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17:作戦開始
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「培楽さん、すみません。起きていますか……?」
「……」
「培楽さん!」
「はっ!」
代理の声に慌てて培楽が跳び起きる。
慌てて身体を布団で隠そうとしたが、近くには誰の姿もない。
「培楽さん、私は外です。そろそろ時間ですので準備を……」
部屋の外から代理の声が聞こえてきた。襖やドアは閉じられているから今の姿を覗き見られてはいないはずだ。
培楽は今、登山用のインナーだけを身に着けていたから、さすがにこのままの恰好で代理の前に姿を現すのは憚られる。
恥ずかしいのもあるのだが、どちらかというと自分のような観賞に耐えない身体をさらけ出すのは失礼という気持ちの方が強い。
「あ、もうこんな時間か……」
ごそごそと荷物から服を取り出し、登山用の服へと着替える。
いよいよ出発の時が近づいてきた。培楽はその緊張感からくる震えに悩まされながらも、無事に服を着替え終えて部屋のドアを開けた。
「準備できました。あ、そうだ!」
冷蔵庫に弁当となるサンドイッチを保管していたのを思い出し、慌てて保冷バッグへと移動させた。弁当を忘れてしまっては元も子もない。
「準備はできましたか?」
「はい、ってあれ?」
ドアの向こうにあったのは代理の姿だけで先生の姿が見当たらない。
「先生には荷物の積み込みをお願いしています」
「私も手伝いましょうか?」
「それよりもご自身の準備を」
代理に促されて培楽が自身の出発の準備を整える。
といっても、準備はほとんど完了している。
必要なものはリュックに詰め終えているし、服も着ている。
下着や靴の問題も解決していたから、後は準備に抜け漏れがないか確認するだけであった。
「荷物は全部そろっている、か……よっと」
培楽がリュックを背負った。少し重いが動きにくいというほどではない。
そのまま客間を出て倉庫へと移動し、借りた靴で歩き回ってみる。
(……靴も問題なさそう。これなら……)
中学生男子の靴で大丈夫かという不安はあったのだが、今のところ問題はなさそうだ。
むしろ自分が普段使っている靴よりも歩きやすいと感じたくらいだ。
ふと、培楽が時計を見たら一八時二〇分を過ぎたところだった。
出発は四五分くらいになるだろうとのことだったので、少し時間がある。
「そうだ。移動に使う車が来ているかもしれないから、見に行ってみよう」
そう思いついて培楽がガレージの方へと移動する。
移動の車が着いていればリュックを放り込んでしまおうと考えたのだ。
「えっと、移動に使う車は来ていますか?」
ガレージで先生の姿を見つけて培楽が声をかけた。
「まだです。持っていく荷物でしたらそちらに置いてください」
先生が近くにあるプラスチック製の台を指し示した。
台はフォークリフトでの輸送に使うパレットなのだが、培楽にはただのプラスチックの台にしか見えない。
「……暗くなってきましたね」
パレットに荷物を載せた培楽がつぶやいた。
ガレージの隙間から外がわずかに見えるのだが、薄暗くなっているのがわかる。
そろそろ迎えの車が到着してもいい頃だ。
「培楽さん、準備はできましたか?」
ガレージに代理がやって来て培楽に声をかけた。
「はい。ここに荷物も置いてあります。お弁当もばっちりです!」
培楽がパレットの上のリュックを指し示す。
「大丈夫そうですね。いよいよですか……」
代理がうなずいた。
(代理のあの顔……あの人でも緊張するのかぁ……)
代理の表情が硬いのに培楽は気付いていた。使命のことを考えれば無理もない、と思う。
緊張しているのは自分だけでないことに気付き、培楽はほんの少しだけ安堵した。
フォン!
