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第二章
52:反逆者の最期
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ハドリの命を受けてから直ちに六百名からなるセキュリティ・センターとパトロール・チームの混成部隊が結成された。
混成部隊は「エクザローム防衛隊」の残党が潜伏しているアパートを包囲するようにひそかに集結していた。ここまでハドリの命から二時間弱である。
爆発物担当チームが中の者に気付かれないよう、静かに爆発物をセットしていく。
セキュリティ・センターのセンター長オオカワとパトロール・チームのリーダーのホンゴウが互いに押し付けあった結果、二人で同時に爆破の合図を出すことになった。
合図の手が振られようとしたその瞬間、二人の視界に大柄な白衣の男が飛び込んできた。
医療施設「メディット」の副院長、ヴィリー・アイネスである。
「何をされているのですか?! 待ってください! すぐ近くに病院があります!」
男の叫び声は震えていたようにも聞こえた。
その声にオオカワとホンゴウの動きが止まった。
アイネスは建物を取り囲んでいる者達を横目で見ながら更に続けた。
声はやや震えており、視線を誰とも合わせることはなかったが、とにかく言葉を発したのだ。
「あなた方は病院の近くで何をしようというのですか? 私は医師として、このような生命のやり取りを看過することはできません」
呆気に取られていたホンゴウがその声に答えた。
こちらも声は震えており、アイネスと目線を合わせることはない。
「大量殺人を犯した凶悪犯が相手なのです。どうか事情を察していただきたいと……」
しかし、ホンゴウは最後まで言葉を続けることができなかった。
イヤホンからハドリの声が聞こえてきたからである。
「何をしている! 迷っている暇は無いぞ!」
その声にオオカワとホンゴウは姿勢を正し、直ちにアパートの爆破を命じた。
「爆破!」「爆破せよ!」
アイネスは止めようとしたのだが身体が硬直して動かなかった。
オオカワとホンゴウの命令の数秒後、くぐもった爆発音とともに地面が大きく揺れた。
衝撃に耐えきれず、アイネスはその場にへたり込んだ。
オオカワとホンゴウは踏ん張って耐えていたが、このような事態への経験の差によるものだろう。
爆破されたアパートは一瞬にして崩れ去り、周りは火の海となった。
用意が周到だったためか、他の建物へ引火する危険はなさそうであった。
しかし、それを差し引いても爆破の光景は凄惨なものだった。
建物の中にいた多くの者の身体はばらばらになってあたりに飛び散った。
爆発の影響で身体中にガラスの破片を浴び、全身焼け爛れた姿でヨロヨロと建物から出てきた者もいた。
この者は建物を包囲していた部隊に拘束され、いずこかへと連れ去られていった。
火の勢いが衰えはじめてから、建物を包囲していた部隊が飛び出して焼け跡を検分し始めた。
事前に把握していた人数と遺体の数を比較し、整合性が取れているかを確認するためだ。
このときになってもアイネスは地面にへたり込んだままだった。
瓦礫の中から一人の生存者が発見された。
助け出されると同時に他の生存者と同様に拘束され、いずこかへと連れ去られた。
オオカワがアイネスの姿を見て消え入りそうな声で言う。
「すみません……我々も業務だということをお察しください……」
オオカワがアイネスと目を合わせることはなかった。
目を合わせようとしても無駄だったであろう。
アイネスの視線は宙を泳いでおり、どこにも焦点が合っていないようなものだったのだから。
オオカワとて、アパートの爆破はやりたくてやったことではなかった。
ハドリの命令だからやらざるを得なかったのだ。
相手がハドリでなければ、オオカワもそれなりに抵抗できたかもしれない。
だが、ハドリは圧倒的な迫力を持つOP社の絶対君主なのだ。
それに逆らうことは、少なくとも自分にはできない、と考えている。
逃れられる相手であれば、オオカワも逃れたはずだ。
こう見えても、彼は逃げるのは得意な方であるし、その能力にも自信を持っている。
しかし、ハドリは巧みに逃げ道を奪ってから、圧倒的な力で攻撃を加えてくる。
ならば、それに従うしかないのだ。
オオカワはアイネスを見ないようにしてその場を立ち去った。
それにも気づかずアイネスは、ただひたすらつぶやいていた。
「医師とは一体……? 私は……?」
結局、「エクザローム防衛隊」の残党一二名のうち一〇名が死亡、二名の生存者がOP社によって拘束された。
