ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

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第十五章

708:歪み

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 ディンの提案にはアレクも知らないある意図が含まれていた。
 ディンは「判定者とその支援者」のメンバーとしては、知名度がゼロに等しい。
 そして、インデストの検問所に食料や日用品を運び込む業者には、彼の知人が何人かいるため、彼はそれほど怪しまれることなく検問所に出入りできる状況にあった。
 検問所を通り抜けて市街側に行くことはできないが、検問所に出入りできる、という点がポイントである。
 ディンはこのことを既にプラチナに知らせていた。
 今回、検問所でECN社の先発部隊が検問を受けている間に、後発部隊に接触する。
 この際、後発部隊に接触するのはアレクを中心としたメンバーであり、ディンがそこに含まれる可能性は考えられない。
 そこで、ディンが先発部隊と接触し、アカシの発言や現在のIMPUの問題などについて、レイカ・メルツに指摘してくる、というのだ。当然、アレクにはこのことを伝えていない。
 この際、プラチナからレイカに宛てた文書も届けるということでディンとプラチナの間では合意がなされている。

 もし、ダイヤが囚われの身でなければ彼女は「判定者とその支援者」のメンバーがIMPU寄りの態度を取ることを許さなかったであろう。
 ダイヤが捕らえられ、実質上アレクのワントップになったことは、「判定者とその支援者」の組織に多少の歪みをもたらしていた。
 「EMいのちの守護者の会」に対する姿勢は近いものがあるが、IMPUやOP社などといった他の団体に対する姿勢の違いが原因である。
 アレクはダイヤと異なり、ECN社と現在のIMPUの幹部との連合に賭けるつもりのようだった。
 ECN社に関しては、「判定者とその支援者」の中でも企業風土や文化について、十分な情報を持っていないメンバーが少なくない。
 巨大企業であり、かつ、かつてのOP社のようにトップの色が強くないECN社は、特定の色を持たない企業であるともいえる。
 その分、「EMいのちの守護者の会」の悪事を伝えた際の反応も予測がつきにくい。
 今回のインデスト訪問における実質的なトップはレイカ・メルツであり、彼女はECN社の人間としては比較的「色のある」ほうだと考えられている。
 インデストの電力不足、発電技術者不足の問題を知り、自ら解決策を持って調停に訪れたところから、フットワークが軽く、問題や異常を放置できないタイプの人物だと思われる。
 前回はダイヤがあまりよい顔をしなかったことや、「判定者とその支援者」の組織だけで十分に目的を達成できると考えられたことから、レイカやECN社を巻き込むことは見送られたが、今回はそのような余裕のある状況ではない。
 プラチナとしても、IMPUの幹部、というよりサン・アカシの態度さえ改善できれば、ECN社やレイカ・メルツと手を組むのは許容できる。
 ディンの提案は、プラチナの意向に十分沿ったものであり、プラチナはその点を評価しているのだ。

「『EMいのちの守護者の会』がどう出てくるかはわかりませんが、今回は失敗できる状況ではありません。必ずやり遂げます」
 ディンが小声でプラチナに決意のほどを述べた。
「頼むぞ! こちらも同行したいが、アレクに同行しないと問題になるだろう。それに、サファイアの守りを薄くするのは危険だ」
「ええ、お任せください」
 自分が直接レイカと接触するのが望ましいとプラチナは考えているが、「判定者とその支援者」の組織構造がそれを許さない。
 プラチナにはこのあと二つの役割が課せられていた。
 「判定者」であるサファイアの守りと、アレクがECN社の後発舞台と接触する際に同行する、というものだ。

 「判定者とその支援者」のメンバーに明確な上下関係は設けられていないのだが、実質上ダイヤとアレクのツートップとなっている。
 ダイヤやアレクに次ぐのがサファイアやゴールドで、プラチナはゴールドに次ぐくらいの立ち位置である。
 このため、ECN社の接触する幹部級のメンバーとして、プラチナが選ばれたのであった。
 サファイアを表に出せない以上、アレクとプラチナが出ていかざるを得ない。
 立ち位置の上下という点において「判定者とその支援者」の他のメンバーはどんぐりの背比べ状態で、特に差がないというのが実情だ。
 アレクは「判定者」の方を上に見る傾向があり、サファイアは自分の上位者だと主張しているが、サファイアがあまり前に出る性格ではないことと、アレクが組織の設立メンバーであることから、実際はアレクの方が上位に見える。
 ダイヤとゴールドを欠いた現在では、アレクを止める者はない。
 ただし、アレクの言動が他のメンバーの支持を得ていないということはなかった。
 プラチナがアレクの言動に不満を持っているのは、「現在のIMPU幹部に寄り添う」姿勢を見せていることのみだ。
 そうでなければ、「判定者とその支援者」は組織として、既に崩壊していたに違いない。
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