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22:迷走
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一行は登山道の数十メートル下の道なき道を東に向けて進んでいる。
「??」
培楽は進んでいる道に違和感を覚えだしていた。
わずかにだが斜めに斜面を下っているように感じられる。
それに、歩みのペースが先ほどまでより明らかに落ちているのだ。
だが、そのことを指摘する者はない。
進んでいる方向が誤っているということではないのか、と自分を納得させようとする。
一五分ほど進んだところで主任が足を止めた。休憩するという。
主任はタブレット端末の画面を示した。画面には現在地と目的地が表示されている。
(……やっぱり……だいぶ下っている……)
方向転換する際にタブレットの画面を見たが、その時と比べるとかなり南、すなわち斜面の下の方へ進んでしまっている。
東に進んでいる分、目的の山頂からの距離はほとんど変わっていないが、このままでは目的地から遠ざかってしまうように思われる。
(誰も何も言わないの? ええっと……)
培楽は抱いている懸念を口にしようかしまいか迷っていた。
誰か言ってくれればいいのに、と思いながら周囲を見回している。
「そろそろ出ましょうか」
そう主任が声をかけてくるのとほぼ同時に培楽の脳裏に声が聞こえてきた。
「……今は印がないですけど、貴女は敵ではなくこちら側の方の様に思います」
「最後まで……契約書にサインをもらうまでお付き合いいただければ、あなたが我々側の人かそうでないかがわかると思います。もし、我々側でしたら……」
(私がどちら側なのか確かめなければ……)
そう思った瞬間、培楽の口から懸念が言葉となって外に出た。
「あの……このままだと目的地から遠ざかってしまいませんか? 契約の時間に間に合わなくなるかもしれないですけど……」
しかし、主任の答えは落ち着いたものであった。
「敵にこちらの存在を気付かれていますし、このまま近づくと敵の監視の目にかかりそうです。ですので、敵の目を欺くために敢えて下っています……」
答えを聞いた培楽は己の浅はかさを知った。
培楽の様子を見た主任が、タブレットの画面をなぞってこれから進もうとしているルートを示した。
遠回りになるが、地すべりの場所を避けながら東側の個人所有の山との境界近くまで移動してから目的の山頂に向かう。
山頂までは急斜面を徐々に登るため、東西にジグザグに移動する。
頻繁なルート変更は、地面の状態や敵の動向に応じて臨機応変に対応しているためだそうだ。
代理がルートに関しては基本的に主任に任せていると付け加えた。
更に主任が、何かあると気付いたときはダンと先生が主任に指摘する取り決めとなっていると答えた。
ここへきてようやく培楽は他のメンバーが予告なしのルート変更に対して何も言わない理由を知ることができた。
培楽がウインドブレーカーの袖をまくって手首の辺りに目をやった。
(……まだ印はない。私はどっち側だか決まっていない、ということなのね……)
印がないことに対して、培楽の中に残念だという気持ちがわずかにだが湧きだしてきている。
ルートを主任とダンに一任していることを一人知らされなかったことに対する不満がそうさせているのかもしれない。
(今は皆について行こう……)
自分がどちら側に属するのか、それを知るまでは何としても一行についていく。
契約の場にたどり着ければ、疑問は明らかになるだろうと信じて培楽は進む。
※※
東西にジグザグに進みだしてから五〇分くらいが経過した。
さすがに敵も私有地、それも所有者が口うるさい山の近くで待ち伏せすることは考えなかったらしく、一行は順調に歩を進めていた。
監視カメラや侵入防止のための柵などは何度か見かけたものの、境界を超えなければお咎めはないだろうとダンが説明した。
緩やかな斜面をゆっくり登っているため、遅れがちだった培楽やおっかさんも列から離れることなく後をついている。
山の頂上の方に向けて上がっていくに連れて、周囲の木々がどんどん低いものへと変わっていき、今一行の周囲に生えているのは大人の背丈よりやや低い低木ばかりだ。
一行の頭上には満天の星が輝いているが、灯りとしては心もとない。
月は出ていないから、斜面の上の方から見下ろしたところで、一行の姿を見つけるのは困難だろう。サーチライトなどの道具を持っていなければ、だが。
「そろそろ奴らがお出ましになってもおかしくないねぇ」
培楽の脇を歩くおっかさんが小声でつぶやいた。
「えっ?! 私たちのいる場所はまだわかっていないんじゃ?」