不意にクラクションが鳴った。ガレージの外からだ。
いよいよね、と培楽が身構える。
代理と先生はパレットの方に向かい、荷物を拾い上げた。
その直後、ガレージにトラックが入り込んできた。旅館の軽トラックではなく、培楽達が今いる酒屋のロゴが入ったトラックだ。
「ツトムです。皆さん、準備はできましたか?」
運転席の窓が開いて、くすんだ金髪の頭がにゅっと姿を現した。ツトムだ。
「完了しています。いつでも出発できる状態です」
代理が答えて先生と培楽の方に目をやった。
先生と培楽がうなずく。
「承知です。ですが、まだ暗くなりきっていないので、もう少し待ってから出発します。申し訳ないですが、今回も荷台へお願いします」
ツトムが運転席から降りてきて、後方の荷台の扉を開ける。
今回のトラックはアルミ製の荷室を持ったタイプだ。
「わあ……」
荷室の中を見た培楽が思わず声をあげた。
中には絨毯が敷かれ、折り畳みの椅子が並べられている。
「手前に箱を並べて奥が見えないようにしますので、先に乗り込んでいてください」
ツトムの指示に従い、代理、培楽、先生の順で荷室に入り込む。
折り畳みとはいえ、ちゃんとした椅子であるし、軽トラックと比較するとかなり広い。
三人が余裕をもって横に並んで座ることができる。
三人が椅子に腰かけたのを確かめ、ツトムが段ボールを積みこんでいく。
段ボールの壁で三人の姿が見えなくなった後、ギィィィィと後部の扉が閉められる音がした。
しかし、荷室の天井には照明があり、内部は段ボールに書いてある文字が読める程度には明るい。
真っ暗にならなかったことに培楽が安堵の息をついた。
「……聞こえますか? 聞こえるようならスピーカーの横にマイクがあるのでそちらに向けて返事をお願いします」
少しして、運転席側の壁から声が聞こえてきた。培楽の身体がびくっと震える。
「これですか。聞こえています」
先生がスピーカーと脇にあるマイクを探し出して答えた。
「……大丈夫ですね。何かありましたらこちらから連絡します。それでは出発しますので転ばないように気を付けてください」
スピーカーからツトムの声が聞こえてきた後、エンジンの音が鳴った。いよいよ出発だ。
「……今回は快適ですね」
培楽がつぶやいた。車が止まる気配はないから、少しくらいなら話をしても構わないだろうと思ったのだ。
これからのことを考えると緊張するなと言われても無理がある。
何か話していないと、パニックになりそうで不安だ。
「車が大きいので揺れも少ないですね。二〇分くらいで集合場所には到着するそうなので、それまでは短いドライブを楽しみましょう」
代理の顔は真剣であったが、先ほどまでと異なり言葉の調子は軽い。
だいぶ年下なのに、ガチガチになっている自分とは大違いだ、と思うと培楽は凹みたくもなる。
あんなに重い使命を帯びているのにどうして? と問いただしたくもなるが、今は自分が落ち着く方が先だと培楽が自身に言い聞かせる。
「そ、そうですね。こういう場所に乗る機会も滅多にないですし……」
精一杯強がってそう答えてみるものの、声の震えは隠せない。
「川を渡ったら、すぐに登りになります。今のうちに身体をほぐしておくといいでしょう」
先生は足首を回したり、膝を曲げ伸ばししたりと準備運動に余念がない。
川を渡るどころか、トラックから降りた瞬間から全力で動くのではないかと思えるくらいだ。
「確かにそうですね。私も準備運動を……」
代理が壁に手をつきながら立ち上がって、屈伸運動を始めた。
(皆余裕あるなぁ……)
培楽は代理や先生の様子を羨望の眼差しで見つめている。
培楽自身は気付いていないのだが、木曜の夜にケージの先導で逃げ惑っていたときと比べると、彼女もかなり落ち着いている。
代理や先生の様子を観察できるようになったのはその証拠だ。
(……でも、肝心なときに動けなかったら足手まといになって迷惑をかけちゃうよね……)
そう思い直し、培楽は椅子に座ったまま足首を回し始めた。
代理や先生と一緒にいると、不思議と彼らから離れて逃げ出そうという気にはなれなかった。
その気になれば酒屋に潜んでいた間には脱走するチャンスが何度もあったのだ。
スマホで調べれば、酒屋は鉄道の駅から歩いて一〇分ほどの場所にあることなどすぐにわかる状況だった。
そうでなくとも、知り合いにメール、メッセージなどを送ることも可能であった。
だが、培楽は酒屋で時間を確かめる以外にスマホを手に取ろうともしなかった。
気が付かなかったわけではない。
そうできる状況にあることは、培楽自身も理解していた。だが、何故かその気になれなかったのだ。
培楽の脳裏には今でも時折代理の言葉が浮かんできては消えていた。
「……今は印がないですけど、貴女は敵ではなくこちら側の方の様に思います」
「最後まで……契約書にサインをもらうまでお付き合いいただければ、あなたが我々側の人かそうでないかがわかると思います。もし、我々側でしたら……」
何故か自分がどちら側の人間か確かめるために契約の場にいなくてはならないような気がしている。そう考えると代理達から離れるという選択ができない。
「パトカーが対向車線から近づいてきます。念のため、静かにしていてください」
不意にスピーカーからツトムの声が聞こえてきた。
荷室の中に緊張が走る。
立っていた先生と代理は音もなく椅子に腰掛けた。
培楽も息を潜めて続報を待つ。
「……」
トラックが徐々に減速し、停止した。
荷室を調べられるのだろうか?
