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第四章
150:三人の助っ人
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ウォーリーがフルヤで仲間との再会を祝ってから少し後のことである。
LH五〇年四月上旬、ジンにある医療施設「メディット」のとある病室では、七人の男女が共同で作業をしていた。
「……こっちの校正は終わったよ。ロビー、きりのいいところで休憩したらどうかな? 僕は一足先にみんなの飲み物を買ってくるよ。希望があったら言って」
タカシ・モリタが病室の扉へと走った。巨体の割に身が軽い。
「おう、頼むわ、あったかい茶なら何でもいい。ところで、メルツ先生の方はどう?」
長身の青年が応じた。ロビー・タカミである。
「こっちもそろそろ終わるわ。クルス君は?」
長身のモデルの様ないでたちの女性がベッドに座っている青年に声をかけた。
こちらは職業学校マーケティング学科の人気教官であるレイカ・メルツだ。
この場所に彼女がいると知れればファンが大挙して押し寄せて来そうなものであるが、「メディット」のセキュリティは完璧に近い。彼女がこの場にいることはごく一部の関係者を除いて知られることはなかった。
「もう少しです。モリタが出ている間に片付けちゃいます」
よく見ると青年が座っているベッドにはテーブルが設置されており、青年はその上に携帯端末を置いて何やら作業をしている。
こちらの青年がセス・クルスで、入院しながら職業学校で用いられる教材づくりの仕事をしている。
「おう、セス、あまり無理するなよ」
ロビーがセスを気遣った。
セスの入院は三ヶ月目に突入しているが、症状は一向に改善しない。
悪くもなってはいないのだが、ロビーとしては気にかかる。
「シヴァ先生も人使いが荒いよな。普通ここまで細かいことにこだわるか?まったく……」
ロビーがセスの作業を見ながら愚痴った。
現在部屋の七人が行っているのは、職業学校リスク管理学科の教材づくりであった。
主任教官のトニー・シヴァからセス、ロビー、モリタの三人に依頼された仕事であった。
他の四人は三人を手伝っている格好になる。
トニーによる教材のチェックは細かく、要修正項目は表紙のロゴや、図の配色まで踏み込んだ内容となっていた。
明日が教材納入の締め切りであるのだが、昨夜一三度目の修正要求が来て、ロビーが徹夜で対応していた。文句を言いながらも根気よく対応したのは、対応が終わらないと報酬が振り込まれないことも原因であったが、指摘の内容に正当性があったことも影響していた。
「……ふぅ、僕の範囲も終わったよ。これで提出してみようか。また修正依頼が来たらどうしようか?」
セスがベッドの上に身体を起こしたままため息をついた。
別にベッドで寝ている必要はないのだが、作業机のスペースが足りないので彼はベッドで作業している。
「机を片付けてお茶にしましょう。モリタさんが帰ってくるのを待ちましょうか」
そう言ってレイカが作業机を片付け始めた。
一緒に作業をしていた三人の女性がそれに続いた。
この三人は、それぞれカネサキ、オオイダ、コナカといい職業学校のマーケティング学科所属の職員である。
カネサキとオオイダが持ってきた菓子類を広げ、コナカは作業机を拭いている。
「男の人がいると、いろいろお菓子が持ってこられるから楽しくていいわ」
三人の職員のうち、最年長のカネサキがセスとロビーに向けて菓子の入った袋を指さした。ちなみにカネサキが三〇歳で他の二人はレイカより年下だ。
この三人、年齢は上からカネサキ、オオイダ、コナカの順になるのだが、背丈も高い方から同じ順番になる。
最年長で一番背の高いカネサキは姉御肌、といった感じの女性だ。
ウェーブのかかった明るい茶色の髪の活発に見える女性で、三人のリーダー的な立場にあるようだ。
真ん中のオオイダはカネサキより六歳年下だそうだ。
サブマリン島に住む女性としては平均的な背丈で、カネサキに言わせれば「メリハリのない幼児体型が特徴」とのことだ。大食漢なのだが、全然太らないというのがウリらしい。
最年少で一番背の低いコナカはオオイダの一つ年下の大人しそうな雰囲気の女性だ。
身長はサブマリン島に住む女性の平均の下限に近い一六〇センチ。黒いショートヘアの目立たない顔だが、グラビアモデルのようなグラマラスな身体をしている。
実はセス、ロビー、モリタの三人は、過去に彼女と顔を合わせたことがある。
二年ほど前に三人がECN社の内定を取り消され、ロビーを先頭に職業学校に駆け込んだことがあった。そのとき、窓口で三人の対応をしたのが彼女だったのだ。
当時のロビーは必死の形相であったこともあり、作業を開始してしばらくはコナカは三人に対して腰が引けていた。
しかし、一緒に作業をするようになって三人の人となりを理解してきたのか、次第に打ち解けてきたのだった。
セスが並べられた菓子類を見て顔を輝かせた。
「ありがとうございます。いろいろ作ってきてもらってしまってすみません。いつも手間がかかっているものを頂いちゃって何か申し訳ないです」
「いいのよ、クルス君。私もオオイダも好きでやってるんだから。それに買ってきたものだけじゃ、クルス君が食べられないものがあるでしょ」
セスの表情を見て、カネサキが胸を張った。
