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第八章
魂霊に「ケルークス」へ来てもらおう
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「アイリス、魂霊が魔力を手に入れる方法はないの?」
「支払を魔力以外でできるようにするのでもいいです」
ある日、「ケルークス」の店内では、ユーリとサクラがアイリスに詰め寄っていた。
アイリスは一緒に話を聞くよう私を手招きしたので、私もいつものカウンター席からアイリスの隣の席に移動している。
ことの経緯はこうだ。
自殺ほう助施設に併設された相談所「ミスルトゥ」が開設されて以降、精霊界に移住して魂霊になる人間が多くなった。
開設当初よりはペースは落ちたものの、一ヶ月で三、四人の移住者が精霊界へ移住している。
にも関わらず、魂霊と契約出来た精霊は思うように増えていない。
それどころか、「ミスルトゥ」から移住してきた魂霊で精霊との契約を果たせた者は数名という体たらくだ。
今はそれほど問題になっていないが、移住したばかりの魂霊は相談所の周辺に居住しているケースが多く、相談員以外の精霊と出会うことが少ない。
出会いを求めて移住者の一人が「ケルークス」を訪れたのだが、ここで問題になったのが魔力を持たず、精霊と契約もしていない魂霊に支払の手段がないということ。
私もうっかりしていたが、今までこのことが露呈しなかったことが不思議なくらいだ。
そのときは私が移住者に魔力を貸して事なきを得たが、さすがにこれを続けるわけにもいかない。
そこでユーリがアイリスに直談判することになった。
サクラも契約がまだだからそれに便乗したようだ。
「そうね……でも、魂霊に魔力を持たせるのは無理よ。代わりの支払い手段を持たせるとなると……」
アイリスが考え込んでいる。数多くの生物を造ってきた彼女がそう言うのであれば、魂霊に魔力を持たせるのは無理なのだろう。
「……ユーリ、存在界の品物と魔力以外にお店で必要なものはないの?」
「マナやウケの材料には事欠いていないのですよね。ネクタル酒はスポットでしか扱っていないから、新しく取り扱ってもいいのだけど……」
今度はユーリが考え込む番だ。
「ケルークス」のカフェ部門で圧倒的に足りないのは魔力と存在界のお金で、他はあまり不自由していないとユーリから聞いている。
敢えて言えば厨房のスペースだけど、こちらは台風の影響で存在界側の入口の場所を変える際に拡張されていたから優先度はあまり高くないはずだ。
「ちょっと待ってください! 『ケルークス』は精霊と魂霊の出会いの場になり得る場所なんですよ! 何とかならないのですか?!」
サクラが身を乗り出して力説している。
確かの彼女の言う通りだ。
現在の「ケルークス」には周囲の精霊の客とパートナーの魂霊、そして時々であるが相談に来る人間の客がいる。
パートナーのいない魂霊は、精霊から見れば相談に来る人間よりも契約にこぎつけ易い存在だが、「ケルークス」の客にはごくまれにしかいない。
それもそのはずで、「ケルークス」の代金の支払は魔力か日本円だから無理もない。
「ケルークス」と似たような業態には「海の家」や彼らが運営している温泉施設がある。
こちらの支払は魔力かモノだ。
契約相手のいない魂霊には支払に使えるモノの入手も難しい。この手のモノは大抵精霊が管理しているからだ。
「労働払い、って手が無い訳じゃないけど、一〇人とか二〇人とか雇える余裕はないし……」
「ケルークス」のカフェ部門は現在店長のユーリを含めて八名で回している。
シフトを考えるとやや人手不足のような気がしないでもないが、ユーリの言うように一〇人とか二〇人の人手が必要な状況ではない。
「精霊に支払わせるってのはどうかな? 契約者のいない魂霊はタダ、ってことで」
サクラがさらっと提案した。存在界ならその手の業態の店はあったと思うが精霊的にはどうだろうか?
