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第十五章
709:救世主を待つ
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プラチナとディンが街道沿いの商店に入った。この店で日用品を調達する。
「あっ、カジの坊ちゃん、いらっしゃい!」
女性店主の威勢の良い声が響いた。
空元気に思えるのは店主の声以外の物音がしないからだろうか。
「カジの坊ちゃん」と呼ばれているのは、プラチナである。
彼の本名はホッカ・カジという。
彼は学生時代からこの店に出入りしており、店主も彼のことをよく知っている。
プラチナが店内を見回して、棚の様子を確認する。
店内には整然と商品が並べられていたが、商品と商品の間は隙間だらけである。
また、他の客の姿はない。
「相変わらず商品が入ってこないのですか?」
プラチナが近くにあった商品を手に取りながら問うた。
必要なものは一通り揃えられそうだが、絶対数が少ない。次回以降も同じように必要なものが揃えられるかは不安が残る状況だ。
「検問所から出てくる商品が少ないのでねぇ。買いに来る人も減っているから、ちょうどいいのだけど。早く事件が解決してくれるといいねぇ。『EMいのちの守護者の会』が尻を叩いているから時間の問題だと思うけど」
店主の答えはプラチナには想定された内容ではあった。
だが、「EMいのちの守護者の会」がいかに市民の信用を得ているかを改めて思い知らされた。
「EMいのちの守護者の会」の悪事が公になり、それが市民に受け入れられれば、今まで得ていた信用の分、彼らに対する風当たりも強くなるだろう、というのがアレクの考えだ。
ただ、こうした市民の反応を見ている限り、彼らの信用を崩すのはかなりの難事であるようにもプラチナには思える。
「助かった。また来るからよろしく」
「そのときまで品物が揃えられるように頑張ってみるよ」
プラチナが店主に声をかけると、店主が頭を下げた。
プラチナとディンはボディーソープやティッシュペーパーなどを買い込んで、店を後にした。
「……そういえば、アレクさんが話を持っていこうとしているタカミとかいう人は、どのような方なのでしょうか?」
不意に発されたディンの言葉に、プラチナはあることに気付かされた。
アレクをロビー・タカミに接するように仕向けたのはディンである。
「待てディン、知らない相手にアレクを会わせようとしたのか?」
「すみません、レイカ・メルツさんにうまく接触する方法を他に思いつきませんでした」
ディンの答えに少し腹立たしさを覚えたプラチナであったが、すぐに考えを改めた。
アレクのフィルターを通っていないプラチナの意向をレイカに伝えるためには、ディンの方法が有効だからだ。
また、次のような事情もあった。
先発隊を率いるレイカ・メルツは有名人であり、その人となりもよく知られている。
しかし、後発隊を率いるロビー・タカミに関しては、情報らしい情報がほとんどないのだ。
「まあいい、情報を整理しながら改善が必要かを考えよう」
プラチナがそう提案した。
報道などからロビー・タカミなる人物はエリック・モトムラの部下であり、若い男性だということは明らかになっている。
エリックは「タブーなきエンジニア集団」出身であり、インデストで実際に戦闘にも参加していたため、インデストでの知名度は高い。
エリック以外にも主だった「タブーなきエンジニア集団」のメンバーはインデストで知られているのだが、ロビーの名前はその中にはない。
ECN社内の立場もエリックのタスクユニットのサブマネージャーとしか公表されていない。
実は「東部探索隊」の成果についてはECN社も公にしているのだが、プロジェクトのメンバーに関する情報はトップであるエリックの名前を出しているだけで、それ以外のメンバーの名前は公表していない。そのため、プラチナやディンが「東部探索隊」におけるロビーの立場を把握していないのも無理はなかった。
所属が異なるものの、役職からはレイカの方がロビーより上の立場だ、ということだけはプラチナやディンにもわかる。
レイカの方が上の立場であれば、彼女とロビーの意見が対立した場合、レイカの意見が採用される可能性が高い。これは問題だ。
ロビーの上司であるエリックとレイカの間に意見の対立がある場合も厄介だ。二人はECN社内ではほぼ同格とされているからだ。
この場合、ロビーはエリックの代理人という立場になり、エリックとレイカの間で主導権争いが展開される可能性もある。そうなればプラチナの意向を汲んでECN社が動いてくれるかは微妙なところだ。
これらのことを考えると、ロビーだけではなくレイカにも接触してこちらの要望を聞いてほしい、というのがプラチナの本音だ。
実は他のメンバーからレイカにダイヤの解放を頼んでみてはどうか、という案も出されていた。
レイカとダイヤはかつて同じ企業に勤務していた経験があり、互いに面識があるらしい。
ダイヤはレイカの手を借りることに消極的であった。
それでも、レイカがダイヤを解放すれば、レイカに対する態度も軟化するかもしれない。
ダイヤはIMPUの現幹部に対してそれほど悪い感情を持っていないが、アレクよりはプラチナの感情に理解を示していた。
その点を考慮すると、レイカにダイヤの解放を求めるのは有効であるようにプラチナには思える。
ディンもプラチナと同じような考えを持ったようで、ダイヤの解放を求めるようレイカに依頼すると申し出た。
