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第二章
54:ウォーリーの後任
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ECN社では九月末の社員大量離職後、一人のサブマネージャーがチームマネージャーに抜擢された。名前をテツヤ・ヘンミという。
もちろん、大量離職の原因はウォーリー・トワにあった。
ウォーリーの部下たちが大挙して彼が立ち上げた「タブーなきエンジニア集団」に移籍した結果である。
チームマネージャーに抜擢されたヘンミはウォーリーの部下だったが、ウォーリーに同調せずECN社に残っていた社員だ。
ウォーリーと違って、団体行動が出来る社員だからという理由で役員がチームマネージャーに推薦したのだ。
年齢はオイゲンより五歳年長の三三歳で、ウォーリーの部下としては比較的年長の方だ。
その彼、ヘンミの仕事ぶりを確認した方がいいのではないかと某役員に指摘されたので、オイゲンがヘンミの職場に出向くことになったのである。
もともとヘンミが率いるタスクユニットには担当役員が配置されていない。それだけではなくウォーリー退職後のタスクユニットには上級チームマネージャーがいない。
したがって、ヘンミの直属の上司は社長のオイゲンしかない、という事情もあった。
ヘンミの姿は遠くから見てもすぐにわかる。
本社内は服装自由のECN社本社でスーツ着用の者は必ずしも多くない。やや少数派といったところだ。
ウォーリーが率いていたタスクユニット━━今のトップはヘンミだが━━には他よりもカジュアルな服装の者が多い。
その中でパリッとした明るい色のスーツを着こなしているヘンミはかなり目立つのだ。
オイゲンは今までヘンミとあまり話をしたことがなかった。
役員からの評判は良いのだが、退職したウォーリーやミヤハラなどからの評価は芳しくなかった。
オイゲンはそのことを知っていたから、どんな人物かを確かめたかったということもある。
「ヘンミTM、おはようございます。少しお時間いただけますか?」
オイゲンがヘンミに声をかけた。
社内の地位ではオイゲンの方が上であるが、相手は年長者である。オイゲンはそれなりに気を遣って敬語で話している。
ヘンミは声をかけた相手が社長だということに気づいたのか、応接スペースへとオイゲンを案内する。
ウォーリーやミヤハラがトップだったときと異なり、応接スペースには地味ながら高級そうなソファが置かれていた。
しかし、モノを見る目がないとされているオイゲンである。ソファが変わっていることにだけは気が付いたが、それがどのような品物かは彼には見当がつかない。
もっとも、ソファが変わっていることに気づいただけでもこの男にしては上出来だったのだが。
「人員が十分補充できず、ご苦労をおかけしてすみません。現状、いかがでしょうか?」
オイゲンの問いにヘンミは少し胸を張ったような様子を見せてから答える。
「そうですね……確かに人員的には厳しい面はあります。ただ、苦しいのはどこも同じですから、我々だけが無理を言うわけにはいきません」
「少ない人員で成果を出されていることに感謝します。人員はすぐにとはいかないかもしれませんが何か必要な機器や設備がありましたら、教えてください。私のほうで手配しましょう」
オイゲンはヘンミに対してかなり下手に出ている。
オイゲンには人的資源の厳しいところで無理にトップの役割を押し付けたという負い目があった。
また、その状況下で苦戦しながらもヘンミは水準以上の成果を出しているように思われた。
ヘンミの部下からオイゲンに向けて発信された業績レポートでも、数字上は健闘しているようだ。
もともと他人に求めるハードルの低いオイゲンであったから、このあたりの評価は少々甘いかもしれないが。
ヘンミはそんなオイゲンの様子を見て、少し照れるような表情をした。ただ、その表情はいまだやや硬いように感じられる。
「前任者は有能な方でしたから、よく仕事をして、成果も出していたと思います。それと比較するととても成果が出ている状態とは……」
「いえいえ、よくやっていると思いますよ。状況が状況ですからね」
「いえ、私にはトワさんやミヤハラさんのようなカリスマ性といいますか、人を惹きつける能力がまったくといっていいほどありませんから」
「そんなことは無いと思いますよ。業績レポートを拝見しましたが、健闘している、という以上の数字になっていると思います。また、コメントも拝見していますが、部下の方からの評価も高いようです」
