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第二章
66:小さな異変
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セスとロビーは海洋調査隊のメンバーに名前があったシバ夫妻についての情報の検索を再開した。
モリタは再びコーヒーを買いに行ったようで、この場にはいない。
「モリタの奴……まったく、肝心なところでいなくなるよな」
「まあまあ。同時にアクセスできるのは一人だけだからモリタがいなくても支障はないよ。それにこれは僕の個人的な調べものだから」
ぼやくロビーをセスがなだめた。
「……お前なあ、『個人的な調べもの』って言い方は何とかしてくれ。とっくの昔にこれは俺たち全員の問題になっているんだからな!」
セスの言葉にロビーが声を荒げてみせた。
といっても本気ではないので、その表情は苦笑いといったところだ。
「ありがとう、助かるよ」
「それでいい」
セスが素直に礼を言ったので、ロビーはすぐに矛を収めた。
今回得られた情報には調査員に関する戸籍データも一部登録されている。
幸い、このシバ夫妻に関しては戸籍データも登録されているようだ。
セスが端末を操作して戸籍データを呼び出そうとした。
「……データ照会中 しばらくお待ちください……」
画面にはそう表示された。かなり時間がかかりそうだ。
セスは後ろにいるロビー向かって時間がかかりそうだから、と告げたがロビーはそれならば待つという。
しばらくしてモリタが帰ってきた。やはり例のコーヒーをぶら下げている。
そして、セスの前の画面を見て口を開いた。
「あ、セスも同じことしてる。時間かかるよ、それ。あんまりにも時間がかかるからさっきは途中で止めたんだ」
どうやらモリタもセスと同じことを考えていたらしい。
「まあ、待つしかないだろう」
いつもは一番気が短いロビーがゆったり構えている。
(ここいらが重要なポイントになる可能性があるからな……ここはひとつ年長の俺がどっしりと構えるべきだろう)
ロビーはそう考えて、敢えてゆったり構えていたのだった。
セスやモリタがどの程度意識しているかは定かではないのだが、ロビーには自分が年長者であるという自覚がある。
ロビーがゆったり構えたことで、自然にセスやモリタも気長に構えるようになっていた。
三人は談笑しながら、データ照会を待つ。
ロビーが見る限り、セスには少し焦りがあるように思える。
こういうとき、セスを落ち着かせるのは自分の役目だとロビーは思っている。目の前に有力な情報があるのだから、焦る気持ちはよく理解できるのだが。
一時間ほどで、データ照会の結果が出た。
結果は……
シバ夫妻とトニーとの関係が否定できる内容だった。
シバ夫妻と血縁関係にある者がほぼ全員特定できたからだった。
どうやら、正解は別にありそうである。
トニーの態度からある程度予想できた結果であったためか、三人に落胆はほとんどない。
むしろ推測が当たっていたことの確認が取れたことに胸をなで下ろしていた。
「他の三組を当たってみるか、セス?」
落ち着いたところでロビーが確認するとセスが肯いた。
シバ夫妻同様に他の三組についても戸籍照会を行った。
やることはシバ夫妻のときと同じで、ほとんどが待ち時間である。
モリタがその間に二回ほど飲み物を買いに行ったが、ロビーもこれを咎めなかった。待っているだけで特にやることがないからだ。
モリタが買ってきたのはコーヒーではなく他の飲み物であったが、これは恐らく財布が厳しかったからだと思われる。
四時間ばかり時間をかけて照会を行った結果、やはりセスとは関係が無さそうだということがわかった。
「無駄な時間を使わせちゃってごめん」
調査が徒労に終わったことを知ったセスがロビーとモリタに頭を下げた。その表情にはやや落胆の色が見受けられる。
「まあ、こういう日もあるさ。今日のところはここで引き上げよう」
ロビーがそう答えた。モリタもロビーに同意した。業務に直接関係のないことであまり長く職場に残るのもどうかと考えたからだ。
三人は言葉少なに資料室を後にした。
軽く夕食をとってから、三人は鉄道で帰途についた。セスとロビーが途中のゴジョウ駅で下車する。
モリタは少し先のポータル・シティの実家に住んでいるので、ここでセス、ロビーの二人と別れた。
正式な職員に採用されてから、セスはロビーの家の近所にアパートを借りて住んでいる。
ロビーはセスを家に送ってから自宅に帰る。
ロビーには最近、気になることがあった。
どうもセスの顔色が優れないような気がするのだ。
もともとセスは循環器系に障害を抱えているから、どちらかといえば普段からも顔色がよいとはいえない。
しかし、かつてのセスなら一日中車椅子に頼りっぱなしということはなかった。
最近のセスは以前なら車椅子から立ってしていたような作業でも、車椅子に座ったまますることが増えたのだ。
ロビーはいろいろ考えていたが、結論を出すことを保留した。
(気にはなるが……セスは三ヶ月ごとに病院で検査をしているのだったな。まあ、俺が心配することでもないか)