先生が身構える。
しかし、いつまで待っても荷室の扉が開く気配はない。
しばらくしてトラックが再び走り出した。
それから一〇数秒後、スピーカーからツトムの声が聞こえてくる。
「……どうやら連中ではないようです。そのまま通り過ぎて行きました。もう見えなくなりましたから大丈夫だと思います」
その声に培楽がほっと胸を撫で下ろす。
木曜の夜からこうして胸を撫で下ろしたのは何度目だろうか? と考えて培楽がため息をついた。
何かに怯えながら隠れたり、逃げ回ったりするのはいつまで続くのだろうか?
契約が結ばれれば終わるのだろうか? それならあと五時間くらいだ。
駅前のカフェで警察らしき者達に捕まってから約四八時間が経過している。
あと五時間なら残りは一割くらいじゃないか、と己を励まそうとするが、これからの道の厳しさを考えると気が滅入りそうになる培楽であった。
トラックは無情にも、集合場所へと向けて進んでいく。
その後、トラックは何度か停止したが、スピーカーから声が聞こえることはなかった。
停止のたびに恐らく赤信号か何かだろう、と培楽は考えた。
そして、何度目かの停止の後、エンジン音が聞こえなくなった。
現在、五月二〇日一九時〇五分
━━契約の刻限まで、あと四時間五五分━━
「……」
「培楽さん!」
「はっ!」
代理の声に慌てて培楽が跳び起きる。
慌てて身体を布団で隠そうとしたが、近くには誰の姿もない。
「培楽さん、私は外です。そろそろ時間ですので準備を……」
部屋の外から代理の声が聞こえてきた。襖やドアは閉じられているから今の姿を覗き見られてはいないはずだ。
培楽は今、登山用のインナーだけを身に着けていたから、さすがにこのままの恰好で代理の前に姿を現すのは憚られる。
恥ずかしいのもあるのだが、どちらかというと自分のような観賞に耐えない身体をさらけ出すのは失礼という気持ちの方が強い。
「あ、もうこんな時間か……」
ごそごそと荷物から服を取り出し、登山用の服へと着替える。
いよいよ出発の時が近づいてきた。培楽はその緊張感からくる震えに悩まされながらも、無事に服を着替え終えて部屋のドアを開けた。
「準備できました。あ、そうだ!」
冷蔵庫に弁当となるサンドイッチを保管していたのを思い出し、慌てて保冷バッグへと移動させた。弁当を忘れてしまっては元も子もない。
「準備はできましたか?」
「はい、ってあれ?」
ドアの向こうにあったのは代理の姿だけで先生の姿が見当たらない。
「先生には荷物の積み込みをお願いしています」
「私も手伝いましょうか?」
「それよりもご自身の準備を」
代理に促されて培楽が自身の出発の準備を整える。
といっても、準備はほとんど完了している。
必要なものはリュックに詰め終えているし、服も着ている。
下着や靴の問題も解決していたから、後は準備に抜け漏れがないか確認するだけであった。
「荷物は全部そろっている、か……よっと」
培楽がリュックを背負った。少し重いが動きにくいというほどではない。
そのまま客間を出て倉庫へと移動し、借りた靴で歩き回ってみる。
(……靴も問題なさそう。これなら……)
中学生男子の靴で大丈夫かという不安はあったのだが、今のところ問題はなさそうだ。
むしろ自分が普段使っている靴よりも歩きやすいと感じたくらいだ。
ふと、培楽が時計を見たら一八時二〇分を過ぎたところだった。
出発は四五分くらいになるだろうとのことだったので、少し時間がある。
「そうだ。移動に使う車が来ているかもしれないから、見に行ってみよう」
そう思いついて培楽がガレージの方へと移動する。
移動の車が着いていればリュックを放り込んでしまおうと考えたのだ。
「えっと、移動に使う車は来ていますか?」
ガレージで先生の姿を見つけて培楽が声をかけた。
「まだです。持っていく荷物でしたらそちらに置いてください」