「うーん、難しいわね。うちの客層だと支払能力のある精霊が少ないから特定の精霊に負担が偏りそうなのよね……」
アイリスは乗り気ではないようだ。
このあたりは魔力の量が少ない精霊が多いから、他人の分まで魔力を支払える精霊は多くないだろう。
精霊の性質からすれば困っている魂霊を助けることはしてくれるとは思うのだが……
「そうか……ちょっと待ってて!」
ユーリが何かに気が付いたかのように手をぽんと打って、棚の方へと走った。
「?? ユーリはどうしたの?」
「帳簿を取りに行ったのじゃないかしら」
アイリスの言葉通りユーリは帳簿を手にして戻ってきた。
「ええっと……やっぱりそうね」
ユーリが帳簿の数字とにらめっこしながら、脇に置いた紙に数字を書き入れている。
「何これ?」
「あのね、時々端数を切り上げて払ってくれるお客さんがいるのだけど、その額が結構大きくて……」
ユーリの計算によれば、このように端数を切り上げて支払ってくれる魔力は月に三〇〇~四〇〇ドロップくらいになるそうだ。
「仮に半分の一五〇ドロップを契約相手のいない魂霊の支払に回すとなると、月に四、五回分の支払に充てられるのだけど……」
ユーリが少し言いにくそうにアイリスに申し出た。
確かに契約相手のいない魂霊に便宜を図ることになるから、言い出しにくいことではある。他の客の手前もあるから受け入れにくい提案かも知れない。
「そうねぇ……さすがに契約相手のいない魂霊だけタダで飲み食いというのはマズいわね……でも、アイデアは悪くないと思うわよ」
「えっ? どうしようっていうのですか?」
意外にもアイリスが乗り気な返事をしてきたのでユーリが椅子をガタッと言わせながら立ち上がった。
「移住管理委員会と……もしかしたら長老会議とも話をする必要があるかもしれない。ちょっと時間をもらえないかしら?」
「はあ……そういうことなら……」
ユーリは半信半疑といった顔をしながらも、アイリスの申し出を受け入れた。
「ガツンと言ってやっちゃってくださいっ! 精霊が契約相手を得るために必要なことなのですからっ!」
サクラは乗り気というより完全に前のめりになっている。彼女も契約相手のいない魂霊だから気が気ではないのだろう。
彼女の場合は「ケルークス」の建物に寝泊まりしているから、時々気を利かせた客の精霊が奢ってくれたりする。そのため、月二、三度は「ケルークス」で飲み食いしているはずだ。
「上手くいくかはわからないけど、契約が決まっていないコたちのために一肌脱ぐわよ。今日のところはそれでいい?」
「わかりました」「期待してますっ!」
これで契約相手のいない魂霊の利用についてはアイリスに一任されることになった。
その後、アイリスやユーリ、私が「ケルークス」に顔を出すたびにサクラが「あの件どうなってますか?」としつこく尋ねてきて、私達はその対応に追われることになった。
※※
アイリスが回答を持ってきたのは、ユーリとサクラが相談を持ち掛けてから三週間後だった。
これでも精霊の時間感覚からすれば相当早い。
「条件付きで許可をもらってきたわ」
「で、条件って何になるのですか?」
サクラが待ちきれないとばかりにアイリスを急かしている。
「その前にユーリに確認だけど、最近の一日の精霊のお客さんって何体くらい? できれば契約のないコに限った数がわかるといいのだけど……」
「大丈夫です。日によってばらつきますけど、二五体から四〇体の間でほぼ間違いないです」
「よかった。それならこっちの説明と矛盾しないわね。契約のない魂霊のお客さんが魔力なしで『ケルークス』を利用する場合は……」
アイリスが少しもったいぶった様子で説明を始めた。
「……契約のない精霊との相席を条件に一度に二時間、三五ドロップまで利用していいという許可をもらってきたわ」
「それって……」「ほう」
ユーリは若干引き気味だが、サクラは興味深そうに話を聞いている。
賛否分かれても仕方ないところだけど、「相手のいない精霊と接することを条件にタダで飲み食いしてもいいよ」ってことになる。
存在界にも似たようなシステムあったな、って私はその手の施設を利用したことがない。
他にも細かい条件がいくつかあるのだけど、月に二回くらいなら契約のない魂霊も来店して飲み食いできることになる。
相談員としての来店を除けば、私が「ケルークス」で飲み食いするのは三ヶ月に二度くらいだから条件としては悪くないと思う。
「なるほど、ね。せっかくだから私も利用したいなぁ」
サクラが物欲しそうな目でアイリスの方を見ている。
そうか、常連客に何度も奢ってもらった経験があるとはいえ、彼女はまだ契約がないから権利があるのだった。
移住のときは病気のためかかなり大人しかったが、こうして接してみるとサクラはかなりいい性格をしている。
そういえば、移住の際も精霊界のルールを曲げさせるに近いことをしているのだよな……当時の状況が状況だったから仕方ないけど。
「サクラ、アンタねぇ……その気になれば奢ってくれる常連がいるでしょうが。それに……?!」
アイリスがサクラにジト目を向けた。
一瞬、サクラがギロッとアイリスを睨んだような気がしたのは気のせいだろうか。
「コホン、できるだけ多くの魂霊に利用してほしいから、他のつてがある場合はそっちを優先して……」
後半は消え入りそうな声でアイリスが断りを入れた。
「まあ、仕方ないですね……」
仕方ないというより、サクラが図々しすぎると思うのは私だけだろうか?
