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21:難所
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六名の一行が東に向けて進んでいく。
目指す名もなき山頂は現在地から北北東へ直線距離で約一キロ。
だが、一直線に登るには険しすぎるため、実際に一行が歩く距離はその倍以上になる見込みだ。
今歩いている道は、まばらな低木に覆われた急斜面で、見通しはそれほど良くない。
もう少し歩くと、先ほど下方から見上げた灯りの近くを今度は斜面の上側から通り過ぎることになる。
灯りの主は敵と思われ、一行は彼らに見つからないよう慎重に進む必要がある。
(……見えてきた。さっきよりは遠いけど、見通しがいいから……足元には注意、と)
培楽が腰を低くして一歩一歩地面を確かめるように歩いている。
二〇分ほど前には崩れる地面に足をとられ、斜面をずるずると滑り落ちて先生に救出されるという失態を演じてしまった。
その轍は二度と踏まない、と決意している。
今回は斜面の上側から灯りの近くを通り過ぎることになる。
直線距離で百メートル以上はあるだろうが、先ほどと違って斜面を滑り落ちたら灯りの近くに無防備な姿をさらけ出すことになる。それは絶対に避けなければならない。
(地面を崩さないように、慎重に、慎重に……)
前を歩く先生と離れないようにしながらも、培楽は一歩一歩踏み出した先の地面が安全かどうかを確認していく。
(夜ってこんなに真っ暗なんだ……)
培楽が頼りにしているのは先頭を歩く主任が持つタブレットの画面の灯り、そして前を歩く先生の背中の位置だ。
月が出ていれば状況はかなり違うのだが、残念ながら空に月の姿は無い。
雲がかかっている訳ではなく、月齢が下弦から新月に向かう間というのが理由である。
ここ二、三日は月の出が午前一時前後、月の入りが正午より後になっている。
今は二一時半を回ったくらいの時刻なので、月がまだ姿を見せていないのだ。
一行の右手下方に問題の灯りが見えている。
足元は先ほどより崩れにくそうだが、その分滑りやすい。
滑ったら斜度二〇度に近い斜面だから、一気に灯りの近くまで滑るか転がるかする可能性が高い。
(焦らず……慎重に……)
培楽が慎重に腰を低めにしながら歩を進めていく。
すぐ上を歩くおっかさんも足元を確かめながら慎重に進んでいる。
(他人のことを心配している場合じゃない、自分の足元に集中、集中……)
培楽は視線を足元に戻した。
こうして滑りやすい足元と格闘すること数分、斜面がなだらかになり、足元も滑らないようになっていた。
しかし、ほっとしたのもつかの間。
次なる問題が一行の前に立ちはだかる。
「これは……」
足を止めた主任が思わず声をあげ、慌てて口をつぐんだ。
一行の目の前に現れたのは、大規模な地すべりの跡だった。
樹木は根こそぎ倒されて下の方、すなわち南に流されている。
一行の行く手には何もない土の崖があるだけであった。
「こちらには進めませんね……どうしたものか……」
先生も地すべりの跡を前に考え込んでいる。
「進路変更が必要です。敵から見えない場所でルートを再検討します」
主任が近くの木の陰に皆を集め、そこでタブレットの画面を指し示した。
この位置であれば、灯りの位置、すなわち敵が見張っているであろう場所からは死角になる。
「この坂を上まで登って、崩れたところの上から抜けられないのかい?」
「さすがに一直線に登るには急すぎます。それに相当上まで行かないと、足元が崩れる可能性が高いです。さすが危険すぎます」
おっかさんの意見を主任が一蹴した。実は培楽も同じようなことを考えていたのだが、先ほどの失態のこともあって言い出せずにいたのだ。
「真西に向かうか北西に向かうか、でしょう。問題は……」
先生がタブレットに表示された地図を太い指でなぞった。
真西にしばらく移動して北東方向に登るルートは、かなり遠回りになる。
一方、北西に向かうとかなり早いタイミングで登山道にぶつかることになる。
登山道には敵が待ち伏せている可能性が高く、できるだけ近づきたくはない。
「登山道から見えないギリギリの場所を移動するしかないでしょう。このような形です」
