257 / 337
第六章
250:あこがれの人との間にある壁
しおりを挟む
ヌマタは興奮冷めやらぬまま部屋の中で「タブーなきエンジニア集団」に関する情報やインデスト市内の電子部品販売店の情報を夜通し集めた。
夜が明けるとすぐにヌマタは宿を出た。宿には延泊を申し出ており、一週間程度はここに泊まりこむつもりだ。
勿論、目的はイベントホール棟の爆発物に遠隔操作装置を組み込むためである。
フロントや宿の周辺にはまばらながら宿泊客と思われる人々の姿も見える。
日の出を狙って周囲を散策している者達と思われる。夕陽ほどではないが、日の出を目当てにしている宿泊客も少なくないらしい。
そのおかげで早朝の出発にもかかわらず、宿のスタッフに不審に思われることもなかったようだ。
結局、昨夜は一睡もできなかった。
ハドリを殺害できる手段を見つけたおかげで、興奮気味だったからかもしれない。
遠隔操作装置をどのように作り、設置するかについて様々なアイデアを考え、もっとも成功率が高そうなものを選択したのも事実だ。
だが、それは本来のヌマタの知識や能力をもってすれば、そこまで時間がかかる作業ではなかったはずだ。
彼はOP社の社員であった時代にインデストの鉱山で働いていた。
鉱員の管理が主な業務であったが、鉱山に関する業務は一通り経験している。
その中には火薬の準備や発破といった作業も含まれている。
爆薬を設置して狙った対象を爆破するなどお手の物なのだ。
ヌマタがインデストの市街へと向かう街道を足早に進んでいく。
夜明け直後のひんやりした空気が興奮を抑え、冷静さを取り戻してくれているように感じられた。
「オーシャンリゾート」からインデストの市街地までは歩いて二時間程度の距離である。
市街に近くなれば、動く歩道が整備されているので、移動はそれほど困難ではない。
市街に入って少し歩いたところに電子部品店を見つけ、必要なパーツ類を購入する。
まだ朝早い時間であったが、店は営業を開始していた。
インデストは鉱山の街だけあって鉱山関係者を相手にした店は比較的朝早くから営業している。
ヌマタが入ったのは彼が知っている店ではなかったが、その方が都合がよい。身元が割れる可能性が低いからだ。
買い物を済ませてヌマタが店を出ようとすると、辺りが騒がしくなった。
見ると、少し先に人だかりができている。
ヌマタは人だかりに割って入り、その視線の先に目をやった。
三人の男が集まった人々に声をかけている。
そのうち二人の顔はよく知っている。一人は半年ほど前まで同じ職場で働いていた。
「……俺たちが望むのは、一私企業による世界の監視じゃないんだ。不当な監視から皆を解放するために、一緒に戦って欲しい」
そう訴えているのは、ヌマタの羨望の的となっている人物だった。
(あれが……ウォーリー・トワさんか!)
ウォーリーの姿は映像で何度も見ているから、ヌマタもよく知っている。
サン・アカシの姿もあった。ヌマタは親会社の担当者として彼と一緒に仕事をしていた時期がある。ヌマタから見ても頼りになる人物だった。
アカシがOP社グループ労働者組合を結成してハドリに対抗すると知ったとき、ヌマタは純粋に嬉しく感じた。
目指すところは異なるかもしれないが、ハドリに対して身近に同じ想いを持っている人の存在を知ったからだ。
もう一人は画像で顔を見たような気もするのだが、ヌマタには誰だかわからなかった。
体格は普通なのだが、どことなく線の細さを感じさせる青年だ。
ウォーリーの耳元で何かを言ったり、周りの人々の質問に答えているようなのだが、少し落ち着きがないように見える。
ヌマタが知らないこの人物は「タブーなきエンジニア集団」の技術の中枢、エリック・モトムラである。
引っ込み思案な性格から「タブーなきエンジニア集団」の幹部の中では比較的目立たない存在である。
ヌマタはウォーリーたちの姿を見やってから、人垣の外へ出た。
彼らと合流する前にやることがある━━
彼が爆発物を使って、ハドリを暗殺しようとするのは彼個人のことでしかない。
そこに「タブーなきエンジニア集団」やOP社グループ労働者組合を巻き込むことはない。
彼らは自分のような卑小なテロリストの一味となってはならない。
明るい光の当たる道を歩くべき存在だからだ。
ヌマタは彼らと自身との間に見えない厚くて高い壁があることを理解していた。いや、意図的に彼が壁を建てたのであった。
宿に爆発物を仕掛けたら「タブーなきエンジニア集団」に赴き、ウォーリー・トワに会おうとヌマタは考えていた。
ウォーリーとヌマタの間に壁はあるが、それでも存在を隠して協力できることはあるはずだ。
ヌマタはOP社時代管理側に属していた。
管理側といっても下っ端であることに違いないが、「タブーなきエンジニア集団」や「OP社グループ労働者組合」に属しているメンバーにはいない立場である。
この立場を利用すれば、彼らが持っていない価値のある情報を提供できるだろう。