「すみません、いつもいつも」
セスが礼を言った直後、ドタドタという音が近づいてきた。
モリタが帰ってきたのだった。
LH五〇年四月上旬、ジンにある医療施設「メディット」のとある病室では、七人の男女が共同で作業をしていた。
「……こっちの校正は終わったよ。ロビー、きりのいいところで休憩したらどうかな? 僕は一足先にみんなの飲み物を買ってくるよ。希望があったら言って」
タカシ・モリタが病室の扉へと走った。巨体の割に身が軽い。
「おう、頼むわ、あったかい茶なら何でもいい。ところで、メルツ先生の方はどう?」
長身の青年が応じた。ロビー・タカミである。
「こっちもそろそろ終わるわ。クルス君は?」
長身のモデルの様ないでたちの女性がベッドに座っている青年に声をかけた。
こちらは職業学校マーケティング学科の人気教官であるレイカ・メルツだ。
この場所に彼女がいると知れればファンが大挙して押し寄せて来そうなものであるが、「メディット」のセキュリティは完璧に近い。彼女がこの場にいることはごく一部の関係者を除いて知られることはなかった。
「もう少しです。モリタが出ている間に片付けちゃいます」
よく見ると青年が座っているベッドにはテーブルが設置されており、青年はその上に携帯端末を置いて何やら作業をしている。
こちらの青年がセス・クルスで、入院しながら職業学校で用いられる教材づくりの仕事をしている。
「おう、セス、あまり無理するなよ」
ロビーがセスを気遣った。
セスの入院は三ヶ月目に突入しているが、症状は一向に改善しない。
悪くもなってはいないのだが、ロビーとしては気にかかる。
「シヴァ先生も人使いが荒いよな。普通ここまで細かいことにこだわるか?まったく……」
ロビーがセスの作業を見ながら愚痴った。
現在部屋の七人が行っているのは、職業学校リスク管理学科の教材づくりであった。
主任教官のトニー・シヴァからセス、ロビー、モリタの三人に依頼された仕事であった。
他の四人は三人を手伝っている格好になる。
トニーによる教材のチェックは細かく、要修正項目は表紙のロゴや、図の配色まで踏み込んだ内容となっていた。
明日が教材納入の締め切りであるのだが、昨夜一三度目の修正要求が来て、ロビーが徹夜で対応していた。文句を言いながらも根気よく対応したのは、対応が終わらないと報酬が振り込まれないことも原因であったが、指摘の内容に正当性があったことも影響していた。
「……ふぅ、僕の範囲も終わったよ。これで提出してみようか。また修正依頼が来たらどうしようか?」
セスがベッドの上に身体を起こしたままため息をついた。
別にベッドで寝ている必要はないのだが、作業机のスペースが足りないので彼はベッドで作業している。
「机を片付けてお茶にしましょう。モリタさんが帰ってくるのを待ちましょうか」
そう言ってレイカが作業机を片付け始めた。
一緒に作業をしていた三人の女性がそれに続いた。
この三人は、それぞれカネサキ、オオイダ、コナカといい職業学校のマーケティング学科所属の職員である。
カネサキとオオイダが持ってきた菓子類を広げ、コナカは作業机を拭いている。
「男の人がいると、いろいろお菓子が持ってこられるから楽しくていいわ」
三人の職員のうち、最年長のカネサキがセスとロビーに向けて菓子の入った袋を指さした。ちなみにカネサキが三〇歳で他の二人はレイカより年下だ。
この三人、年齢は上からカネサキ、オオイダ、コナカの順になるのだが、背丈も高い方から同じ順番になる。
最年長で一番背の高いカネサキは姉御肌、といった感じの女性だ。
ウェーブのかかった明るい茶色の髪の活発に見える女性で、三人のリーダー的な立場にあるようだ。
真ん中のオオイダはカネサキより六歳年下だそうだ。
サブマリン島に住む女性としては平均的な背丈で、カネサキに言わせれば「メリハリのない幼児体型が特徴」とのことだ。大食漢なのだが、全然太らないというのがウリらしい。
最年少で一番背の低いコナカはオオイダの一つ年下の大人しそうな雰囲気の女性だ。
身長はサブマリン島に住む女性の平均の下限に近い一六〇センチ。黒いショートヘアの目立たない顔だが、グラビアモデルのようなグラマラスな身体をしている。
実はセス、ロビー、モリタの三人は、過去に彼女と顔を合わせたことがある。
二年ほど前に三人がECN社の内定を取り消され、ロビーを先頭に職業学校に駆け込んだことがあった。そのとき、窓口で三人の対応をしたのが彼女だったのだ。
当時のロビーは必死の形相であったこともあり、作業を開始してしばらくはコナカは三人に対して腰が引けていた。
しかし、一緒に作業をするようになって三人の人となりを理解してきたのか、次第に打ち解けてきたのだった。
セスが並べられた菓子類を見て顔を輝かせた。
「ありがとうございます。いろいろ作ってきてもらってしまってすみません。いつも手間がかかっているものを頂いちゃって何か申し訳ないです」
「いいのよ、クルス君。私もオオイダも好きでやってるんだから。それに買ってきたものだけじゃ、クルス君が食べられないものがあるでしょ」
セスの表情を見て、カネサキが胸を張った。
「すみません、いつもいつも」
セスが礼を言った直後、ドタドタという音が近づいてきた。
モリタが帰ってきたのだった。
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