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15:何故代理に協力するのか?
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一二時半過ぎに昼食が届けられた。届けてきたのはヒロシの中学生の息子だった。
ヒロシは来客の対応をしており手が離せないらしい。
昼食はまたしてもおにぎりだったが、贅沢は言っていられない。
三人が客間でおにぎりと総菜の昼食を済ませた直後、ヒロシが息を切らせて客間に駆け込んできた。
「お嬢さん! これ!」
ヒロシが培楽の前に二つの巾着袋を差し出した。
一つは緑色で、もう一つはベージュだ。ベージュの方が緑色のよりも二回りくらい大きい。
「これは?」
「緑の方は靴だ。息子用に買ってほとんど使っていなかった運動靴があったからね。男ものだがサイズはお嬢さんと同じ二三.五だから大丈夫だろう」
「あ、ありがとうございます!」
培楽が緑色の巾着袋を開いて、中から靴を取り出した。
新品同様、とまではいかないものの、あまり使われていないようで綺麗なままだった。
試しに履いてみると、サイズも合っている。
「大丈夫そうだな? 白っぽい袋は配送中に主任さんから頼まれたものなんだが、お嬢さんが一人で開けるようにって言われたんでね。後で中を確かめてちょうだいよ」
「は、はあ……わかりました」
主任から頼まれた荷物、というものに全く心当たりのない培楽であったが、この場は素直にヒロシの言葉に従った。
「飯は終わったんだね。なら、頼まれた品物も準備ができたからこっちに持ってくる、でいいかな?」
ヒロシがテーブルの上にある空になった皿に目をやってから尋ねてきた。
先生が先に軍手はここで良いと答え、遅れて培楽もサンドイッチの材料はここにお願いしますと答えた。
ヒロシが品物を持ってくるために客間を出たところで、培楽も客間を出て倉庫の隅へと移動した。
一人で中を確かめるように言われたベージュの巾着袋を確認するためだ。
「……これって……」
巾着袋の中から出てきたのは、登山用の女性もののインナーだった。タイツとショーツ、ブラが各二着ずつである。
培楽は急いでトイレに駆け込み、ショーツとブラを身に着けてみる。
「……ゆったりした感じだけど……サイズ的には大丈夫そう。これなら!」
思わずガッツポーズが出る培楽であった。
一昨日の朝からほぼ二日以上同じ下着を身に着けたままだったので、正直なところ不快で仕方なかったのだ。
これでようやく、あの不快感から解放される……
培楽は試着した下着を脱いで丁寧に畳み、巾着袋に戻した。
新しい下着はシャワーを浴びて綺麗な身体になってから身に着けたいと考えたからであった。
巾着袋の中味の確認を終えて客間に戻ると、テーブルの上にはサンドイッチの材料が並べられていた。ヒロシが持ってきたのだろう。
客間の中には先生の姿だけがあり、代理とヒロシの姿は無い。
「あれ? 代理さんはどこへ?」
培楽が部屋の中をキョロキョロと見回した。
「別室で店主と夕方からの手はずについて話し合っています。貴女はご自身の準備を進めてください、とのことです」
「あ、はい……」
先生の言葉には素直に身体が従ってしまう培楽であった。
培楽は無言でテーブルの上に積まれた材料を使ってサンドイッチを作っていく。
「代理さんと一緒に行動する人の分と、後は誰の分を作ればいいかな?」
ふと、考えていることが培楽の口をついて出た。
「九人分、でいいでしょう。契約の地に向かう六名、ボートを動かす二名、そして社長の分があれば十分です」
培楽の独り言に先生が律義に答えた。直後、培楽の背筋がピンと伸びる。
「……」
その後、培楽は無言でサンドイッチを作り続ける。
先生の方に目を向けると、彼は黙々と荷物を確認していた。
「?? そちらの準備は大丈夫ですか? 手伝いが必要なら手を貸しますが」
培楽の視線に気付いたのか、先生がそう申し出た。
「え、えっと……」
培楽は一瞬固まった後、手伝いは不要と言いかけたが、ここであることを思いついた。
