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第二章

93:セスの心配性とロビーの決意

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 病院に到着した三人は、受付でセスの状況を告げた。
 残念ながらセスの主治医はこの日の担当ではなく出勤していなかったため、別の医師の診察を受けることになった。

 診察中、ロビーとモリタは待合室でセスの戻りを待つことにした。
 結果によっては明日以降の業務に影響が出るため、職場に報告が必要と判断したからだ。

 診断が下るまでにはそれほど時間はかからなかった。
 医師の診断は「微熱があるが、現時点では原因は特定できない。問題となる可能性は低いと思われるが、当分の間、経過を観察しよう」とのことであった。
 事実上判断を保留したのと同義だ。

 医師は主治医が来る日にもう一度来院するよう求めた。
 セスは帰り際に「明日、僕の担当の先生に見てもらうことにする。僕のことをよく理解しているのは、継続して僕を診察している人だろうから」とロビーに向けて言った。
 三人の翌日の勤務は午後からであったから、午前中に診察を受けることができるだろう。

 診察の後、セスは自分の宿舎に来るようロビーを誘った。モリタも誘ったのだが、「用事がある」と帰ってしまったのだ。

 宿舎に到着してからセスは落ち着かない様子でロビーに昆布茶を出したり、テレビのスイッチを入れたりしている。何かせずにはいられないのだ。

 セスは自身の体調について自信が持てていない。今回の医師は「あまり心配は要らない」と言っていたが、初めてセスを診た医師だ。
 何年もの間セスの症状を観察してセスのことを熟知している者ではない。だから、その診断結果にも確証が持てない。
 「心配は要らない」としているところも、セスにとっては不安である。
 絶対としていないところが、もしかしたら何か潜在的で重篤な症状が隠されている可能性を残しているのではないだろうか、と疑われるのである。

 また、セス自身は循環器系の障害から車椅子での生活を余儀なくされているが、主治医から「遺伝的なものだろう」とされていることも気にかかる。
 遺伝的なものであるならば、彼の血縁の者も同じ障害を持っている可能性がある。

 セスは真っ先に彼が探し求めている兄が同じ障害を持っていることを疑っていた。
 セスの障害はただちに生命に関わるものではない、とされているものの、障害の出方によっては生命に重大な危険があることも理解している。
 もし、彼の兄がそのような状況であったならば……?

 既にその状況を通り抜け、現世の住人ではなくなっている可能性も考えられる。
 実際のところはセスの障害が寿命にどの程度影響するのか、専門家である医師たちにもよくわかっていない。
 しかし、セスはこうした場合、ことを悪い方に考える傾向がある。
 (僕は、絶対に見つからないものを探し求めているのだろうか……?)
 そのような考えが浮かんでくる。
 セスにとっては考えたくない可能性である。

 じっとしていると、不安ばかりが浮かんでくる。
 できることなら思考を停止して何もかも思い浮かばなかったことにしたかったが、セスにそれはできないようだった。
 彼の考えはかなり飛躍しているのだが、そのことにも気付けないくらい、本人は必死で自分が見えていない。

 だから不安が浮かばないよう、彼は動きつづけるしかなかった。動いている間は少しなら不安が浮かんでくるペースが落ちるような気がした。他のことに意識が向いている分、不安を思い浮かべるために割ける脳の力が減るように思えたからだ。

「?! ロビー、どうかした?」
 不意にセスは自分を見守るようなロビーの視線を感じて声をかけた。

※※

 一方、体調の異変を感じた後のセスの一連の行動についてロビーは少し大げさかなとも考えていた。外から見ただけではあまり変わったところがなかったからだ。
 しかし、セスの心配性には彼が訴えた通りに対処する方が本人混乱しないということをロビーは過去の経験から学習していた。
 そこでロビーはセスの言う通り医師の診察を受けさせたのだった。この方がセスの精神衛生上はよいだろうと判断したからだ。

 診察の結果からも今すぐどうにかなるという訳ではなさそうなので、セスの錯乱っぷりに対してはロビーも少し慌てすぎだろうと考えていた。
 だが、彼は友人の性質を知り尽くしている。

 (また、セスの心配性だな……)
 セスが病院からの帰り際にロビーとモリタを誘ったことについて、セスが一人になりたくないのだろうと看破していた。だから、彼はセスの誘いに乗ったのだ。放置できないと思ったのだ。

 (……急いだほうが良さそうだな。このままでは埒が明かねえし、本人にとってもいいことがねえ)
 ロビーはセスが抱えている障害よりも、それを知ったセス本人の精神状態の方がより彼の肉体に悪影響を与えるのではないかと懸念していた。
 このままでは自らの気持ちの問題によってセスが崩壊しかねない、そう考えたのだ。

 ロビーはセスの様子を見ながら密かに決意していた。
(セスが目的を達成するため、俺は……セスを守り抜く!
 ……そして、絶対にセスに目的を達成させてやる!)
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