培楽が思わず尋ねてしまった。
「連中は馬鹿じゃない。それに妙な道具も持っているんだよ。数もいるんだから、どこかでアタシらを見つけるだろうよ」
おっかさんが背負った銃をポンと叩いた。いつでも手にして撃つ準備ができていると言わんばかりだ。
「そ、それはそうかもしれないですけど……」
「わかってないねぇ。アタシやアンタはいざとなったときの囮、なんだよ。代理さえ無事に送り込めばこっちはそれでいいのだからね。覚悟するんだね!」
おっかさんが小声ながらピシャリと言い放った。
数秒後、不意に主任が足を止めた。
「??」
慌てて培楽も前を歩く先生にぶつからないようにと足を止める。
何事かと培楽が顔を上げると、先頭を歩く主任が振り返った。
「……周囲に敵の気配もありませんし、このまま進むと到着が早くなりすぎます。ここから先は身を隠す場所も無さそうですから、この先の茂みで最後の休憩にしましょう」
そして少し先の茂みを指し示し、その中に隠れて休憩すると告げたのだった。
「ここから契約の地までは四〇〇メートルほど。歩いて二〇分ほどといったところでしょう……」
主任がタブレットの画面を指し示した。
時刻はあと数分で二三時になる。
主任は二三時二〇分になるまで現在地に待機すると告げ、皆がうなずいた。
そして主任が培楽の方を向く。
「ここまで付き合われたのであれば木口さんにはもう少しお話ししした方がよいでしょうね。まだ印はないようですが……」
主任がチラリと培楽の手首に目をやった。
培楽は逆に主任の手首に目を向ける。
(印……あるんだ……)
培楽には、主任の右手首にある特徴的な両矢印の印がぼうっと淡く光っているように見えた。
そして自分の手首にも目を向けるが、印らしきものは見えない。
「いいのでしょうか?」
培楽が主任に尋ねると、主任は代理の方に目配せした。
「構いません。ここまで来たのですから……」
代理はそう答えると、培楽からそっと目を背けた。
「先ほど培楽さんはいざとなったときの囮、という発言をされた方がいましたが、私やこちらの彼も同じです」
主任が表情を変えず淡々と話したため、培楽は一瞬、それが何を意味するのか理解できずにいた。
「……?! それって……」
少し遅れて培楽がその意味に気付き、言葉を失う。
「代理と先生だけは役割が異なります。代理は契約の締結を担い、先生はそれまで代理の身を守り続けるのが役割です。ダンと私は代理を導く先導役でもありますが、その役割は終わりつつあります。道を示し終えたとき、私達も木口さんと同じように敵に対する囮の役を担います。それが契約に立ち会う者の役割ですから……」
主任の口調は相変わらず落ち着いたものであったが、どこか感傷的な成分が含まれているようであった。
急にこんな話をしだして一体彼女はどうしたのだろう、と培楽は主任の顔を覗き込んだ。
培楽の知る彼女は颯爽としていて冷静沈着な女性だ。人間味を感じさせないタイプではないが、感情をにじみ出させるような言動を今まで見たことがない。
「ってことさ、アンタ。皆覚悟は決まっているんだよ。アタシゃ最後まで生き残ってみせるけどね。老い先短いなんて言った奴に一泡吹かせてやらないとならんからね!」
おっかさんが培楽の肩に手を置いた。
その瞬間、何となくだが培楽はこの休息の意図がわかってきたような気がしてきた。
これは契約に臨むための儀式、覚悟を決めたという儀式だ。
培楽はおぼろげながら、そう理解したのだ。
再び脳裏に代理のあの言葉が聞こえてくる。
「……今は印がないですけど、貴女は敵ではなくこちら側の方の様に思います」
「最後まで……契約書にサインをもらうまでお付き合いいただければ、あなたが我々側の人かそうでないかがわかると思います。もし、我々側でしたら……」
(……もうじき私がどちら側なのかわかる瞬間が来る……きっと……)
培楽は己がこちら、すなわち代理の側に一歩近づいたのではないかと感じていた。
相変わらず手首に印は浮かんでこない。だが、その瞬間は確実に近づいている。そんな気がしてならなかった。
「こっちも似たようなものだ。代理を自宅からここまで案内してきた。そろそろ役割が代わる」
ダンが培楽に声をかけた。彼が培楽に話しかけるのは珍しい。
「そうですか。わかりました。ここまで来たらなるようになるしかないです」
培楽が顔を上げて答えた。
覚悟が決まったのが半分、諦めの気持ちが半分といったところだ。
「……?! 静かに」
不意に先生が小声で皆を制した。
視線で何事かと代理が尋ねると、先生は北西の方角を指差した。現在地からは斜面の斜め上の方になる。
遠くに強い灯りが三つ見える。先ほどまではなかったものだ。
(……動いている? 一つはこっちに?)