契約の内容については培楽が聞いたところで答えてくれそうもない。
だが、先生が代理に協力している理由がわかれば契約の内容がある程度わかるのではないか? そう考えたのだ。
先生は強面で声も低いので迫力はあるが、話し方は基本的に丁寧だし、真摯な性質であるように培楽には思われた。
少なくとも仕事で接する理不尽な客よりは遥かに話が通じるであろう。
ならば、代理に協力している理由くらいなら答えてくれるかもしれない。
そう期待を抱いた培楽は思い切って先生に尋ねてみることにした。
「あのー、ちょっと聞いてもいいですか?」
「……どうぞ」
「あなたは何故、代理さんに協力して行動を共にしているのでしょうか?」
「……」
すると先生が黙って視線を遠くに向けたように培楽には見えた。
「あ、あのっ! 答えにくいことなら答えなくてもいいですっ! すみませんっ!」
先生の機嫌を損ねたのではないかと思い、培楽が慌てて謝罪する。
「……構いません。あの方は貴女を将来我々側の立場に立つ女性だと考えているようです。それならば、私のことをお話しするのも何かの役に立つかもしれません……」
培楽の予想に反して、先生は微かな笑みを浮かべていた。
この人にこんな顔ができるのか、と培楽は意外に思っていた。
「私の家は、代々あの方の一族をお守りする使命を帯びていたのです……」
先生が無表情で自らの身の上について話し始めた。
代理の一族を守る使命を帯びる家、などというドラマや小説にしか登場しない突拍子もない話にも、培楽は不思議と違和感を覚えなかった。
むしろ先生の代理に対する言動を見る限り、このような使命がない方が不自然だと思ったくらいだ。
「私は二人兄弟の次男で、父が亡くなる直前にあのお方を守る使命を兄が受け継ぎました。私は本来、使命とは関係を持たないはずでした……」
ここで培楽が意外に思ったのは、先生の父親が亡くなっているらしいことであった。
外見から先生は自分よりは年上だろうが、どう見積もっても四〇より上には見えない、と培楽は思っていたからだ。
「私は学校を出た後、とある経営コンサルティング会社に就職しました。このナリですから、会社のトップのコンサルタントを守るボディーガードのような役割です。私自身も肩書はコンサルタントでしたので、皆さんが私のことを先生と呼ぶのはそのときの名残り、とでも言いますか……」
「あ、コンサルタントだから『先生』だったんですね」
培楽は思わず笑みを浮かべた。
彼女の所属しているRAスタディ社でも外部からコンサルタントを入れて業務改善などの指導を受けている。
出入りしているコンサルタントも確か「先生」と呼ばれていたはずだ、ということを思い出していたのだ。
「正直なところ私には似つかわしくないですが、呼び名として定着してしまったので受け入れるしかありません……」
先生は無表情だったが、これ以上呼び名に関する話題を続けると怒らせてしまいそうだと考えた培楽が話題を転じにかかる。
「さっきボディーガードと仰っていましたけど、格闘技か何かされていたのですか?」
「格闘技ではないですが、高校、大学とラグビーをやっていたのです……」
どうやら話題を転じることに成功したようだ、と培楽が一息ついた。
しかし、不意に先生の口調が重苦しいものへと変わる。
「……私はこのまま家の使命とは関係なく、一会社員として生涯を終えるはず、でした……」
「……でした?」
「ええ。兄が亡くなったので、私が使命を引き継ぐことになったのです」
予想していたことであったが、本人の口から改めて聞かされるとことが重大だと培楽は思い知らされた。
「あの、差し支えなければ、どうしてお兄さんは……」
聞いてはならない、と培楽は直感していたが、何故か言葉となって口から出てしまった。
慌てて手で口を塞ごうとしたがもう遅い。
「……構いません。兄は先代の代理を守って異国の地で連中に殺されました」
「……先代?」
「ええ。前回は先代の代理や私の兄などが使命を果たそうとこの地を訪れるはずでしたが……」
「はず……」
「残念ながら日本の地を踏むことなく、全滅しました」
