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第三章
122:異変
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レイカが席を立っていなくなったのを見計らってロビーがセスに問う。
「……なあ、セス。どう思う、あの先生?」
「思った以上に繊細な人だね。それによく周りを見ているよ。ちょっと飾っているようにも見えるけど、できた人に見えるけどね」
セスは思ったままをロビーに語ってみせた。
ロビーはそんなところだろうな、とセスの見解に同意した。モリタは気が気ではないようだ。
しばらくしてレイカが席に戻ってきた。少し乱れた髪を完全に整え、化粧も直してきていた。
「さぁ、暗い話はやめて食事を楽しみましょう。せっかくの機会なのだから」
レイカの宣言で食事が再開された。
セスが唐突にレイカに向かって問う。
「あ、メルツ先生。先生に歴史に詳しい知り合いの方とかいませんか?」
「?? どのあたりの時代のことが知りたいの?」
「このエクザロームに人が住むようになってから、今まで、です」
セスの質問にレイカは意外そうな顔をしたが、少し考えてから答える。
「いいわ、明日の夕方にでも資料を持っていくわね。専門じゃないからクルスくんの希望に添うものになるかわからないけど……」
モリタがそのやり取りを見て、
「メルツ先生は忙しいんだから、あんまり変な注文をするなよ」
とセスに注意した。セスは素直に謝ったが、レイカが「あら、いいのよ」と言って仲裁に入る。
ロビーはその様子を見て、セスの焦りを感じた。
いくらなんでもマーケティングの専門家に歴史のことを聞くなんてどうかしている、と思ったのだ。
兄探しが行き詰まっているからこのような行動に出たのだろうが、とセスの動きに納得はしたのだが。
しかし、この後セスは落ち着きを取り戻したようにロビーには見えた。いつも通りそつなく会話に参加していたといってよい。
そつがない、という点ではレイカもそうだった。一度は取り乱しかけたものの、後はいつも通りの颯爽とした彼女だった。
この日の会食でセス、ロビー、モリタの三人はレイカに対して少なくとも悪い印象を持つことはなかった。
もともとレイカのファンのモリタは別として、一番懐疑的なロビーですら「根はいい奴じゃないの」という印象を持った。
「また機会があったらこのメンバーで遊びに行きましょう。私達、チームでね」
レイカは帰りがけに三人にそう声をかけた。どうやらレイカに仲間と認められたらしい。
「……まあ、モリタは上手くやったんじゃないの」
レイカが去った後で、ロビーがモリタをからかった。
モリタが苦虫を噛み潰したような表情だったので、セスがまあまあとなだめるが、その手が震えている。
「おい、どうした?」
ロビーが振り向くとセスは車椅子の上でぐったりしている。声をかけても反応が無い。
セスの身体に何らかの異変がおきていることは容易に見てとれた。
彼は一滴も酒を飲んでいなかったから、酒に酔ったわけでないのは明白だった。
「モリタっ! 行くぞっ!」
ロビーがセスの車椅子を押した。モリタがセスの前を走る。
「ロビー、セスは大丈夫だろうね。このまま死んだりしないよね」
モリタが不安を口にした。
「馬鹿野郎! 縁起でもないことを言うな! とにかく病院に急ぐぞ!」
ロビーがモリタを怒鳴りつけた。
セスのかかりつけの病院は鉄道で一駅である。走るか鉄道を使うか迷うところだが、ロビーは迷わず走る方を選択した。
モリタは「もうダメ」とぼやきながら、車椅子から離れようとしたが、ロビーはそれを許さなかった。
一五分ばかり走ったところで、セスのかかりつけの病院に到着した。この日の担当はたまたまセスの担当医だったから、話が早かった。
三〇分ほどで処置が終わり、医師が診察室から出てきて、ロビーに尋ねる。
「タカミさんは存じていますが、こちらはお友達ですか?」
ロビーがそうだと答えると、医師は身内の方だけにお話したいのですが、と切り出した。
ロビーは「こいつも身内みたいなものだから」とモリタを同席させた。
医師によると、セスは薬で落ち着いたものの、この病院での対処は難しい、とのことだった。紹介状を書くからと、落ち着いた時期での転院を勧められた。
ロビーはセスの意思を確認しようと思ったのだが、やめた。
セスが取り乱すと困るからだ。ロビーの判断で、セスを転院させることを決めた。
医師の紹介した病院はメディットであった。エクザローム最大の医療施設であり、最高水準の技術を持つこの病院ならばセスへの対処も可能だと思われる。
モリタが医師に疑わし気に問う。
「あの……セス、じゃなかったクルスは、助かるんですか?」
その言葉に医師は、少し考えてから答えた。
「今すぐ命に関わることは無いでしょう。ただ、放置しておけばどうなるかわかりません。専門の医師がいるところで、一度徹底して検査をする必要があります。当院の設備では十分な検査もできませんので」
その言葉にモリタの表情がより不安を増したものになる。
モリタの表情を見て、ロビーが彼を励ます。