主任が示したのは、次のようなルートだった。
登山道の近くまでは北西に向けて歩き、そこからは登山道から見えない位置をキープしながら東に方向転換する。
しばらく進むと登山道は北に折れて鷲河山の山頂に向かうので、その場所からは東に進路を変え、一気に目的の山頂を目指す。
「わかりました。早く到着するようなら、山頂の手前でどこかに身を隠せばいいでしょう」
契約の当事者となる代理が納得すれば、一行の行動は決定だ。
主任が決めたルートに向けて、一行が歩みを再開した。
「ふぅ、ふぅ……」
急斜面に喘ぎながら培楽が進んでいく。
斜面に対して培楽のすぐ下を歩くおっかさんの息も荒い。
先ほどは二〇度近い斜面をほぼ真横に移動していたが、今度は斜めに登っている。
そのため、先ほどよりも格段に負荷が大きい。
「ちっ!」
不意におっかさんが舌打ちした。
「?!」
靴の裏に何かが当たり、それを踏みつける格好になって培楽がバランスを崩す。
「あっ!」「くっ!」
培楽の足が滑り、すぐ下を歩くおっかさんの足を薙ぎ払う格好になった。
おっかさんはバランスを崩しながらも何とかその場に踏みとどまった。
だが、無事とはいかず近くにあった石を蹴とばしてしまう。
カツッ! ゴロゴロゴロ……
蹴とばされた石は斜面の下に向けて転がっていった。
しばらくして、カン! と甲高い音がした後、斜面の下の方から培楽達の方に向けて強力なライトの光が浴びせられた。
「気付かれましたか! 先生、ダンさん!」
「後ろは任せてください」「案内!」
主任の短い指示に先生とダンさんが列の後ろへと移動した。
主任が足を速め、代理がそれについていく。
ダンがおっかさんを、先生が培楽を助け起こし、手を引きながら主任が走った方向へと導いていく。
「スミマセン……」
「アンタのせいじゃないよ! アタシがヘマったんだ。悪かったよ! フン、年は取りたくないもんだね!」
しょげる培楽におっかさんが素直でないながらも詫びてみせた。
「こうなったら仕方ありません。急ぎましょう」
主任が培楽達を手招きする。
ライトは培楽達の姿を探しているのか一行の前方を照らしたり、後方を照らしたりとせわしなく動いている。
今のところ他のライトが照らされている様子はない。
また、人が近づいてくる気配もない。
「……」
一行は無言で進んでいく。培楽も遅れまいと必死についていく。
ライトは未だに一行の前方を照らしたり、後方を照らしたりしている。
一行のところで止まる気配がないことから、まだ一行を捉えられてはいないのだろう。
「静かに!」
不意に前方から主任の短い指示が飛んだ。
その直後、歩みの速度がガクンと低下する。
「……足音、か……」
ダンが短くつぶやいた。
培楽も耳を澄ましてみたが、それらしき音は聞こえない。
「ダンさん、どちらからですか?」
「下を走っているのが……ひとつ、上の後ろの方に……ふたつ、だ」
代理の問いにダンが答えた。
「こちらに近づいてきていますか?」
主任がダンに確認する。
「下の方は近づいている、上の方は……行って、戻って…ウロウロしている」
「……上の方の敵はこちらに気付いていないのでしょう。ならば、下の敵を撒くまでです。行きましょう」
主任が決断して、再び北西の方へと進み始めた。
(……どうか追っ手が近づいてきませんように……)
敵の足音が未だに聞こえない培楽にとって、敵の存在は恐怖でしかない。
見えないだけではなく、どこにいるのかすらわからない相手では対処のしようがない。
もともと荒事は苦手であるし、彼女にできることといえばとにかく敵に捕捉されないよう逃げることくらいである。後は神頼みしかない。
「静かに。下の足音はまだこっちを追いかけている。しつこい」
ダンが警告する。彼にだけは敵の足音が聞こえている。
スピードが上がるとどうしても体力的に劣るおっかさんと培楽が遅れ気味になる。
先生が時折振り返って遅れたおっかさんと培楽を待つ。
(……皆速すぎる……)
培楽も必死についてはいるのだが、やはり山での経験値の差は覆せない。おっかさんの場合は、身長と年齢が大きく影響している。
成人男子にしては小柄な代理や、長身ではあるがとても山歩きとは縁がなさそうな主任がどうしてここまで動けるのか?