ハドリは多数の部下の生命を奪った反逆者を半年で事実上殲滅したのである。
混成部隊は「エクザローム防衛隊」の残党が潜伏しているアパートを包囲するようにひそかに集結していた。ここまでハドリの命から二時間弱である。
爆発物担当チームが中の者に気付かれないよう、静かに爆発物をセットしていく。
セキュリティ・センターのセンター長オオカワとパトロール・チームのリーダーのホンゴウが互いに押し付けあった結果、二人で同時に爆破の合図を出すことになった。
合図の手が振られようとしたその瞬間、二人の視界に大柄な白衣の男が飛び込んできた。
医療施設「メディット」の副院長、ヴィリー・アイネスである。
「何をされているのですか?! 待ってください! すぐ近くに病院があります!」
男の叫び声は震えていたようにも聞こえた。
その声にオオカワとホンゴウの動きが止まった。
アイネスは建物を取り囲んでいる者達を横目で見ながら更に続けた。
声はやや震えており、視線を誰とも合わせることはなかったが、とにかく言葉を発したのだ。
「あなた方は病院の近くで何をしようというのですか? 私は医師として、このような生命のやり取りを看過することはできません」
呆気に取られていたホンゴウがその声に答えた。
こちらも声は震えており、アイネスと目線を合わせることはない。
「大量殺人を犯した凶悪犯が相手なのです。どうか事情を察していただきたいと……」
しかし、ホンゴウは最後まで言葉を続けることができなかった。
イヤホンからハドリの声が聞こえてきたからである。
「何をしている! 迷っている暇は無いぞ!」
その声にオオカワとホンゴウは姿勢を正し、直ちにアパートの爆破を命じた。
「爆破!」「爆破せよ!」
アイネスは止めようとしたのだが身体が硬直して動かなかった。
オオカワとホンゴウの命令の数秒後、くぐもった爆発音とともに地面が大きく揺れた。
衝撃に耐えきれず、アイネスはその場にへたり込んだ。
オオカワとホンゴウは踏ん張って耐えていたが、このような事態への経験の差によるものだろう。
爆破されたアパートは一瞬にして崩れ去り、周りは火の海となった。
用意が周到だったためか、他の建物へ引火する危険はなさそうであった。
しかし、それを差し引いても爆破の光景は凄惨なものだった。
建物の中にいた多くの者の身体はばらばらになってあたりに飛び散った。
爆発の影響で身体中にガラスの破片を浴び、全身焼け爛れた姿でヨロヨロと建物から出てきた者もいた。
この者は建物を包囲していた部隊に拘束され、いずこかへと連れ去られていった。
火の勢いが衰えはじめてから、建物を包囲していた部隊が飛び出して焼け跡を検分し始めた。
事前に把握していた人数と遺体の数を比較し、整合性が取れているかを確認するためだ。
このときになってもアイネスは地面にへたり込んだままだった。
瓦礫の中から一人の生存者が発見された。
助け出されると同時に他の生存者と同様に拘束され、いずこかへと連れ去られた。
オオカワがアイネスの姿を見て消え入りそうな声で言う。
「すみません……我々も業務だということをお察しください……」
オオカワがアイネスと目を合わせることはなかった。
目を合わせようとしても無駄だったであろう。
アイネスの視線は宙を泳いでおり、どこにも焦点が合っていないようなものだったのだから。
オオカワとて、アパートの爆破はやりたくてやったことではなかった。
ハドリの命令だからやらざるを得なかったのだ。
相手がハドリでなければ、オオカワもそれなりに抵抗できたかもしれない。
だが、ハドリは圧倒的な迫力を持つOP社の絶対君主なのだ。
それに逆らうことは、少なくとも自分にはできない、と考えている。
逃れられる相手であれば、オオカワも逃れたはずだ。
こう見えても、彼は逃げるのは得意な方であるし、その能力にも自信を持っている。
しかし、ハドリは巧みに逃げ道を奪ってから、圧倒的な力で攻撃を加えてくる。
ならば、それに従うしかないのだ。
オオカワはアイネスを見ないようにしてその場を立ち去った。
それにも気づかずアイネスは、ただひたすらつぶやいていた。
「医師とは一体……? 私は……?」
結局、「エクザローム防衛隊」の残党一二名のうち一〇名が死亡、二名の生存者がOP社によって拘束された。
ハドリは多数の部下の生命を奪った反逆者を半年で事実上殲滅したのである。
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