帽で顔を隠すなど目立って仕方ないし、怪しんでくれといわんばかりである。
顔を隠すには相応の理由があるはずだった。
顔の傷が本物なので、実際に治療のために目出し帽を着用している可能性は否定できないが、そうだと決まった訳ではない。
一方で、顔を見られて困るような人物が下っ端だともヌマタには考えられなかった。
(どうもよくわからないな……しばらく様子を見るか)
ジンダイはヌマタの疑いに気付いていないようで、ヌマタに足元に気をつけるようにと言いながら、先を歩いていく。
ジンダイがヌマタを最初に連れて行ったのは、サファイア・シーが見える場所で、午前中にヌマタが訪れたのとほぼ同じ地点であった。
ジンダイによれば、農場一の絶景ポイントらしい。
この場所で少し休憩した後、農器具倉庫へと案内していく。
ヌマタが怪しいと踏んでいた場所だが、ジンダイはあっさり扉を開け、自由に見てよいという。
中には所狭しと農器具が収められいたが、ひとつ気になる物が見つかった。
(何だこれは……? 椅子は人が座るためのものだろうが……)
それは、キャタピラ式の大人が二人乗れるくらいの大きさの乗り物であった。
ただし、ヌマタにはそれがどうやら人が乗る物であるらしい、ということしかわからない。
平均的なサブマリン島の島民は鉄道と自転車以外の乗り物を見たことがないためだ。
ヌマタが不思議そうにしているのに気付いたジンダイが、脇からそっと説明した。
これは農場自慢の充電式のトラクターで、繁忙期に使われるものだとのことである。
島に十数台しかない代物で、インデスト周辺にはウェル農場で一台と、市街に近い農場に一台の計二台だけあるらしい。
走行距離が短いことと、電気が高価なことから島で利用しているところは少ない。
(比較的大規模な農場とは聞いているが……こんな珍しい代物を持っているのは気になるな……)
ヌマタは珍しそうにしているふりをしてメモを取った。
「あ、よろしければ撮影しても構いませんよ」
ヌマタの様子を見て気を利かせたのだろう。
ヌマタは素直に好意に甘えることにした。もっとも、ヌマタはジンダイの言葉を必ずしも好意的にはとらえていなかったが。
本来なら、部屋の大きさや、壁や床面に怪しいところがないか詳細に調査したかったが、そのような動きを見せると怪しまれるかもしれない。
とりあえず今回はこのくらいでよしとして、引き続きジンダイの案内を受けることにした。
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