「そんな……!」
培楽が思わず手にしたパンを落とした。
「連中の手にかかり、皆、生命を落としたのです。今回は前回の轍を踏まぬよう最後まで代理をお守りするだけです……」
相変わらず先生は無表情であったが、握られた拳は微かに震え、手首の紋章が淡く光っているように培楽には見えた。
「た、大変ですね……」
培楽の口をついて出たのは、他人事のような台詞であった。彼女自身、自分も関わっているということを失念していた。
「いえ、使命ですから大変などということはありません。それにあなたも協力者です。代理に同行する以上、最後まで見届けをお願いします」
相変わらず先生は無表情だった。口調は重苦しいが、培楽を攻撃するそれではなかった。
だが、最後のこの言葉だけは有無を言わせず培楽を押さえつけるかのような圧力があるように感じられた。
「はい……」
辛うじて培楽の口から出たのは、承知の返事だけであった。
「代理はあなたを買っているようですし、もう少しだけお話ししましょう……」
パンをテーブルに落としたまま固まっている培楽をよそに、代理が話を続ける。
先ほど感じた圧力はいつの間にか薄れ、培楽には先生の表情がわずかに柔和なものになったようにすら感じられた。
「……代理から聞いているとは思いますが、彼の使命は『ある契約を結ぶこと』です。約束の刻限にしかるべき地に到達できれば契約は結ばれると聞いております……」
このことは既に培楽も知っているが、不思議と先生に指摘する気にはなれない。培楽は黙って先生の言葉を聞いている。
「……契約の内容は存じていますが、印のないあなたにお話しすることはできません。私は契約の内容に賛同しています。ですから代理と契約をお守りする、それだけだということをご承知おきください」
「わ、わかりましたっ!」
「……少し話し過ぎてしまったようです。私は準備がありますのでこれで」
最後に先生がそう言い残して客間から出ていった。
「あ、残りをサンドイッチにしないと……」
我に返った培楽は、テーブルの上に落ちたパンを拾い上げ、サンドイッチづくりを再開したのだった。
現在、五月二〇日一三時四〇分
━━契約の刻限まで、あと一〇時間二〇分━━
ヒロシは来客の対応をしており手が離せないらしい。
昼食はまたしてもおにぎりだったが、贅沢は言っていられない。
三人が客間でおにぎりと総菜の昼食を済ませた直後、ヒロシが息を切らせて客間に駆け込んできた。
「お嬢さん! これ!」
ヒロシが培楽の前に二つの巾着袋を差し出した。
一つは緑色で、もう一つはベージュだ。ベージュの方が緑色のよりも二回りくらい大きい。
「これは?」
「緑の方は靴だ。息子用に買ってほとんど使っていなかった運動靴があったからね。男ものだがサイズはお嬢さんと同じ二三.五だから大丈夫だろう」
「あ、ありがとうございます!」
培楽が緑色の巾着袋を開いて、中から靴を取り出した。
新品同様、とまではいかないものの、あまり使われていないようで綺麗なままだった。
試しに履いてみると、サイズも合っている。
「大丈夫そうだな? 白っぽい袋は配送中に主任さんから頼まれたものなんだが、お嬢さんが一人で開けるようにって言われたんでね。後で中を確かめてちょうだいよ」
「は、はあ……わかりました」
主任から頼まれた荷物、というものに全く心当たりのない培楽であったが、この場は素直にヒロシの言葉に従った。
「飯は終わったんだね。なら、頼まれた品物も準備ができたからこっちに持ってくる、でいいかな?」
ヒロシがテーブルの上にある空になった皿に目をやってから尋ねてきた。
先生が先に軍手はここで良いと答え、遅れて培楽もサンドイッチの材料はここにお願いしますと答えた。
ヒロシが品物を持ってくるために客間を出たところで、培楽も客間を出て倉庫の隅へと移動した。
一人で中を確かめるように言われたベージュの巾着袋を確認するためだ。
「……これって……」
巾着袋の中から出てきたのは、登山用の女性もののインナーだった。タイツとショーツ、ブラが各二着ずつである。