先生が近くにあるプラスチック製の台を指し示した。
台はフォークリフトでの輸送に使うパレットなのだが、培楽にはただのプラスチックの台にしか見えない。
「……暗くなってきましたね」
パレットに荷物を載せた培楽がつぶやいた。
ガレージの隙間から外がわずかに見えるのだが、薄暗くなっているのがわかる。
そろそろ迎えの車が到着してもいい頃だ。
「培楽さん、準備はできましたか?」
ガレージに代理がやって来て培楽に声をかけた。
「はい。ここに荷物も置いてあります。お弁当もばっちりです!」
培楽がパレットの上のリュックを指し示す。
「大丈夫そうですね。いよいよですか……」
代理がうなずいた。
(代理のあの顔……あの人でも緊張するのかぁ……)
代理の表情が硬いのに培楽は気付いていた。使命のことを考えれば無理もない、と思う。
緊張しているのは自分だけでないことに気付き、培楽はほんの少しだけ安堵した。
フォン!
不意にクラクションが鳴った。ガレージの外からだ。
いよいよね、と培楽が身構える。
代理と先生はパレットの方に向かい、荷物を拾い上げた。
その直後、ガレージにトラックが入り込んできた。旅館の軽トラックではなく、培楽達が今いる酒屋のロゴが入ったトラックだ。
「ツトムです。皆さん、準備はできましたか?」
運転席の窓が開いて、くすんだ金髪の頭がにゅっと姿を現した。ツトムだ。
「完了しています。いつでも出発できる状態です」
代理が答えて先生と培楽の方に目をやった。
先生と培楽がうなずく。
「承知です。ですが、まだ暗くなりきっていないので、もう少し待ってから出発します。申し訳ないですが、今回も荷台へお願いします」
ツトムが運転席から降りてきて、後方の荷台の扉を開ける。
今回のトラックはアルミ製の荷室を持ったタイプだ。
「わあ……」
荷室の中を見た培楽が思わず声をあげた。
中には絨毯が敷かれ、折り畳みの椅子が並べられている。
「手前に箱を並べて奥が見えないようにしますので、先に乗り込んでいてください」
ツトムの指示に従い、代理、培楽、先生の順で荷室に入り込む。
折り畳みとはいえ、ちゃんとした椅子であるし、軽トラックと比較するとかなり広い。
三人が余裕をもって横に並んで座ることができる。
三人が椅子に腰かけたのを確かめ、ツトムが段ボールを積みこんでいく。
段ボールの壁で三人の姿が見えなくなった後、ギィィィィと後部の扉が閉められる音がした。
しかし、荷室の天井には照明があり、内部は段ボールに書いてある文字が読める程度には明るい。
真っ暗にならなかったことに培楽が安堵の息をついた。
「……聞こえますか? 聞こえるようならスピーカーの横にマイクがあるのでそちらに向けて返事をお願いします」
少しして、運転席側の壁から声が聞こえてきた。培楽の身体がびくっと震える。
「これですか。聞こえています」
先生がスピーカーと脇にあるマイクを探し出して答えた。
「……大丈夫ですね。何かありましたらこちらから連絡します。それでは出発しますので転ばないように気を付けてください」
スピーカーからツトムの声が聞こえてきた後、エンジンの音が鳴った。いよいよ出発だ。
「……今回は快適ですね」
培楽がつぶやいた。車が止まる気配はないから、少しくらいなら話をしても構わないだろうと思ったのだ。
これからのことを考えると緊張するなと言われても無理がある。
何か話していないと、パニックになりそうで不安だ。
「車が大きいので揺れも少ないですね。二〇分くらいで集合場所には到着するそうなので、それまでは短いドライブを楽しみましょう」
代理の顔は真剣であったが、先ほどまでと異なり言葉の調子は軽い。
だいぶ年下なのに、ガチガチになっている自分とは大違いだ、と思うと培楽は凹みたくもなる。
あんなに重い使命を帯びているのにどうして? と問いただしたくもなるが、今は自分が落ち着く方が先だと培楽が自身に言い聞かせる。