培楽はその理由を考えようとしたが、前が速いのでそれもおぼつかない。
五分ほど進んだが、未だ主任がスピードを落とす気配がない。
ダンも何も言ってこないから、恐らく足音はまだ一行を追い続けているのだろうと思われる。
(……一体、いつまで……)
一向に終わらないどころか、追手の存在すらわからない追いかけっこに、培楽の心は折れそうになっている。
(……いっそのこと転んで下に転げ落ちれば……ダメ!)
萎えそうになる心に活を入れながら、培楽が前を向いた。
その直後である。
ズザザザザ……
遠くの方から何かが滑る音が聞こえてきた。培楽の耳にも微かではあるが聞こえている。
「??」
皆の足が一瞬止まり、音の方に視線が集中する。
ザァァァァッ!
音は斜面の下の方から聞こえている。そして徐々にだが遠ざかっていく。
「足を滑らせたのだろう。しばらくは戻ってこられない」
ダンが音の方に目をやってから前を向いた。
「そうですね。今のうちに距離を稼いでおきましょう」
主任が再び前に進みだした。
その歩みは足元の安全を確かめながらのためか、先ほどよりはゆっくり、確実なものとなっている。
「……こんなところを速足で歩いていたんだ……」
培楽も落ち着きを取り戻し、足元を確かめるようにして歩き出した。
足元は踏み固められた土と石が入り混じっており、崩れる心配はなさそうだが、凸凹していて歩きにくい。
このような場所を速足で歩いてよく転ばなかったものだと培楽は自分に感心したのだった。
「大丈夫。足音は聞こえナイ」
ダンが皆に告げた。言葉がややたどたどしくなっているが、それを指摘する者はない。
敵らしき者が発する灯りも見えなくなっている。
どうやら、下から追いかけていた敵は完全に撒いたようであった。
その後はしばらく何事も起こらず一行は北西に進み続けた。
五分ほど進んだところで主任が足を止める。
「登山道が近くなってきました。東に方向転換します。くれぐれも私より斜面の上側に立たないように」
主任の言葉に残りの五名がうなずいた。
現在、五月二〇日二一時五五分
━━契約の刻限まで、あと二時間〇五分━━
目指す名もなき山頂は現在地から北北東へ直線距離で約一キロ。
だが、一直線に登るには険しすぎるため、実際に一行が歩く距離はその倍以上になる見込みだ。
今歩いている道は、まばらな低木に覆われた急斜面で、見通しはそれほど良くない。
もう少し歩くと、先ほど下方から見上げた灯りの近くを今度は斜面の上側から通り過ぎることになる。
灯りの主は敵と思われ、一行は彼らに見つからないよう慎重に進む必要がある。
(……見えてきた。さっきよりは遠いけど、見通しがいいから……足元には注意、と)
培楽が腰を低くして一歩一歩地面を確かめるように歩いている。
二〇分ほど前には崩れる地面に足をとられ、斜面をずるずると滑り落ちて先生に救出されるという失態を演じてしまった。
その轍は二度と踏まない、と決意している。
今回は斜面の上側から灯りの近くを通り過ぎることになる。
直線距離で百メートル以上はあるだろうが、先ほどと違って斜面を滑り落ちたら灯りの近くに無防備な姿をさらけ出すことになる。それは絶対に避けなければならない。
(地面を崩さないように、慎重に、慎重に……)
前を歩く先生と離れないようにしながらも、培楽は一歩一歩踏み出した先の地面が安全かどうかを確認していく。
(夜ってこんなに真っ暗なんだ……)
培楽が頼りにしているのは先頭を歩く主任が持つタブレットの画面の灯り、そして前を歩く先生の背中の位置だ。
月が出ていれば状況はかなり違うのだが、残念ながら空に月の姿は無い。
雲がかかっている訳ではなく、月齢が下弦から新月に向かう間というのが理由である。
ここ二、三日は月の出が午前一時前後、月の入りが正午より後になっている。
今は二一時半を回ったくらいの時刻なので、月がまだ姿を見せていないのだ。
一行の右手下方に問題の灯りが見えている。
足元は先ほどより崩れにくそうだが、その分滑りやすい。
滑ったら斜度二〇度に近い斜面だから、一気に灯りの近くまで滑るか転がるかする可能性が高い。
(焦らず……慎重に……)