「サクラ、あくまで契約が進むようにするためなのだからね? いろんな人にチャンスが渡るようにしないと」
さすがに見かねたのかユーリが注意を入れる。
「ユーリさんは契約したから余裕ですよね? 私はまだだから必死ですよ! それはもう、私がこっちに来た頃のユーリさんみたいに!」
サクラが力説する。うーん、確かに以前のユーリは必死なところがあったけど……
「それは必死だったけど……弁えるところは弁えていたと思うけど……ね、ね、アーベル?」
いかん、こっちに火の手が及んできた。
ユーリとアイリスは私のパートナーだが、サクラは違う。
ここはユーリとアイリスに味方しておかないと後が大変なことになる、と私は直感した。
「ユーリは『ケルークス』の店長の仕事をしていたからね。少なくとも店に対して不誠実なことはしていないと思うよ」
「アーベルさん……ああもう! ユーリさんはいいパートナーと契約しましたよね! 私も早く契約したいです!」
サクラが拳を握って力説している。どうやらユーリやアイリスに火の粉が降らなかったようで助かった。魂霊の性質からそういうことにはならないのだと思うが。
「えへへ……そうだよ。アイリスと頑張ったんだもん」
急にユーリが私に寄りかかってきた。顔がにやけているというかとろけているというか……
業務中はもう少しシャンとして欲しい気もするが、これもユーリだから見逃すことにする。
「これは何を言っても無駄、か……でも、私も絶対に近いうちに契約してみせますから! 見ていてくださいね、アイリスさん、アーベルさん!」
とろけているユーリを無視してサクラが宣言した。アイリスと私はやれやれといった表情で顔を見合わせたのだった。
「支払を魔力以外でできるようにするのでもいいです」
ある日、「ケルークス」の店内では、ユーリとサクラがアイリスに詰め寄っていた。
アイリスは一緒に話を聞くよう私を手招きしたので、私もいつものカウンター席からアイリスの隣の席に移動している。
ことの経緯はこうだ。
自殺ほう助施設に併設された相談所「ミスルトゥ」が開設されて以降、精霊界に移住して魂霊になる人間が多くなった。
開設当初よりはペースは落ちたものの、一ヶ月で三、四人の移住者が精霊界へ移住している。
にも関わらず、魂霊と契約出来た精霊は思うように増えていない。
それどころか、「ミスルトゥ」から移住してきた魂霊で精霊との契約を果たせた者は数名という体たらくだ。
今はそれほど問題になっていないが、移住したばかりの魂霊は相談所の周辺に居住しているケースが多く、相談員以外の精霊と出会うことが少ない。
出会いを求めて移住者の一人が「ケルークス」を訪れたのだが、ここで問題になったのが魔力を持たず、精霊と契約もしていない魂霊に支払の手段がないということ。
私もうっかりしていたが、今までこのことが露呈しなかったことが不思議なくらいだ。
そのときは私が移住者に魔力を貸して事なきを得たが、さすがにこれを続けるわけにもいかない。
そこでユーリがアイリスに直談判することになった。
サクラも契約がまだだからそれに便乗したようだ。
「そうね……でも、魂霊に魔力を持たせるのは無理よ。代わりの支払い手段を持たせるとなると……」
アイリスが考え込んでいる。数多くの生物を造ってきた彼女がそう言うのであれば、魂霊に魔力を持たせるのは無理なのだろう。
「……ユーリ、存在界の品物と魔力以外にお店で必要なものはないの?」
「マナやウケの材料には事欠いていないのですよね。ネクタル酒はスポットでしか扱っていないから、新しく取り扱ってもいいのだけど……」
今度はユーリが考え込む番だ。
「ケルークス」のカフェ部門で圧倒的に足りないのは魔力と存在界のお金で、他はあまり不自由していないとユーリから聞いている。
敢えて言えば厨房のスペースだけど、こちらは台風の影響で存在界側の入口の場所を変える際に拡張されていたから優先度はあまり高くないはずだ。
「ちょっと待ってください! 『ケルークス』は精霊と魂霊の出会いの場になり得る場所なんですよ! 何とかならないのですか?!」
サクラが身を乗り出して力説している。
確かの彼女の言う通りだ。
現在の「ケルークス」には周囲の精霊の客とパートナーの魂霊、そして時々であるが相談に来る人間の客がいる。
