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第四章

164:ウォーリー、歯噛みする

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 ハモネスで発生したOP社元従業員による反乱事件は、マスコミによって大々的に報じられた。
 OP社は犯人がもと従業員であるということを隠さなかったので、このことも市民に知れ渡った。

 報道の直後から一部の市民の間には恐怖が走った。
 しかし、多くの市民はハドリが無差別に殺戮を繰り返しているわけではないことを知っていたから、ハドリに敵と見られないよう神経をすり減らすのであった。
 たとえもと部下であっても反逆の意思を見せれば徹底的に罰せられるというハドリのルールを、市民たちは徹底的に刷り込まれたのだ。

 ただし、ハドリが行ったのは市民や反乱者に対する締め付けのみではなかった。
 ハドリが寛容だった一例として、自社が所有するスポーツ関連施設を市民に無料で開放したことがある。
 元来OP社自体は社でスポーツ用の施設を持っていたわけではなかったが、企業買収を繰り返していくうちにこのような施設が手に入ることがあった。
 ハドリはこうした施設を市民に無料で開放し、自由に使わせてやった。
 また、余った土地を農業者や養殖漁業に携わる者に開放し、ただ同然の値段で使わせるということもしている。
 ハドリのやり方は締めるところは徹底して締めるが、そうでない部分に関しては自由にやらせる、というものであった。
 スポーツ用の施設や農地などは自社で独占しても使い道がない。ならば、それらを求める連中に使わせてやってガス抜きをすればよいと彼は考えていた。
 このように彼の定めたルールに反しない限り、彼は寛容であるとも言えたのだ。

 しかし、このようなハドリのやり方に反感を持つ者も当然存在する。
 その代表格の人間はポータル・シティの北東にあるフルヤという集落で、療養生活を送っていた。「タブーなきエンジニア集団」のトップ、ウォーリー・トワである。

 ウォーリーはミヤハラ、エリックといった主要メンバーとニュース番組を見ながら雑談している。
 フルヤは比較的ポータル・シティから近い (といっても徒歩で丸一日以上かかるが)ため、ポータルの放送も問題なく受信できるのだ。

「……ったく。えげつなさ過ぎて言葉も出ないぜ。ああ、腹が立って仕方ないね、ハドリの奴には! うちらの名前を名乗った連中も連中だが」
 ウォーリーは座椅子に腰掛けながらスクリーンに向かって愚痴っていた。
 本来の彼であれば「ハドリの野郎に制裁を!」と息巻いて外に飛び出してもおかしくないのだが、彼は座ったまま立ち上がろうともしなかった。
 フルヤにいる医師の勧めで療養生活を送っている彼は、珍しいことにおとなしく医師の指示に従っているのだ。それだけ自身の体調の異変を強く感じているのだろう。
 メディットに入院していたときと比較すると気味が悪いくらいに大人しい。

「……それだけ我々の活動が知られている、ということかもしれません」
 ウォーリーの愚痴には、エリックだけが付き合っている。
 ミヤハラはその場に座っているがウォーリーの愚痴を聞いていないし、サクライに至っては、面倒だと別の部屋に引きこもってしまっている。

「しかし、何だ。一ヶ月の安静というのも長いな。前は半年も入院していたのだが、そのときよりも長く感じるぜ。暇だから仲間の消息を確認するか?」
 ウォーリーは耐えられないとばかりに立ち上がろうとした。立ち上がるのに新たなタスクを提案するあたり、普段の彼とは異なる。

「復帰が遅くなりますからやめてください」
 しかし、ウォーリーの提案はエリックに止められた。
 スクリーンを見るくらいならいいが、情報端末の操作といった作業は医師に止められているのである。

 フルヤに集まった「タブーなきエンジニア集団」のメンバーは、苦労の末、ECN社、OP社の通信情報傍受システムの穴を突き止めた。
 正確にはOP社の一部の社員がハドリへの密告用に用いる通信経路であったが、これを利用しない手は無い。
 この通信経路を通る情報は、その内容や分量を含めてすべてノーチェックであるし、ECN社、OP社いずれのシステムにも保管されない。
 この経路に少し手を加えて、「タブーなきエンジニア集団」用の極秘通信経路を作り上げたのはエリックだった。
「タブーなきエンジニア集団」の中で最も優れた技術者であり、ウォーリーですらその腕には舌を巻くくらいだ。
 常に警戒は必要であるが、当面はこの通信経路を用いて仲間と連絡が取れそうだった。
 ECN社、OP社のいずれにも「タブーなきエンジニア集団」以上の技術者集団はいないからだ。

 この通信経路を用いて、六割強の仲間の消息が判明した。
 一部のメンバーはOP社の治安改革センターの監視下にあるものの、OP社に拘束されたメンバーはそれほど多くないようだった。

 これはウォーリーやミヤハラなどの幹部が拘束されていないことも原因なのだが、OP社がメンバーに関する情報をほとんど持っていなかったことが大きく影響している。
 メンバーの名簿データを登録した記憶装置はウォーリーとミヤハラが各一台ずつ持ち出していた。
 他に「タブーなきエンジニア集団」のメンバーの名簿を登録したものは存在しないのだ。
 この対応により、OP社が「タブーなきエンジニア集団」の全貌を掴むことが困難になっていた。
 OP社治安改革センターも誰が「タブーなきエンジニア集団」に参加しているか不明な状態では手を出せないようだとウォーリーは考えていた。

 ウォーリーたちは気がついていなかったが、実はハドリをはじめとしたOP社の関係者は「タブーなきエンジニア集団」の末端のメンバーにそれほど執着していなかった。
 トップの方はともかく、末端のメンバーに大したことができるとは考えていなかったためだ。
 ただし、メンバーを集めて誤った方向に向けるウォーリーのような存在は警戒している。
 実際にOP社が拘束した「タブーなきエンジニア集団」のメンバーはハドリが「タブーなきエンジニア集団」の幹部に繋がっていると疑った者がほとんどであった。
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