ストランディング・ワールド(Stranding World) 第三部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて国を興す~

空乃参三

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第十六章

747:幽霊騒ぎ その1

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 インデストでの暴動の翌日の七月二八日、今度は郊外の「オーシャンリゾート」で動きがあった。OP社社長ノブヤ・ヤマガタの訃報が発せられた少し後のことである。
 市街の暴動が沈静化したことから、余裕がある今のうちに近所の問題を片付けようとロビーが提案した。
 その結果、この日は「オーシャンリゾート」に詰めているメンバーのうち、十数名がある捜索活動を行うこととなった。

 ここ数ヶ月、「オーシャンリゾート」周辺では、しばしば痩せた幽霊らしきものの目撃情報が相次いでいた。
 実害がないことと電力不足問題等、他の問題への対応が優先されていたことから、こちらの問題については特段の対策が講じられることはなかった。
 しかし、現在ECN社の関係者が「オーシャンリゾート」を拠点としていることで、「オーシャンリゾート」側が、ある懸念を明らかにした。
 昨年五月に発生した爆破事件のように、要人を目標とした事件が再度発生するのではないか、と。
 表向き現在滞在しているECN社の最上位者はロビー・タカミであり、昨年の事件に巻き込まれたハドリやオイゲンと比較すればその地位は著しく低い。
 それでも現在のECN社の活動が活動であるだけに、必ずしもインデストの住人から快く思われていない可能性がある、と遠回しに「オーシャンリゾート」の関係者がロビーに伝えてきたのである。
「オーシャンリゾート」側は幽霊とされているものについて、何らかの事件を起こすために活動しているのではないか、と暗に指摘している。
 前回の事件では当時のECN社の社長であるオイゲンが行方不明になっているから、「オーシャンリゾート」側が警戒するのも無理はない。
「オーシャンリゾート」側が知る由もなかったが、現在宿泊しているECN社の関係者には現社長と行方不明になったはずの前社長が含まれている。この事実を知ったなら、「オーシャンリゾート」の関係者は腰を抜かさんばかりに驚いたであろう。

 現在の「オーシャンリゾート」には昨年五月の時点のように爆発物などは保管されていない。
 だが施設内に危険物がないからといって、「オーシャンリゾート」が安全であるとは言い切れない。外から危険物を持ち込むこともできるし、要人を害するのであればナイフ一本でことが足りるかもしれないからだ。

 「オーシャンリゾート」の関係者の調査によれば、幽霊については次のような情報が得られていた。
 常に見かけられるのは一体で、すべて同じ個体であると推測されること。
 小柄であり、子供か十代の者と推測されること。
 主に夜半に姿を見せるが、昼間にも目撃例があること。
 現れる場所は昨年の爆破事件が発生した場所とその周辺であること、及び「オーシャンリゾート」の建物内に侵入しないこと。
 姿を現しても、すぐにいずこかへと姿を消してしまうこと。
 ここ一週間ほどは目撃されたという情報がないこと。

 調査を行った「オーシャンリゾート」の関係者は、「昨年爆破事件を起こした者かその関係者ではないか?」という疑いを持っていたようであった。
 この話を聞いたロビーやミヤハラは、これ幸いと「オーシャンリゾート」の要望に乗ったのであった。
 ロビーやミヤハラは幽霊について、ECN社の関係者に危害を加える可能性は低いだろうと考えていた。
 理由はいくつかあるが、彼らは幽霊らしきものが子供と推測されるほど小柄という点に着目していた。
 「オーシャンリゾート」の場所と夜間の目撃例が多いことから、存命中の人物であるならば子供である可能性は低い。
 子供なら夜中に出歩いていれば親が捜索をどこかに依頼している可能性が高いからだ。だが、そのような捜索依頼があったという情報はない。

 もし、正体が「爆破事件の関係者」ならば何の目的でこの場所に来ているのか?
 情報からは何かを探しているか、調べているかのいずれかのように思われた。
 探すのであれば、今までに何度も機会があったはずだった。
 既に事件からは一年以上経過しており、何かを捜索するにはあまりにも時期が遅すぎた。
 調査、ということであれば、その目的は何か?
 夜間に隠れて行うのであれば、表沙汰にはしたくない性質のものである可能性が考えられた。
 昨年の爆破事件と同様の事件を起こす可能性も考えられたが、昨年に比べると状況が悪すぎた。
 昨年同様の事件が目的であれば、その対象はECN社の関係者である可能性が高い。
 しかし、公式には「オーシャンリゾート」に滞在するECN社の関係者のトップはロビーであり、ターゲットとしてはやや地位が低い。それだけではなく、市街にははるかに影響力の大きいレイカ・メルツが滞在している。
 狙うのであれば、レイカのほうが好都合のはずであった。

 こうした推測から、「爆破事件の関係者」の可能性は捨てないものの、他の可能性を中心にロビーたちは幽霊らしきものの捜索に当たったのであった。
 ミヤハラは捜索に参加しなかったが、ロビーの強い要望により、オイゲンは捜索に加わった。
 オイゲンは、ロビーが指揮する少人数のチームに入った。
 このチームのメンバーに対して、オイゲンは偽名の「ジンダイ」として紹介された。
 そして、彼の参加は本社のトップシークレットとして他言無用とロビーの口からメンバーに伝えられたのであった。
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