ヌマタは一刻も早く準備を済ませるため、宿への帰路を急いだのであった。
夜が明けるとすぐにヌマタは宿を出た。宿には延泊を申し出ており、一週間程度はここに泊まりこむつもりだ。
勿論、目的はイベントホール棟の爆発物に遠隔操作装置を組み込むためである。
フロントや宿の周辺にはまばらながら宿泊客と思われる人々の姿も見える。
日の出を狙って周囲を散策している者達と思われる。夕陽ほどではないが、日の出を目当てにしている宿泊客も少なくないらしい。
そのおかげで早朝の出発にもかかわらず、宿のスタッフに不審に思われることもなかったようだ。
結局、昨夜は一睡もできなかった。
ハドリを殺害できる手段を見つけたおかげで、興奮気味だったからかもしれない。
遠隔操作装置をどのように作り、設置するかについて様々なアイデアを考え、もっとも成功率が高そうなものを選択したのも事実だ。
だが、それは本来のヌマタの知識や能力をもってすれば、そこまで時間がかかる作業ではなかったはずだ。
彼はOP社の社員であった時代にインデストの鉱山で働いていた。
鉱員の管理が主な業務であったが、鉱山に関する業務は一通り経験している。
その中には火薬の準備や発破といった作業も含まれている。
爆薬を設置して狙った対象を爆破するなどお手の物なのだ。
ヌマタがインデストの市街へと向かう街道を足早に進んでいく。
夜明け直後のひんやりした空気が興奮を抑え、冷静さを取り戻してくれているように感じられた。
「オーシャンリゾート」からインデストの市街地までは歩いて二時間程度の距離である。
市街に近くなれば、動く歩道が整備されているので、移動はそれほど困難ではない。
市街に入って少し歩いたところに電子部品店を見つけ、必要なパーツ類を購入する。
まだ朝早い時間であったが、店は営業を開始していた。
インデストは鉱山の街だけあって鉱山関係者を相手にした店は比較的朝早くから営業している。
ヌマタが入ったのは彼が知っている店ではなかったが、その方が都合がよい。身元が割れる可能性が低いからだ。
買い物を済ませてヌマタが店を出ようとすると、辺りが騒がしくなった。
見ると、少し先に人だかりができている。
ヌマタは人だかりに割って入り、その視線の先に目をやった。
三人の男が集まった人々に声をかけている。
そのうち二人の顔はよく知っている。一人は半年ほど前まで同じ職場で働いていた。
「……俺たちが望むのは、一私企業による世界の監視じゃないんだ。不当な監視から皆を解放するために、一緒に戦って欲しい」
そう訴えているのは、ヌマタの羨望の的となっている人物だった。
(あれが……ウォーリー・トワさんか!)
ウォーリーの姿は映像で何度も見ているから、ヌマタもよく知っている。
サン・アカシの姿もあった。ヌマタは親会社の担当者として彼と一緒に仕事をしていた時期がある。ヌマタから見ても頼りになる人物だった。
アカシがOP社グループ労働者組合を結成してハドリに対抗すると知ったとき、ヌマタは純粋に嬉しく感じた。
目指すところは異なるかもしれないが、ハドリに対して身近に同じ想いを持っている人の存在を知ったからだ。
もう一人は画像で顔を見たような気もするのだが、ヌマタには誰だかわからなかった。
体格は普通なのだが、どことなく線の細さを感じさせる青年だ。
ウォーリーの耳元で何かを言ったり、周りの人々の質問に答えているようなのだが、少し落ち着きがないように見える。
ヌマタが知らないこの人物は「タブーなきエンジニア集団」の技術の中枢、エリック・モトムラである。
引っ込み思案な性格から「タブーなきエンジニア集団」の幹部の中では比較的目立たない存在である。
ヌマタはウォーリーたちの姿を見やってから、人垣の外へ出た。
彼らと合流する前にやることがある━━
彼が爆発物を使って、ハドリを暗殺しようとするのは彼個人のことでしかない。
そこに「タブーなきエンジニア集団」やOP社グループ労働者組合を巻き込むことはない。
彼らは自分のような卑小なテロリストの一味となってはならない。
明るい光の当たる道を歩くべき存在だからだ。
ヌマタは彼らと自身との間に見えない厚くて高い壁があることを理解していた。いや、意図的に彼が壁を建てたのであった。
宿に爆発物を仕掛けたら「タブーなきエンジニア集団」に赴き、ウォーリー・トワに会おうとヌマタは考えていた。
ウォーリーとヌマタの間に壁はあるが、それでも存在を隠して協力できることはあるはずだ。
ヌマタはOP社時代管理側に属していた。
管理側といっても下っ端であることに違いないが、「タブーなきエンジニア集団」や「OP社グループ労働者組合」に属しているメンバーにはいない立場である。
この立場を利用すれば、彼らが持っていない価値のある情報を提供できるだろう。
ヌマタは一刻も早く準備を済ませるため、宿への帰路を急いだのであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる