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第一章

15:大真面目な不良患者

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 入院中のウォーリーはというと、大人しく医師や看護師の指示に従っているようなタマではなかった。

 アイネスはもう少しオイゲンの言葉の奥に隠された意味を熟考すべきだったかもしれないが、ウォーリーは常人を大きく逸脱していたからそれも難しかったかもしれなかった。

 ウォーリーは最初に自分の病状に関する情報の載った医学書や、自分が投与される薬の情報が載った事典などを買い集めた。

 看護師が買ってきた電子書籍はすべて家庭用のものだった。
 そのため、ウォーリーに施される治療内容や、投与される薬について調べきれない場合もある。
 ウォーリーはそうした調べきれない治療内容や薬について、すべて詳細にメモを取った。

 半月後、ICUから一般病棟に移って病院内の移動がある程度自由になると、ウォーリーはまっ先に病院内にある書店に駆け込み、医師や医学生が使う専門書を買いあさったのだった。
 ウォーリーが入院しているメディットは医療従事者育成機関兼病院である。専門書の調達には事欠かなかった。

 こうしてウォーリーは入院から二ヶ月で、自分の病状に関する知識や治療内容について、医学生や看護師が舌を巻くほどの知識を身につけたのである。
 彼のこうした集中力が、彼を若くしてECN社の幹部へと押し上げた原動力だったのだが。

 (まったく……治療がタラタラしていてうざってぇ)
 一般病棟へ移動してから、ウォーリーはイライラが募っていた。

 治療プログラムの進行速度が彼の求めるものと比較して非常に遅いのだ。
 ウォーリーは何度もアイネスに治療プログラムの進行速度を速めるよう求めたのだが、アイネスは頑として首を縦に振らなかった。

 (治りたいという気持ちは大変なものだが……何という患者だ! ただ、あの気力は素晴らしい)
 正直なところアイネスはウォーリーを持て余し気味だったのだが、オイゲンとの約束もある。アイネスは、辛抱強くウォーリーの治療を続けた。

 一方でウォーリーはウォーリーで、
 (病院ってところは、何で決まった場所で決まった時間に起きて、飯食って、寝ないとダメなんだ? そのくらい自由になるのが当然だろう)
 と考えていて、病室を抜け出して外来患者用の待合室で談笑したり、医学生用のデータ室で調べ物をしたり、空いている応接室のソファで寝ていたりしていた。

 あるときなどは、自分の病室に患者や知り合いを集めて、バーベキューをしていたこともある。
 もっともこのときは病室内で火を使ったため、火災報知機を盛大に鳴らす結果となり、消防隊まで投入する大騒ぎとなったのだが。

 さすがにいくらなんでもこれはやりすぎであるが、メディットには長期入院をしている患者も少なくない。
 ウォーリーはそうした患者を楽しませるためにこのような蛮行を思いついたのだった。

 トラブルメーカーとしてウォーリーの名前を知らない者はメディット内にいないと思わせるほどウォーリーの行動は目立っていたが、彼は必ずしも他の患者や医師、看護師に疎まれていたわけではなかった。

 むしろ、ウォーリーは患者に人気があったし、医師や看護師も「自分が担当しない限り」という条件付きでウォーリーの行動を面白がっていたのである。
 そういう意味では、ウォーリーには人を惹きつける何かがあった。
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