培楽が慎重に腰を低めにしながら歩を進めていく。
すぐ上を歩くおっかさんも足元を確かめながら慎重に進んでいる。
(他人のことを心配している場合じゃない、自分の足元に集中、集中……)
培楽は視線を足元に戻した。
こうして滑りやすい足元と格闘すること数分、斜面がなだらかになり、足元も滑らないようになっていた。
しかし、ほっとしたのもつかの間。
次なる問題が一行の前に立ちはだかる。
「これは……」
足を止めた主任が思わず声をあげ、慌てて口をつぐんだ。
一行の目の前に現れたのは、大規模な地すべりの跡だった。
樹木は根こそぎ倒されて下の方、すなわち南に流されている。
一行の行く手には何もない土の崖があるだけであった。
「こちらには進めませんね……どうしたものか……」
先生も地すべりの跡を前に考え込んでいる。
「進路変更が必要です。敵から見えない場所でルートを再検討します」
主任が近くの木の陰に皆を集め、そこでタブレットの画面を指し示した。
この位置であれば、灯りの位置、すなわち敵が見張っているであろう場所からは死角になる。
「この坂を上まで登って、崩れたところの上から抜けられないのかい?」
「さすがに一直線に登るには急すぎます。それに相当上まで行かないと、足元が崩れる可能性が高いです。さすが危険すぎます」
おっかさんの意見を主任が一蹴した。実は培楽も同じようなことを考えていたのだが、先ほどの失態のこともあって言い出せずにいたのだ。
「真西に向かうか北西に向かうか、でしょう。問題は……」
先生がタブレットに表示された地図を太い指でなぞった。
真西にしばらく移動して北東方向に登るルートは、かなり遠回りになる。
一方、北西に向かうとかなり早いタイミングで登山道にぶつかることになる。
登山道には敵が待ち伏せている可能性が高く、できるだけ近づきたくはない。
「登山道から見えないギリギリの場所を移動するしかないでしょう。このような形です」
主任が示したのは、次のようなルートだった。
登山道の近くまでは北西に向けて歩き、そこからは登山道から見えない位置をキープしながら東に方向転換する。
しばらく進むと登山道は北に折れて鷲河山の山頂に向かうので、その場所からは東に進路を変え、一気に目的の山頂を目指す。
「わかりました。早く到着するようなら、山頂の手前でどこかに身を隠せばいいでしょう」
契約の当事者となる代理が納得すれば、一行の行動は決定だ。
主任が決めたルートに向けて、一行が歩みを再開した。
「ふぅ、ふぅ……」
急斜面に喘ぎながら培楽が進んでいく。
斜面に対して培楽のすぐ下を歩くおっかさんの息も荒い。
先ほどは二〇度近い斜面をほぼ真横に移動していたが、今度は斜めに登っている。
そのため、先ほどよりも格段に負荷が大きい。
「ちっ!」
不意におっかさんが舌打ちした。
「?!」
靴の裏に何かが当たり、それを踏みつける格好になって培楽がバランスを崩す。
「あっ!」「くっ!」
培楽の足が滑り、すぐ下を歩くおっかさんの足を薙ぎ払う格好になった。
おっかさんはバランスを崩しながらも何とかその場に踏みとどまった。
だが、無事とはいかず近くにあった石を蹴とばしてしまう。
カツッ! ゴロゴロゴロ……
蹴とばされた石は斜面の下に向けて転がっていった。
しばらくして、カン! と甲高い音がした後、斜面の下の方から培楽達の方に向けて強力なライトの光が浴びせられた。
「気付かれましたか! 先生、ダンさん!」
「後ろは任せてください」「案内!」
主任の短い指示に先生とダンさんが列の後ろへと移動した。
主任が足を速め、代理がそれについていく。
ダンがおっかさんを、先生が培楽を助け起こし、手を引きながら主任が走った方向へと導いていく。
「スミマセン……」
「アンタのせいじゃないよ! アタシがヘマったんだ。悪かったよ! フン、年は取りたくないもんだね!」
しょげる培楽におっかさんが素直でないながらも詫びてみせた。
「こうなったら仕方ありません。急ぎましょう」
主任が培楽達を手招きする。
ライトは培楽達の姿を探しているのか一行の前方を照らしたり、後方を照らしたりとせわしなく動いている。
今のところ他のライトが照らされている様子はない。