培楽にも灯りははっきり見える。
三つのうち二つはゆっくりとだが動いているのが見てとれる。
(気付かれたの?)
培楽が先生に視線を向けたが、先生は「静かに」のジェスチャーのまま首を横に振った。
意図が伝わったかは怪しいところだが、培楽は先生の動きを「まだ気づかれていない」という答えだと解釈した。
「……」
主任が照度を落としたタブレットの画面を差し出した。
「二三時二〇分になりましたら予定通り出発します。それまで静かに待機願います」
画面にはそう表示されていた。
皆がうなずいたのを確かめた後、主任は画面を時刻の表示に切り替えた。
皆が一言も発さず、画面に表示されている時刻に注目している。
先生とダンだけはタブレットの画面と敵と思われるライトの強い光とに交互に目をやっている。
三つの強い光のうち、ひとつだけはゆっくりと東の方に進んでいる。そのまま進むと、一行の目的地である名もなき山頂の近くを通る可能性が高い。
「……」
タブレットの画面に表示されている時刻が刻一刻と進んでいく。
現在、五月二〇日二三時一四分
━━契約の刻限まで、あと四六分━━
「??」
培楽は進んでいる道に違和感を覚えだしていた。
わずかにだが斜めに斜面を下っているように感じられる。
それに、歩みのペースが先ほどまでより明らかに落ちているのだ。
だが、そのことを指摘する者はない。
進んでいる方向が誤っているということではないのか、と自分を納得させようとする。
一五分ほど進んだところで主任が足を止めた。休憩するという。
主任はタブレット端末の画面を示した。画面には現在地と目的地が表示されている。
(……やっぱり……だいぶ下っている……)
方向転換する際にタブレットの画面を見たが、その時と比べるとかなり南、すなわち斜面の下の方へ進んでしまっている。
東に進んでいる分、目的の山頂からの距離はほとんど変わっていないが、このままでは目的地から遠ざかってしまうように思われる。
(誰も何も言わないの? ええっと……)
培楽は抱いている懸念を口にしようかしまいか迷っていた。
誰か言ってくれればいいのに、と思いながら周囲を見回している。
「そろそろ出ましょうか」
そう主任が声をかけてくるのとほぼ同時に培楽の脳裏に声が聞こえてきた。
「……今は印がないですけど、貴女は敵ではなくこちら側の方の様に思います」
「最後まで……契約書にサインをもらうまでお付き合いいただければ、あなたが我々側の人かそうでないかがわかると思います。もし、我々側でしたら……」
(私がどちら側なのか確かめなければ……)
そう思った瞬間、培楽の口から懸念が言葉となって外に出た。
「あの……このままだと目的地から遠ざかってしまいませんか? 契約の時間に間に合わなくなるかもしれないですけど……」
しかし、主任の答えは落ち着いたものであった。
「敵にこちらの存在を気付かれていますし、このまま近づくと敵の監視の目にかかりそうです。ですので、敵の目を欺くために敢えて下っています……」
答えを聞いた培楽は己の浅はかさを知った。
培楽の様子を見た主任が、タブレットの画面をなぞってこれから進もうとしているルートを示した。
遠回りになるが、地すべりの場所を避けながら東側の個人所有の山との境界近くまで移動してから目的の山頂に向かう。
山頂までは急斜面を徐々に登るため、東西にジグザグに移動する。
頻繁なルート変更は、地面の状態や敵の動向に応じて臨機応変に対応しているためだそうだ。
代理がルートに関しては基本的に主任に任せていると付け加えた。
更に主任が、何かあると気付いたときはダンと先生が主任に指摘する取り決めとなっていると答えた。
ここへきてようやく培楽は他のメンバーが予告なしのルート変更に対して何も言わない理由を知ることができた。
