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第二章

69:新たなる統治者の誕生

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 LH四九年二月二日一六時〇五分、OP社本社に設置されたプレスルームでは一大イベントが開かれようとしていた。
 ポータル・シティの有力者一〇名とOP社との間で行われる「市街警備のOP社への完全委託に関する合意文書」の調印式である。

 有力者の代表は既に席に着いており、また、これを報じるマスコミ各社もプレスルームに詰め掛けていた。
 一方、OP社の代表はまだ到着していない。

「これでいいだろうか?」
 本社広報チームのリーダー、フトシ・ウノは彼の部下に服装のチェックを依頼した。
 部下が「大丈夫です」と答えると、ウノは時計を確認してからゆっくりとプレスルームに向かった。

 一六時〇八分、ウノがプレスルームに登場する。
 ウノに向けてカメラのフラッシュが一斉にたかれた。
 フラッシュによる攻撃が一段落したところで、ウノが取材に来ているマスコミ各社に向けて宣言する。
「報道各社の皆さん、遅くなりましてすみません。これから弊社とポ-タル・シティの有力者の方たちとの間で『市街警備のOP社への完全委託に関する合意文書』の調印式を開始します。まずは総務部長のタノダより、今回の調印に関する背景などを説明させていただきます」

 ウノの表情はやや緊張している。
 広報チームのリーダーという立場からこうした会見には慣れがあるはずなのだが、人前ではどちらかと言うと緊張はするのだ。
 ただ、今回は業務であるからまだいい。
 仕事でなければ逃げ出したい気分なのだ。

 ウノは調印式までの短い時間の間に何度もリハーサルを繰り返し、綿密に台本を作り上げてきていた。この準備ができなければ、会見場で固まってしまったかもしれない。

 今日の発表はエクザロームを変えるかもしれない発表になる。
 自分の属している企業が望まれて街の治安を維持する任を担うことが公式に認められる機会なのだ。こうした状況がウノに緊張を強いていた。

 彼は特別な会見用に使うダブルのスーツを着ている。
 どちらかというとウノは細身な方なのだが、ダブルのスーツを着ることで多少貫禄がついて見える。

 総務部長タノダの説明が続いている。
 その説明によれば調印の背景は次のようになる。

 ポータル・シティの有力者達は、それぞれのエリアにて独自の治安維持活動を行ってきていた。
 今まではそれが有効に機能していたが、近年、都市横断的な犯罪や凶悪犯罪が増加してきたため、エリア単位での治安維持活動に限界が生じていた。

 一方、OP社は昨年の五月、五千名以上の生命が失われた大規模犯罪に巻き込まれた経験から、独自に都市横断的な治安改革活動を展開するに至った。
 昨年の五月の事件では、一般市民の犠牲はOP社の従業員のそれと比較して多くはなかったが、それでも百名単位の死傷者を出している。
 事前に大規模犯罪の発生を防止する仕組みを持っておけばこうした犠牲も回避できたはずだ。
 今後、同じようなことが二度と発生しないようにするためにも、犯罪抑止力としての治安改革活動の実施が急務であった。

 OP社の治安改革活動はこれまで着々と成果をあげ、昨年一一月には多くの市民と社員の命を奪った犯罪の犯人を殲滅するに至った。
 OP社の都市横断的な治安改革活動は、その有効性を多くの市民に知らしめ、もはやエクザロームにとって必要不可欠のものになったと断言できる。

 ここにポータル・シティの各有力者はOP社の活動を公式に承認し、ポータル・シティ全域に対する司法警察権を認めるとともに、OP社の活動に対し全面的な協力と支援を行うことを決定した。
 OP社はこの協力と支援を快く受諾するものである。

 タノダによる説明の後、有力者代表とウノがそれぞれ書面にサインをし、調印式が完了した。
 有力者達の心中は穏やかではなかったのだが、当面OP社を敵に回すことだけは避けられたと考えていた。
 手にしていた権限を手放すことに抵抗がなかったわけではないので、差はあるもののそれぞれ内心忸怩たる思いはある。
 それでもハドリに目をつけられて「エクザロームの治安を乱す者」のレッテルを貼られるよりはマシ、と考えていた。後になってこの考えがとてつもなく甘いものであることを思い知らされることにはなるのだが。

 調印式の後、マスコミ各社からタノダやウノ、有力者達に質問が投げかけられた。
 それらの内容は
・今後、有力者達の処遇はどうなるのか
・OP社の今後の治安改革活動はどう変わるのか
・今回の調印によって市民にはどのような利益がもたらされるのか
 等々である。

 質問を投げられた者はそれぞれの質問に適切に答え、無事調印式と会見が終了した。
 こうして有力者以外に広く住民から認められた統治機構を持たなかったポータル・シティに新たな統治者が置かれることになったのだ。
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