「メディットなら、何とでもなる。この際だから、徹底して治療した方がいいだろうよ」
「……なあ、セス。どう思う、あの先生?」
「思った以上に繊細な人だね。それによく周りを見ているよ。ちょっと飾っているようにも見えるけど、できた人に見えるけどね」
セスは思ったままをロビーに語ってみせた。
ロビーはそんなところだろうな、とセスの見解に同意した。モリタは気が気ではないようだ。
しばらくしてレイカが席に戻ってきた。少し乱れた髪を完全に整え、化粧も直してきていた。
「さぁ、暗い話はやめて食事を楽しみましょう。せっかくの機会なのだから」
レイカの宣言で食事が再開された。
セスが唐突にレイカに向かって問う。
「あ、メルツ先生。先生に歴史に詳しい知り合いの方とかいませんか?」
「?? どのあたりの時代のことが知りたいの?」
「このエクザロームに人が住むようになってから、今まで、です」
セスの質問にレイカは意外そうな顔をしたが、少し考えてから答える。
「いいわ、明日の夕方にでも資料を持っていくわね。専門じゃないからクルスくんの希望に添うものになるかわからないけど……」
モリタがそのやり取りを見て、
「メルツ先生は忙しいんだから、あんまり変な注文をするなよ」
とセスに注意した。セスは素直に謝ったが、レイカが「あら、いいのよ」と言って仲裁に入る。
ロビーはその様子を見て、セスの焦りを感じた。
いくらなんでもマーケティングの専門家に歴史のことを聞くなんてどうかしている、と思ったのだ。
兄探しが行き詰まっているからこのような行動に出たのだろうが、とセスの動きに納得はしたのだが。
しかし、この後セスは落ち着きを取り戻したようにロビーには見えた。いつも通りそつなく会話に参加していたといってよい。
そつがない、という点ではレイカもそうだった。一度は取り乱しかけたものの、後はいつも通りの颯爽とした彼女だった。
この日の会食でセス、ロビー、モリタの三人はレイカに対して少なくとも悪い印象を持つことはなかった。
もともとレイカのファンのモリタは別として、一番懐疑的なロビーですら「根はいい奴じゃないの」という印象を持った。
「また機会があったらこのメンバーで遊びに行きましょう。私達、チームでね」
レイカは帰りがけに三人にそう声をかけた。どうやらレイカに仲間と認められたらしい。
「……まあ、モリタは上手くやったんじゃないの」
レイカが去った後で、ロビーがモリタをからかった。
モリタが苦虫を噛み潰したような表情だったので、セスがまあまあとなだめるが、その手が震えている。
「おい、どうした?」
ロビーが振り向くとセスは車椅子の上でぐったりしている。声をかけても反応が無い。
セスの身体に何らかの異変がおきていることは容易に見てとれた。
彼は一滴も酒を飲んでいなかったから、酒に酔ったわけでないのは明白だった。
「モリタっ! 行くぞっ!」
ロビーがセスの車椅子を押した。モリタがセスの前を走る。
「ロビー、セスは大丈夫だろうね。このまま死んだりしないよね」
モリタが不安を口にした。
「馬鹿野郎! 縁起でもないことを言うな! とにかく病院に急ぐぞ!」
ロビーがモリタを怒鳴りつけた。
セスのかかりつけの病院は鉄道で一駅である。走るか鉄道を使うか迷うところだが、ロビーは迷わず走る方を選択した。
モリタは「もうダメ」とぼやきながら、車椅子から離れようとしたが、ロビーはそれを許さなかった。
一五分ばかり走ったところで、セスのかかりつけの病院に到着した。この日の担当はたまたまセスの担当医だったから、話が早かった。
三〇分ほどで処置が終わり、医師が診察室から出てきて、ロビーに尋ねる。
「タカミさんは存じていますが、こちらはお友達ですか?」
ロビーがそうだと答えると、医師は身内の方だけにお話したいのですが、と切り出した。
ロビーは「こいつも身内みたいなものだから」とモリタを同席させた。
医師によると、セスは薬で落ち着いたものの、この病院での対処は難しい、とのことだった。紹介状を書くからと、落ち着いた時期での転院を勧められた。
ロビーはセスの意思を確認しようと思ったのだが、やめた。
セスが取り乱すと困るからだ。ロビーの判断で、セスを転院させることを決めた。
医師の紹介した病院はメディットであった。エクザローム最大の医療施設であり、最高水準の技術を持つこの病院ならばセスへの対処も可能だと思われる。
モリタが医師に疑わし気に問う。
「あの……セス、じゃなかったクルスは、助かるんですか?」
その言葉に医師は、少し考えてから答えた。
「今すぐ命に関わることは無いでしょう。ただ、放置しておけばどうなるかわかりません。専門の医師がいるところで、一度徹底して検査をする必要があります。当院の設備では十分な検査もできませんので」
その言葉にモリタの表情がより不安を増したものになる。
モリタの表情を見て、ロビーが彼を励ます。
「メディットなら、何とでもなる。この際だから、徹底して治療した方がいいだろうよ」
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