培楽は急いでトイレに駆け込み、ショーツとブラを身に着けてみる。
「……ゆったりした感じだけど……サイズ的には大丈夫そう。これなら!」
思わずガッツポーズが出る培楽であった。
一昨日の朝からほぼ二日以上同じ下着を身に着けたままだったので、正直なところ不快で仕方なかったのだ。
これでようやく、あの不快感から解放される……
培楽は試着した下着を脱いで丁寧に畳み、巾着袋に戻した。
新しい下着はシャワーを浴びて綺麗な身体になってから身に着けたいと考えたからであった。
巾着袋の中味の確認を終えて客間に戻ると、テーブルの上にはサンドイッチの材料が並べられていた。ヒロシが持ってきたのだろう。
客間の中には先生の姿だけがあり、代理とヒロシの姿は無い。
「あれ? 代理さんはどこへ?」
培楽が部屋の中をキョロキョロと見回した。
「別室で店主と夕方からの手はずについて話し合っています。貴女はご自身の準備を進めてください、とのことです」
「あ、はい……」
先生の言葉には素直に身体が従ってしまう培楽であった。
培楽は無言でテーブルの上に積まれた材料を使ってサンドイッチを作っていく。
「代理さんと一緒に行動する人の分と、後は誰の分を作ればいいかな?」
ふと、考えていることが培楽の口をついて出た。
「九人分、でいいでしょう。契約の地に向かう六名、ボートを動かす二名、そして社長の分があれば十分です」
培楽の独り言に先生が律義に答えた。直後、培楽の背筋がピンと伸びる。
「……」
その後、培楽は無言でサンドイッチを作り続ける。
先生の方に目を向けると、彼は黙々と荷物を確認していた。
「?? そちらの準備は大丈夫ですか? 手伝いが必要なら手を貸しますが」
培楽の視線に気付いたのか、先生がそう申し出た。
「え、えっと……」
培楽は一瞬固まった後、手伝いは不要と言いかけたが、ここであることを思いついた。
契約の内容については培楽が聞いたところで答えてくれそうもない。
だが、先生が代理に協力している理由がわかれば契約の内容がある程度わかるのではないか? そう考えたのだ。
先生は強面で声も低いので迫力はあるが、話し方は基本的に丁寧だし、真摯な性質であるように培楽には思われた。
少なくとも仕事で接する理不尽な客よりは遥かに話が通じるであろう。
ならば、代理に協力している理由くらいなら答えてくれるかもしれない。
そう期待を抱いた培楽は思い切って先生に尋ねてみることにした。
「あのー、ちょっと聞いてもいいですか?」
「……どうぞ」
「あなたは何故、代理さんに協力して行動を共にしているのでしょうか?」
「……」
すると先生が黙って視線を遠くに向けたように培楽には見えた。
「あ、あのっ! 答えにくいことなら答えなくてもいいですっ! すみませんっ!」
先生の機嫌を損ねたのではないかと思い、培楽が慌てて謝罪する。
「……構いません。あの方は貴女を将来我々側の立場に立つ女性だと考えているようです。それならば、私のことをお話しするのも何かの役に立つかもしれません……」
培楽の予想に反して、先生は微かな笑みを浮かべていた。
この人にこんな顔ができるのか、と培楽は意外に思っていた。
「私の家は、代々あの方の一族をお守りする使命を帯びていたのです……」
先生が無表情で自らの身の上について話し始めた。
代理の一族を守る使命を帯びる家、などというドラマや小説にしか登場しない突拍子もない話にも、培楽は不思議と違和感を覚えなかった。
むしろ先生の代理に対する言動を見る限り、このような使命がない方が不自然だと思ったくらいだ。
「私は二人兄弟の次男で、父が亡くなる直前にあのお方を守る使命を兄が受け継ぎました。私は本来、使命とは関係を持たないはずでした……」
ここで培楽が意外に思ったのは、先生の父親が亡くなっているらしいことであった。
外見から先生は自分よりは年上だろうが、どう見積もっても四〇より上には見えない、と培楽は思っていたからだ。
「私は学校を出た後、とある経営コンサルティング会社に就職しました。このナリですから、会社のトップのコンサルタントを守るボディーガードのような役割です。私自身も肩書はコンサルタントでしたので、皆さんが私のことを先生と呼ぶのはそのときの名残り、とでも言いますか……」
