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第三章

134:敵の敵の活用

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 会議を終えたトニーが教官用の控室でリスク管理学科の親しい教官や教官付きのスタッフ、職員を集めて談笑している。
 セス達が職員として在籍した学科ではあるが、実はスタッフや職員には女性が多い。
「女性の活用」を謳って女性スタッフや職員の数を増やしたのである。

「まあ、あの甘ちゃんのねーちゃん先生には釘を刺しておいたからな。これで、余計な口出しはしなくなるだろうよ」
 開口一番トニーは幹部会議でレイカをやり込めたことを周囲の女性スタッフたちに話した。
 実は女性スタッフや職員からレイカに対する苦情は多かった。
 こうした苦情をトニーが聞きつけ、これは利用できると考えたのだった。

 職業学校は過去に寄付をしている企業などから「女性の活用度が低い」という指摘を受けていた。
 現在学校が雇用している人員のうち女性の割合は四割弱なのだが、この数字は指摘を受けて女性登用を増やした後の数字である。

 女性の割合がかなり低かった頃の名残として、「女子メンバー会」という組織がある。
 これは女性の教官、スタッフ、職員の交流を深めるためのサロンのようなもので、名目上は任意参加の組織である。
 この手の組織にありがちなルールとして「新人は強制加入」というものがあるが、「女子メンバー会」も例外ではなかった。

「女子メンバー会」には学校側から組織そのものの運営費用の他に、月一回の立食パーティー形式の夕食会、会員制高級リゾートの利用券などの費用が拠出されていた。
 これらの費用が莫大なものになっており、学校側も頭を抱えていた。
 しかし、なかなか面と向かってこれらの費用に異を唱えることは難しい。
 女性の登用に異を唱える守旧派として、責められるのがオチだからである。

 こうした費用について、最初に疑問を投げかけたのがレイカ・メルツだったのである。
 彼女も「女子メンバー会」の会合などには参加していたのだが、やりにくさを感じていた。
 あまりにもメンバーがべったりくっつくので、緊張の連続だったのだ。

 また、参加人数も多すぎた。彼女自身有名人であり、希少性を訴えてよいほどの美貌で格好も目立つから、会合などではいつも注目される。
 注目されるのは歓迎だが、やや自意識過剰な面のある彼女は、それから先を想像してしまうのだ。
 注目を集めすぎれば、それは憎しみに転じる可能性がある。
 ただでさえ目立ってしまう自分のことだ。仲間外れにされるくらいならまだしも、身に危険が及ぶ事態にまで達するのは正直なところ怖い。

 以前、たまたま学外の喫茶店で若手の男性教官数名と談笑しているところを「女子メンバー会」のメンバーに目撃されてしまったらしい。
 そのことで、「女子メンバー会」の幹部にお叱りを受けたのである。会には暗黙のルールがあるらしく、そのルールに反した、ということのようだった。

 レイカからすれば、お叱りを受けることは理解できるのだが、彼女としても何らかの下心を持って彼らと談笑していた訳ではなかった。
 指摘を受けた彼女は「そんなことを指摘されても……」という心境だった。彼女は指摘の直後に「女子メンバー会」から抜けた。

 そのような複雑な心境も絡んで、この「女子メンバー会」に多額の費用を投じる学校に対して、疑問を投げかけたのである。
 彼女は学校の女性関係者以外にも学生や、職員、スタッフすべてを含めた交流の場を新たに作るというアイデアを提示した。
 あくまでも、「女子メンバー会」の存続に反対した訳ではなく、もう少し開かれた交流の場を作ることを提案したのである。
 そして、その資金調達の一案として、「女子メンバー会」に拠出している費用の一部を転用する案を出したに過ぎなかった。

「女子メンバー会」へ拠出する費用の大きさに頭を痛めていた学校としては、レイカの提案を最大限利用しようと考えた。女性からの提案であれば、「女性側にもこういう意見がある」として大義名分が立つからだ。

 結局、学校側は「女子メンバー会」には運営費用のみを提供することを決めた。
 立食パーティーに関しては隔月開催とし、参加要件を学内関係者全員とした。
 また、会員制高級リゾートの利用券の配布を停止した。
 これらの対応により学校側の出費はニ〇パーセントほど減ったので、学校側は大喜びであった。
 しかし、このことが「女子メンバー会」を刺激してしまった。
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