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第十四章
647:シトリの理由
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「罪を犯した者をその被害者が裁く、ですって?!」
ある日、セリカの構想を打ち明けられたシトリは思わず大声をあげてしまった。
当時のエクザロームでは犯罪は地域の有力者が独自に裁くのが一般的であり、一般の市民が裁きに関与することはない。
シトリの反応は一市民としては当然のものであったといえる。
「しっ、私の部屋の防音はしっかりしているほうだけど、あまり他人に聞かせたい話ではないわ」
セリカが大げさに「静かに」のジェスチャーをしてみせた。
彼女の言葉通り部屋の防音はしっかりしているが、他者に聞かれると都合の悪い話ではある。
「ごめんなさい、セリカ。でも、そんなことが許されるのかしら?」
慌ててシトリが口を塞いだが、疑わし気な顔を隠そうともしなかった。
「少なくともミア、貴女にはその権利はあると思うわ。貴女が家族を失った、その事件に対しては……」
当時は二人とも互いに名前で呼び合っていた。
コードネームでお互いを呼ぶようになるのは「判定者とその支援者」設立の後のことである。
セリカの言葉にシトリはしばらくの間、考え込んだ。
そして、意を決したように口を開いた。
「いいわ、セリカ。私が事件で何を経験したのか、そして何故、今の会社にいるのか、その話をするわね……」
こうしてシトリはセリカに自らのすべてを話し始めたのである。
「……事件では三人の子が生き残った。そのうちひとりは私で、もう一人はうちの近所のウィリマという女の子だったわ……
年は私のほうが二つ上だったけど、同じくらいの年の子供が多くないところだったから年の近い子ということで仲は良かった……」
シトリの話を聞き逃すまいと、セリカは必死で記録を取り、同時に数多くの質問を投げかけた。
ここでセリカは今まで調べても得られなかった事件についての数多くの情報を得ることになる。
生存者のうちふたりは、目の前のミア・シトリ、そして彼女と面識のあるウィリマ・サソであること。
残りの一人はシトリと面識のない人物で、事件の直前に「ミクモ工芸」に入社した従業員の娘らしいこと。
ウィリマ・サソの父親シンタ・サソが「EMいのちの守護者の会」に対して、疑問を投げかける活動を行っていたらしいこと。
逆に母親のサユキ・サソは「EMいのちの守護者の会」の熱心な支援者だったこと。
事件の後、シトリとウィリマは同じ孤児院に入り、一二歳でシトリが院を出るまで、一緒に暮らしていたこと。
シトリは学校を卒業した一五歳でジューリックス社に就職したこと、などである。
セリカにとって一番の興味は何故シトリがジューリックス社に入社したか、である。
ジューリックス社の創業者兼社長のタカヒデ・ナベシマは、嫌疑不十分で釈放されたとはいえ、事件の容疑者とされた人物だったためだ。
セリカの疑問にシトリはこう答えた。
「ナベシマが事件の容疑者だ、ということは知っているわ。嫌疑不十分で釈放されたことも。
……私が社に影響を与えられる立場になったとき、事件についてナベシマに真相を問い質す。そのために私はジューリックスにいるのよ」
この時点でセリカは「判定者とその支援者」の構想を持っていたわけではなかった。
セリカがシトリに伝えたのは、事件やナベシマについての情報を集める形で協力する、ということであった。
事件の生存者が三名、ということからナベシマとシトリを対峙させる際は、残りの二人も同席させるべきだ、というのがセリカの考えだった。
そこでセリカは残りの二人のうち、氏名が明らかになっているウィリマ・サソの行方を追うことにした。
しかし、ウィリマについては、通っていた学校が閉鎖されたところまでの情報を得たものの、それ以降の足取りについての情報が一切得られなかった。
一方でセリカとシトリは、ウィリマの父親シンタ・サソが「EMいのちの守護者の会」と「ミクモ工芸」に融資していた金融会社との関係についてかなりの情報を得ていたことを調べ上げていた。
情報の中には、彼らの資金の流れに疑問を呈する記事を発表しようとした雑誌社を有力者と組んで解散に追いやり、記事を書いたライターと担当編集者とを海洋調査隊送りにした、というものまであった。
海洋調査隊に送られた二人は行方不明となっており、その生存は絶望的な状況である。
エクザロームの歴史の暗部であるが、有力者にとって都合の悪い者を適切に「消す」ために海洋調査隊は大いに活用されていたのである。
行方不明となった二人も有力者の都合の犠牲者であった。
「EMいのちの守護者の会」とナベシマの関係については、調査が難航した。
ナベシマが「EMいのちの守護者の会」と関係のある金融業者から多額の融資を受けていたこと、そしてジューリックス社設立の前に一度事業に失敗していることはわかった。