また、人が近づいてくる気配もない。
「……」
一行は無言で進んでいく。培楽も遅れまいと必死についていく。
ライトは未だに一行の前方を照らしたり、後方を照らしたりしている。
一行のところで止まる気配がないことから、まだ一行を捉えられてはいないのだろう。
「静かに!」
不意に前方から主任の短い指示が飛んだ。
その直後、歩みの速度がガクンと低下する。
「……足音、か……」
ダンが短くつぶやいた。
培楽も耳を澄ましてみたが、それらしき音は聞こえない。
「ダンさん、どちらからですか?」
「下を走っているのが……ひとつ、上の後ろの方に……ふたつ、だ」
代理の問いにダンが答えた。
「こちらに近づいてきていますか?」
主任がダンに確認する。
「下の方は近づいている、上の方は……行って、戻って…ウロウロしている」
「……上の方の敵はこちらに気付いていないのでしょう。ならば、下の敵を撒くまでです。行きましょう」
主任が決断して、再び北西の方へと進み始めた。
(……どうか追っ手が近づいてきませんように……)
敵の足音が未だに聞こえない培楽にとって、敵の存在は恐怖でしかない。
見えないだけではなく、どこにいるのかすらわからない相手では対処のしようがない。
もともと荒事は苦手であるし、彼女にできることといえばとにかく敵に捕捉されないよう逃げることくらいである。後は神頼みしかない。
「静かに。下の足音はまだこっちを追いかけている。しつこい」
ダンが警告する。彼にだけは敵の足音が聞こえている。
スピードが上がるとどうしても体力的に劣るおっかさんと培楽が遅れ気味になる。
先生が時折振り返って遅れたおっかさんと培楽を待つ。
(……皆速すぎる……)
培楽も必死についてはいるのだが、やはり山での経験値の差は覆せない。おっかさんの場合は、身長と年齢が大きく影響している。
成人男子にしては小柄な代理や、長身ではあるがとても山歩きとは縁がなさそうな主任がどうしてここまで動けるのか?
培楽はその理由を考えようとしたが、前が速いのでそれもおぼつかない。
五分ほど進んだが、未だ主任がスピードを落とす気配がない。
ダンも何も言ってこないから、恐らく足音はまだ一行を追い続けているのだろうと思われる。
(……一体、いつまで……)
一向に終わらないどころか、追手の存在すらわからない追いかけっこに、培楽の心は折れそうになっている。
(……いっそのこと転んで下に転げ落ちれば……ダメ!)
萎えそうになる心に活を入れながら、培楽が前を向いた。
その直後である。
ズザザザザ……
遠くの方から何かが滑る音が聞こえてきた。培楽の耳にも微かではあるが聞こえている。
「??」
皆の足が一瞬止まり、音の方に視線が集中する。
ザァァァァッ!
音は斜面の下の方から聞こえている。そして徐々にだが遠ざかっていく。
「足を滑らせたのだろう。しばらくは戻ってこられない」
ダンが音の方に目をやってから前を向いた。
「そうですね。今のうちに距離を稼いでおきましょう」
主任が再び前に進みだした。
その歩みは足元の安全を確かめながらのためか、先ほどよりはゆっくり、確実なものとなっている。
「……こんなところを速足で歩いていたんだ……」
培楽も落ち着きを取り戻し、足元を確かめるようにして歩き出した。
足元は踏み固められた土と石が入り混じっており、崩れる心配はなさそうだが、凸凹していて歩きにくい。
このような場所を速足で歩いてよく転ばなかったものだと培楽は自分に感心したのだった。
「大丈夫。足音は聞こえナイ」
ダンが皆に告げた。言葉がややたどたどしくなっているが、それを指摘する者はない。
敵らしき者が発する灯りも見えなくなっている。
どうやら、下から追いかけていた敵は完全に撒いたようであった。
その後はしばらく何事も起こらず一行は北西に進み続けた。
五分ほど進んだところで主任が足を止める。
「登山道が近くなってきました。東に方向転換します。くれぐれも私より斜面の上側に立たないように」
主任の言葉に残りの五名がうなずいた。
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