メンバーの思惑に微妙なばらつきを生じさせながら、「判定者とその支援者」は、救世主の到着を待ちわびる。
「あっ、カジの坊ちゃん、いらっしゃい!」
女性店主の威勢の良い声が響いた。
空元気に思えるのは店主の声以外の物音がしないからだろうか。
「カジの坊ちゃん」と呼ばれているのは、プラチナである。
彼の本名はホッカ・カジという。
彼は学生時代からこの店に出入りしており、店主も彼のことをよく知っている。
プラチナが店内を見回して、棚の様子を確認する。
店内には整然と商品が並べられていたが、商品と商品の間は隙間だらけである。
また、他の客の姿はない。
「相変わらず商品が入ってこないのですか?」
プラチナが近くにあった商品を手に取りながら問うた。
必要なものは一通り揃えられそうだが、絶対数が少ない。次回以降も同じように必要なものが揃えられるかは不安が残る状況だ。
「検問所から出てくる商品が少ないのでねぇ。買いに来る人も減っているから、ちょうどいいのだけど。早く事件が解決してくれるといいねぇ。『EMいのちの守護者の会』が尻を叩いているから時間の問題だと思うけど」
店主の答えはプラチナには想定された内容ではあった。
だが、「EMいのちの守護者の会」がいかに市民の信用を得ているかを改めて思い知らされた。
「EMいのちの守護者の会」の悪事が公になり、それが市民に受け入れられれば、今まで得ていた信用の分、彼らに対する風当たりも強くなるだろう、というのがアレクの考えだ。
ただ、こうした市民の反応を見ている限り、彼らの信用を崩すのはかなりの難事であるようにもプラチナには思える。
「助かった。また来るからよろしく」
「そのときまで品物が揃えられるように頑張ってみるよ」
プラチナが店主に声をかけると、店主が頭を下げた。
プラチナとディンはボディーソープやティッシュペーパーなどを買い込んで、店を後にした。
「……そういえば、アレクさんが話を持っていこうとしているタカミとかいう人は、どのような方なのでしょうか?」
不意に発されたディンの言葉に、プラチナはあることに気付かされた。
アレクをロビー・タカミに接するように仕向けたのはディンである。
「待てディン、知らない相手にアレクを会わせようとしたのか?」
「すみません、レイカ・メルツさんにうまく接触する方法を他に思いつきませんでした」
ディンの答えに少し腹立たしさを覚えたプラチナであったが、すぐに考えを改めた。
アレクのフィルターを通っていないプラチナの意向をレイカに伝えるためには、ディンの方法が有効だからだ。
また、次のような事情もあった。
先発隊を率いるレイカ・メルツは有名人であり、その人となりもよく知られている。
しかし、後発隊を率いるロビー・タカミに関しては、情報らしい情報がほとんどないのだ。
「まあいい、情報を整理しながら改善が必要かを考えよう」
プラチナがそう提案した。
報道などからロビー・タカミなる人物はエリック・モトムラの部下であり、若い男性だということは明らかになっている。
エリックは「タブーなきエンジニア集団」出身であり、インデストで実際に戦闘にも参加していたため、インデストでの知名度は高い。
エリック以外にも主だった「タブーなきエンジニア集団」のメンバーはインデストで知られているのだが、ロビーの名前はその中にはない。
ECN社内の立場もエリックのタスクユニットのサブマネージャーとしか公表されていない。
実は「東部探索隊」の成果についてはECN社も公にしているのだが、プロジェクトのメンバーに関する情報はトップであるエリックの名前を出しているだけで、それ以外のメンバーの名前は公表していない。そのため、プラチナやディンが「東部探索隊」におけるロビーの立場を把握していないのも無理はなかった。
所属が異なるものの、役職からはレイカの方がロビーより上の立場だ、ということだけはプラチナやディンにもわかる。
レイカの方が上の立場であれば、彼女とロビーの意見が対立した場合、レイカの意見が採用される可能性が高い。これは問題だ。
ロビーの上司であるエリックとレイカの間に意見の対立がある場合も厄介だ。二人はECN社内ではほぼ同格とされているからだ。
この場合、ロビーはエリックの代理人という立場になり、エリックとレイカの間で主導権争いが展開される可能性もある。そうなればプラチナの意向を汲んでECN社が動いてくれるかは微妙なところだ。
これらのことを考えると、ロビーだけではなくレイカにも接触してこちらの要望を聞いてほしい、というのがプラチナの本音だ。
実は他のメンバーからレイカにダイヤの解放を頼んでみてはどうか、という案も出されていた。
レイカとダイヤはかつて同じ企業に勤務していた経験があり、互いに面識があるらしい。
ダイヤはレイカの手を借りることに消極的であった。
それでも、レイカがダイヤを解放すれば、レイカに対する態度も軟化するかもしれない。
ダイヤはIMPUの現幹部に対してそれほど悪い感情を持っていないが、アレクよりはプラチナの感情に理解を示していた。
その点を考慮すると、レイカにダイヤの解放を求めるのは有効であるようにプラチナには思える。
ディンもプラチナと同じような考えを持ったようで、ダイヤの解放を求めるようレイカに依頼すると申し出た。
メンバーの思惑に微妙なばらつきを生じさせながら、「判定者とその支援者」は、救世主の到着を待ちわびる。
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