「あ、コンサルタントだから『先生』だったんですね」
培楽は思わず笑みを浮かべた。
彼女の所属しているRAスタディ社でも外部からコンサルタントを入れて業務改善などの指導を受けている。
出入りしているコンサルタントも確か「先生」と呼ばれていたはずだ、ということを思い出していたのだ。
「正直なところ私には似つかわしくないですが、呼び名として定着してしまったので受け入れるしかありません……」
先生は無表情だったが、これ以上呼び名に関する話題を続けると怒らせてしまいそうだと考えた培楽が話題を転じにかかる。
「さっきボディーガードと仰っていましたけど、格闘技か何かされていたのですか?」
「格闘技ではないですが、高校、大学とラグビーをやっていたのです……」
どうやら話題を転じることに成功したようだ、と培楽が一息ついた。
しかし、不意に先生の口調が重苦しいものへと変わる。
「……私はこのまま家の使命とは関係なく、一会社員として生涯を終えるはず、でした……」
「……でした?」
「ええ。兄が亡くなったので、私が使命を引き継ぐことになったのです」
予想していたことであったが、本人の口から改めて聞かされるとことが重大だと培楽は思い知らされた。
「あの、差し支えなければ、どうしてお兄さんは……」
聞いてはならない、と培楽は直感していたが、何故か言葉となって口から出てしまった。
慌てて手で口を塞ごうとしたがもう遅い。
「……構いません。兄は先代の代理を守って異国の地で連中に殺されました」
「……先代?」
「ええ。前回は先代の代理や私の兄などが使命を果たそうとこの地を訪れるはずでしたが……」
「はず……」
「残念ながら日本の地を踏むことなく、全滅しました」
「そんな……!」
培楽が思わず手にしたパンを落とした。
「連中の手にかかり、皆、生命を落としたのです。今回は前回の轍を踏まぬよう最後まで代理をお守りするだけです……」
相変わらず先生は無表情であったが、握られた拳は微かに震え、手首の紋章が淡く光っているように培楽には見えた。
「た、大変ですね……」
培楽の口をついて出たのは、他人事のような台詞であった。彼女自身、自分も関わっているということを失念していた。
「いえ、使命ですから大変などということはありません。それにあなたも協力者です。代理に同行する以上、最後まで見届けをお願いします」
相変わらず先生は無表情だった。口調は重苦しいが、培楽を攻撃するそれではなかった。
だが、最後のこの言葉だけは有無を言わせず培楽を押さえつけるかのような圧力があるように感じられた。
「はい……」
辛うじて培楽の口から出たのは、承知の返事だけであった。
「代理はあなたを買っているようですし、もう少しだけお話ししましょう……」
パンをテーブルに落としたまま固まっている培楽をよそに、代理が話を続ける。
先ほど感じた圧力はいつの間にか薄れ、培楽には先生の表情がわずかに柔和なものになったようにすら感じられた。
「……代理から聞いているとは思いますが、彼の使命は『ある契約を結ぶこと』です。約束の刻限にしかるべき地に到達できれば契約は結ばれると聞いております……」
このことは既に培楽も知っているが、不思議と先生に指摘する気にはなれない。培楽は黙って先生の言葉を聞いている。
「……契約の内容は存じていますが、印のないあなたにお話しすることはできません。私は契約の内容に賛同しています。ですから代理と契約をお守りする、それだけだということをご承知おきください」
「わ、わかりましたっ!」
「……少し話し過ぎてしまったようです。私は準備がありますのでこれで」
最後に先生がそう言い残して客間から出ていった。
「あ、残りをサンドイッチにしないと……」
我に返った培楽は、テーブルの上に落ちたパンを拾い上げ、サンドイッチづくりを再開したのだった。
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