「そ、そうですね。こういう場所に乗る機会も滅多にないですし……」
精一杯強がってそう答えてみるものの、声の震えは隠せない。
「川を渡ったら、すぐに登りになります。今のうちに身体をほぐしておくといいでしょう」
先生は足首を回したり、膝を曲げ伸ばししたりと準備運動に余念がない。
川を渡るどころか、トラックから降りた瞬間から全力で動くのではないかと思えるくらいだ。
「確かにそうですね。私も準備運動を……」
代理が壁に手をつきながら立ち上がって、屈伸運動を始めた。
(皆余裕あるなぁ……)
培楽は代理や先生の様子を羨望の眼差しで見つめている。
培楽自身は気付いていないのだが、木曜の夜にケージの先導で逃げ惑っていたときと比べると、彼女もかなり落ち着いている。
代理や先生の様子を観察できるようになったのはその証拠だ。
(……でも、肝心なときに動けなかったら足手まといになって迷惑をかけちゃうよね……)
そう思い直し、培楽は椅子に座ったまま足首を回し始めた。
代理や先生と一緒にいると、不思議と彼らから離れて逃げ出そうという気にはなれなかった。
その気になれば酒屋に潜んでいた間には脱走するチャンスが何度もあったのだ。
スマホで調べれば、酒屋は鉄道の駅から歩いて一〇分ほどの場所にあることなどすぐにわかる状況だった。
そうでなくとも、知り合いにメール、メッセージなどを送ることも可能であった。
だが、培楽は酒屋で時間を確かめる以外にスマホを手に取ろうともしなかった。
気が付かなかったわけではない。
そうできる状況にあることは、培楽自身も理解していた。だが、何故かその気になれなかったのだ。
培楽の脳裏には今でも時折代理の言葉が浮かんできては消えていた。
「……今は印がないですけど、貴女は敵ではなくこちら側の方の様に思います」
「最後まで……契約書にサインをもらうまでお付き合いいただければ、あなたが我々側の人かそうでないかがわかると思います。もし、我々側でしたら……」
何故か自分がどちら側の人間か確かめるために契約の場にいなくてはならないような気がしている。そう考えると代理達から離れるという選択ができない。
「パトカーが対向車線から近づいてきます。念のため、静かにしていてください」
不意にスピーカーからツトムの声が聞こえてきた。
荷室の中に緊張が走る。
立っていた先生と代理は音もなく椅子に腰掛けた。
培楽も息を潜めて続報を待つ。
「……」
トラックが徐々に減速し、停止した。
荷室を調べられるのだろうか?
先生が身構える。
しかし、いつまで待っても荷室の扉が開く気配はない。
しばらくしてトラックが再び走り出した。
それから一〇数秒後、スピーカーからツトムの声が聞こえてくる。
「……どうやら連中ではないようです。そのまま通り過ぎて行きました。もう見えなくなりましたから大丈夫だと思います」
その声に培楽がほっと胸を撫で下ろす。
木曜の夜からこうして胸を撫で下ろしたのは何度目だろうか? と考えて培楽がため息をついた。
何かに怯えながら隠れたり、逃げ回ったりするのはいつまで続くのだろうか?
契約が結ばれれば終わるのだろうか? それならあと五時間くらいだ。
駅前のカフェで警察らしき者達に捕まってから約四八時間が経過している。
あと五時間なら残りは一割くらいじゃないか、と己を励まそうとするが、これからの道の厳しさを考えると気が滅入りそうになる培楽であった。
トラックは無情にも、集合場所へと向けて進んでいく。
その後、トラックは何度か停止したが、スピーカーから声が聞こえることはなかった。
停止のたびに恐らく赤信号か何かだろう、と培楽は考えた。
そして、何度目かの停止の後、エンジン音が聞こえなくなった。
現在、五月二〇日一九時〇五分
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