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第七章
295:ユニヴァース、「タブーなきエンジニア集団」の事務所を訪れる
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三月一六日の夜、馬を曳いた男が「タブーなきエンジニア集団」の事務所を訪ねてやって来た。「はじまりの丘」の麓に居を構えるフェイ・イヴ・ユニヴァースである。
彼がハドリの手を逃れてこの地にやってきたのには理由があった。
馬を操るための馬具が壊れてしまったのだ。
彼が馬を下りたのもそのためだ。安全に馬を操ることができない状況で馬に乗って移動するというのは彼にとって賢明ではない行為であった。
壊れた馬具の修理を試みたが材料や工具が足りない。
材料や工具を調達しようにも、ポータル・シティを出て北へ向かってしまえば、これらを購入できる店がない。
そのため、こうした材料や工具を購入できる店を求めて歩いていたのだが、いつの間にかジンへとたどり着いてしまったのである。
ユニヴァースは「タブーなきエンジニア集団」がジンに事務所を構えていることを思い出した。
そこで、顔見知りのいる事務所へと足を向けたのだった。
「タブーなきエンジニア集団」の事務所にはユニヴァースを知る者が一人残っていた。ミヤハラである。
元来、あまり他人の顔を覚えない彼ではあるが、ユニヴァースは研究者風の特徴ある顔をしていたから、すぐに思い出すことができた。
「久しぶりですね、ユニヴァースさん」
ミヤハラが座席に着いたまま声をかけると、ユニヴァースはいきなり自分の要件を告げた。
「この近くに馬具を売っている店か、革製品用の工具を売っている店はありませんか?」
相変わらず他人の話を聞いてないな、とミヤハラは思った。
しかし、それを表情には出さずに、近くにいたメンバーに心当たりがないか尋ねた。ミヤハラ自身はそのような店に心当たりがなかったからだ。日常的に馬に乗らないミヤハラが、この手の店に心当たりがないのも無理はない。
メンバーの一人が革製品の工具屋に心当たりがある、と申し出た。
ミヤハラが話を聞くと、その店は現在地のジンではなくハモネスにあるという。
「サクライに案内させるか」
ミヤハラはハモネスにいるサクライと連絡を取ることにした。
ミヤハラ自身が動くほどの問題でもないし、サクライならユニヴァースと面識があるので案内役としても適任であろう。
「ところでユニヴァースさんは、何のためにこちらへ?」
ミヤハラが何時の間にか近くの席に腰掛けたユニヴァースに尋ねた。
ユニヴァースはOP社にいる知人に招待された、と答えた。
ユニヴァースの言動があまりにも淡々としていたため、ミヤハラは、そうですか、と納得しかけた。
しかし、近くにいたメンバーがミヤハラに小声で耳打ちした。
「OP社に我々の情報を流した、という可能性も考えられませんか? 注意が必要だと思います。」
ミヤハラは指摘されるような可能性は低いと考えたが、念のためウォーリーに報告することを決めた。自分ひとりでは判断がつかなかったからである。
それにウォーリーは他人を信頼して仕事を任せる人間ではあるが、重要事項の報告がないことを嫌う性質だ。ウォーリーの機嫌のことも考慮して報告したほうが良いだろう、と判断したのだ。
ミヤハラは近くのメンバーに命じて、インデストにいるウォーリーとの間に通信を繋げさせた。
そして画面に姿を現したウォーリーに事情を簡単に説明する。
すると、ウォーリーはユニヴァースを画面に出してくれ、と頼んできた。
ミヤハラはメンバーに指示して、その場を動こうとしないユニヴァースを画面の方に向けさせた。
ウォーリーが彼にしては丁寧な口調で、ユニヴァースに話しかけた。
「久しぶりですね、ユニヴァースさん。OP社では何をされたのですか?」
「答える理由がありません」
ユニヴァースはにべも無い答えを返した。
ウォーリーは苦笑しながら、質問を少し変えた。
「我々はハドリ氏率いるOP社から敵視されています。彼らから身を守るためにユニヴァースさんの知恵をお借りしたいのですが、何かよい知恵はありませんかね?」
するとユニヴァースは立ち上がって、
「彼らが何を知ったか、事実をお伝えしましょう」
と答えた。
ユニヴァースはOP社が「フジミの大虐殺」の情報を集めていることを伝えた。
そして、彼自身が保有している「フジミの大虐殺」に関する情報を渡したことも包み隠さず語ったのだ。
「重大な事件ではあるが……OP社が俺達を攻撃する理由との関係は無さそうだな。ユニヴァースさんの考えは?」
ウォーリーが問いかけたが、ユニヴァースはそうした関連性に興味はないとして、ウォーリーに自身の見解を述べることはなかった。
ユニヴァースにとっては、発生した出来事だけが興味の対象であって、他人の思惑など関心の対象にならないというのである。
「ならば、OP社に提供した情報と同じものをこちらにもいただけないですか?」
「それなら構いません。OP社に提供してそちらに提供しない理由はないですからな」
ミヤハラの頼みにユニヴァースは情報の提供を承知した。
「ところで、私はそろそろ寝る時間なのですが、場所を提供してもらえないでしょうか?」
遠慮のないユニヴァースの申し出にウォーリーは、
