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第四章
179:ハドリの敵
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賊に輸送部隊を攻撃されたのは、ハドリとしても想定していた事態であった。
こうすることで、相手の戦力を把握するのだ。
現在のフジミ・タウンは他の都市との交流を完全に閉ざしており、外部から中の様子を窺うのは困難であった。
ハドリは相手の情報を持たずに戦うような愚を犯す真似はしなかった。
その代わり、戦力を探るために相手からちょっかいをかけさせるよう誘った。
一度や二度の襲撃を受けただけではなかなか情報が得られなかったが、繰り返すうちに相手のレベルがはっきりしてくる。
しかし、誤算もあった。
今回は賊の興味が物資にあるであろうといつもより多めに物資を運ばせた。
予想に反して賊は物資には目もくれず、ただ輸送部隊を蹂躙したという。その結果、輸送部隊の少なくない戦力が失われた。
輸送部隊の一部をフジミ・タウン侵攻に回そうとしていた計画を修正せざるを得ない。
(愚かな! おのれ、賊ども! 俺の母を殺めたことを地獄で後悔させてくれるわ!
死か、より凄惨な死か、今から選ぶ準備をしておくがいい)
フジミ・タウンの賊を撲滅することは、ハドリの悲願である。
OP社を立ち上げたのも、司法警察権を手に入れたのも、すべてはフジミ・タウンに巣食う賊の撲滅のためなのだ。
ハドリは一八のとき、「フジミの大虐殺」で母親を亡くした。
今から一二年前のことである。
このときから彼はフジミ・タウンに巣食う賊どもの撲滅のため、今日まで力を蓄えてきたのだ。
現在、フジミ・タウンに巣食っている賊は、「フジミの大虐殺」で無実の市民を惨殺した者たちである。
一夜にして八千の生命が失われた事件の加害者たちが現在ものうのうと居座っているのである。それだけではなく、今でもしばしば周囲を行き交う人々を襲い物資を奪っている。
社長室に戻ったハドリは携帯端末を操作し、部下からの報告に目を通した。
襲撃された輸送部隊や治安改革センターなどの情報から、フジミ・タウンの賊は五、六千程度の戦力と推定される。
一方、ハドリがこの数年、治安改革と称して育成した戦力はOP社とECN社を合計して三万五千以上に達する。
治安改革センターに最小限の職員を残す必要もあるので、実際にフジミ・タウンに送りこめる戦力は六割程度だろう。それでも、敵の三倍以上の戦力である。
ハドリが「タブーなきエンジニア集団」を敵対視しながら、その攻撃にどこか徹底さを欠いたのはフジミ・タウンの賊が気になったからである。
というよりも、もともと「タブーなきエンジニア集団」は歯牙にもかけていなかったのだ。
だが、あまりに彼らがちょこまかとうるさかったため、ハドリとしては彼らを無視するわけにいかなかったのである。
彼らが大人しくしていれば、ハドリは彼らに対して、積極的に手を出さなかったのかもしれなかったのだ。
それ以外にもハドリが目をつけざるを得ない者たちがいた。
寄せられた情報から、かつて「有力者」と呼ばれていた者たちのうち市民運動を装って不当に利益をむさぼっている者たちが存在していることが浮かび上がってきた。
確たる証拠はないが、司法警察権を有する者としてハドリはこうした者たちの存在にも目を光らせる必要があった。
ハドリの携帯端末が鳴った。
セキュリティ・センターのセンター長、ミツハル・オオカワからである。
彼は明日一五日の午前一〇時までに二万の戦力を本社に集める、と報告してきたのだ。
もちろん戦力の集結はフジミ・タウンに巣食う賊どもを討つためのものだ。
「遅い! 今日中だ! 明日の〇時までに、本社前に集結させろ!」
ハドリの怒号にオオカワは向こう側の端末の前でかしこまるしかなかった。
オオカワとの通信を終えたハドリが窓のガラス部分に身体が重ならないよう慎重に外を見ると、本社ビルの下には各地の治安改革センターから精鋭が集められていた。
あまりに人数が多いので、市民も何事かと様子を見守っている。
ハドリがガラス部に身体を重ねない理由は二つある。
ひとつはガラス部に身体を重ねれば、外から彼の姿を見つけられる恐れがあるためだ。
OP社の社長室は本社ビルの上の方にあり、サブマリン島にこの高さより高い建造物は他に無いのだが、それでも念を入れて警戒しているのである。
もう一つの理由は、狙撃の危険を考えてである。
社長室の窓ガラスは防弾仕様のものであるが、これも念を入れているのである。
この通り、エイチ・ハドリというのはかなり猜疑心の強い男でもある。
一見、今回のフジミ・タウンへの侵攻命令は唐突であるように思われる。
しかし、これはハドリが周到に準備した結果であった。
冷静に相手の戦力を調べ、侵攻のタイミングを窺っていたに過ぎない。ハドリは戦力が整い次第、侵攻を開始すると計画していたのである。
戦力は揃った。今回の襲撃で相手のレベルも見極めた。だから打って出るのだ。
ハドリからすれば予定通りである。
ポータル・シティのOP社本社に向けて続々と治安改革の職員が集まってくる。職員という名の戦士たちが……
こうすることで、相手の戦力を把握するのだ。
現在のフジミ・タウンは他の都市との交流を完全に閉ざしており、外部から中の様子を窺うのは困難であった。
ハドリは相手の情報を持たずに戦うような愚を犯す真似はしなかった。
その代わり、戦力を探るために相手からちょっかいをかけさせるよう誘った。
一度や二度の襲撃を受けただけではなかなか情報が得られなかったが、繰り返すうちに相手のレベルがはっきりしてくる。
しかし、誤算もあった。
今回は賊の興味が物資にあるであろうといつもより多めに物資を運ばせた。
予想に反して賊は物資には目もくれず、ただ輸送部隊を蹂躙したという。その結果、輸送部隊の少なくない戦力が失われた。
輸送部隊の一部をフジミ・タウン侵攻に回そうとしていた計画を修正せざるを得ない。
(愚かな! おのれ、賊ども! 俺の母を殺めたことを地獄で後悔させてくれるわ!
死か、より凄惨な死か、今から選ぶ準備をしておくがいい)
フジミ・タウンの賊を撲滅することは、ハドリの悲願である。
OP社を立ち上げたのも、司法警察権を手に入れたのも、すべてはフジミ・タウンに巣食う賊の撲滅のためなのだ。
ハドリは一八のとき、「フジミの大虐殺」で母親を亡くした。
今から一二年前のことである。
このときから彼はフジミ・タウンに巣食う賊どもの撲滅のため、今日まで力を蓄えてきたのだ。
現在、フジミ・タウンに巣食っている賊は、「フジミの大虐殺」で無実の市民を惨殺した者たちである。
一夜にして八千の生命が失われた事件の加害者たちが現在ものうのうと居座っているのである。それだけではなく、今でもしばしば周囲を行き交う人々を襲い物資を奪っている。
社長室に戻ったハドリは携帯端末を操作し、部下からの報告に目を通した。
襲撃された輸送部隊や治安改革センターなどの情報から、フジミ・タウンの賊は五、六千程度の戦力と推定される。
一方、ハドリがこの数年、治安改革と称して育成した戦力はOP社とECN社を合計して三万五千以上に達する。
治安改革センターに最小限の職員を残す必要もあるので、実際にフジミ・タウンに送りこめる戦力は六割程度だろう。それでも、敵の三倍以上の戦力である。
ハドリが「タブーなきエンジニア集団」を敵対視しながら、その攻撃にどこか徹底さを欠いたのはフジミ・タウンの賊が気になったからである。
というよりも、もともと「タブーなきエンジニア集団」は歯牙にもかけていなかったのだ。
だが、あまりに彼らがちょこまかとうるさかったため、ハドリとしては彼らを無視するわけにいかなかったのである。
彼らが大人しくしていれば、ハドリは彼らに対して、積極的に手を出さなかったのかもしれなかったのだ。
それ以外にもハドリが目をつけざるを得ない者たちがいた。
寄せられた情報から、かつて「有力者」と呼ばれていた者たちのうち市民運動を装って不当に利益をむさぼっている者たちが存在していることが浮かび上がってきた。
確たる証拠はないが、司法警察権を有する者としてハドリはこうした者たちの存在にも目を光らせる必要があった。
ハドリの携帯端末が鳴った。
セキュリティ・センターのセンター長、ミツハル・オオカワからである。
彼は明日一五日の午前一〇時までに二万の戦力を本社に集める、と報告してきたのだ。
もちろん戦力の集結はフジミ・タウンに巣食う賊どもを討つためのものだ。
「遅い! 今日中だ! 明日の〇時までに、本社前に集結させろ!」
ハドリの怒号にオオカワは向こう側の端末の前でかしこまるしかなかった。
オオカワとの通信を終えたハドリが窓のガラス部分に身体が重ならないよう慎重に外を見ると、本社ビルの下には各地の治安改革センターから精鋭が集められていた。
あまりに人数が多いので、市民も何事かと様子を見守っている。
ハドリがガラス部に身体を重ねない理由は二つある。
ひとつはガラス部に身体を重ねれば、外から彼の姿を見つけられる恐れがあるためだ。
OP社の社長室は本社ビルの上の方にあり、サブマリン島にこの高さより高い建造物は他に無いのだが、それでも念を入れて警戒しているのである。
もう一つの理由は、狙撃の危険を考えてである。
社長室の窓ガラスは防弾仕様のものであるが、これも念を入れているのである。
この通り、エイチ・ハドリというのはかなり猜疑心の強い男でもある。
一見、今回のフジミ・タウンへの侵攻命令は唐突であるように思われる。
しかし、これはハドリが周到に準備した結果であった。
冷静に相手の戦力を調べ、侵攻のタイミングを窺っていたに過ぎない。ハドリは戦力が整い次第、侵攻を開始すると計画していたのである。
戦力は揃った。今回の襲撃で相手のレベルも見極めた。だから打って出るのだ。
ハドリからすれば予定通りである。
ポータル・シティのOP社本社に向けて続々と治安改革の職員が集まってくる。職員という名の戦士たちが……
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