培楽がウインドブレーカーの袖をまくって手首の辺りに目をやった。
(……まだ印はない。私はどっち側だか決まっていない、ということなのね……)
印がないことに対して、培楽の中に残念だという気持ちがわずかにだが湧きだしてきている。
ルートを主任とダンに一任していることを一人知らされなかったことに対する不満がそうさせているのかもしれない。
(今は皆について行こう……)
自分がどちら側に属するのか、それを知るまでは何としても一行についていく。
契約の場にたどり着ければ、疑問は明らかになるだろうと信じて培楽は進む。
※※
東西にジグザグに進みだしてから五〇分くらいが経過した。
さすがに敵も私有地、それも所有者が口うるさい山の近くで待ち伏せすることは考えなかったらしく、一行は順調に歩を進めていた。
監視カメラや侵入防止のための柵などは何度か見かけたものの、境界を超えなければお咎めはないだろうとダンが説明した。
緩やかな斜面をゆっくり登っているため、遅れがちだった培楽やおっかさんも列から離れることなく後をついている。
山の頂上の方に向けて上がっていくに連れて、周囲の木々がどんどん低いものへと変わっていき、今一行の周囲に生えているのは大人の背丈よりやや低い低木ばかりだ。
一行の頭上には満天の星が輝いているが、灯りとしては心もとない。
月は出ていないから、斜面の上の方から見下ろしたところで、一行の姿を見つけるのは困難だろう。サーチライトなどの道具を持っていなければ、だが。
「そろそろ奴らがお出ましになってもおかしくないねぇ」
培楽の脇を歩くおっかさんが小声でつぶやいた。
「えっ?! 私たちのいる場所はまだわかっていないんじゃ?」
培楽が思わず尋ねてしまった。
「連中は馬鹿じゃない。それに妙な道具も持っているんだよ。数もいるんだから、どこかでアタシらを見つけるだろうよ」
おっかさんが背負った銃をポンと叩いた。いつでも手にして撃つ準備ができていると言わんばかりだ。
「そ、それはそうかもしれないですけど……」
「わかってないねぇ。アタシやアンタはいざとなったときの囮、なんだよ。代理さえ無事に送り込めばこっちはそれでいいのだからね。覚悟するんだね!」
おっかさんが小声ながらピシャリと言い放った。
数秒後、不意に主任が足を止めた。
「??」
慌てて培楽も前を歩く先生にぶつからないようにと足を止める。
何事かと培楽が顔を上げると、先頭を歩く主任が振り返った。
「……周囲に敵の気配もありませんし、このまま進むと到着が早くなりすぎます。ここから先は身を隠す場所も無さそうですから、この先の茂みで最後の休憩にしましょう」
そして少し先の茂みを指し示し、その中に隠れて休憩すると告げたのだった。
「ここから契約の地までは四〇〇メートルほど。歩いて二〇分ほどといったところでしょう……」
主任がタブレットの画面を指し示した。
時刻はあと数分で二三時になる。
主任は二三時二〇分になるまで現在地に待機すると告げ、皆がうなずいた。
そして主任が培楽の方を向く。
「ここまで付き合われたのであれば木口さんにはもう少しお話ししした方がよいでしょうね。まだ印はないようですが……」
主任がチラリと培楽の手首に目をやった。
培楽は逆に主任の手首に目を向ける。
(印……あるんだ……)
培楽には、主任の右手首にある特徴的な両矢印の印がぼうっと淡く光っているように見えた。
そして自分の手首にも目を向けるが、印らしきものは見えない。
「いいのでしょうか?」
培楽が主任に尋ねると、主任は代理の方に目配せした。
「構いません。ここまで来たのですから……」
代理はそう答えると、培楽からそっと目を背けた。
「先ほど培楽さんはいざとなったときの囮、という発言をされた方がいましたが、私やこちらの彼も同じです」
主任が表情を変えず淡々と話したため、培楽は一瞬、それが何を意味するのか理解できずにいた。
