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第三章

114:エクザロームの通貨

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 エクザロームにおいて「通貨」とは、原則的に電子データ上の存在でしかない。
 人々は電子マネーのチップを持ち歩き、通貨を管理するコンピュータを介してお金のやり取りをするのである。

 これはエクザロームの成り立ちにも関係するのだが、エクザロームでは通貨の発行量を集中管理している専門の組織が存在しない。
 エクザロームに人が居住し始めた頃は、企業や個人が自由に通貨を発行していた。しかし、まもなく通貨の発行量が多くなりすぎ、極端なインフレが発生した。

 事態を重く見た有力者達は、職業学校に対策を依頼した。
 職業学校は社会で通用する即戦力を育成するため、主に有力者や企業などが資源を出し合って設立された施設だったから、彼らの利害関係を調整するのにはうってつけだった。

 職業学校は現在発行されている通貨量を調査した上で、「複数の有力者による通貨発行量の管理」を提案した。
 これはすべての通貨を電子データとして取り扱い、通貨を管理するコンピュータを複数の有力企業で管理するという内容だった。

 職業学校の提案を受けて、当時エクザロームに存在していた一六社の企業が通貨情報を管理するコンピュータを管理保有し、それぞれで情報を共有することとなった。
 複数の企業が選択されたのは、万一どこかのコンピュータに障害が発生した場合でも、通貨の管理データが失われないこと、そして相互の監視により通貨データを書き換えるなどの不正を防止することを求めたからである。

 また、有力者ではなく企業による管理とされたのは、彼らが管理のための労力を惜しんだことと、互いにけん制し合った結果であった。

 通貨の発行量はコンピュータプログラムで自動計算され、人口一人あたりの通貨発行量がゆるやかに増えていくように設定されることになった。

 エクザローム全土で唯一有効であると思われるこの取り決めは、このとき統一された通貨単位名から、「ポイント決定」と呼ばれている。

 この「ポイント決定」が施行されたのは惑星エクザロームに人が居住するようになってから約五年後のLH二四年四月一日のことであり、それ以降現在まで通貨に関する混乱らしい混乱は発生していない。

 しかし、ウォーリーたちにとってはこのことが大問題である。通貨管理のコンピュータを管理していた一六社は今や二社しか残されていないのだ。

 二社とはすなわちOP社とECN社である。
 当初OP社は「ポイント決定」で通貨管理のコンピュータを保有するとされた一六社には含まれていなかった。
 OP社の設立は「ポイント決定」より一六年も後のLH四〇年のことだったから当然である。

 OP社が過去に買収した会社には、「ポイント決定」の一六社のうち一二社が含まれていた。
 この一二社が保有していた通貨管理コンピュータもOP社に渡った。

 一方、ECN社は「ポイント決定」の時点でエクザローム最大の企業だったから、当然一六社には含まれている。こちらも今までに一六社のうちの三社を買収していた。
 これらの行動の結果、通貨管理のコンピュータはすべてOP社とECN社による管理となっていたのである。
 このコンピュータでは、チップの固有番号と金額残高、金額の出入りの履歴情報も登録されている。

 これが厄介だった。その気になればOP社が「タブーなきエンジニア集団」の保有しているチップの固有番号を調べ上げ、その金額残高をゼロに書き換えることも可能なのである。
 ECN社も今やOP社の傘下のようなものだから、OP社がやるといえば、ECN社も逆らえないだろう。

※※

 ウォーリー、ミヤハラ、サクライ、エリックの四人はサクライが友人から借りている住宅で、当面の対応について検討を続けていた。

「……金の動きを知られるとこちらの居場所もバレやしないですかね?」
 サクライが首をひねりながら懸念を表明した。

「さっきも言ったが、奴らがそこまでやるのは無理だろうな」
 ウォーリーがさらっと言ってのけた。
 サクライが疑わしそうな顔を見せたので、ウォーリーが根拠を説明した。

 実は彼らにとって幸いなことに、通貨管理のコンピュータに「どこでお金を出し入れしたか」という場所の情報が登録されていない。

 一時期、ウォーリーはECN社の通貨管理のコンピュータを担当していたことがあった。
 そのときに登録されている情報の内容を知らされていた。

 この知識があったからこそ、ウォーリーはOP社がカネの動きから自分たちの居場所を探り当てることは困難だと確信していたのである。

「それなら確かに場所を特定するのは難しいかもしれませんが……」
 ウォーリーの説明を一通り聞き終えたサクライだったが、まだ懸念が残されているという顔をしていた。

「そうは言ってもカネがなければ活動もできん。やり取りした相手からここがバレないように気を付けるしかないだろう」
 ウォーリーはこれ以上考えても無駄だと言わんばかりに議論を打ち切った。
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