パートナーのいない魂霊は、精霊から見れば相談に来る人間よりも契約にこぎつけ易い存在だが、「ケルークス」の客にはごくまれにしかいない。
それもそのはずで、「ケルークス」の代金の支払は魔力か日本円だから無理もない。
「ケルークス」と似たような業態には「海の家」や彼らが運営している温泉施設がある。
こちらの支払は魔力かモノだ。
契約相手のいない魂霊には支払に使えるモノの入手も難しい。この手のモノは大抵精霊が管理しているからだ。
「労働払い、って手が無い訳じゃないけど、一〇人とか二〇人とか雇える余裕はないし……」
「ケルークス」のカフェ部門は現在店長のユーリを含めて八名で回している。
シフトを考えるとやや人手不足のような気がしないでもないが、ユーリの言うように一〇人とか二〇人の人手が必要な状況ではない。
「精霊に支払わせるってのはどうかな? 契約者のいない魂霊はタダ、ってことで」
サクラがさらっと提案した。存在界ならその手の業態の店はあったと思うが精霊的にはどうだろうか?
「うーん、難しいわね。うちの客層だと支払能力のある精霊が少ないから特定の精霊に負担が偏りそうなのよね……」
アイリスは乗り気ではないようだ。
このあたりは魔力の量が少ない精霊が多いから、他人の分まで魔力を支払える精霊は多くないだろう。
精霊の性質からすれば困っている魂霊を助けることはしてくれるとは思うのだが……
「そうか……ちょっと待ってて!」
ユーリが何かに気が付いたかのように手をぽんと打って、棚の方へと走った。
「?? ユーリはどうしたの?」
「帳簿を取りに行ったのじゃないかしら」
アイリスの言葉通りユーリは帳簿を手にして戻ってきた。
「ええっと……やっぱりそうね」
ユーリが帳簿の数字とにらめっこしながら、脇に置いた紙に数字を書き入れている。
「何これ?」
「あのね、時々端数を切り上げて払ってくれるお客さんがいるのだけど、その額が結構大きくて……」
ユーリの計算によれば、このように端数を切り上げて支払ってくれる魔力は月に三〇〇~四〇〇ドロップくらいになるそうだ。
「仮に半分の一五〇ドロップを契約相手のいない魂霊の支払に回すとなると、月に四、五回分の支払に充てられるのだけど……」
ユーリが少し言いにくそうにアイリスに申し出た。
確かに契約相手のいない魂霊に便宜を図ることになるから、言い出しにくいことではある。他の客の手前もあるから受け入れにくい提案かも知れない。
「そうねぇ……さすがに契約相手のいない魂霊だけタダで飲み食いというのはマズいわね……でも、アイデアは悪くないと思うわよ」
「えっ? どうしようっていうのですか?」
意外にもアイリスが乗り気な返事をしてきたのでユーリが椅子をガタッと言わせながら立ち上がった。
「移住管理委員会と……もしかしたら長老会議とも話をする必要があるかもしれない。ちょっと時間をもらえないかしら?」
「はあ……そういうことなら……」
ユーリは半信半疑といった顔をしながらも、アイリスの申し出を受け入れた。
「ガツンと言ってやっちゃってくださいっ! 精霊が契約相手を得るために必要なことなのですからっ!」
サクラは乗り気というより完全に前のめりになっている。彼女も契約相手のいない魂霊だから気が気ではないのだろう。
彼女の場合は「ケルークス」の建物に寝泊まりしているから、時々気を利かせた客の精霊が奢ってくれたりする。そのため、月二、三度は「ケルークス」で飲み食いしているはずだ。
「上手くいくかはわからないけど、契約が決まっていないコたちのために一肌脱ぐわよ。今日のところはそれでいい?」
「わかりました」「期待してますっ!」
これで契約相手のいない魂霊の利用についてはアイリスに一任されることになった。
その後、アイリスやユーリ、私が「ケルークス」に顔を出すたびにサクラが「あの件どうなってますか?」としつこく尋ねてきて、私達はその対応に追われることになった。
※※
アイリスが回答を持ってきたのは、ユーリとサクラが相談を持ち掛けてから三週間後だった。
これでも精霊の時間感覚からすれば相当早い。
「条件付きで許可をもらってきたわ」
「で、条件って何になるのですか?」
サクラが待ちきれないとばかりにアイリスを急かしている。