「……?! それって……」
少し遅れて培楽がその意味に気付き、言葉を失う。
「代理と先生だけは役割が異なります。代理は契約の締結を担い、先生はそれまで代理の身を守り続けるのが役割です。ダンと私は代理を導く先導役でもありますが、その役割は終わりつつあります。道を示し終えたとき、私達も木口さんと同じように敵に対する囮の役を担います。それが契約に立ち会う者の役割ですから……」
主任の口調は相変わらず落ち着いたものであったが、どこか感傷的な成分が含まれているようであった。
急にこんな話をしだして一体彼女はどうしたのだろう、と培楽は主任の顔を覗き込んだ。
培楽の知る彼女は颯爽としていて冷静沈着な女性だ。人間味を感じさせないタイプではないが、感情をにじみ出させるような言動を今まで見たことがない。
「ってことさ、アンタ。皆覚悟は決まっているんだよ。アタシゃ最後まで生き残ってみせるけどね。老い先短いなんて言った奴に一泡吹かせてやらないとならんからね!」
おっかさんが培楽の肩に手を置いた。
その瞬間、何となくだが培楽はこの休息の意図がわかってきたような気がしてきた。
これは契約に臨むための儀式、覚悟を決めたという儀式だ。
培楽はおぼろげながら、そう理解したのだ。
再び脳裏に代理のあの言葉が聞こえてくる。
「……今は印がないですけど、貴女は敵ではなくこちら側の方の様に思います」
「最後まで……契約書にサインをもらうまでお付き合いいただければ、あなたが我々側の人かそうでないかがわかると思います。もし、我々側でしたら……」
(……もうじき私がどちら側なのかわかる瞬間が来る……きっと……)
培楽は己がこちら、すなわち代理の側に一歩近づいたのではないかと感じていた。
相変わらず手首に印は浮かんでこない。だが、その瞬間は確実に近づいている。そんな気がしてならなかった。
「こっちも似たようなものだ。代理を自宅からここまで案内してきた。そろそろ役割が代わる」
ダンが培楽に声をかけた。彼が培楽に話しかけるのは珍しい。
「そうですか。わかりました。ここまで来たらなるようになるしかないです」
培楽が顔を上げて答えた。
覚悟が決まったのが半分、諦めの気持ちが半分といったところだ。
「……?! 静かに」
不意に先生が小声で皆を制した。
視線で何事かと代理が尋ねると、先生は北西の方角を指差した。現在地からは斜面の斜め上の方になる。
遠くに強い灯りが三つ見える。先ほどまではなかったものだ。
(……動いている? 一つはこっちに?)
培楽にも灯りははっきり見える。
三つのうち二つはゆっくりとだが動いているのが見てとれる。
(気付かれたの?)
培楽が先生に視線を向けたが、先生は「静かに」のジェスチャーのまま首を横に振った。
意図が伝わったかは怪しいところだが、培楽は先生の動きを「まだ気づかれていない」という答えだと解釈した。
「……」
主任が照度を落としたタブレットの画面を差し出した。
「二三時二〇分になりましたら予定通り出発します。それまで静かに待機願います」
画面にはそう表示されていた。
皆がうなずいたのを確かめた後、主任は画面を時刻の表示に切り替えた。
皆が一言も発さず、画面に表示されている時刻に注目している。
先生とダンだけはタブレットの画面と敵と思われるライトの強い光とに交互に目をやっている。
三つの強い光のうち、ひとつだけはゆっくりと東の方に進んでいる。そのまま進むと、一行の目的地である名もなき山頂の近くを通る可能性が高い。
「……」
タブレットの画面に表示されている時刻が刻一刻と進んでいく。
現在、五月二〇日二三時一四分
━━契約の刻限まで、あと四六分━━
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