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第三章
125:突然の面会者との取引
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担当医に連れられてきたのは、職業学校リスク管理学科教官のトニー・シヴァであった。現在はリスク管理学科主任教官という肩書きになっている。
面会を希望しているのはトニー、ということになるようだ。
トニーは病室に入るや否や、すぐに話を始めた。
「どうも聞いたところ、クルスの症状は時間がかかるらしいな。この際だから、中途半端な治療はせずに、完治するまでここに入院した方がいいんじゃないか?
学校の仕事も大事だが、体調不十分で仕事をしたところで、成果なんて出やしない。
とは言っても、学校を辞めたらここの支払とかも困るだろう。
お前らいつも三人一緒だったから、どうだ? 三人で俺のところの仕事をしないか?
リスク管理科もこれから拡大しなきゃならんが、十分な教材が確保できない。
うちのスタッフには他の仕事もあるから教材を作っている十分な時間も無い。
お前らは見どころがあるから、勉強も兼ねて教材を作ってみないか?
そんじょそこらの金にならない学問とは違うから、いざと言うときに役に立つぞ。
金も……そうだな、一講座分の教材で五、いや六万ポイントなら払うからやってみないか?」
トニーが一気にたたみかけたためか、セス、ロビー、モリタの誰もが口を挟むことすらできなかった。
「……学校はクビになっちゃうんですか?」
セスが手を上げてトニーに聞いた。
「そうだなぁ……さっきまで幹部会議をやっていたのだが、正直なところ危ないな。職員を減らして教官や教官専任のスタッフを増やす、という方針になっていてな。職員は警備担当に回すって考えらしいが、クルスには警備は難しいだろう」
「何だそれは? 身体に障害を持っている者を差別しようってのか?!」
トニーの言葉にロビーがいきり立ったが、トニーは意に介さない。
「建前上は違うが、経営は建前じゃ成り立たない。ここは、学校から辞めさせられるまでしがみつくよりも、自ら積極的に出てリスクをとった方が、後々プラスの結果を生む。学校から辞めさせられる頃には同じような離職者が大量に出ているから、そいつらとも競争しなければならねぇ。でも、今ならそれほど競争相手がいないからな……
ただ、代わりの仕事もなしに放り出すのは、俺の主義に合わないから、次の仕事も用意した、って訳だ。勉強もできるし役に立つぞ」
トニーはそう言って三人に向けて力強くうなずいてみせた。
「……」
モリタが疑わしそうな目でトニーを見る。
「……何だ? でっかいの。疑う奴は別にこの仕事をしてもらわなくてもいいぞ。折角こっちが気を遣っていい仕事を持ってきているのだからな」
トニーの言葉にロビーが考え込む。
一講座の教材を作る作業量は三人で半月から一ヶ月弱といったところだろうか?
トニーの授業での作業は頻繁にあったから、大体見当はつく。
一講座で六万ポイントなら、三人の一ヶ月分の給与を合計した額より三割近く多い。
「……今年のレベルの教材であれば、できないことはないな」
ロビーがそう答えたがトニーが反論する。
「教材は年々進化するものだ。今年と同じ、ってことはありえない。ただ、分量的には今年と大差ないだろう。しっかり授業を聞いて理解していたならそれほど難しくはないはずだ」
「……ところで、来年は何講座開くんですか?」
モリタの質問にトニーが即答する。
「今のところ前期に七、後期に九の合計一六講座は決まっている。教官が確保できればあと四、五講座は増えるだろう」
モリタはロビーに目で合図をした。「どうする?」という意味だ。
確かに金額的には魅力があるし、この仕事ならセスを病院に入院させたままでも対応できる。
しかし、モリタには「こき使おう、って魂胆があるような」という疑いがある。
確かにトニーは人使いが荒い面があって、他の教官の授業と比較すると職員の労力が大きい。それを嫌って異動を申し出た職員も多いという話を聞いている。
「こちらとしても時間が無いのでな。他に頼むとなるとそろそろタイムリミットなので、即答できなければ他に振るが」
トニーがロビーとモリタに決断を迫った。セスは、ロビーの方を見て決断を頼むよ、という表情をしている。
「……急いで引き受けなければならないのは何講座分なのか?」
ロビーが問うと、三月末までに少なくとも三講座分、という話である。
今は一月の下旬だから期間的にはニヶ月強、それほど余裕も無いが、できないことはないだろう。
セスがどの程度参加できるかが不安だが、医師の説明では病院で状態を管理している限り、端末を操作する程度の作業は特に問題が無い、という判断だった。
検査等で三、四日に一度、半日程度の拘束が発生するが、それを除けば病室ですることがあるという状況でもないらしい。
「……わかった。まずは三講座分、引き受けよう。学校に辞表を出しに行かなければならんから、そのついでに詳しい説明を聞くことにしますか?」
ロビーがそう言って受諾の旨を伝えたが、トニーはそれには及ばないという。
トニーは三人分の退職願と教材作成要綱を手渡した。
ロビーが最初に退職願を受け取ってサインする。セスがそれに続き、モリタもしぶしぶサインをした。
「よし、これで決まりだ。退職金の方は俺がぶん取ってくるから期待してろよ。お前らはいい選択をした。これも学習の成果だな」
退職願のサインを確認して、トニーはロビーとモリタの肩を叩き、病室を出て行った。
面会を希望しているのはトニー、ということになるようだ。
トニーは病室に入るや否や、すぐに話を始めた。
「どうも聞いたところ、クルスの症状は時間がかかるらしいな。この際だから、中途半端な治療はせずに、完治するまでここに入院した方がいいんじゃないか?