事件の後のことではあるがその借金は完済されており、その間に融資する者とされる者以上の関係があったという事実は得られなかったのである。
ある日、セリカの構想を打ち明けられたシトリは思わず大声をあげてしまった。
当時のエクザロームでは犯罪は地域の有力者が独自に裁くのが一般的であり、一般の市民が裁きに関与することはない。
シトリの反応は一市民としては当然のものであったといえる。
「しっ、私の部屋の防音はしっかりしているほうだけど、あまり他人に聞かせたい話ではないわ」
セリカが大げさに「静かに」のジェスチャーをしてみせた。
彼女の言葉通り部屋の防音はしっかりしているが、他者に聞かれると都合の悪い話ではある。
「ごめんなさい、セリカ。でも、そんなことが許されるのかしら?」
慌ててシトリが口を塞いだが、疑わし気な顔を隠そうともしなかった。
「少なくともミア、貴女にはその権利はあると思うわ。貴女が家族を失った、その事件に対しては……」
当時は二人とも互いに名前で呼び合っていた。
コードネームでお互いを呼ぶようになるのは「判定者とその支援者」設立の後のことである。
セリカの言葉にシトリはしばらくの間、考え込んだ。
そして、意を決したように口を開いた。
「いいわ、セリカ。私が事件で何を経験したのか、そして何故、今の会社にいるのか、その話をするわね……」
こうしてシトリはセリカに自らのすべてを話し始めたのである。
「……事件では三人の子が生き残った。そのうちひとりは私で、もう一人はうちの近所のウィリマという女の子だったわ……
年は私のほうが二つ上だったけど、同じくらいの年の子供が多くないところだったから年の近い子ということで仲は良かった……」
シトリの話を聞き逃すまいと、セリカは必死で記録を取り、同時に数多くの質問を投げかけた。
ここでセリカは今まで調べても得られなかった事件についての数多くの情報を得ることになる。
生存者のうちふたりは、目の前のミア・シトリ、そして彼女と面識のあるウィリマ・サソであること。
残りの一人はシトリと面識のない人物で、事件の直前に「ミクモ工芸」に入社した従業員の娘らしいこと。
ウィリマ・サソの父親シンタ・サソが「EMいのちの守護者の会」に対して、疑問を投げかける活動を行っていたらしいこと。
逆に母親のサユキ・サソは「EMいのちの守護者の会」の熱心な支援者だったこと。
事件の後、シトリとウィリマは同じ孤児院に入り、一二歳でシトリが院を出るまで、一緒に暮らしていたこと。
シトリは学校を卒業した一五歳でジューリックス社に就職したこと、などである。
セリカにとって一番の興味は何故シトリがジューリックス社に入社したか、である。
ジューリックス社の創業者兼社長のタカヒデ・ナベシマは、嫌疑不十分で釈放されたとはいえ、事件の容疑者とされた人物だったためだ。
セリカの疑問にシトリはこう答えた。
「ナベシマが事件の容疑者だ、ということは知っているわ。嫌疑不十分で釈放されたことも。
……私が社に影響を与えられる立場になったとき、事件についてナベシマに真相を問い質す。そのために私はジューリックスにいるのよ」
この時点でセリカは「判定者とその支援者」の構想を持っていたわけではなかった。
セリカがシトリに伝えたのは、事件やナベシマについての情報を集める形で協力する、ということであった。
事件の生存者が三名、ということからナベシマとシトリを対峙させる際は、残りの二人も同席させるべきだ、というのがセリカの考えだった。
そこでセリカは残りの二人のうち、氏名が明らかになっているウィリマ・サソの行方を追うことにした。
しかし、ウィリマについては、通っていた学校が閉鎖されたところまでの情報を得たものの、それ以降の足取りについての情報が一切得られなかった。
一方でセリカとシトリは、ウィリマの父親シンタ・サソが「EMいのちの守護者の会」と「ミクモ工芸」に融資していた金融会社との関係についてかなりの情報を得ていたことを調べ上げていた。
情報の中には、彼らの資金の流れに疑問を呈する記事を発表しようとした雑誌社を有力者と組んで解散に追いやり、記事を書いたライターと担当編集者とを海洋調査隊送りにした、というものまであった。
海洋調査隊に送られた二人は行方不明となっており、その生存は絶望的な状況である。
エクザロームの歴史の暗部であるが、有力者にとって都合の悪い者を適切に「消す」ために海洋調査隊は大いに活用されていたのである。
行方不明となった二人も有力者の都合の犠牲者であった。
「EMいのちの守護者の会」とナベシマの関係については、調査が難航した。
ナベシマが「EMいのちの守護者の会」と関係のある金融業者から多額の融資を受けていたこと、そしてジューリックス社設立の前に一度事業に失敗していることはわかった。
事件の後のことではあるがその借金は完済されており、その間に融資する者とされる者以上の関係があったという事実は得られなかったのである。
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