「ミヤハラ、どこか空いている宿舎でも提供してやってくれ」
と気前よく応じた。
ミヤハラは苦笑しながら近くにいるメンバーに命じてユニヴァースを宿舎へと案内させた。
彼がハドリの手を逃れてこの地にやってきたのには理由があった。
馬を操るための馬具が壊れてしまったのだ。
彼が馬を下りたのもそのためだ。安全に馬を操ることができない状況で馬に乗って移動するというのは彼にとって賢明ではない行為であった。
壊れた馬具の修理を試みたが材料や工具が足りない。
材料や工具を調達しようにも、ポータル・シティを出て北へ向かってしまえば、これらを購入できる店がない。
そのため、こうした材料や工具を購入できる店を求めて歩いていたのだが、いつの間にかジンへとたどり着いてしまったのである。
ユニヴァースは「タブーなきエンジニア集団」がジンに事務所を構えていることを思い出した。
そこで、顔見知りのいる事務所へと足を向けたのだった。
「タブーなきエンジニア集団」の事務所にはユニヴァースを知る者が一人残っていた。ミヤハラである。
元来、あまり他人の顔を覚えない彼ではあるが、ユニヴァースは研究者風の特徴ある顔をしていたから、すぐに思い出すことができた。
「久しぶりですね、ユニヴァースさん」
ミヤハラが座席に着いたまま声をかけると、ユニヴァースはいきなり自分の要件を告げた。
「この近くに馬具を売っている店か、革製品用の工具を売っている店はありませんか?」
相変わらず他人の話を聞いてないな、とミヤハラは思った。
しかし、それを表情には出さずに、近くにいたメンバーに心当たりがないか尋ねた。ミヤハラ自身はそのような店に心当たりがなかったからだ。日常的に馬に乗らないミヤハラが、この手の店に心当たりがないのも無理はない。
メンバーの一人が革製品の工具屋に心当たりがある、と申し出た。
ミヤハラが話を聞くと、その店は現在地のジンではなくハモネスにあるという。
「サクライに案内させるか」
ミヤハラはハモネスにいるサクライと連絡を取ることにした。
ミヤハラ自身が動くほどの問題でもないし、サクライならユニヴァースと面識があるので案内役としても適任であろう。
「ところでユニヴァースさんは、何のためにこちらへ?」
ミヤハラが何時の間にか近くの席に腰掛けたユニヴァースに尋ねた。
ユニヴァースはOP社にいる知人に招待された、と答えた。
ユニヴァースの言動があまりにも淡々としていたため、ミヤハラは、そうですか、と納得しかけた。
しかし、近くにいたメンバーがミヤハラに小声で耳打ちした。
「OP社に我々の情報を流した、という可能性も考えられませんか? 注意が必要だと思います。」
ミヤハラは指摘されるような可能性は低いと考えたが、念のためウォーリーに報告することを決めた。自分ひとりでは判断がつかなかったからである。
それにウォーリーは他人を信頼して仕事を任せる人間ではあるが、重要事項の報告がないことを嫌う性質だ。ウォーリーの機嫌のことも考慮して報告したほうが良いだろう、と判断したのだ。
ミヤハラは近くのメンバーに命じて、インデストにいるウォーリーとの間に通信を繋げさせた。
そして画面に姿を現したウォーリーに事情を簡単に説明する。
すると、ウォーリーはユニヴァースを画面に出してくれ、と頼んできた。
ミヤハラはメンバーに指示して、その場を動こうとしないユニヴァースを画面の方に向けさせた。
ウォーリーが彼にしては丁寧な口調で、ユニヴァースに話しかけた。
「久しぶりですね、ユニヴァースさん。OP社では何をされたのですか?」
「答える理由がありません」
ユニヴァースはにべも無い答えを返した。
ウォーリーは苦笑しながら、質問を少し変えた。
「我々はハドリ氏率いるOP社から敵視されています。彼らから身を守るためにユニヴァースさんの知恵をお借りしたいのですが、何かよい知恵はありませんかね?」
するとユニヴァースは立ち上がって、
「彼らが何を知ったか、事実をお伝えしましょう」
と答えた。
ユニヴァースはOP社が「フジミの大虐殺」の情報を集めていることを伝えた。
そして、彼自身が保有している「フジミの大虐殺」に関する情報を渡したことも包み隠さず語ったのだ。
「重大な事件ではあるが……OP社が俺達を攻撃する理由との関係は無さそうだな。ユニヴァースさんの考えは?」
ウォーリーが問いかけたが、ユニヴァースはそうした関連性に興味はないとして、ウォーリーに自身の見解を述べることはなかった。
ユニヴァースにとっては、発生した出来事だけが興味の対象であって、他人の思惑など関心の対象にならないというのである。
「ならば、OP社に提供した情報と同じものをこちらにもいただけないですか?」
「それなら構いません。OP社に提供してそちらに提供しない理由はないですからな」
ミヤハラの頼みにユニヴァースは情報の提供を承知した。
「ところで、私はそろそろ寝る時間なのですが、場所を提供してもらえないでしょうか?」
遠慮のないユニヴァースの申し出にウォーリーは、
「ミヤハラ、どこか空いている宿舎でも提供してやってくれ」
と気前よく応じた。
ミヤハラは苦笑しながら近くにいるメンバーに命じてユニヴァースを宿舎へと案内させた。
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