学校の仕事も大事だが、体調不十分で仕事をしたところで、成果なんて出やしない。
とは言っても、学校を辞めたらここの支払とかも困るだろう。
お前らいつも三人一緒だったから、どうだ? 三人で俺のところの仕事をしないか?
リスク管理科もこれから拡大しなきゃならんが、十分な教材が確保できない。
うちのスタッフには他の仕事もあるから教材を作っている十分な時間も無い。
お前らは見どころがあるから、勉強も兼ねて教材を作ってみないか?
そんじょそこらの金にならない学問とは違うから、いざと言うときに役に立つぞ。
金も……そうだな、一講座分の教材で五、いや六万ポイントなら払うからやってみないか?」
トニーが一気にたたみかけたためか、セス、ロビー、モリタの誰もが口を挟むことすらできなかった。
「……学校はクビになっちゃうんですか?」
セスが手を上げてトニーに聞いた。
「そうだなぁ……さっきまで幹部会議をやっていたのだが、正直なところ危ないな。職員を減らして教官や教官専任のスタッフを増やす、という方針になっていてな。職員は警備担当に回すって考えらしいが、クルスには警備は難しいだろう」
「何だそれは? 身体に障害を持っている者を差別しようってのか?!」
トニーの言葉にロビーがいきり立ったが、トニーは意に介さない。
「建前上は違うが、経営は建前じゃ成り立たない。ここは、学校から辞めさせられるまでしがみつくよりも、自ら積極的に出てリスクをとった方が、後々プラスの結果を生む。学校から辞めさせられる頃には同じような離職者が大量に出ているから、そいつらとも競争しなければならねぇ。でも、今ならそれほど競争相手がいないからな……
ただ、代わりの仕事もなしに放り出すのは、俺の主義に合わないから、次の仕事も用意した、って訳だ。勉強もできるし役に立つぞ」
トニーはそう言って三人に向けて力強くうなずいてみせた。
「……」
モリタが疑わしそうな目でトニーを見る。
「……何だ? でっかいの。疑う奴は別にこの仕事をしてもらわなくてもいいぞ。折角こっちが気を遣っていい仕事を持ってきているのだからな」
トニーの言葉にロビーが考え込む。
一講座の教材を作る作業量は三人で半月から一ヶ月弱といったところだろうか?
トニーの授業での作業は頻繁にあったから、大体見当はつく。
一講座で六万ポイントなら、三人の一ヶ月分の給与を合計した額より三割近く多い。
「……今年のレベルの教材であれば、できないことはないな」
ロビーがそう答えたがトニーが反論する。
「教材は年々進化するものだ。今年と同じ、ってことはありえない。ただ、分量的には今年と大差ないだろう。しっかり授業を聞いて理解していたならそれほど難しくはないはずだ」
「……ところで、来年は何講座開くんですか?」
モリタの質問にトニーが即答する。
「今のところ前期に七、後期に九の合計一六講座は決まっている。教官が確保できればあと四、五講座は増えるだろう」
モリタはロビーに目で合図をした。「どうする?」という意味だ。
確かに金額的には魅力があるし、この仕事ならセスを病院に入院させたままでも対応できる。
しかし、モリタには「こき使おう、って魂胆があるような」という疑いがある。
確かにトニーは人使いが荒い面があって、他の教官の授業と比較すると職員の労力が大きい。それを嫌って異動を申し出た職員も多いという話を聞いている。
「こちらとしても時間が無いのでな。他に頼むとなるとそろそろタイムリミットなので、即答できなければ他に振るが」
トニーがロビーとモリタに決断を迫った。セスは、ロビーの方を見て決断を頼むよ、という表情をしている。
「……急いで引き受けなければならないのは何講座分なのか?」
ロビーが問うと、三月末までに少なくとも三講座分、という話である。
今は一月の下旬だから期間的にはニヶ月強、それほど余裕も無いが、できないことはないだろう。
セスがどの程度参加できるかが不安だが、医師の説明では病院で状態を管理している限り、端末を操作する程度の作業は特に問題が無い、という判断だった。
検査等で三、四日に一度、半日程度の拘束が発生するが、それを除けば病室ですることがあるという状況でもないらしい。
「……わかった。まずは三講座分、引き受けよう。学校に辞表を出しに行かなければならんから、そのついでに詳しい説明を聞くことにしますか?」
ロビーがそう言って受諾の旨を伝えたが、トニーはそれには及ばないという。
トニーは三人分の退職願と教材作成要綱を手渡した。
ロビーが最初に退職願を受け取ってサインする。セスがそれに続き、モリタもしぶしぶサインをした。
「よし、これで決まりだ。退職金の方は俺がぶん取ってくるから期待してろよ。お前らはいい選択をした。これも学習の成果だな」
退職願のサインを確認して、トニーはロビーとモリタの肩を叩き、病室を出て行った。
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