「その前にユーリに確認だけど、最近の一日の精霊のお客さんって何体くらい? できれば契約のないコに限った数がわかるといいのだけど……」
「大丈夫です。日によってばらつきますけど、二五体から四〇体の間でほぼ間違いないです」
「よかった。それならこっちの説明と矛盾しないわね。契約のない魂霊のお客さんが魔力なしで『ケルークス』を利用する場合は……」
アイリスが少しもったいぶった様子で説明を始めた。
「……契約のない精霊との相席を条件に一度に二時間、三五ドロップまで利用していいという許可をもらってきたわ」
「それって……」「ほう」
ユーリは若干引き気味だが、サクラは興味深そうに話を聞いている。
賛否分かれても仕方ないところだけど、「相手のいない精霊と接することを条件にタダで飲み食いしてもいいよ」ってことになる。
存在界にも似たようなシステムあったな、って私はその手の施設を利用したことがない。
他にも細かい条件がいくつかあるのだけど、月に二回くらいなら契約のない魂霊も来店して飲み食いできることになる。
相談員としての来店を除けば、私が「ケルークス」で飲み食いするのは三ヶ月に二度くらいだから条件としては悪くないと思う。
「なるほど、ね。せっかくだから私も利用したいなぁ」
サクラが物欲しそうな目でアイリスの方を見ている。
そうか、常連客に何度も奢ってもらった経験があるとはいえ、彼女はまだ契約がないから権利があるのだった。
移住のときは病気のためかかなり大人しかったが、こうして接してみるとサクラはかなりいい性格をしている。
そういえば、移住の際も精霊界のルールを曲げさせるに近いことをしているのだよな……当時の状況が状況だったから仕方ないけど。
「サクラ、アンタねぇ……その気になれば奢ってくれる常連がいるでしょうが。それに……?!」
アイリスがサクラにジト目を向けた。
一瞬、サクラがギロッとアイリスを睨んだような気がしたのは気のせいだろうか。
「コホン、できるだけ多くの魂霊に利用してほしいから、他のつてがある場合はそっちを優先して……」
後半は消え入りそうな声でアイリスが断りを入れた。
「まあ、仕方ないですね……」
仕方ないというより、サクラが図々しすぎると思うのは私だけだろうか?
「サクラ、あくまで契約が進むようにするためなのだからね? いろんな人にチャンスが渡るようにしないと」
さすがに見かねたのかユーリが注意を入れる。
「ユーリさんは契約したから余裕ですよね? 私はまだだから必死ですよ! それはもう、私がこっちに来た頃のユーリさんみたいに!」
サクラが力説する。うーん、確かに以前のユーリは必死なところがあったけど……
「それは必死だったけど……弁えるところは弁えていたと思うけど……ね、ね、アーベル?」
いかん、こっちに火の手が及んできた。
ユーリとアイリスは私のパートナーだが、サクラは違う。
ここはユーリとアイリスに味方しておかないと後が大変なことになる、と私は直感した。
「ユーリは『ケルークス』の店長の仕事をしていたからね。少なくとも店に対して不誠実なことはしていないと思うよ」
「アーベルさん……ああもう! ユーリさんはいいパートナーと契約しましたよね! 私も早く契約したいです!」
サクラが拳を握って力説している。どうやらユーリやアイリスに火の粉が降らなかったようで助かった。魂霊の性質からそういうことにはならないのだと思うが。
「えへへ……そうだよ。アイリスと頑張ったんだもん」
急にユーリが私に寄りかかってきた。顔がにやけているというかとろけているというか……
業務中はもう少しシャンとして欲しい気もするが、これもユーリだから見逃すことにする。
「これは何を言っても無駄、か……でも、私も絶対に近いうちに契約してみせますから! 見ていてくださいね、アイリスさん、アーベルさん!」
とろけているユーリを無視してサクラが宣言した。アイリスと私はやれやれといった表情で顔を見合わせたのだった。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
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