ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三

文字の大きさ
292 / 304
第十五章

710:レイカ、再びインデストへ

しおりを挟む
 LH五二年七月二二日、インデストの空は薄い雲に覆われていた。
 わずかに陽が射しており、雨は降っていない。
 このような空模様のためか、ここ数日のうだるような暑さはなく、過ごしやすい日であった。

 インデストの検問所の周辺に集まった人々にとって、この天気は救いであっただろう。
 検問所の前後数百メートルの街道は、人で埋め尽くされていた。
 遥か遠くのハモネスから、島一番の美人であり有名人であるとも噂されるレイカ・メルツが検問所に到着する、との報が流されたためだ。
 レイカたちECN社メンバーの歩みは速く、予定よりも二日ばかり早い到着である。
 実はレイカは敢えて予定に余裕を持たせていた。
 ハドリもしばしば用いていた手法であったが、予定より早く到着することで相手の準備の時間を削ることを目論んだのだ。

 二手に分かれて出発したレイカ達は、昨日インデスト郊外の「オーシャンリゾート」で合流した。
 そして今日、ロビー・タカミ率いる後発部隊を「オーシャンリゾート」に残し、レイカたち先発部隊が検問所に向けて出発したのである。
 レイカはIMPU、OP社インデスト支店などの関係者に対して、検問所への到着は午後一時くらいになると通知していた。

 一二時四五分過ぎ、街道の西側にレイカたちの姿が見えた。
 一五人程度の集団が整然と向かってくる。
 街道の両脇に集まった群衆から「わぁ」とか「おおっ」といった歓声があがった。
 検問所からも二名の警備員がレイカの方に向かって走った。
 そして、レイカたちの隊列に合流する。
 レイカの隊は彼女を守るように取り囲み、押し寄せる人々をブロックしながら検問所へとゆっくり進んでいく。
 急ごうにも、群衆が押し寄せてくる圧力が強すぎ、思うように進めないのだ。
「すみません、もう少し道を空けていただけないでしょうか!」
 レイカの隊のザライ・モモギが叫んだ。
 警備の専門家として、今の状況に危険を感じたためだった。
 モモギは走ってきた検問所の警備員に道の両脇にロープを張るなどして、通り道の確保をするよう依頼した。
 そうしている間にも群衆は次々とレイカたちに向けて押し寄せ、ついには身動きが取れなくなってしまった。
 このような状況でも、モモギやジンゴ・シバノイなどといった、前回レイカに同行したメンバーがレイカや「とぉえんてぃ? ず」の三人を内に入れるようにして安全を守っている。

 しばらくして、検問所から更に五名ほどの警備員がロープとポールを持って表れ、群衆を街道の左右に分け始めた。
 その間、作業の邪魔にならないよう、レイカたちはその場で待機することを余儀なくされた。
 ロープが張られ、ようやく道が確保できたところで、レイカたちは検問所へと向けての歩みを再開した。
 検問所の入口で番をしている警備員に止められる。
 どうやら、建物の中が検問を受ける人でいっぱいになっており、レイカたちを入れる余裕がないらしい。
 シバノイがレイカや「とぉえんてぃ? ず」などの女性だけでも先に中に入れて欲しい、と要求したが、警備員は頑として受け入れない。
 シバノイと警備員が押し問答になっている間に、後方から一人の若い男性が走ってきた。
 モモギがすばやく反応して、後方を警戒する。
 走ってくる男性はレイカたちの知らない顔であった。
「あ、うちの職員です。通してください」
 モモギが隊の最後方に移動するとほぼ同時に警備員が言った。
「職員の人か。だったら脇を空けて通れるようにしましょう」
 カネサキが隊を建物入口の右方に寄せるように移動させる。
 そして、カネサキ自身は隊から少し離れた右の方へ立つ。
 警備員と押し問答をしているシバノイとカネサキだけが建物の方を向き、他のメンバーは後方から走ってくる男性の方を向いている。
 男性はレイカたちの脇を抜けて建物に入るのだろう、とレイカたちは考えていたが、彼が一考に向きを変える様子はない。
 そして、男性はモモギの目の前で停止した。
「遅くなってすみません。手続きを急がせますので、少しお待ちください」
 それだけ告げて、男性は携帯端末を手に建物の中へと消えていった。
 レイカたちの中に男性を知る者はなかったが、彼は「判定者とその支援者」という団体でディンと呼ばれている者であった。
 ディンが建物の中に消えた直後、群衆が騒がしくなった。
 騒ぎの様子からレイカに接触しようと強引に街道に出ようとした者がおり、それを阻止しようとした者達との間で乱闘が始まったらしい。
 慌てて警備員がそれを止めに飛び出した。
 レイカたちも、乱闘騒ぎの起こっているほうを警戒する。
 例外は押し問答中のシバノイと、乱闘から一番遠い位置におり、騒ぎに気付いていないカネサキであった。
 カネサキは建物の陰で何かが動いているような気がして、そちらに注意を向けていた。
 レイカたちの位置からは死角になるが、隊から少し離れていたカネサキにはわずかに何かが動いているのが見えた。
 それが何かを確かめようと、カネサキが建物の方へ向けて足を踏み出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...