LH四九年一月、エクザロームは新年を迎えて二週間ばかりが経過していた。
モリタは再びコーヒーを買いに行ったようで、この場にはいない。
「モリタの奴……まったく、肝心なところでいなくなるよな」
「まあまあ。同時にアクセスできるのは一人だけだからモリタがいなくても支障はないよ。それにこれは僕の個人的な調べものだから」
ぼやくロビーをセスがなだめた。
「……お前なあ、『個人的な調べもの』って言い方は何とかしてくれ。とっくの昔にこれは俺たち全員の問題になっているんだからな!」
セスの言葉にロビーが声を荒げてみせた。
といっても本気ではないので、その表情は苦笑いといったところだ。
「ありがとう、助かるよ」
「それでいい」
セスが素直に礼を言ったので、ロビーはすぐに矛を収めた。
今回得られた情報には調査員に関する戸籍データも一部登録されている。
幸い、このシバ夫妻に関しては戸籍データも登録されているようだ。
セスが端末を操作して戸籍データを呼び出そうとした。
「……データ照会中 しばらくお待ちください……」
画面にはそう表示された。かなり時間がかかりそうだ。
セスは後ろにいるロビー向かって時間がかかりそうだから、と告げたがロビーはそれならば待つという。
しばらくしてモリタが帰ってきた。やはり例のコーヒーをぶら下げている。
そして、セスの前の画面を見て口を開いた。
「あ、セスも同じことしてる。時間かかるよ、それ。あんまりにも時間がかかるからさっきは途中で止めたんだ」
どうやらモリタもセスと同じことを考えていたらしい。
「まあ、待つしかないだろう」
いつもは一番気が短いロビーがゆったり構えている。
(ここいらが重要なポイントになる可能性があるからな……ここはひとつ年長の俺がどっしりと構えるべきだろう)
ロビーはそう考えて、敢えてゆったり構えていたのだった。
セスやモリタがどの程度意識しているかは定かではないのだが、ロビーには自分が年長者であるという自覚がある。
ロビーがゆったり構えたことで、自然にセスやモリタも気長に構えるようになっていた。
三人は談笑しながら、データ照会を待つ。
ロビーが見る限り、セスには少し焦りがあるように思える。
こういうとき、セスを落ち着かせるのは自分の役目だとロビーは思っている。目の前に有力な情報があるのだから、焦る気持ちはよく理解できるのだが。
一時間ほどで、データ照会の結果が出た。
結果は……
シバ夫妻とトニーとの関係が否定できる内容だった。
シバ夫妻と血縁関係にある者がほぼ全員特定できたからだった。
どうやら、正解は別にありそうである。
トニーの態度からある程度予想できた結果であったためか、三人に落胆はほとんどない。
むしろ推測が当たっていたことの確認が取れたことに胸をなで下ろしていた。
「他の三組を当たってみるか、セス?」
落ち着いたところでロビーが確認するとセスが肯いた。
シバ夫妻同様に他の三組についても戸籍照会を行った。
やることはシバ夫妻のときと同じで、ほとんどが待ち時間である。
モリタがその間に二回ほど飲み物を買いに行ったが、ロビーもこれを咎めなかった。待っているだけで特にやることがないからだ。
モリタが買ってきたのはコーヒーではなく他の飲み物であったが、これは恐らく財布が厳しかったからだと思われる。
四時間ばかり時間をかけて照会を行った結果、やはりセスとは関係が無さそうだということがわかった。
「無駄な時間を使わせちゃってごめん」
調査が徒労に終わったことを知ったセスがロビーとモリタに頭を下げた。その表情にはやや落胆の色が見受けられる。
「まあ、こういう日もあるさ。今日のところはここで引き上げよう」
ロビーがそう答えた。モリタもロビーに同意した。業務に直接関係のないことであまり長く職場に残るのもどうかと考えたからだ。
三人は言葉少なに資料室を後にした。
軽く夕食をとってから、三人は鉄道で帰途についた。セスとロビーが途中のゴジョウ駅で下車する。
モリタは少し先のポータル・シティの実家に住んでいるので、ここでセス、ロビーの二人と別れた。
正式な職員に採用されてから、セスはロビーの家の近所にアパートを借りて住んでいる。
ロビーはセスを家に送ってから自宅に帰る。
ロビーには最近、気になることがあった。
どうもセスの顔色が優れないような気がするのだ。
もともとセスは循環器系に障害を抱えているから、どちらかといえば普段からも顔色がよいとはいえない。
しかし、かつてのセスなら一日中車椅子に頼りっぱなしということはなかった。
最近のセスは以前なら車椅子から立ってしていたような作業でも、車椅子に座ったまますることが増えたのだ。
ロビーはいろいろ考えていたが、結論を出すことを保留した。
(気にはなるが……セスは三ヶ月ごとに病院で検査をしているのだったな。まあ、俺が心配することでもないか)
LH四九年一月、エクザロームは新年を迎えて二週間ばかりが経過していた。
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