「えっ?! そこまで詳細に読まれていたのですか? 参ったなぁ……」
オイゲンはヘンミと話をしていく中で、何とも言えない違和感を覚えていた。
もちろん、大量離職の原因はウォーリー・トワにあった。
ウォーリーの部下たちが大挙して彼が立ち上げた「タブーなきエンジニア集団」に移籍した結果である。
チームマネージャーに抜擢されたヘンミはウォーリーの部下だったが、ウォーリーに同調せずECN社に残っていた社員だ。
ウォーリーと違って、団体行動が出来る社員だからという理由で役員がチームマネージャーに推薦したのだ。
年齢はオイゲンより五歳年長の三三歳で、ウォーリーの部下としては比較的年長の方だ。
その彼、ヘンミの仕事ぶりを確認した方がいいのではないかと某役員に指摘されたので、オイゲンがヘンミの職場に出向くことになったのである。
もともとヘンミが率いるタスクユニットには担当役員が配置されていない。それだけではなくウォーリー退職後のタスクユニットには上級チームマネージャーがいない。
したがって、ヘンミの直属の上司は社長のオイゲンしかない、という事情もあった。
ヘンミの姿は遠くから見てもすぐにわかる。
本社内は服装自由のECN社本社でスーツ着用の者は必ずしも多くない。やや少数派といったところだ。
ウォーリーが率いていたタスクユニット━━今のトップはヘンミだが━━には他よりもカジュアルな服装の者が多い。
その中でパリッとした明るい色のスーツを着こなしているヘンミはかなり目立つのだ。
オイゲンは今までヘンミとあまり話をしたことがなかった。
役員からの評判は良いのだが、退職したウォーリーやミヤハラなどからの評価は芳しくなかった。
オイゲンはそのことを知っていたから、どんな人物かを確かめたかったということもある。
「ヘンミTM、おはようございます。少しお時間いただけますか?」
オイゲンがヘンミに声をかけた。
社内の地位ではオイゲンの方が上であるが、相手は年長者である。オイゲンはそれなりに気を遣って敬語で話している。
ヘンミは声をかけた相手が社長だということに気づいたのか、応接スペースへとオイゲンを案内する。
ウォーリーやミヤハラがトップだったときと異なり、応接スペースには地味ながら高級そうなソファが置かれていた。
しかし、モノを見る目がないとされているオイゲンである。ソファが変わっていることにだけは気が付いたが、それがどのような品物かは彼には見当がつかない。
もっとも、ソファが変わっていることに気づいただけでもこの男にしては上出来だったのだが。
「人員が十分補充できず、ご苦労をおかけしてすみません。現状、いかがでしょうか?」
オイゲンの問いにヘンミは少し胸を張ったような様子を見せてから答える。
「そうですね……確かに人員的には厳しい面はあります。ただ、苦しいのはどこも同じですから、我々だけが無理を言うわけにはいきません」
「少ない人員で成果を出されていることに感謝します。人員はすぐにとはいかないかもしれませんが何か必要な機器や設備がありましたら、教えてください。私のほうで手配しましょう」
オイゲンはヘンミに対してかなり下手に出ている。
オイゲンには人的資源の厳しいところで無理にトップの役割を押し付けたという負い目があった。
また、その状況下で苦戦しながらもヘンミは水準以上の成果を出しているように思われた。
ヘンミの部下からオイゲンに向けて発信された業績レポートでも、数字上は健闘しているようだ。
もともと他人に求めるハードルの低いオイゲンであったから、このあたりの評価は少々甘いかもしれないが。
ヘンミはそんなオイゲンの様子を見て、少し照れるような表情をした。ただ、その表情はいまだやや硬いように感じられる。
「前任者は有能な方でしたから、よく仕事をして、成果も出していたと思います。それと比較するととても成果が出ている状態とは……」
「いえいえ、よくやっていると思いますよ。状況が状況ですからね」
「いえ、私にはトワさんやミヤハラさんのようなカリスマ性といいますか、人を惹きつける能力がまったくといっていいほどありませんから」
「そんなことは無いと思いますよ。業績レポートを拝見しましたが、健闘している、という以上の数字になっていると思います。また、コメントも拝見していますが、部下の方からの評価も高いようです」
「えっ?! そこまで詳細に読まれていたのですか? 参ったなぁ……」
オイゲンはヘンミと話をしていく中で、何とも言えない違和感を覚えていた。
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